第18話 裏切り者の末路
「どうしてこうなったのよ……」
校内放送で私が樹と浮気をしている音声が流された。
昼休みで学校にほぼ全校生徒がいた状態でこんなことをされたらわたしはもうおしまいだ。
しかも、しっかりと私と樹の声が鮮明に入っている物を使われたから言い逃れもできない。
「一体誰がこんなことを……」
考えられるのは一人しかいない。
あの優男だ。
広隆寺家の御曹司。
そんなに私のことが気に入らなかったのか。
ここまでの仕打ちをする必要ないじゃない!
「ど、どうしよう」
焦りすぎて、思考がまともに回らない。
いつもならどんなに追い込まれても冷静な思考で切り抜けられるはずなのに、今は全くいい案が思い浮かばない。
「うわっ、妹の彼氏を寝取った挙句デマを流した夜桜さんが登校してきてる」
「ほんとじゃん。どんな神経で登校してこれるんだろうね。凄いわ」
「わかる。しかも、妹の彼氏だけじゃなくて他の男とも関係持ってたらしいよ」
私を笑う声が聞こえてくる。
教室の中に私の味方は誰もいなかった。
昨日まで仲良くしていた女友達も私のことを狙ってた男子もみんな軽蔑の眼差しを向けてきている。
「どうして私がこんな目に遭わないといけないのよ」
父さんは会社を首になって、私は学校で腫物扱い。
なんで、なんでこうなるのよ。
全てがうまく行っていたはずなのに。
「ブツブツ何か言ってるんだけど。気持ち悪ぃ」
「妹の方は転校したらしいしな」
「噂によるとあの栄富学園に転校したらしいぜ! しかも広隆寺家っていう凄い金持ちの養子になったらしい」
「マジかよ。人生勝ち組じゃんか」
「だよな~こんな終わってる姉と関わらなくて済んで羨ましいくらいだぜ」
みんなしてどうして私ばっかりこんなにも酷い仕打ちを受けないといけないの?
私には幸せになる資格があるはずなのに。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
◇
「い、一体どうなってんだよ。なんで俺と栄華さんの会話が校内放送なんかで流されてるんだよ」
このままじゃ、俺は破滅だ。
刹那よりも栄華さんの方が可愛かった。
成績だって良かったし、スタイルも良かった。
だから、刹那から栄華さんに乗り換えた。
それがいけなかったのか?
どこで俺は間違えた?
「クソッでも、こうして学校にいてもどうしようもない。今日は早退して明日何とかしよう。そうしよう!」
このまま学校に居たらダメだ。
絶対に。
それだけはわかる。
「そうだ、明日栄富学園に行って刹那に復縁を申し込もう。そうして、すべてを元通りにすればいいんだ」
俺は自身の天才的な発想に感謝しながら、学校を早退した。
◇
「こ、ここで待ってれば刹那が出てくるはず」
「それは残念だがないね。今日、あの子には早めに帰ってもらってるから」
刹那には昼休みに早退してもらっている。
もちろん、一人で返すのは危険だと思ったので紅葉にも一緒にいてもらっている。
引き換えに、今日の夕飯をご馳走するという話になった。
まあ、作ってくれるのは刹那のわけだけど。
「お、お前は」
「お久しぶりだな。村瀬樹」
「せ、刹那の婚約者か」
「その通り。で、君はわざわざ栄富学園に何の用かな?」
見る感じ、用件はおおよそ予想がつくけどここは聞いておいた方がいいだろう。
相手の苦虫を嚙み潰したかのような表情を見れば用件なんてすぐにわかってしまったが。
「お前には関係ないだろ! それより、どうして刹那は早く帰ったんだ」
「そんなの簡単だろ。お前が今日ここに来ることが容易に想像できたからだよ。どうせ、刹那と復縁でもしようとしてきたんじゃないのか?」
「……悪いかよ」
「悪いに決まってるだろ。あの子はもう俺の婚約者だ。変な男に近づかれると困るんだよ。それに、先に刹那を裏切ったのはお前のほうだ。潔く、自分の失敗を認めろよ」
先に刹那を裏切り、夜桜栄華と浮気をしたのはこいつのほうだ。
だというのに、こいつはどんな顔で刹那に復縁を迫るというのか。
厚顔無恥にもほどがある。
「な、なんでお前がそんな事言ってくるんだよ」
「なんでって、秋雨高校にお前と夜桜栄華の浮気の音声を流したのは俺の関係者だからだ」
「……は?」
「だから俺は今日お前がここに来ることが予想できたんだよ。そういう事だからお前はもう刹那に近づくな」
「お前が噂を流した張本人なのか!?」
樹は俺の胸倉を掴んで怒鳴りつけてくる。
本当に短気で向こう見ずの性格のようだ。
まあ、だからこそこちらとしてはやりやすいわけだが。
「俺ではないけどな。これが最後通告だ。刹那に金輪際近づくな。破れば容赦はしない」
「この……クソ野郎が!」
「お前にだけは言われたくねぇよ」
俺のことを突き飛ばしてから悪態をついて村瀬樹は帰って行った。
全く、本当に来るとは。
これであいつが刹那にちょっかいを出すことが無いと信じたいけど、そう上手くはいかないんだろうな。
「ったく、変な事だけはしないで欲しいな」
俺は肩を落として帰路を辿る。
本当にどうして刹那の周りには変な奴しかいなかったのか。
一応、村瀬樹の今後の行動を監視してもらうように興信所に依頼を出しておく。
「今の現状でも十分どん底のはずだ。だけど、どん底にいるからこそ何をしでかすかが読めない。警戒をするに越したことは無いな」
◇
「ただいま」
「おかえりなさい。春斗くん」
「おかえり兄様!」
「おかえり~ハル。お邪魔してるよ」
家に帰ると三人が俺を出迎えてくれた。
少し前までは家に帰ってもお帰りの声が無かったのに、今ではこんなにたくさんの人からお帰りと言ってもらえる。
それだけで少し元気になるような気がする。
「ああ、今日は俺の我儘を聞いてもらって悪かったな。紅葉」
「別にそんなの気にしなくていいって。それで、問題は片付いたの?」
「まあ、片付いたと言ったら片付いたかな。後は今後がどうなるかの経過観察くらいだ」
あれだけ言っておいたのだから、今後ちょっかいを出されるとは考えずらいけど。
何もしてこないという確信はない。
だからこそ不安なのだが。
「問題って何かあったんですか?」
「何でもないよ。それよりも、刹那には今日の夕飯を一人分多く作らせることになってしまって申し訳ない」
「全然大丈夫ですよ。そこまで手間は変わりませんし、私も紅葉さんと一緒に夕飯食べるの楽しみですから」
「ありがとうな。助かるよ」
紅葉との約束で刹那には負担を強いてしまったけど、刹那は全然気にしていないようで安心した。
本当に俺の婚約者は優しくて可愛い。
「兄様、なんだかすごく嬉しそうだね」
「まあな。刹那が俺の友達と仲良くしてるんだから嬉しくないわけないだろ。見ててほっこりするしな」
「それはなんだかわかる気がするな~可愛いよね姉様」
「ああ、本当にあの笑顔を守るためにももう少し頑張らないとな」
後現状できることは学園で流れてる噂を完全に消すこと。
まだ刹那の耳には入ってないから、耳に入る前に完全にもみ消したい。
「何を頑張るかはわからないけど、頑張ってね! 兄様」
「ありがとう。できるだけやってみるさ」




