【第2話】白髪少女と特製生姜焼き定食
異世界に何故か飛ばさせてしまった料理人「坂本」は腹を空かせたお客に温かい普通のごはんを振る舞うハートフルストーリー…
でも…今回のお客様(?)は少し事情がありそうだ…
トントン…トントン……。
夕暮れの厨房に、規則正しい心地良い音が店内に響く。
俺は明日の定食の為に玉ねぎを刻んでいた。
ふと、俺は背中に刺さるような視線を感じ手を止める。
入り口の引き戸のガラスから少女がじーっとこちらを覗いている。
「どうしたんだ…?こんな所で」
10歳くらいだろうか…
白髪の少女の服は泥で汚れており髪もボサボサだ。
ただ事ではない様子に、俺は包丁を置いて入り口へと歩み寄った。
「こ、こんなに汚れて…大丈夫か?」
少女は一歩後ずさり、怯えたように視線を泳がせる。
「えーっと…その…」
消え去りそうな声で彼女はポツリポツリと話し始めた。
語られたのは、少女にはあまりにも残酷な過去の顛末だった…
「おとうさんも……おかあさんも……」
彼女は、ぎゅっと服の裾を握りしめた。
「わたしをにがしてくれたの……でも……わたし、なにもできなくて……」
そこまで言うと、彼女は俯いた。
小さな肩が、かすかに震えていた。
親が命を賭けて逃がしてくれたおかげで、少女の命は助かったものの、帰るべき家も家族も無くなってしまった。
「あのときから…どこにいけばいいのか…わからなくて…ど、どうしよう……」と彼女は震えるような声で呟いた。
「そうか…大変だったな…」
静まり返る部屋に張り詰めた沈黙が流れる。
―――ぐぅぅぅぅ…。
その重苦しい空気を切り裂いたのは、少女のお腹の音だった。
「あ……」
少女は一瞬で顔を真っ赤に染め、両手でお腹を押さえて俯いた。
シリアスな過去の話からあまりにもギャップに、張り詰めていた空気が一気に和らいだ。
「よし!ここまでにしよう。まずは腹ごしらえだ」
「で…でもおかね…ないよ…?」
「お金は一旦いらねぇよ」
張り詰めた空気をほどくように声をかけ、俺は厨房へと向かった。
午後の部で出していた「からあげ」はチョークが退店した後、客が匂いにつられてすぐに売り切れた為明日の定食にするつもりの物を出すことにした。
冷蔵庫から取り出したのは、程よく脂ののった豚の薄切り肉だ。
すりおろした生姜、醤油、みりん、そしてほんの少しの料理酒を合わせ、特製の調味料を作る。
生姜のピリッとした爽やかな香りが店内に広がる。
フライパンに火をかけ、薄く油をひく。
十分に熱したところへ片栗粉をまぶした豚肉を一枚ずつ広げながら並び入れた。
―――ジュゥゥゥゥ!
激しい音と共に肉の表面がみるみるうちに美味しそうな焼き色へと変わっていく。
溢れ出る良質な脂がパチパチとはじけ、肉の甘い脂の香りが店内に立ち上った…
肉に8割ほど火が通ったタイミングで、先程準備しておいた合わせ調味料を回し入れる。
―――ジャァァァ…!!
蒸気と共に、醤油の香ばしさと加熱された生姜の甘辛い香りが鼻腔を襲う。
タレがふつふつと泡立ち、肉の脂と混ざり合いながらとろみを帯びたタレが肉一枚一枚に絡みつく。
「す、すごい…いいにおい…」
彼女の言葉を聞きつつ、俺は千切りにしたキャベツを皿に盛り出来上がった肉を豪快に盛る。旨味が詰まった特製のタレをたっぷり回しかけた。
「おまたせ!しっかりと噛んで食べな!」
アツアツの生姜焼き、ツヤツヤ光る白米、そして、わかめの入った味噌汁の臨時定食を差し出す。
彼女はゴクリっと唾を飲む。
生姜焼きからは、甘辛い醤油と生姜の香ばしい湯気が彼女の食欲を唆る。
「い…いただきます。」
彼女は震える手で恐る恐る生姜焼きを口に入れた。
パタリと彼女の動きが止まる……
柔らかな豚肉から溢れ出る濃厚な豚の甘み。そしてすりおろした生姜の爽やかな風味の効いたコクのある特製のタレが口いっぱいに広がっていく。
彼女の大きな瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていった…
「お、おいしい……あったかい…です…」
ぽろぽろと涙をこぼしながら彼女はまた一口、そしてタレのついた米を搔き込む。
魔物に襲われ、行く当てもなく一人で張り詰めていた心が温かいごはんによって解きほぐされていく…
泣いていた…けれどしっかりと味わうように彼女は生姜焼き定食を噛み締めていた。
皿の上に広がった山を綺麗に平らげた。
ごちそうさまでした…と小さく手を合わせた彼女はふぅ…と温かい息を吐き出す。
目はまだ少し赤かったけれど、その表情には先程までの悲壮感は消えていた。
彼女はスッと箸を置き、意を決したように真っ直ぐこちらを見つめてきた。
「あ、あの!お、おねがいがあります。」
彼女は膝に手を置き、深々と頭を下げた。
「わたしをここではたらかせてくれませんか…?」
初めて声を聞いたときとは違う芯のある声だった。
下げられた頭が静かに震えている。
一人の冷たい寂しい世界にまた戻ってしまう…その様な恐怖と戦いながら必死に頭を下げる。
「頭を上げて。別に今すぐ追い出したりはしねぇさ」
ハッと顔を上げた彼女に俺は優しく、けれど少し真剣なトーンで言葉を続けた。
「ここにいても良い。だが少し約束してくれ
一つ目、手伝うのは良いが無理はしない事。二つ目、困ったことがあったら俺に相談する事。最後に、ちゃんとご飯は食べること!良いね…?」
提示された「約束」があまりにも自分に寄り添ったものばかりで今度こそ本当に嬉しそうに何度も首を縦に振った。
「はい!よろしくおねがいします!」
「よし、よろしくな!…あっ、そういやぁ名前聞いてなかったな。俺は坂本だ、よろしくな」
自分の名前を名乗ると少女は少し照れくさそうに笑みを浮かべた。
「わたしのなまえはシャルロットといいます
。これからもよろしくおねがいします!」
そう言う彼女の瞳には希望の光が灯っていた。
こうして、食事処〜坂本〜に新しい家族が加わったのだった。
坂本さんの異世界ごはん処第二話を読んでくださりありがとうございました。
2話にしてもう新しいメンバー可愛い可愛い「シャルロット」が登場しました!
今後とも坂本とシャルロットの様子を一緒に見て頂けると幸いです。
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ではまたお会いしましょう……




