第59話 番外編 似た者の末路2(ネリーニ)
「父上。ネリーニが妄言と妄想の中で生きている事は学生時代から知っていたでしょう?」
「気楽な学生は終わったのだぞ? 側妃として立派に勤めているネリーニの言葉を私は……」
「あの妃教育を3日で投げ出したネリーニがそんなことが出来るわけがない。父上までネリーニに踊らされるとは! 何故相談いただけなかった? 全力で止めたのに!」
「……そう、だな……」
力なく傍に会った椅子にもたれ掛かる。疲れたという顔だが、エリドにとっては疲れたで済まされない。
「アイリーン妃はどこへ?」
「マルグ国シュマイゼル王が連れて行ったと」
「くっ……あの王がアイリーン妃に懸想しているのは有名な話でしたのに!」
ネリーニからは誰にも相手にされない女だと聞かされていた、と独白する父親に舌打ちをする。何故あの妹の言葉を信じられるのか、エリドは意味が分からない。
「……オルフェウス様ならば……っ!」
がっくりと項垂れ憔悴する父を捨て置き、エリドは急いで王宮へ向かう準備をする。王弟オルフェウスはまだまともだ、早く対策を立てねばナザールは終わる。
「ネリーニが……王の子を身ごもりさえすれば……」
「父上。気が付いているのでしょう? アイリーン妃はすぐにレンブラント殿下を身ごもり出産なされた。それなのにネリーニは何年王と共にいてもその気配がない。あいつを医者に見せた事はありますか?」
「……嫌だと駄々を捏ねるから……」
「引きずってでも医者に連れて行かなかった父上にも落ち度はあります。私としてはあいつの血を引く子はどうかと思いますし、あいつとエルファード王の子など考えただけでも寒気を感じますよ」
「なっ……何を言っておるのだ。エリド! ネリーニの子供が王太子となれば我が家にこれほど有利な事はない!」
執事から外出用のステッキとハットを受け取りつつ、エリドは哀れなものを見る目で父親を見る。
「愚か者に王位を任せるとどうなるか、父上はその目でしかと見て来たのでしょう。それなのに何を仰るか。ネリーニの子ならば我がダルク家に醜聞しかもたらさないのは明らか。しかと目を開け周囲をご覧ください」
エリドは身を翻し、王宮へ急いだ。途中エリドの妻であるシレーヌや執事に指示を出す。二人はダルク家を守る為に硬い顔で頷き動き始める。この二人に任せれば安心だと、エリドは馬車に乗り込んだ。
こうして各貴族達の素早い動きがあったからこそ、オルフェウスはナザールを素早く立て直す政策を取れたのだった
「ばあや、お父様に早く私の部屋を開けるように伝えて頂戴」
「は、はいお姫様……伝えてまいりますね」
ネリーニはあまり日の当たらないかび臭い部屋に閉じ込められていた。
「まったく、どうなっているのかしら? お兄様はああだし、シレーヌはうるさいし」
実家であるダルク家に帰って来てからネリーニは一つも自由になる事がなかった。部屋はかび臭い、ばあやと呼んでいる昔からついてくれる年嵩の侍女が一人っきり。他の侍女やメイドの姿は見えなかった。義姉であるシレーヌがお説教に来るが、邪魔だと追い払う。せっかく自由になれたのに早くどこかへ行く準備をしろとか……逃げろと急かす意味が分からない。
「あーあ! つまんない。そうだ商人でも呼んで買い物したいわ。建国祭で色々貰えなかったし気晴らしにちょうどいいわよね!」
チリンチリンとメイドを呼ぶ鈴を鳴らすが誰も返事はない。
「おかしいわね」
何度も何度も振り、聞こえないのかと鈴が壊れるほど激しく振り回すも誰も来ない。
「はぁ? 意味が分かんない!!」
いつもゴロンと横になっていたベッドから降り、廊下を見ようとドアノブに手をかけて驚く。
「え? やだ……なんで鍵がかかってるのよ!!」
ガチャガチャと必死で回すがあくはずもない。ネリーニはやっと軟禁されている事に気が付いた。
「なんで、なんでよ!!」
半地下のこの部屋は手入れされた牢と言った所で、そこにネリーニは放り込まれていたのだった。




