第7話 婚約者になりました
「そう言えば、養子縁組の件なんだが苗字はどうしたい?」
「苗字って言うと、私の苗字が広隆寺に変わるかもしれないという事ですか?」
「そうなるね。後は家庭裁判所の承認が下りれば手続きは終了なんだけど、もし夜桜っていう苗字にこだわりがあるなら変えないことも可能だと思うんだが」
「いえ、変えていただいて構いません。むしろ変えていただけると嬉しいです」
「そうか。わかった」
まあ、自分のことを全く考えてくれなかった両親と自身が一番大切にしていた幼馴染兼彼氏を寝取った姉と同じ苗字なんて嫌だろう。
俺だったら速攻苗字を変える自信がある。
「本当にいろいろ気を使っていただいてありがとうございます」
「気にしなくていい。それよりも制服は無事に届いたか?」
「はい。バッチリです」
「それは良かった。いよいよ明日から学校生活が始まるからな」
既に養子縁組の手続きはほとんど完了しており、転校の手続きも完了している。
流石に転入試験をパスすることはできなかったのだが、刹那はかなり頭が良いようで普通に合格していた。
「周りの皆さんは私なんかよりもエリートな方が多いでしょうからすごく緊張します」
「そこまで緊張しなくてもいい。学校に行けば、紅葉もいるからな。何かあったら積極的に頼ると良い。あいつ頼られるのとか凄く好きだから」
「はい。困ったことがあれば頼らせていただきます」
刹那と紅葉の関係性が良好そうで良かった。
まあ、会ったのは初日だけなはずなんだけど。
「そうしてくれ。あと、何か聞いておきたい事とかはあるか?」
「そうですね……自己紹介はどうすればいいでしょうか? 夜桜と名乗るべきなのか広隆寺と名乗るべきなのか」
「広隆寺と名乗って欲しいところではあるけど、どっちでも大丈夫だぞ」
「わかりました。じゃあ、広隆寺と名乗ります。でも、そんなことをしたら春斗さんが色々勘ぐられるんじゃありませんか?」
刹那は可愛らしく小首をかしげて聞いてくる。
確かにいろいろ勘ぐられることはあるだろうけど、刹那には広隆寺と名乗ってもらった方が都合がいい。
栄富学園は金持ちばかりの学校、用は自身よりも身分が低い生徒を見下す輩が一定数いる。
そんな奴に絡まれるリスクを減らすためにも広隆寺と名乗ったほうが良いのだ。
「別に多少勘ぐられるくらいは良いさ。それに、刹那との仲を勘ぐられるのなら悪い気はしないしな」
「す、すぐにそういう事を言うんですから」
刹那はすぐにそっぽを向いてしまう。
可愛らしくソファーの上に寝ころんでおり背もたれの方に顔を向けている。
凄く可愛いからぜひとも顔を見せてもらいたいんだけど、きっと見せてくれないんだろうな。
こういう恥ずかしがり屋な所も可愛い。
「まあ、学校で何かあったらすぐに言ってくれ。フォローは絶対にするから」
「わかりました。何か問題が起ったら頼らせてもらいますね」
「そうしてくれ」
これで今日話しておくべきことは話せた気がする。
後は明日になってみないとどんな問題が起るかわからないな。
なにが起ってもフォローする気ではいるんだが。
「本当にここ最近春斗さんに頼り切ってばかりです。私はあなたにどうやってこの恩を返せばいいんでしょうか」
「そんなことは本当に気にしなくてもいいんだけど、そういうわけにはいかないんだよな?」
「そうですね。なんだか、申し訳なさすぎるというか。いや、私なんかに返せるものなんてないのかもしれませんけど」
彼女は俯いて暗い顔になってしまう。
本当にネガティブ思考な子だ。
俺はもう彼女にいろんなものを貰っているのに。
でも、ここで何かを要求しないと彼女の気はすまないのだろう。
「じゃあ、俺の婚約者に正式になってくれないか?」
「……ふぇ?」
「だから、婚約者になってくれないだろうか? もちろん君が嫌だっていうんなら無理に強要するつもりはない。嫌ならハッキリ断ってくれ」
「いや、嫌とかそう言うんじゃなくて……私なんかでいいんですか? 春斗さんならもっと素敵な女性を婚約者にできるのではないのですか?」
もっと素敵な女性という定義にもよるけど、確かに広隆寺家にはかなりの数の縁談が持ち込まれている。
こっちはまだ16歳だっていうのに気が早すぎるのも良いところだ。
「俺は刹那が良いんだよ。それに正式に婚約者が決まればこれ以上縁談やお見合いを申し込まれなくて済むしな」
「え!? 春斗さん縁談を受けてらしたんですか!?」
「受けてはないよ。ただ、すごい数申し込まれてるってだけ」
そろそろ断り切れなくなってきてるから、一回くらいは縁談を受けろって親父に言われてるんだよな。
そう言う面でも正式に婚約者が決まるのはかなりありがたい。
「な、なるほど! つまり私は隠れ蓑になればいいってことですね!」
「いや、そう言う側面があるのは否定しないけど俺は刹那と本気で婚約者になりたいと思ってるよ。もちろん無理矢理になってくれっていうつもりもない。断ってくれてもいいし、断られたからって君を家から追い出すなんてしないから安心してくれ」
「ど、どうしてそこまで私に入れ込むんですか?」
「う~ん、好きだからとしか言いようがないな」
一目惚れ……と言ってしまえば簡単なんだろうけど。
キッカケは一目惚れでも、今まで一週間一緒に暮らして内面にも惹かれた。
だから、俺は刹那のことが本気で好きなんだ。
今までこんな感情になったことが無いから自分でも戸惑ってばかりだけど。
「……そういうことを真正面から言われてるとなんだか照れますね。でも、わかりました、なります婚約者」
刹那はにっこりと微笑んで俺の手を握ってくれる。




