クリスタの夢
観客席では、カタクリが大暴れしていた。
その他、アイオーンが逃げ遅れた観客を守り、クリスタが氷のナイフを振るう。鉄球使いが棘つきの鎖鉄球を放り投げ、氷の杖使いが魔法を生み出し、騎士団同士が衝突する。
森の妖精であるカカシもこの場にいて、
「……クロノとハイドロに助太刀する」
と言いながら、次々と敵を無力化させていく。
排熱システムが全力で動いた。
吸気口が壮絶な音を立てた。
闘技場が哭いていた。熱で外壁の氷が溶けて、大量の水が流れ落ちていた。
闘技場の底では、グレイシアとリアがすでに敗北していた。
それでもまだ、観客席にいる星形騎士団は諦めていなかった。
この騒動の中止にいるのはクロノであり、クロノを止めることができる手駒はハイドロしかいないと理解していた。そして、その手駒を動かすにはクリスタを捕らえる必要がある。
残された星形騎士団は、起死回生を狙っていっせいにクリスタに襲いかかった。
クリスタが氷のナイフを構えて、
「ずっと! ずうぅっと! 我慢していた! スノウリンクスには参加できないし、人質にされるし、ハイドロの役に立てないし! このときが来るのを夢に見ていたの!」
星形騎士団と真っ向から切り結ぶ。
――ちょっと腕がいいだけの看板娘。生涯、表舞台で戦うことはないだろう割れ者。
そんな自分がナイフを振るって騎士団と戦っている。
もちろん、クリスタの実力では何人もの騎士を相手取ることはできない。
一対一が精いっぱいだ。
でもここにはカタクリがいる。アイオーンがいる。カカシがいる。
横合いや、背後から奇襲を受けることはない。たくさんの援護を得ながら、それでいて足手まといにもならずに、クリスタは星形騎士団と互角に渡り合った。
相手の剣が、頬を掠めていった。
緊張と集中で頭がどうにかなりそうだ。
これが命を懸けて戦うということか。
ああ、なんて怖い。
なんて、楽しい。
割れ者は脆い。
相手の攻撃が当たれば、一撃でコアが砕けてしまう恐れがある。
でもその恐れを超えることができると、クロノが見せてくれた。誰でもできることじゃない。他の割れ者に、やれとも言わない。ただ、それでも戦いたいと思う一握りの割れ者に、クロノは道を示してくれたのだ。
立っている星形騎士団はあと一人。
氷のナイフと、氷の剣が交差する。
剣が弾き飛び、クリスタは騎士の首筋にナイフの切っ先を当てた。
こうして、観客席の戦いも終わった。
☆
ハイドロとクロノが観客席に向かう必要なんてなかった。
カタクリをはじめとした氷闘士やクロノの部下もいるのだから、当然と言えば当然か。むしろこっちに少し戦力を分けてほしかった――ハイドロはそう思った。
まあ、ハイドロとクロノの二人だけで、充分だったけど。
クリスタが観客席から身を乗り出して、
「やったね! ハイドロ!」
「クリスタ!」
ハイドロはポケットから氷狼のチャームを取り出して、クリスタに見えるように振った。
クリスタは、きょとんとした顔をした後に、ばっと顔を引っ込めてしまった。
その様子を見ていたクロノが、馴れ馴れしく肩を組んできた。
「おいおい、見せつけてくれるねえ。って、あちい!」
「バカなのか?」
ハイドロが訊くと、
「うるせえよ。一度やってみたかったんだ」
クロノはそう言って、にっと笑った。ヒビだらけの顔が、美しく輝いた。ハイドロは、この街に美しいものを見に来たのだと思い出した。
十二花結晶のネックレス――クロノ・フラワーを見に来たのだと。
「トーナメントはこのまま続けるのか?」
「もちろん! でもラクトとアイナはもう戦えないだろうな。申し訳ないが、俺とハイドロは不戦勝だ。ということは、つまり! 明日はみんなお待ちかねの決勝戦だ!」
勝鬨と共に、観客席が湧いた。




