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坂本さんの異世界飯処  作者: とま坊


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【第5話】小さな料理人と魔法のたまご

昼の営業を終え、ひと息つく小さな料理店。


厨房に立つ坂本は、いつものように夜の仕込みを考えながら後片付けを進めていた。そんな彼のもとに、元気いっぱいの声とともにやってきたのは、店で働く少女シャルロット。


一生懸命に仕事を覚え、少しずつ成長していく彼女には、最近ひとつ気になっていることがあった。


それは、坂本が作る美味しそうな料理の数々。


「坂本さん、また私にお料理を教えてください!」


そんなお願いから始まった、いつもとは少し違う昼下がり。


最初に挑戦するのは、身近な食材で作れる簡単な卵料理。しかし、料理は見ているほど簡単にはいかないもので……?


失敗して、落ち込んで、それでも自分の手で作った料理に笑顔になる。


これは、料理を通じて少しずつ成長していく少女と、そんな彼女を温かく見守る料理人の、心温まる日常のひとこま


是非ご覧ください

お昼の営業が終わり店内に静けさが戻ってきた。


俺は厨房で使い終わった皿、鍋を洗いながら夜の仕込みについて考えていた。

昼の営業で減った食材を確認し、不足しているものがあれば買いに行かないといけない。


そんな事を考えていると、カウンターから元気な声が飛んできた。


「坂本さーん!テーブル拭き終わりましたぁー。」


シャルロットが満面の笑みで立っていた。

小さな体だが一生懸命に働く姿にはいつも感心させられている。


「おぅ!お疲れさん。いつも助かるよ。」


「えへへっ!」


褒められたのが嬉しいのかシャルロットは照れくさそうに笑っている。


この店で働くようになってから、彼女は本当によく頑張っている。食器の片付けもテーブル掃除も今ではすっかり慣れたものだ。

最初の頃はガチガチに緊張していた接客も、最近では常連さんと楽しそうに話したりもしている。


「シャルロット、昼飯はもう食べたか?」


「まだです!坂本さんが終わるの待ってました!」


「腹減ってるんだったら昨日の残りもんで良かったら食って良いんだぞ?」


「だって一緒に食べたかったんですもん…」


こういう所はまだまだ子供だ。


俺は思わず頬を緩めた。

そう言われてしまっては早く温かい賄いを作ってやらねぇとな…


エプロンを締め直そうとしたところで、

シャルロットが俺の服の裾を、ちょんちょん

と引っ張った。


「さ、坂本さん…あのね…お願いがあるの」


いつになく真剣な顔だった。


「ん、どうしたんだ?」


「また、私にお料理を教えてください!」


思いがけない申し出に俺はきょとんとした。

シャルロットは目を輝かせながら、

いつも俺が厨房で料理を作っている様子をこっそりと見ていたのだと話してくれた。

肉を焼いたり、魚を煮込んだり沢山の食材を組み合わして美味しい料理を作る。

そんな料理人にとっては当たり前な風景が凄く輝いて見えたらしい。


「私、前にハンバーグ作ったけど…まだまだ上手になりたいんです!」


なるほど…そう言うことか。

確かに以前ハンバーグを軽く教えたことはあるが、それ以降は教えていなかった。


少し考えた末俺は頷いた。


「よし、なら簡単だけど基本となる料理を教えてやる。

但し、俺の言う事をちゃんと聞くこと!いいな?」


「ほ、本当!? やったぁ!」


飛び跳ねそうな勢いで喜ぶシャルロットを見て、俺も笑ってしまった。

こうして、急遽シャルロットの料理教室が始まることになった…


―――


「ところで何を作るんですか?」


覗き込むシャルロットに、俺は冷蔵庫から取り出した卵を二つ見せた。


「まずはスクランブルエッグを作ってみようか。」


「す、すくらんぶるえっぐ……?」


「卵を割って、混ぜて、焼く。簡単そうに見えるけど、火加減ひとつで仕上がりが変わるんだぞぉ。」


シャルロットは卵をじっと見つめた。

どうやら、これから自分が料理を作るという実感が湧いてきたみたいだ。


まずはボウルに卵を割り入れるところからだ。俺が手本を見せるとシャルロットも両手で卵を持ち、慎重に打ち付けた


トンッ!トンッ!


シャルロットは恐る恐る卵を割る。


―――パシャッッ!


「わぁ!割れました!」


「おぉ、うめぇじゃねぇか。」


得意げに胸を張るシャルロット。

しかしボウルの中を覗き込んだ途端、スッとその表情が曇った。

小さな白い物体が卵の中にふよふよと浮かんでいる。


「なんか…白いのが浮いてます…」


「あぁ、殻だなそれは。大丈夫、取れば良い。」


俺が箸で取り除いてやると、シャルロットはホッと胸を撫で下ろした。


「次は成功させます!」


やる気ボタンがポチッと押されたようだ。


二つ目の卵は上手に割れたが、今度は混ぜる段階で問題が起きた。


「黄身と白身が混ぜた時に均一になるように落ち着いて混ぜるんだ。ほらやってみて!」


しかし序盤はなかなか上手くいかないのが料理の難しさだろう…

カシャカシャと最初は上手に混ぜていたのだがバランスを崩しボウルがぐらりと傾く。

慌てて俺が押さえたおかげで卵がこぼれずに済んだが、本人は少ししょんぼりしてしまった。


「ご、ごめんなさい…」


「大丈夫、最初は俺もそんなんだったよ。

少しずつ覚えていけばいい。」


俺はそう言って、フライパンをコンロに乗せた。


ここからは火を使う。シャルロットは隣で手本を見てもらうことにした。


フライパンを温め、バターをひとかけら落とす。じゅわりと溶けていくバターから

ふわっ…と甘く香ばしい匂いが立ち上る。


そこへさっき溶いた卵を流し入れると

ジュッ!と言う音とともに縁が固まり始めた。


「わぁ……!」


シャルロットの目が輝く。


木べらでゆっくりと卵を動かし、半熟のうちに火を止める。あとは余熱で丁度いい具合に仕上げればふんわりとしたスクランブルエッグの完成だ。


お皿に盛るとシャルロットはまるで魔法を見るように見つめていた。


「これが卵なんですね…魔法みたい…」


「魔法みたい…か。そうだな料理と言う魔法だな!よし、シャルロットやってみろ!」


今度は自分の番だと分かるとシャルロットは緊張した面持ちでフライパンの前に立った。

俺はシャルロットの横について火加減を見ながらゆっくりと卵を混ぜるように教える。


最初は慎重にだった手つきも卵が固まり始めると少しずつ勢いがついてきた。


その時だった


「えいっ!!!」


ぐしゃっ。


勢いよく木べらを動かしたせいで、卵が細かく崩れてしまった。しかも火が少し入りすぎて固くなっている。 


シャルロットの動きが止まった。


「…しっぱい、しちゃいました……」


今にも泣きそうな顔だった。


確かに俺の作ったものと一目瞭然だ。

しかし、焦げているわけではないし、食べられないわけでもない。


「いや、ちゃんと卵料理になってるぜ。初めてなんだ。上出来だ。」


「で、でも…坂本さんのとは…全然違います…」


「そりゃ俺は毎日研鑽を積んでるからなぁ。

最初から同じように出来たら俺の立場がなくなっちまうよ。」


俺が笑うとシャルロットも少し表情を緩めた。


失敗して料理が嫌いになってしまうのは勿体ない。まずは自分で作ったものを食べて料理をする事の楽しさを知ってもらえれば十分だ。


俺はサッとシャルロットの作ったスクランブルエッグを更に盛り付けた。

形は少し不細工だがバターの香りは引き立っている。


「よっしゃ、じゃあ熱いうちに食うぞ!」


「…は、はい!!」


シャルロットの顔にようやく笑顔が戻った。


カウンターに二人の賄いを並べた。

スクランブルエッグに白米、インスタントのスープも用意した。

並んで座り二人で手を合わせる。


「いただきます!」


シャルロットは自分の作った卵を一口食べた。もぐもぐと口を動かし、少し考え込んでいる。

…やはり少し固くなってしまったのが気になるのだろうか… 


そう思って見ていると突然ぱっと顔を上げた。


「おいしい!」


どうやら心配する必要はなかったらしい。


「少し固くて形も悪いけどバターと卵の味がしておいしい!」


シャルロットは嬉しそうにパクパクと食べていく。


「私が作ったお料理なんですね……!」


その言葉に思わず笑ってしまった。


「あぁ、ハンバーグ以来の料理だな!」


自分で作ったものを美味しいと思える。

それだけでも料理にチャレンジした意味があったのだろう。


「ごちそうさまでした!」


食事を終えたシャルロットは満足そうに手を合わせた。


俺も食器を片付けながら、厨房の時計に目を向ける。そろそろ夜の営業に備える時間だ。


シャルロットも元気よく立ち上がり空になった皿を運ぶのを手伝ってくれた。

ところが片付けが終わる頃になって何かを思い出したかのように俺の袖を引っ張ってきた。


「坂本さん!また料理教えてください!」


「やる気あって良いじゃねぇか!今度は成功させるぞ!」


「やったぁ!!!」


シャルロットは満面の笑みを浮かべている。


さて今度は何を教えようか…

俺はそんな事を考えながら再び厨房に入った。


夕暮れの街に明かりが灯り始めている。

お客さんに料理を振る舞うだけじゃない。

こうして誰かと一緒に料理を作り、そして

一緒に食べる時間もまたこの店の大切な日常の1ピースなのだった。

読んで下さりありがとうございました。

今回は少し趣向の違うストーリーに仕上げてみました。

卵料理は簡単そうに見てるけどとっても難しい料理なんですよね…

皆さんは卵料理で何が好きですか?


私は卵焼きに紅しょうがを混ぜて焼くのが味にメリハリがついて好きなんです。

美味しいですよぉ…


はっ!!今日も話が逸れましたね…

シャルロットの料理スキルの上達も是非お楽しみに!

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ではまた次の営業でお会いしましょう……

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