第27話 いざ温泉旅館へ
カラオケが終わると、すぐに時間が経過し気が付けばあっという間にゴールデンウイークがやってきた。
「二人とも、準備は良いか?」
「もちろんです。昨日のうちに準備はすべて終わっています」
「私もだよ! 楽しみで仕方ないからね」
箱根まで使用人に送ってもらうという手もあったけど、旅行は行くまでの道中も楽しむことが大切と言う事で新幹線と電車を使って向かうことになった。
荷物はすべてキャリーケースに詰めて準備は完了だ。
「じゃあ、行こうか。ここから数時間かかる旅の始まりだ」
「はい!」
「すごく楽しみだな~にへへ」
三人して家を出て駅に向かう。
それからは事前に調べておいた電車を乗り継いで目的地である箱根の温泉街に向かう。
ゴールデンウイーク初日と言う事もあって、人はそれなりにいたため移動するのにも一苦労だった。
「今日含めて三日間温泉旅行をして、残った二日で春斗くんの実家に顔を出すっていうのがゴールデンウイークの予定でよかったですか?」
「その通りだよ。温泉旅館の帰りは使用人が迎えに来るからそのまま本家に向かう。あっちに一泊する形になるかな」
「すごく緊張しますね……」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だと思いますよ? お父様とお母様が姉様に変なことをするとは思えませんし」
爽夏が刹那の手を握って落ち着かせようとする。
非常にありがたい。
まあ、俺も親父たちが刹那に変なことをしたり言ったりするとは考えていない。
あの人たちは確かに家を大切にしてるけど、俺の意志を捻じ曲げてまで何かをさせようとしてくるような人たちではないと信じているから。
「爽夏の言う通りだ。まっ、難しい話かもしれないけどさ」
「そ、そうですよね。今は目の前の温泉旅行を楽しもうと思います」
「そうしてくれ。旅行中に何かあったらすぐに相談してくれよ」
「兄様に言いにくいことがあったら私を頼ってくださいね!」
「二人ともありがとうございます! その時は頼らせてもらいますね」
三人で会話をしながら着々と目的地に近づいていく。
道中で昼食を済ませて、さらに移動をすると都会の喧騒が徐々になくなっていき周りには緑が多くなり始める。
建っている建物も都会にあるようなビル群ではなく、和を意識しているのであろう木造の建物などが目に入ってくる。
「ここが温泉街ですか?」
「そうだな。俺もここに来るのはすごく久しぶりなんだが」
「兄様もですか? 実は私もなんです」
「なんだか、すごく綺麗な街並みですね。こういった雰囲気の場所に来るのは本当に初めてです」
刹那は周囲の景色を見回しながら目をキラキラと輝かせている。
この綺麗な横顔を見れるのであれば、こうして温泉旅行に来た甲斐があったというものだ。
「なら、全力で楽しんでいこう。先ずはチェックインして部屋に荷物を預けてからだな」
「早く行きましょ。姉様と一緒の部屋すごく楽しみです」
「ですね。ふふ」
刹那と爽夏は本当の姉妹のように手をつないで旅館に向けて歩いていく。
俺は二人に三歩くらい後ろを歩きながら旅館に向かう。
「兄様、なんだかすごくスッキリした顔をしていますね。何かいいことがありましたか?」
「いや、別にそういうことはないんだけどさ。ただ、来てよかったなと」
「早くない? まだ温泉にすら入ってないんだよ?」
「それもそうだけど、なんかな。二人が仲良くしているのもそうだし、刹那が楽しそうにしてるからな」
俺たちが会話をしている間も刹那は周囲を見て目を輝かせていた。
その姿があまりにも愛おしくてこちらも頬が緩んでしまう。
「本当に兄様は姉様の事が大好きだよね」
「当り前だろ。婚約者なんだし」
「それはそうなんだけど、兄様は姉様の事を好きすぎだと思う」
「良いことじゃないか」
「むむむ~伝わらない……」
爽夏は頬を膨らませて俺のことをジト目で睨んでくる。
そんなにまずいことを言っただろうか?
自覚はないけど爽夏がこんな風に不満を明らかにしているのだから何か失言をしてしまったのだろう。
「なんかまずいこと言ったか?」
「そういうわけじゃないんだけどね。でも、兄様はもう少し自重したほうがいいんじゃないかな?」
「何の話だよ」
いきなり振られる話になかなか着いていけない。
でも、そこまで怒ってはいないようだ。
「なんでもな~い。それよりも早く旅館に行こ!」
「わかったから引っ張るなって」
「爽夏さん、走ると転んでしまいますよ」
わちゃわちゃしながら俺たちは予約している旅館に向かう。
道中の景色は自然を感じさせて提灯が飾ってあったりと和のテイストに溢れていた。




