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終焉の箱庭  作者: 時雨無名
第一章 【骸の残響と記憶の結晶】
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第十八話 機械人形


「木を倒す、か…」


 それは、零時の作戦から始まった。


「確かに、この領域ではその方法しか使えないもんな、しかし良くそれを見出したな」


「いえ、今思いついたことですし、成功する保証もありません」

「それに三枚のお札では、分身とか障害を出させる札がありますけど、本質は「逃げる」という選択なので、木を倒すことでなんとか行動を制限させる程度だと思ってください」


「それは分かったんだが…まずそんな昔話、よく覚えてるな。今言われて思い出したぞ、俺」


 矢倉の反応的に、少々零時の記憶力に驚きを隠せないでいたのだろう。


「昔から記憶力は良い方ですので…」


 ----------------------------------------------------------------


 次々と倒れていく丸太によって土煙が発生し、山姥の視界を遮っていく。調査員たちの一部は勝ったと独りよがりをしているが、矢倉たちは警戒を怠らない。


「奴の憶忘は体の部位を武器に変える【変化】だ!! どんな攻撃を仕掛けてくるか分からない今、ぬか喜びをするな!」


 強い叱責に、調査員の表情は一変し、周りを警戒する。次の刹那、土煙が晴れ、上空には血塗れ状態の山姥がそこにいた。


「撃てーッ!!」


 語気が強まった矢倉の掛け声と共に、光線銃が山姥に襲う。複数の光線が山姥の体を貫き、青黒い血を吐くが、まだ核には辿り着けない。

 近くにあった丸太の破片を蹴り上げ、調査員を葬ろうと接近するが、その間にるなが入り込み、見事防ぐことに成功する。


「────────…!!」

「このあばずれがッ…!!」


「何言ってるか、全く分かんないねッ!!」


 弓が消えるのと同時、包丁の攻撃を見切り、護身用のナイフを取り出し、山姥の腹に突き刺す。その攻撃には、山姥は想定外だった。


「ぅりゃッ!!」


 次の間には、回し蹴りが放たれる。


「──…!!」

「ぐっ…!!」


 渾身の一撃によって、木々が倒れたとこまで山姥は吹き飛ぶ。山姥は素早く復帰をするが、矢倉の負荷がかかった蹴りにより木の山へと沈んでしまう。


「ゴリ押していうのも、一つの知恵なんだろ?」


 瞬時に矢を装填し、クロスボウで山姥の心臓を狙う。危険を察知した山姥は包丁で防ぐ。

 だが一つに絞りすぎた影響で、歳忘の目には真正面しか映っていなかった。


 矢倉の後ろにるなが鎮座しており、さらに彼女の後ろに矢の雨が存在した。


「【雨天うてん】!!」


 彼女の合図と共に、矢の雨は降り注ぎ、山姥と木々に目掛けて放つ。命の危機を感じた山姥もいつまでも黙っているわけではない。

 手首からその先を切り落とし、空中に放り投げると、手は爆発を起こし、追加として包丁5つが襲いかかる。


 るなと矢倉は防ぐことに成功するが、調査員の2名がその包丁に突き刺さってしまい、致命傷を負う。


「───、──────…!」

「ここで、葬ってやろうッ…!」


 即座に動き出そうとした。しかしそこを彼は逃すつもりはなかった。


「行かせねぇよ、歳忘ッ!!」


 振り向いた時には、既に銃剣を振り翳しており、山姥も反撃を狙おうとするが、先ほどの矢による傷で、動きが鈍る。

 その銃剣は、山姥の胸を引き裂き、更なる痛手を負った。木々が多く倒れている中で、周りには遠距離がいて、もはや逃げる選択肢というものは、あの歳忘にはなかった。


 零時も行動をしようとする。しかし


「…ゴフッ…」


 零時も同じく、血塗れでなぜ動けているか不思議なくらい、身体の損傷が激しい。そのためこの戦いは、更なる賭けが始まる。


「────────、──────…」

「お前を殺したあと、食ってやろう…」


「ハハ、そうか、まだそんな冗談を言えるんだな…」

「だが生憎、俺は美味しく食べられるほど新鮮なものじゃないぞ」


 二人は見合い、倒れた丸太の上でお互い牽制し合う。命懸けの戦いは、二人は理解している。だからこそ、攻め合わない。

 一つ、一つの風が頬に当て、その度に緊張が走る。十数秒経過し、零時の目つき、山姥の渦が変わりだす。そして、最初に動きを作らせたのは


「……」


 零時の微かな攻めの態勢。だが零時は襲わない。そのフェイントに山姥は血が上る。


「…──」

「…チッ」


 零時に呆れたのか、山姥が襲おうとした時、脇腹から熱く、鋭い何かが刺さる。


「…ッ!?」


 異常を察した山姥が見た瞬間、渦が凝縮する。


「なるほど、諏訪部の言う通りか。確かにこいつは不意打ちに弱い」


 なんとそこにいたのは、血塗れなのに、傷が一切なかった古手の姿だった。山姥は反撃を試みようとするが、素早く動きを作り、逆に反撃を仕掛ける。


 血を吐いた山姥は、そのまま傷を癒そうと再生させるが、そんな隙を作らせる暇もなく、零時も追撃をしていく。


「───…ッ!?」

「がっは…ッ!?」


 攻撃を食らった衝撃で丸太の底へ落ちていき、そのまますり潰されるように深淵へと向かっていく。


「古手さん…! 傷の方は…」


「僕なら大丈夫、それより君の方が相当深いと思うよ」


 その目つきは確かに冷たく、何も湧かない無感情そのものだったが、どこか言葉には暖かさを感じさせる。


「矢倉からの説明は聞いた、とんだ思いつきだ、良く周りを見てる」

「多分君、才能があるね」


「いやいや、俺はただそういうのに長けているだけですので…。でも、これで終わったのでしょうか」


 そう言いながら丸太の奥を見つめた矢先、何か強く気配を感じ取り、顔を引っ込めると同時、底から爆発音と突発が巻き起こし、何個かの丸太を上空に吹き飛ばすほどの爆風を発生させる。


 上空にある丸太を見ると、そこには傷だらけの山姥が怒気を纏わせ、ただ憎むようにこちらを睨む。古手は飄々としながらも、警戒しながらナイフを構える。


「戦いはまだ終わっていない、早く仕留めて護衛依頼を終えよう」


 空中に浮かぶ丸太を蹴るのと同時、山姥の速度は上昇し、丸太の上にある古手の首を狙うが、間にナイフを交わり、火花を散らしながら防ぐ。

 だが速度が上乗せされた攻撃は重い。防ぐだけでも精一杯だ。


「重いな…たく」


 丸太を飛び移りながら山姥の背後を狙う零時だが、山姥が指を噛み切り、放り投げると同時包丁へと変わり、零時の眉間に襲うが、左手を犠牲に防ぐ。


「クソっ…!!」


 零時は別の丸太に飛び移り、包丁を抜く。


 明らか山姥のブーストがかかっている。このままではやられるのも時間の問題。零時は策を講じる、今の現状を打開できるもの。

 零時は犠牲になった左手を見つめる。そして古手が時間を稼いでいるのを見て、彼は思いつく。


「…俺に、できるのか?」


 失敗すれば、命の保障はできない。しかしこのままだと、古手を見殺しにしてしまう。だからこそ、零時は覚悟を決めなければならない。

 だがそんな覚悟、もう既に心の中に籠っていた。


「いや、やるしかねぇよな…ッ!!」


 次の刹那、零時の左手に水が発生する。その水は回転を増し、やがて渦状の拳へと変貌していく。その拳を握っているだけでも、まるで温度が違う。


「……」


 深く、深く深呼吸をする。水と一体化し、共鳴させる。諏訪部零時にとっての【水】という概念を糸が正しく纏わせるように。彼は、見据える。


 終止符を打つのは、誰だっていい。


 もう既に彼は丸太から飛び出し、拳を握りしめる。そこにいた古手と山姥は零時に目線が行く。

 古手の瞳には、哀れに飛び込む零時の姿に面影を重ね、瞳孔が小さくなる。山姥はもう片方の手で包丁を握り、古手に刃を向ける。


 だが古手がそんな簡単にさせてはくれない。山姥に素早く雁字搦めをし、強く締めていく。


「──っ!!」

「どけっ!!」


「お前の言葉、悪いが何も分からない」


 包丁で何度も古手の腕を刺すが、びくともしない。だがもう前には零時の拳があり、逃げることも隠れることもできなかった。


「散れッ!! 歳忘!!」


 振り上げた零時の拳は、山姥の顔面を捉え、一気に吹き飛ばす。その拳には圧倒的な威力を誇り、雁字搦めをしていた古手まで吹き飛ばすほどの余波があった。


 だが山姥は最期まで抗い、包丁を手に取り、零時に刺そうと向かってくるが、剣で抑え、もう一つの銃口を山姥に向ける。


「…ッ!?」


 その銃口こそ、零時が持っている銃剣だ。


「お札ていうのは、こうやって最後まで残しておく必要があんだよ」

「俺はとことん、運が良かったみたいだ」


 その一言と共に、弾丸が山姥の肺を貫いた。恨み口調で山姥は零時に罵詈雑言の非難を浴びせるが、彼には何も響かなかった。


 上空から地面に叩きつけられた山姥の元に先ほど上空に飛ばした一本の丸太が落ちてきて、下半身を破壊させる。


「─っ…!?」

「がっ…!?」


 潰された衝撃でまともな動きができず、動こうともがくが意味をなさなかった。さらにその近くには、矢倉がいた。山姥はまだ何かを言おうとするが、矢倉は聞く耳を持たない。


「ここで終わりだ、歳忘」


 その一言と共に、露出した核を突き刺したのと同時、山姥は奇声を上げ、そのまま地面に伏す。同時に山姥の体が塵になっていく。


 るなと零時、古手が駆けつけ、山姥の最期を見届けると、ようやく終わったことを告げる。


「…終わった、のか」


「終わったな」


 その言葉を聞いたのと同時に、零時は安堵したのか、地面へと倒れる。


「零時!!」


「……」


 明らか出血量が激しく、地面に血の溜まりができるほど、今まで動いていたことが奇跡に近い。


「一度ここの調査を終えよう、あまりにも怪我人が多すぎる。金沢にも連絡をしなければ…」


「私、零時の治療に専念するから、古手くんは調査員の方に行って!」


「了解……ん?」


 古手から何か嫌な予感がしたのか、ふと木の枝を見上げる。そこには老人が鎮座していて、頭をかきながら、何かぶつぶつ言っていた。


「何かやばいな…二人とも」


 古手が二人の方へ視線をやった刹那、空が切るのと同時に、信じられない光景を目にした。矢倉が地面に倒れていて、よく見てみると、右足がもがれていたのだ。


「…はっ…」


「あああぅぁぁっああッ!!?!?」


 絶叫と共に抉られた足の断面から地面に溢れていく鮮血な血。絶えず叫びは続き、その痛みと苦しみは、永遠と襲ってくる。


「矢倉さん!?」


「隊長!!」


 一人の調査員が近づこうとした。


「調査員はこっちに近づくな、死ぬぞ」


 あの老人とは真反対にいる調査員に、普段とは思えないほどの怒気を纏った目つきでこちらに来させないようにする。


「…ッ」


 すぐ零時の手当を不格好ながらも終わらせ、るなは矢倉の治療と共に、古手と周りを警戒させる。


「古手くん、これどういう状況なの!?」


「分からない、けど確かなのは、遠距離を持つ歳忘がいるということ」


「応援、呼ばないと…!」


 手当てを終わらせたるなは、すぐさま記骸域専用無線機を取り出すが、機能しなかった。


「反応しない…こんな時に…!」

「…いや、通信遮断されてる…!?」


「なるほど、完全に僕らをここで抹殺するつもりか」


 その瞬間、鋭い風圧がこちらへと襲いかかってくる。しかもその風圧は零時の元へと襲いかかってくると来た。

 一番早く勘付いたるなは、零時を守るため前へと出る。


「【天恵てんけいの加護】!!」


 前方に盾を召喚させ、その風圧を防いだ


「やった…!」


 ─はずだった。

 るなの胸に鋭い風圧が届いていたのか、彼女の胸から血が吹き出す。


「っえ…?」


 ──嘘ッ…?


 その傷はあまりにも重傷で、零時の元で倒れてしまう。その音に気づいた零時が目を開ける。


「…なん、だ…?」


 目を開けた先にいたのは、胸から血を流するなの姿で、零時は度肝を抜かれ、言葉が詰まった。


「…ぁ…?」


「諏訪部、立てるか」


 上を見上げると、そこには血塗れの古手の姿があった。


「古手、さん…!! るなは…るなは…!!」


「落ち着け。幸い命までは届いていないが、このまま放置してたら危ない」


 彼女は喘鳴になりながらも、「大丈夫」と彼を心配させないよう呟く。零時の表情はみるみる強張っていく。古手は持っていた布でるなの胸に応急処置をするが、期待はできない。


「…さて、どうするか」


 冷静に状況判断をし、上にいる存在に目を向ける。


「恐らくあの天狗野郎と老人がこの記骸域の親分的存在だろう」


「…あいつらか」


 真っ赤に染まった腕が翼を見立て、それを広げ、天に滞在していた。渦の顔と鼻が長い赤いお面が融合したような顔面、片手には羽団扇らしきものを持っている、天狗の歳忘。


 もう片方の老人は、足が一本しかなく、杖が人間の腕そのもので、渦状でも分かるあの余裕たっぷりの表情の歳忘。


 一瞬、古手の表情が強張る。


「…そろそろ、体力も限界に近いな」


 余裕そうに見えても、先の戦いでは相当やられたせいで、体力は既に限界を迎えていた。

 そのため、この2回戦目は、相当きついものであった。


 お互い拮抗していた時、天狗が羽団扇を思いっきり動かすと、古手に風の刃が飛んでくる。零時は前へと出て、手に集中する。


「─チッ…!!」


 水を纏わせ、前方に遮蔽物で覆い、攻撃を防ぐことに成功する。


「なんとなく感覚が掴めてきた…けど…」


 彼も体力の限界なのか、思いっきり血を吐く。けど彼は動こうと瞼を上げる。


「──お主は、この場で蹲る弱気者じゃ」


 だがそんな時、他人を誑かすような声が聞こえ、零時がその言葉に反発しようとした瞬間、肺が苦しみ、倒れる。上手く息が出来ず、ただ胸を抑えることしかできなかった。


「…お前か」


 木の上にいる、あの老人を古手は見つめる。老人の顔面は渦状だが、嘲笑っていることだけは分かった。


 現状動けるのは古手と調査員だが、調査員が行ったところで被害が増大するのは、古手も分かっている。


 るな、零時は動けず、矢倉に関しては傷が深すぎる。もはや動けることも叶わない。


 あまりにも、勝つという希望がなく、絶望というな敗北が頭によぎる。


 今度は天狗による圧倒的広範囲の竜巻が襲いかかってくる。恐らく全てが鋭利で、触れた瞬間肉と化してしまうのだろう。

 正直、ここから入れる保険は、なかった。


「…万事、休すか」


 その竜巻が今、古手たちの元を襲おうとした時だった。記骸域の入り口から轟音が響いたのと同時に、古手の目の前に白髪の男性が、そこにいた。


 古手は、目を疑った。


「…え」


 その白髪の男性は大剣を持ち、その一振りによって、竜巻という物体を切り捨てた。その一撃は凄まじく、風圧がその男性を皮切りに襲いかかる。


 大剣を地面に差し込み、息遣いも、瞬きもせず、ただ正面だけを見つめる、機械人形。


「到着が遅れてしまい申し訳ありません、皆さん」


 その言葉には強い覇気があり、あまりにも頼り甲斐がありすぎる。そんな男が、今ここにいた。


「…遅いじゃないですか。本当に」


 そう吐き捨てるように、古手は独り言を呟く。


「ノスタルジア・システム前衛部隊幹部、【歳憶者】明月碧。皆さん安心してください。ここからは、僕が皆さんをお守りいたします」


 ─その場の空気が一変した。


 神秘的な大剣を構え直し、その目つきには優しく、そして怒りが隠された表情には、ただ皆を釘付けにされる。

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