第5話 刹那の幸せと落ちる夜桜家
「ゲーム……か。やったことないのか?」
「実は無いんです。両親は私にゲームなんてやらせてくれなかったので。いつも姉にばかり構って私の事なんか二の次でしたからね」
「なるほど。じゃあ、やろうか。俺も最近やってなかったしな」
買ったはいい物の時間があんまりなくて全くやっていなかったのでちょうどいい。
刹那は嬉しそうに頬を綻ばせていた。
これからはこういう表情をさせることができるように頑張って行きたいと思う。
「やった! 嬉しいです」
「ならよかったよ。ちなみにどんな系統のゲームが良いとかあるか? それなりにタイトル数があるんだけど」
どれもこれも買うだけ買って満足してしまったものが多くあるわけだけど。
俺はパッケージが大量に入った箱を刹那に見せる。
正直俺はやったことがあるゲームたちだから刹那がやってみたいゲームを選んでほしい。
「じゃあ、これでお願いしても良いですか?」
「レースゲームか。そう言うの好きなのか?」
「いえ、パッケージを見たときにやってみたいなと直感で思っただけなので。有名なゲームなんですか?」
「う~ん、有名っちゃ有名だと思うぞ。レースゲームだけじゃなくて、パーティーゲームとか幅広いジャンルに展開してる名作だからな」
刹那が手に取ったのはかなり昔から数多くの人に親しみを持たれているシリーズのレースゲームだった。
配信者などが大会を開くほど奥が深いゲームではあるんだけど、俺はエンジョイ勢だからそこまで真剣に打ち込むことは無かった。
「そうなんですか。尚更やってみたくなりました! 一緒にやっていただけないですか?」
「もちろんやるとも。こういうゲームは一人でやるよりも複数人でやる方が断然面白いからな」
俺がこういうゲームをやらなくなった原因がそれだ。
一人でゲームをしていてもただ虚しくなってしまって、あれ以降やることはあまりなくなった。
たまにやるときは、紅葉が家に来ている時とかもう一人の幼馴染が遊びに来ている時くらいのものだ。
「でも、学校を休んでゲームなんて少し罪悪感が湧きますね」
「そうでもないだろ。刹那は今まで頑張ってきたんだ。たまにはこういうご褒美があってもいいはずだろ?」
「……そうかもしれませんね。ありがとうございます」
刹那はハッと驚いたような顔を浮かべて、その後にとても柔らかい笑みを俺に浮かべてくれた。
こんな風な笑顔を見れる機会をこれからどんどん増やしていけたらいいなと思う。
「全然良いよ。それよりも早速やろうか。設定するからちょっと待っててくれな」
刹那に断りをいれてからゲームの設定を進める。
そう言えば、こうやってゲームをするのは本当に久しぶりかもしれない。
最近は紅葉ももう一人も家に来ることは無かったし、それに伴ってゲームをする機会はなくなっていった。
「少し聞いても良いですか?」
「なんだ? 答えられることなら基本的に何でも答えるよ」
「春斗さんは普段どんなふうに休日を過ごしているのですか?」
「休日の過ごし方……か。そうだな~」
少し考えてみる。普段から何をしているかなんて意識しないと思い出せない。
習慣のようなものだからな。
「最近は特に何もしてなかった気がするな。勉強したり、家でまったりしたりしてたかな」
「真面目なんですね。もう少し遊んでいるのかと思っていました」
「なぜ、出会って二日目でそんな偏見を抱かれているのか……」
「ごめんなさい。でも、悪い意味ではないですから」
刹那はおかしそうに笑っている。
昨日よりはだいぶマシな表情になっていて少し安心した。
これから、学校の問題と養子の問題。
何が起るかあまり想像はできないけど、何とかするしかない。
「よし、できた。コントローラー取ってくるから待っててくれ」
「ありがとうございます。何から何まで」
「良いって。もう少ししたら刹那も忙しくなるだろうし、今のうちに楽しんでおけばいいと思うぞ」
これからは学校での立ち回りや、場合によっては広隆寺の人間との顔合わせをして貰わないといけないかもしれない。
そうなってしまえば、おそらく今みたいにまったりはできなくなるかもしれないからな。
「それもそうかもしれませんね。じゃあ、今日は心の底から楽しもうと思います」
「俺も付き合うよ。じゃ、やりますかね!」
俺たちはそれからレースゲームに勤しむことにした。
初めてだからか、反応が凄く新鮮で見ていて面白いしカーブがあるごとに体が傾いていた。
◇
「にしても、なんで刹那はあんなイケメンと一緒に居たのよ」
私はさっき見た光景を思い出しながら少しだけ、本当に少しだけイライラしていた。
あの子が大事にしていた彼氏を奪ってやったんだからもっと悲しそうな顔をしているのかと思って楽しみにしてたのに。
「てか、どこで知り合えるのよ。あんなイケメンに」
むしゃくしゃする。
いつも楽しそうに彼氏の話をしている刹那を不幸にできると思ってたのに。
予想が外れたのと、あの子がイケメンと付き合ってるのが腹立たしい。
私の方が姉だから、あの子は私のためだけに生きればいいのに。
「ただいま~」
「栄華! ちょっと来なさい!」
家に帰った瞬間お父さんに怒鳴るようにして呼ばれる。
一体私が何をしたって言うのよ。
めんどくさ。
「何? 今帰って来たばかりなんだけど」
「お前は刹那が浮気していたと言っていたな?」
「ん? そんなこと? そうだよ。刹那が樹くんじゃない男の人と浮気してたの」
確か、そんな設定にしていたはず。
樹くんも私の魅力にメロメロだったし、もう刹那になんか興味ないでしょ。
はぁ、てかなんでお父さんはこんなに怒ってるわけ?
「……そうか。それが事実か嘘かはもうどうでもいい。お前はこれから絶対に刹那に関わるな。分かったな?」
「なんで? 関わるなって、家に帰ってくる以上完全に関わらないのなんて無理でしょ」
「あの子はもうこの家には帰ってこない」
「はぁ? いきなり何言ってるわけ?」
家に帰ってこないなんて意味が分からない。
高校生である以上、家に帰ってくるしかないし学校関連の書類とかもたくさんあるはず。
そう言うのは家族じゃないとできないはずなんだけど。
「刹那は別の家に養子に行くことになった」
「養子!? いきなり何で」
「今日、広隆寺家の御曹司が刹那を養子に向かえると言ってきた。私に拒否権などないし、私はもしかしたら広隆寺家を敵に回してしまったかもしれない」
お父さんは絶望に歪んだ顔で膝から崩れ落ちてしまった。
本当に何があったっていうの。
「そもそも広隆寺家ってなんなの!?」
「広隆寺家は日本を昔から陰で支えている名家だ。私が働いている会社の社長も広隆寺家の人間だ。だから、もしかしたらクビになるかもしれない」
「そんな!?」
そうなってしまったら私の華々しい生活が台無しになってしまう。
何とかしないと……
なんとか。
「そう言うわけだから、今後絶対に刹那に関わるな。あの子はもう広隆寺家の庇護下にある。下手なことをしてあの家を敵に回したら本当にただじゃすまないからな」
「わ、わかった」
……そうだ。
話の流れからして今日刹那と一緒に居た男が広隆寺家の人間なら、私の魅力で落とせばいいのよ!
そうしたら、お金も手に入るし将来の心配もしなくてよくなる!
良い事しかないじゃない。
「私ってやっぱり天才」
そうと決まれば、どうすればあのイケメンと会えるのか考えないと!
私は新たな目標を決めて行動を開始するのだった。




