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お飾りではなかった王妃の実力  作者: 鏑木うりこ


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第60話 番外編 似た者の末路3(ネリーニ)

「ネリーニ。お前の処分が決まった」

「処分? 何を言ってるのかしら、お兄様。お父様、お兄様がおかしなことを言ってるわ。何とかして頂戴。それに私を閉じ込めて! もううんざりよ、早く出して頂戴。そして商人を呼ぶの。そろそろ買い物もしたいし、お茶会にも出なくちゃいけないわ。私は自由なんですからね!」

「黙れ、この疫病神」

「はぁ? 誰が疫病神よ。私はこの国で一番の女性なのよ? お兄様より地位が高いの!」

「離婚したんだろう? お前の地位など今は平民以下だ」


 エリドの目はもはや妹を見るものではなかった。そんなゾッとするほど冷たい視線を受けても、ネリーニは強気に言い返す。


「そうね、離婚したんだわ。でも私は公爵令嬢ですもの。平民以下なわけじゃないじゃない」

「その公爵がお前はこの家の娘ではないと決めたのだ。お前の不祥事のせいで父上は私に家督を譲って隠居なされる。今のダルク公爵は私だ、ネリーニ」

「え……そ、そうなの? お父様……??」


 エリドの後ろに疲れた顔で立っているダルク……前公爵はぼそりと呟く。


「ああ……エリドのお陰でオルフェウス王に寛大なご処置を頂いたよ……エリド、色々すまなかったが、これからも頼むよ」

「ええ、シレーヌと子供達の為にもなんとか立て直して行きますよ。さあネリーニ、お前は極寒のシーナ修道院の下働きとして雇ってもらう事が出来たぞ、準備は終わっている。さっさと出ていけ」


 ネリーニはふふっと小さく笑った。


「お兄様はご冗談がお上手ね。シーナ修道院と言ったら劣悪で有名な修道院じゃない。冬季は雪で埋もれ、外界とは遮断されて何人も飢えと寒さで人が死ぬところでしょう? しかも下働き? 意味が分からないわ」

「シーナ修道院しかお前を受け入れてくれる場所はないからな、冗談ではない。お前のような女でも雇ってもらえるだけありがたいよ」


 エリドの顔は真面目そのもので、冗談だと思って笑っていたネリーニの表情は少しづつ引きつってくる。


「え……嘘、嘘でしょ……? いくらお兄様ではそれはないわ……よね? ね、お父様、嘘よね?」

「本当だ。お前は修道院に行くしか道はない」

「嫌、嫌よ!!!」


 やっと二人が本気だと気が付き、ネリーニは声を上げた。


「なんで公爵令嬢の私がそんな所に行かなきゃいけないの!? 私はダルク公爵の娘なのよ! いくら一度離婚したとはいえ、条件が今一つでも欲しがる貴族は山ほどいるはずだわ!!」

「お前の離婚は認められていない。だからお前は誰とも結婚できない」

「なんでよ!!」

「エルファード前王が書類にサインをなさらないからな」

「はあ!? エルは一体何を……!」


 エルファードは離宮に一人閉じ込められながらも、ネリーニを許してはいなかった。


「こんな事になったのはネリーニの姦計に私がはめられたからだ……あいつがアイリーンを追い出そうなんて言わなければ私は今もアイリーンを上手く操って王として不自由なく暮らしていたのに……!」


 ぶつぶつとそればかり繰り返しているらしい。そして離婚をすればネリーニは他の貴族と結婚できると知ったエルファードは離婚届に絶対にサインをしなかったのだ。



「お前の事を相当恨んでいるようだな? 前王は」

「エル……なんて酷いっ!! ……そ、そうだわ!離婚届を偽造すればいいのよ、アイリーンの時と同じくね!」


 良い事を閃いたとばかり、声を上げるネリーニをエリドは殴りつけるのだけは辛うじて押さえた。


「やはり偽造書類を作ったのか……神聖なる教会に提出する書類を偽るなどあり得ぬ! しかも王妃であったもののサインを偽造するなど、国家反逆罪で処刑されても文句は言えぬ事! お前の中身のない頭でも分かる事だろう!」

「ひっ」


 恫喝され、ネリーニは首を竦める。そんなネリーニに彼女のばあやはおずおずと小さな鞄を差し出した。


「お(ひい)様……もうばあやに出来る事はこれくらいでございます……」

「え、嫌よ。修道院なんて行きたくないわ、嫌、いやあああああっ!!」


 ネリーニは泣き喚き暴れたが、最後には縄で縛られ……家紋もない小さな馬車に押し込められた。


「ば、ばあや! ばあやは来てくれるわよねっ!?」


 地に膝をつき、泣き伏しているばあやに隙をついて助けを求めるが


「下働きに使用人などいるわけがないだろう」


 と、エリドに冷たく言い放たれる。


「途中の町までばあやがお見送りしたかったのですが、それも禁止されました……ネリーニ様、どうぞ、どうぞお達者で……」

「嫌、嫌あああああ!!」

「静かにさせろ」

「はっ!」


 護衛という名の監視に馬車に押し込まれ、外側から鍵をかけられる。窓もあかないように細工された馬車の中からくぐもった声は聞こえてくるがエリドは御者に命令した。


「しっかりシーナ修道院に送り届けてくれ。受取証のサインも忘れるなよ」

「心得てございます、公爵様」


 非情にも馬に鞭が入り、馬車は動き出す。


「嫌、嫌あああああッ!」


 叫びはすぐに馬車の音にかき消され聞こえなくなる。



「エルファード! あいつが、あいつのせいで……!!」


 そして次の冬にはアイリーンよりエルファードへと怒りが向いたネリーニが過酷すぎる修道院の暮らしに馴染めず、最初の冬に命を落としたと報告があった。


「最後まで前王への呪詛を紡いでいたと……」


 血のつながった妹ながら、恐ろしいとエリドはうすら寒くなったが、ある意味似合いの二人ではないかと納得もしたのだった。最後まで自分以外の誰かのせいにして、責任を押し付け合うなんて、人として褒められたものではななかったが。



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