第15回 使用人に見える方が、いいそうです(前半)
ピンクのヒーロースーツがSNSで少し話題になってから、数日が経っていた。
紅葉は三奈に「ナイスバディだったな」と短く言われるたびに、無言で机に突っ伏すようになっていた。詩音本人は「正義感が伝わって良かった」と真顔で言っており、反省の色は全く見えない。いつものことだった。
そして今日。
午前中、鷲尾から指示が来る。
「詩音、紅葉。午後、資産家の自宅。最近、奇妙な手紙が届くらしい。派手にやるな」
資料を読むと、依頼主の自宅に差出人不明の手紙が何度か届いているという内容だった。直接的な脅迫ではないが、家族が不安がっている。様子を見てほしい、という依頼だ。個人宅での内偵に近い。
紅葉は資料を閉じ、自分のデスクで服を確認した。個人宅なら、目立ちすぎない服がいい。せめて今日くらいは、普通の格好で済んでほしいと思った。
午後の準備を終えて席を立つと、詩音がすでに自分のデスクの上に、綺麗に畳まれた黒い布を置いていた。袋に入っていない。最初から中身が見える状態で、そこにあった。白いエプロンのフリルが、蛍光灯の下で少し浮かんで見える。
紅葉は足を止めた。
『……それ』
『個人宅ですので、使用人に見える方が自然だと思いまして』
詩音は畳まれたメイド服を手に取り、紅葉の前に差し出した。黒を基調に、白いエプロン。頭には小さなカチューシャが添えられている。もう一着、紫寄りの色味のものも下に重ねてあった。
『住み込みの使用人に偽装すれば、家の中を自然に見回れると考えました』
『普通のスーツでいいと思います』
『使用人に見える方が、警戒されにくいです。依頼主にも、事前にその旨を伝えてあります』
紅葉はメイド服を見下ろした。袋から出す演出も、価格の言い訳も、今回はない。最初からそこに置かれていたことが、逆に抵抗する気力を削った。
『……着ます』
詩音は小さく頷いた。紅葉は服を受け取りながら、心の中で短く呟いた。
『今回は、袋すら省略してきたな』




