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お飾りではなかった王妃の実力  作者: 鏑木うりこ


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第61話  番外編  シルビオレという女性1

シルビオレ・アメリアは子爵の家の長女であった。

顔はシルビオレが自分で知る限りの中では可愛い方だと思っているし、成績も同じくらいの子爵家の御令嬢の中では上の中位だと思っている、少しだけ自己評価が高い女性であったがそこまでは身の程をわきまえた普通の令嬢だった。

 そのシルビオレがレビュタントの会場で自分より高位の貴族である伯爵家に見染められたのはひとえに自分が美しく、賢かったからだと思ってしまった。


「私が他の令嬢より素晴らしかったからだわ!」


 相手の令息にちょっと問題があり、高位貴族との縁が結べないと判断され……「この辺りなら、なんとか……」と手を打った結果、シルビオレが選ばれたなど一欠片も思わなかった。

 しかも相手はお金持ちであり、娘を王の妃にしたハイランド伯爵家である。シルビオレの過剰な自信はどんどん上へ伸びて行く。


「私だから選ばれたの! 私はその辺の子爵令嬢とは訳が違うのよ!!」


 選ばれた、その事実がシルビオレの自尊心をみるみるうちに上へ押し上げる。そうすると今まで仲良くしていた同じくらいの家柄の令嬢達がみすぼらしいモノに見えてくるのだ。


「シルビオレは良いなぁ。ゆくゆくは伯爵夫人ですものね」

「ふふ、貴方達も諦めずに自分磨ぎをなさっては?」

「……なんですって?」


 鼻につく態度が増え、今まで友人とて仲良くやってきた令嬢達から距離を置かれるがシルビオレは平気だった。


「負け犬の遠吠え……清々したわ!」


 しかし婚約した最初のうちは良かったが、当の婚約者と親交を深めるうちにシルビオレはイライラすることが多くなってきた。まずは婚約した相手フレジット・ハイランドへの不満である。最初は自分より格上の伯爵家の次期当主という肩書もあり、キラキラと輝いてみえていたが実際はそうでもないと感じ始めていたのだ。


「……」


 フレジットは美男子ではない。かといって不細工という訳ではないが、ひょろりと伸びた長身がどうも頼りない印象ばかり与える。髪の色もぱっと目を引く色ではなくどこにでもいるような茶色の髪。そして何より「令嬢に対する礼儀」に欠けている。

 ハイランド家へ呼ばれて行っても気の利いた言葉もなく


「……やあ」


 こんな挨拶だけだし、何よりシルビオレをイライラさせたのは


「姉さんは凄い、母さんは凄い。二人に比べたらその辺の女性は大根だよ、大根」

「……」


 こういう時だけ饒舌になり、自分の姉と母親を褒めまくる所だ。確かにシルビオレだってこの国の王妃となったフレジットの姉のアイリーン様が凄いとは思うし、マナーに精通したくさんの令嬢達から先生と慕われる母親のアイーダは凄いとは思う。しかしシルビオレ自身を褒めることは一切なく、姉と母ばかりを凄い凄いと褒めまくるフレジットにはうんざりした。


「どうせ私は凄くないその辺の大根ですよ!」

「あ、そうだね……ちが、ええっとそんなことないよ」


 二人でお茶を飲む時間も義務的で、面倒くさいという態度が透けて見えるフレジットをシルビオレはどんどん……格下のモノだと思い始めた。


()()()()が私の旦那様?私は()()()()と結婚しなくちゃいけないの?」


 自分はこんなに素晴らしい令嬢なのに、とシルビオレは自分の価値を見誤り始めた。客観的に見ればシルビオレは割と数がいる子爵令嬢の一人なのだが、過剰に高くなってしまったシルビオレの自己評価は相対的にフレジットを見下していたのだ。


 更にシルビオレを憂鬱にさせるのは、アイーダの存在だった。


「シルビオレ、駄目です。やり直して。下位貴族ではその程度のマナーで許されてたでしょうが、我が家は上位貴族との取引もあります。そのような方々の夜会でそのマナーでは通用しません。粗相をするなどもっての外よ」

「は、はい。アイーダ様……」


 フレジットの母親、アイーダの厳しいレッスンと勉強に閉口していたのだ。上位貴族やアイーダから見ればシルビオレは落第すれすれの令嬢だったが、今まで下位の貴族としか付き合いのなかったシルビオレとしては「自分のマナーは完璧」だと思っていた。

 それを頭からすべて否定され、シルビオレは鬱屈をため込んでゆく。


「もう一度、背筋を伸ばして。下は見ない」

「はい……」


 アイーダにしてみればこれは最低限のマナーだったが、シルビオレには厳しすぎた。短い我慢の限界がやってきたシルビオレが父親であるアメリア子爵に婚約解消を申し出ても当然それは受け入れられるわけがない。


「何を言っているんだ? シルビオレ!! ()()ハイランド伯爵家と縁続きになれたのだぞ!? あちこちの商業分野に手を伸ばしているし、フレジット君の姉君は王妃だ。お前は王妃様の義妹になれるんだぞ、馬鹿な事をいうな! それに我が家は婚約者のよしみでハイランド家からいくら融資をしてもらっていると思っているんだ!」

「でも、アイーダ様は厳しいし……フレジット様は……頼りないし」

「フレジット君は素晴らしい男性ではないか! あれほど金融に精通している若者はいないし、自身でも相当に商会を回し富を生み出しておるんだぞ!? それを頼りないなどとお前は一体何様のつもりなんだ」


 フレジットは女性に対して礼儀に欠けるが、領地経営や金融に関しては天才的に素晴らしい腕を持っていたので、男性の支持は非常に高い男だったのだ。


「とにかく、婚約解消など絶対にありえぬ!!」

「うっ……」


 親にも頭からはねつけられ、シルビオレの鬱憤はたまってゆく。友人に話したくても誰もシルビオレの招きには応じない。


「あらぁ? 次期伯爵夫人様と我々下位貴族ではお話が合いませんでしょう? 失礼しますわっ!」


 自分が蒔いた種だが、仲が良かったはずの令嬢達は全員そっぽを向いた。そして伯爵家以上の高位貴族とはアイーダが会う事を許してくれないし、会う伝手すらなかったのである。


「うう……酷い、酷いわ……!」


 自分が悪い、一切その事に触れることなくシルビオレはフレジットの婚約者を続け、鬱憤を貯め続けて行った。



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