第16回 清潔感が、いいそうです(前半)
メイド服を返してから、数日が経っていた。
紅葉は詩音について、もう深く考えないようにしていた。考えても結論は変わらない。詩音は相変わらず真顔で「親しみやすさ」と言い、紅葉は受け流す。その繰り返しが、日常になりつつあった。
そして今日。
午前中、鷲尾から指示が来る。
「詩音、紅葉。午後、総合病院の関連施設。職員用駐車場で置き引きが続いている。派手にやるな」
資料を読むと、病院の職員用駐車場で、車上荒らしのような被害が出ているという内容だった。監視カメラはあるが、死角が多く、犯人はそれを突いているらしい。何か手掛かりを見つけてほしい、という依頼だ。
紅葉は資料を閉じ、自分のデスクで服を確認した。病院関連なら、あまり奇抜なものは来ないはずだ——そう思いたかった。
午後の準備を終えて席を立つと、詩音が自分のデスクに小さな箱を置いていた。箱の蓋は開けられており、中から白い生地と、紫のラインが見える。紅葉は足を止めた。
詩音は箱から服を取り出した。白いナース服。胸元が大きく開き、紫のパイピングが入っている。ミニ丈で、ガーターベルトまでセットされていた。注射器の小道具も、丁寧に添えられている。
紅葉はそれを見て、静かに頭を抱えた。
『これは完全に、やらしい時のコスプレだ……』
『清潔感と親しみやすさを両立できるデザインです』
『どこが清潔感なんですか。胸元が開きすぎてます』
『患者さんに安心感を与えるための工夫です』
『安心感を与えるために谷間を見せるんですか。論理が崩壊してます』
『注射器も、雰囲気を補完するものです』
『補完しなくていいです。しまってください、その注射器』
詩音は真顔のまま、服を紅葉の方へ差し出す。
『着てください。清潔感が出ます』
紅葉は長く息を吐き、力なく服を受け取った。
『……わかりました。着ます。ただし、注射器は持ちません』
『では、私が持ちます』
『持たないでください』
詩音は少しだけ残念そうな顔をした。紅葉はもう追及しなかった。追及しても、結論は変わらないことを、十分に学習していた。




