第22話 カエルのペムペム草も嫌いだ
「んふ」
「楽しそうですね、フレジット様」
「うん! やっと姉さんを認めてくれる人の所に来れたんだ! 嬉しくて踊り出しそうだよ」
フレジットの足取りはナザールを出ると決まった時から軽やかで、更にシュマイゼルに会って更に軽くなった。
「見た見た?! シュマイゼル王の顔。なんか姉さんにベタ惚れって感じ~あの人は姉さんの良さを分かってる! 姉さんを分かってる人は皆、良い人だよ!」
「それは同意致しますね」
執事補佐のガラハトもアイリーン信者の一人なのでフレジットのテンションは高水準を保ち続けて最高値を更新しそうだ。
「実際あのカエル野郎はいつまでも姉さんを手放さないし! まあ、前国王が怖かっただけだろうけどさ。死んだ途端ああだもんなぁ」
喪が開けてすぐの建国祭。前日までアイリーンにしっかり準備をさせておいてからの離婚追放劇。
「姉さんを何だと思ってるんだ! まあもう会う事もないからカエルの事は忘れよう!」
「そうですとも、フレジット様。それよりレイクリフ家ですがどう料理しましょう?」
「姉さんにこれ以上汚点をつけるなんて絶対に嫌だからね。庭にペムペム草一本生やす事も許さないよ」
こくり、とガラハトも頷く。ここでいつも暴走を止める父親も、老執事も居ないのがレイクリフ家の分岐点となるのである。
フレジットとガラハトがレイクリフ家の正門前で馬車を降りたのでレイクリフ公爵は不思議に思った。
「フレジット君、レイクリフ家の庭はそこそこに広い。ここで降りても屋敷の玄関までは遠い。馬車に乗りなさい」
しかしフレジットは答えず、執事補佐のガラハトが
「ご心配には及びません」
それだけしか言わなかった。門を守る衛兵が首を傾げる中、フレジットはそっと膝を折り、地面に手を伸ばす。
「やっぱりペムペム草が生えてるじゃないかーー! ダイ爺、ムウ爺! ペムペム草だ!! 私は許せない!!」
「なんと若様!」
「おいたわしや! 坊っちゃま!!」
寸劇紛いのやり取りにレイクリフ公爵は口をぽかんと開けるしか無かった。フレジットと執事のガラハトしかいないと思ったのに、どこからともなく初老の背の低い男性が二人、そしてメイドが数人現れたのだ。
「ダイ爺とムウ爺と土いじりが得意なメイド3名でどれくらいかかる?」
「見える所だけでしたら、2時間程」
「すぐかかってくれ」
「お任せください」
指名された三名のメイドは、男性二人と庭の手入れを始めた。
「センス悪いわね」
「薔薇ばっかり。お嬢様はあんまり好きじゃから植え替えましょ」
「樹形が悪いのう……ここ数年サボっておったのかの」
「ふむ、最初は悪くないがどんどん手を抜かれた感じじゃぞい」
正面門から邸宅の玄関までの道を中心に整えて行くようだ。手際よく雑草であるペムペム草を抜き、始末し、整える。その手際の良さは感嘆に値した。
レイクリフ公爵は庭はそれほど荒れてはいないと思っていた。しかしフレジットが放った5人が手入れした箇所は明らかに美しい。今までの整えられたと思っていた庭はなんだったのか、と自問自答してしまうほど、完璧な仕上がりをみせている。
「お祖父様、庭は屋敷の顔。今日は最低限にやらせて貰いますが、後できっちりさせて貰いますよ。こんな庭では舐められます」
「え、あ、そう、じゃの、フレジット君……」
それしか言えない公爵を置いてフレジットは屋敷へ歩いて向かった。
「っ?! なんだこの石畳は! でこぼこすぎだろう、馬車を壊す気か?」
「手直し出来るところはさせます」
「ああ。こんな道じゃ姉さんはおろか父さんや母さんも迎え入れられないじゃないか!」
飛び出た石片をガツガツと蹴りながら悪態をつく。屋敷に到着するまでにフレジットはダメ出しをし続け、使用人達が「なんとか」していく。
レイクリフ家は公爵の家であり、それなりの手入れはしていた筈なのに公爵は呆然とするしかなかった。フレジットの「最低限」はレイクリフ家の常識を遥かに超えた場所にあった。邸宅に入る前から手直しと指摘の暴風に見舞われ、嵐とはこういうことかと公爵は覚悟を決めて、ごくりと唾を飲み込んだ。




