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お飾りではなかった王妃の実力  作者: 鏑木うりこ


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第35話 出来る人の部下は出来る部下

城の裏方はてんやわんやの大騒ぎだった。


「なんでこんなに各国の重鎮がマルグに来られる……!?」

「アイリーン様だ、間違いない! かの方を連れて来たからだ!」

「ありがたいことだが、どうする……準備は……ッ!」


 人数が圧倒的に足りない……マルグ城の使用人は冷や汗をかいたが


「あの、宜しければ……微力ながらお手伝いしたく」

「ナザールのソリオ殿!」

「この国にアイリーン様とレンブラント様、ハイランド家所縁の人々を受け入れていただき誠にありがとうございます。猫の手くらいの働きは出来ると思いますれば……」

「魔法の手の間違いでしょう! すぐに、すぐに厨房へ入って下さい!」


 マルグ城の料理長はソリオの作り出す料理に心酔していたので、すぐに受け入れた。マルグ城厨房には作り手がいつもの倍に増える。


「ここの名物は何になりますかな?」

「新鮮な果物と、バターの中でも発酵バターが旨いです」

「ほっほ。パイでも焼きますかな?」

「良いですね!」


 船頭が二人いては船は行く先を誤って山に登ると言うが、この厨房に料理長が二人いてもそうはならなかった。


「ではパイ生地を作りましょう」

「ではそれにつけるクリームを」

「ジャムを用意しましょう」

「カットフルーツを」


 料理は手順、良く知る者であれば次に何をすべきか導き出される。もし、知らぬ時は


「次はどういたしましょう?」

「ご指示をお願いします!」


 きちんと指示を仰ぐこと。徹底されたルールに従った厨房は驚くべきスピードでパーティ料理を作り上げてゆく。そして二人の料理長の一挙一動を見逃さない副料理長達。更にその副料理長の下につく料理人達も真剣なまなざしを向けている。


「冷たい物も欲しくなりますね。時間がかからぬもの……ジュレなら早そうだ」

「保冷庫準備します」

「飾り用のフルーツのカットを」

「アルコール入りの物も作りますか?」


 次々と指示と確認が飛ぶ。こうして二人の料理長の卓越した手腕で、寂しかったテーブルの上には煌びやかな料理があっという間に敷き詰められる。


「どれも美しい出来ですね」

「貴方も正確で良い腕だ。そうだ明日の仕込みも必要でしょう。きっと明日もお客様がいらっしゃる」

「それは大変だ。食材の仕入れから必要です!」


 きっと明日はもっとこの国の特産を活かした料理が並ぶだろう。


「一緒に作るのが楽しみです!」

「私もですよ、こんなに楽しい厨房は久しぶりです」


 二人の料理長は大きな手でがっしりと握手を交わし、ソリオ料理長が連れてきた料理人達も元からマルグ城に勤めていた料理人達と笑い合った。厨房はいつになく和気あいあいとしていた。



「簡単な事ならばお任せください。ただ、こちらの国の作法はあまり知らないので教えていただけると嬉しいです」

「助かるわ!」


 大汗をかいていたメイド長もアイリーンを慕ってやってきたというメイド達に囲まれて少し安堵の表情を浮かべた。


「城の案内などは出来ませんが、簡単な片付け、空いた食器、グラスの交換……お手洗いへの案内などお願いできるかしら? あちらの部屋でここのお仕着せに着替えてくれる?」

「はい、メイド長。よろしくお願い致します」


 突如やってきたメイド達はマルグ城のメイド長が見ても満点の出来だった。忙しいアイリーンを補佐し続けたのだろう、目端が聞いて、少しの汚れや空きグラスも見逃さない。ほぼ初めて来た城の中だろうに、内部の通路を一度通っただけで覚えている記憶力の良さも素晴らしかった。


 混み合う会場の中でも軽やかに人々を避け、ぶつかる事もない足さばきに感動さえ覚える。それに各国代表の顔も良く把握していて、誰を最初に案内すればいいかも分かっているので教育もさほど必要ないレベルだった。


「手際が良いわね……覚えも早いし、姿勢もきれい。すぐ働けるわね」


 少しでも手伝いになればと頼んだが大きな戦力になってくれた。




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