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坂本さんの異世界飯処  作者: とま坊


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15/21

【第15話】忘れられない「母の味」

異世界に何故か飛ばさせてしまった料理人「坂本」は腹を空かせたお客に温かい普通のごはんを振る舞うハートフルストーリー…

今回のお客は何やら事情がありそうで…?

「あ、いらっしゃいませー!」


店の扉を、一人の若い女性が遠慮がちに開けた。年齢は20歳前後位だろうか…。

旅人らしい薄汚れた外套を羽織り、

疲れ切った顔で店内を見回している。

空いている席を見つけると、彼女は小さく頭を下げて腰を下ろした。


「……食事を、一人分お願いします。」


「はい!本日の定食をお持ちしますね!」


シャルロットが注文を受け、厨房へと引っ込む。女性は卓上に置かれた水を一口飲んだものの、それ以上は何もせず俯いたままだった…


厨房では、坂本が大きな鍋の蓋を開けていた。中から立ち上る湯気には野菜と肉の旨味が溶け込んだ、やさしい香りが混じっている。今日の日替わり定食はポトフ定食だ。

大きめに切ったジャガイモ、人参、玉ねぎ、キャベツ、そしてじっくり煮込んだソーセージ。味付けは塩と香辛料を控えめにし、素材の味を引き立たせる。


「よいしょっと…おまたせしました!

ポトフ定食です。」


女性の前に置かれたのは、湯気の立つポトフと、焼きたてのパン、それに小さなサラダだ。


「……あ、温かそう…」


女性はぽつりと呟き、スプーンを手に取った。スープを掬いそっと口に運んだ。


肉と野菜の旨味がじんわりと広がり、

冷え切っていた身体に温もりが染み渡っていく…


次に、柔らかく煮込まれた人参を口にした。その瞬間、女性の手が止まった。


「――あ…」


もう一口。

今度はジャガイモをスプーンで崩し、スープと一緒に口へ運んでいく。

ホロリっ、とほどける食感と野菜の自然な甘さ。

――これは、どこか懐かしい味だ…


「どうかなさいましたか?」


様子に気づいたシャルロットが、少し心配そうに声をかけた。

しかし、女性は慌てて首を横に振った。


「いえ、そのすみません。

なんでもないんです本当に。」


そう言いながら、彼女の目には涙が浮かんでいる。


「昔、母が寒い日によく似た料理を作ってくれたんです。だから…」


女性はスプーンを握りしめたまま、ポツリポツリと語り始めた。


――幼い頃、彼女の家は貧しかった。

母は病弱な身体で働きながら、娘を育ててくれた。

十分な食材を買えない日も多かったが、

家にある適当な野菜を鍋に入れ、少しの肉と一緒に煮込んでくれた…

味付けはいつも簡素だった。

それでも、母が作る煮込み料理は彼女にとって何よりのご馳走だった…


「母が亡くなってから、ずっと一人で旅をしてきたんです。

仕事を探しても長く続かなくて、

食事も安いものばかりで…

だから温かい料理を誰かに作ってもらうなんて久しぶりで…」


シャルロットは何も言わず、そっと彼女の隣に立った。

厨房から話を聞いていた坂本も鍋の火を弱め静かに耳を傾けていた。


「――お母さんの料理を思い出してもらえたなら、まぁ料理人として嬉しい限りだな…」


坂本はそう言い少しだけ微笑んだ。


「でもよ、これは俺が作った料理だ。

お母さんの味そのものではないだろうけど

それでも温かくて美味いもんを食べて、少しでも元気が出たならそれは料理人冥利に尽きるな!」


坂本が笑顔で言うと、女性は何度も頷き再びスプーンを動かした。

パンをちぎり、スープに浸して口に運んでいく。

最後の一滴まで味わうようにゆっくりと食べ進めていった…


食べ終えた頃には、彼女の表情から来店したときの張り詰めた様子が少し消えていた。


「ふぅ…ごちそうさまでした。

本当に美味しかったです。」


「ありがとうございます。また来て下さいね!」


会計を済ませた女性は、扉の前で一度振り返った。


「私、もう少し頑張ってみます。

母が作ってくれた料理を思い出したら、

まだまたやれる気がしてきました!」


そう言い今度はしっかりと頭を下げ店を後にした。


扉が閉まるのを見届けてから、シャルロットは坂本に尋ねた。


「――坂本さん…料理ってやっぱり不思議ですね。

食べるだけであんなに人を元気に出来るんですから…」


「うーん…そうだなぁ…

料理に出来る事なんて、そんなに多くはねぇよ。

まぁ腹を満たして、身体を温めて、明日も頑張ろうと思えるきっかけにさえなれば良いがな…」


坂本はそう言い再び厨房へと戻った。

鍋からは変わらず温かな湯気が立ち上っている。


――この店の料理が誰かの心を温め、明日を生きる小さな力にさえなればいい…


そんな事を思いながら坂本は静かに鍋を混ぜたのだった…

読んでくださりありがとうございました。

今回はポトフと言う家庭料理をテーマに書かせて頂きました。少しでもほっこりとして頂けたら嬉しいです。


少しでも『お腹が空いた』『おもしろい』と思ったら、下にある【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で応援していただけると、執筆の励みになります!

ではまた次の営業でお会いしましょう…

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