第25話 幸せの証明
「そういえば言うの忘れてたけど、ゴールデンウイーク明けに親父たちが本家に帰ってくるらしいから一度本家に行こうと思うんだけど大丈夫か?」
「え!? お父様とお母様が帰ってきたんですか?」
「ああ。さっき電話があってな。刹那をぜひとも紹介してくれって言われたから一緒に来てもらってもいいか?」
「もちろんです。私もお義父様とお義母様にご挨拶したいと思っていましたし」
なら、タイミングも良かったってことか。
行く日は温泉旅行の後になるな。
「わかった。二人には俺の方から伝えておくよ。とは言っても、温泉旅行の後だからそこまで深く考える必要は無いけどな」
「そうなんだ! でも、やっと連絡が付いたんだね」
「ああ、本当に気まぐれな人たちだよ。無事で良かったけど」
何も無いとは思っていても、流石に音信不通は心配になるからな。
安否が確認できただけでも十分と思うことにしよう。
「本当に良かったです。爽夏さんはこれを機に実家に帰られてしまうのですか?」
「う~ん、どうしようか迷ってるところなんですよね。久しぶりに兄様にも会えたし、こんなにも素敵な姉様に出会えたのでここで過ごしたい気持ちはあるんですよね」
「俺としては爽夏の好きな方を選べばいいと思うけど、受験とかもあるんじゃないのか?」
「そうなんですよね。受験が無かったら即決でここに残る判断をしていたのに。どうしようかな~本当に」
爽夏は腕を組んでう~んを頭を悩ませていた。
個人的には爽夏が家にいてくれた方が賑やかでいいんだけど、受験などのことを考えたら本家に戻ったほうが何かと便利であるとは思う。
地頭は良いので爽夏はやればやる分すぐに吸収して行けると思うんだよな。
「そこら辺は二人に会いに行くまでに決めてればいいさ。今すぐに決めることでもない」
「そうですね。私もそう思います。爽夏さんがゆっくりと考えて決めた選択を私と春斗くんが否定することなんて無いですからね」
「姉様! 大好きです」
仲睦まじい二人を見ながら、キッチンで洗い物を済ませる。
今日は二人に夕飯を作ってもらったから洗い物くらいはさせてくれと申し出たのだ。
洗い物をすること自体は嫌いではないし。
「爽夏さんったら。安易に人に抱き着いちゃダメですよ?」
「こんなこと家族にしかしないですよ」
「家族……なんだか暖かい響きです」
「私にとって姉様はもう家族みたいなものなので」
俺も刹那の事は家族として見てるし、戸籍上は養子だから家族と言うのもあながち間違いではない。
洗い物を終えて、爽夏は部屋に戻り俺はリビングで温泉旅行の計画を考えていた。
「春斗くん、何を見てるのですか?」
「ああ、温泉旅館と周辺のおすすめスポットを調べてたんだ。一緒に見るか?」
「良いですね。私もそう言うの調べておきたいです」
刹那は俺の隣にぴったりとくっついて座ってくる。
出会った頃はここまで距離感が近くはなかったのに、ここ数週間でかなり距離感が近くなったものだ。
まあ、それだけ濃い日常を送っているという事の証明でもあるわけなのだが。
「じゃあ、一緒に見ようか」
「はい!」
二人でスマホの画面を眺める。
そこには、温泉街で有名な食べ物のお店の情報や絶景スポットが映し出されておりどこに行こうかと想像が膨らむ。
「刹那はどういう所を見て回りたい?」
「そうですね……そもそも旅行というものがそもそも初めてなのであまり想像ができないですけど、春斗くんと一緒なら何をしていても楽しいと思います」
「そう言ってもらえるのは凄く嬉しいな。じゃあ、そんな刹那を全力で楽しませることができるように全力で頑張ろうかな」
「頑張らなくても、私は春斗くんといるだけで楽しいんですよ?」
真剣な顔で刹那は嬉しい事を言ってくれる。
俺はそんな刹那の頭を優しくなでてから、スマホを机に置く。
「学校は楽しいか?」
「はい。春斗くんや紅葉さん、松井さんのおかげで楽しい学校生活を送ることが出来ていると思います」
「ならよかった。あの時、刹那を助けたときに余計なおせっかいかもしれないって思ってたんだよ」
「そんなことは絶対にないです。私はすごく幸せですよ。そんなことをずっと不安に思っていたのですか?」
「まあな。でも、そう言ってもらえてよかったよ」
いつも不安だったんだ。
刹那が俺のことをどう思っているのか。
壮太が俺のことを人の心を読むことが苦手だと評していたけど、それはあながち間違いではないのかもしれない。
「そうですよ? そんなに心配に思ってるんなら私が春斗くんを本気で好きって証明しましょうか?」
「どうやって?」
「もちろんこうするんですよ」
刹那は怪しく微笑むと、俺の方に顔を寄せてきてキスをしてきた。
一瞬で離れたから、幻か幻覚かと思ってしまったけどそうではないらしい。
それは俺の高鳴る心臓が証明してくれていた。
「なかなか強引な証明方法だな」
「でも、一番わかりやすくないですか?」
「違いない。なんかありがとな」
「お礼を言うのは私のほうですよ。今、すごく幸せですので。こうやって好きな人と一緒に居られることが」
「そっか。ならもっと幸せにできるように頑張るよ」
今のままでも十分。彼女はきっとそう言うだろう。
だけど、この程度で十分だなんて言わせたくない。
もっと彼女が笑えるように。全力で幸せを謳歌できるように。
そうさせることが俺の目標であり、生まれて初めてできた全てを投げうってでも叶えたい目標なのだ。
「無理だけはしないでくださいね」
「当り前だ。無理はしない。自分の力の及ぶ範囲内で頑張るさ」
もうすぐ、春も終わる。
いつもは何気なく過ぎていくだけの四季だったはずが、今はそう感じない。
一瞬一瞬がかけがえの無い物のように感じる。
これもすべては刹那と出会ったおかげか。
この恩を返すためにも、刹那とこれから幸せな生活を続けるためにもゴールデンウイーク明けの親父たちとの話は覚悟して臨むべきだろう。
何を言われるのか分かったもんじゃないしな。
◇
「紅葉さん、もうお身体は大丈夫なんですか?」
「バッチリ! とまではいかないけど大丈夫。動けるくらいには治ったから」
「ほんと、お前はいっつも無茶ばっかりするんだからよ。なぁ春斗」
「ああ、もう少し落ち着きというものを持ってほしいものだ」
俺と壮太はアイコンタクトを交わして暗にあの件をなかったことにしようとする。
あの後、西宮たちがどうなったかは知らないけどきっとロクな目には遭ってないことは確かだろう。
本当に松井家ってのは恐ろしいもんだ。
「なにそれひど~い。ま、今回はあたしが悪いし反論はできないんですけどね~」
「お二人とも、病み上がりの怪我人を虐めるのはよくありませんよ?」
「だってよ壮太」
「いや、お前もだろ! 何裏切ってんだ!」
「「「「あはは」」」」
四人で軽口を言い合って笑いあう。
もう、学校内で刹那の悪い噂を流す奴はいなくなった。
これで俺も少しは安心できるというものだ。
「さて、じゃあ今日の帰りは四人で紅葉の回復祝いでもするか?」
「良いですね。紅葉さんと松井さんはいかがですか?」
「俺も問題ねぇ」
「あたしも~もちろん春斗が奢ってくれるんでしょ?」
「それくらいは良いぞ。問題はどこで何をするかなんだけど」
紅葉はまだ怪我が治りかけで激しい運動はすることができない。
そうなってくるとできることも限られてくるわけだが。
「あたしはカラオケがいいな! 久しぶりに歌いたいし」
「俺はそれで構わないぜ。二人はどうだ?」
「俺も全然いいけど、刹那はそれでもいいか?」
「もちろんです! カラオケって初めてなのですごく楽しみです!」
「なら決まりだ。今日の放課後は四人でカラオケな」
こうして放課後の予定が埋まったわけだけど、カラオケが初めてな刹那は果たして楽しめるのだろうか?
そんな一抹の不安を抱きながら俺はその日の授業を終えるのだった。




