下剋上 3
続きです。
以前にも言及したかもしれないが、同じ組織、集団、国に属する存在であったとしても、一定数は所謂“利敵行為”、すなわち敵対する相手を利する行為を取る事がある。
その背景は様々ではあるが、一つには、自らが所属する側に不満がある(例えばその組織が国家ならば、政府、社会に不満がある、などである)事であり、それ故にあえて味方側の足を引っ張る事により、その不満を解消しようとする、などの心理が働くものと思われる。
そしてこの行為が非常に厄介な点は、直接的に外部と繋がっている(例えば国家間の場合は、敵勢力と繋がっている、などであるが)場合はまだマシなのであるが、直接的な繋がりがなく、自らにも特に利益がない場合である。
その事例の一つが、シンパによるテロ行為であった。
インターネットの登場によって、比較的情報の取得、発信が容易になった今現在の向こうの世界においては、こうした行為が起こりやすくなった傾向にあると言われている。
それ以前ならば、メディアが限定されていた事もあり、思想や主義というものは、直接的に伝えるか、本などの媒体を通じた伝達方法しかなかった。
それ故に、集会を禁じるとか、禁書にするなどの対処が比較的容易であったのだが(まぁ、それでも利敵行為は存在したのであるが)、インターネットの登場により、それらの障壁がやすやすとクリア出来る様になってしまったのである。
もちろん、インターネットの場合も、ある程度の制限を設ける事は出来るが、一度広まってしまった技術は止めようがない訳で、これによって、以前ならば平穏に一生を終える様な人々が、突如としてテロ行為に走ってしまう事例が増えてしまったのである。
そして、このもっとも厄介な点は、あくまでそうした行為に走ってしまった者達は、単純に“共感”しただけに過ぎず、そうした組織に属している訳でも、直接的に敵対者と繋がっている訳でもない点である。
故に、取り締まりが非常に難しく、大抵の場合は問題が顕在化してから、そうした背景が浮かび上がってくる事なのである。
いずれにせよ、どれだけ厳格に統治をしようとしても、人々に感情が存在する以上、完璧な統治は存在しないのである。
まぁ、それはともかく。
で、こうしたシンパの存在は、すでに感情を無くした“アドウェナ・アウィス”の中においても存在する訳であるがーーー。
◇◆◇
ーハッハァ〜!上手く行ったじゃねぇ〜のっ!ー
ー…大丈夫かなぁ〜?勝手な事して、他の意識達に怒られない?ー
ー大丈夫だってっ!アイツら、他の事に夢中で、俺らの事なんか眼中にないんだからよぉ〜!ー
ー………ー
一方その頃、この宇宙の何処か。
“アドウェナ・アウィス”の意識の一つがそんな会話を交わしていた。
以前にも言及した通り、“アドウェナ・アウィス”も決して一枚岩ではない。
その最たる例がネメシスな訳であるが、彼は例外中の例外ではあったが、それ以外にも、“世代間”の意見の違い、ギャップなども存在しているのである。
こうしたものは、知的生命体、人類にも存在するものである。
もちろん、“世代間”と一口に言っても、個人によっては頭の柔軟な者達もいれば、頭の凝り固まった者達もいるので一括りには出来ないのであるが、それでも、大まかな分類としてはそうした傾向がある事もまた事実である。
で、こうした“世代間”の意識の違いの一つに、所謂“保守”と“革新”が存在する訳であった。
政治的な意味合いで言うと小難しいのであるが、もっと簡潔に言うのであれば、“保守”とは変化を嫌い、現状を維持する傾向にあるのに対して、“革新”は積極的に新たなる変化を求め、現状を良しとしない傾向の事である。
で、ここら辺は年齢と共に変わっていくものであり、特に老いた者達は変化に対応出来ないという観点から、所謂“保守”傾向にあり、変化や刺激こそ大正義な若者達にとっては、所謂“革新”傾向にあるものなのである。
(もちろん、あくまでそうした傾向にあるというだけで絶対ではないが、今現在でも昔も、こうした意見の違いから“大人”と“若者”が闘争してきた歴史的背景が存在する。)
で、そうした意見、意識の違いは、“アドウェナ・アウィス”にも存在するのである。
以前にも言及した通り、“アドウェナ・アウィス”は自己防衛などの観点からか、意識を定期的に交代する。
とは言えど、それでも目的自体は変わらないので、単にそのアプローチの方法が変わるだけなのであるが、中には、ネメシスほどでないにしても先鋭的な考え方を持つ意識も存在しており、そんな意識の一つが表層に現れている、という流れであった。
ー…けどホントにいいのかなぁ〜?勝手な事しちゃって…ー
ーっかぁ〜。あいかわらず心配性だねぇ〜、お前は。いいんだよ、アイツらの言う事なんか真に受けないで。大体、偉そうな事言っといて、何一つ成果を出せてねぇ〜じゃん。ー
ー…うん、まぁ、それはそうなんだけど…。ー
ーだろ?俺が思うに、策略家気取りである事が問題だと思うんだよねぇ〜。ー
ーう〜ん…。ー
ー大体俺らの御先祖様だって、別に誰かの意思でそう成った訳じゃねぇ〜だろ?自然のままに、あるがままにそう成ってる訳じゃん?ー
ー…う〜ん。ー
ーってコトはさ。つまり、“観測”する事自体、間違ってると俺は思うワケよ。ー
ー…ほう?ー
突然だが、“観察者効果”というものをご存知だろうか。
これは、現象を“観察”や“測定”するという行為自体が、その対象となる現象に影響を与えてしまい、本来の姿を変えてしまう現象の事である。
心理学では“見られている”という意識が行動を変える現象(ホーソン効果)を指し、物理学では観測行為が粒子を乱す事を指す。
(某百科事典より抜粋)
つまりは、この意識は、目的のものがいまだ見付からないのは、“アドウェナ・アウィス”が“観測”をしているからではないか?、と考えていた訳である。
ー…けど、モノを探しているのに見ない、ってのは、結構矛盾してると思うんだけど。ー
ーまぁ、言わんとする事は分かる。けど、探し物を躍起になって探している時は見付からなくて、ふとそれを忘れていた瞬間、見付かるってケースもごまんとある。だから、あえて見ない様にすれば、もしかしたら見付かるかもしんないじゃん。ー
ー…ふむ。ー
ー実際、これまでの“実験”では、最初は積極的に介入していたのを、徐々にあまり介入しない方向にシフトしていったけど、“観測”を止めた事は一度たりともない。可能性があるんなら、それも試してみれば良いとは思わねぇ〜か?どーせ、時間は無限に存在するワケだしよ。ー
ー…確かに。ー
やっていないアプローチがあるなら、それを試してみるのは“実験”としては確かに正しい考え方だろう。
だが、そんな簡単な事は、他の意識達もとっくに思い付いていても不思議な事ではない。
では、何故、一度も“観測”を止めた事がないかと言うと、
ーけど、今現在の状況じゃ、“観測”をしない、なんて事は出来っこないよね?僕らには物理的な障害がないんだから。ー
そうなのである。
以前にも言及した通り、“アドウェナ・アウィス”は『肉体』という“殻”から脱し、『精神』や『思念』、『霊魂』だけの存在となっているのである。
これは、寿命や老化という概念から解き放たれるというメリットもありつつ、実は様々なデメリットも存在しているのであった。
その一つが、“観測”を止められない事、であった。
今現在の“アドウェナ・アウィス”には『肉体』が存在しないので、一般的な“目”という器官を使って“観測”をする必要がなく、逆に言えば(取捨選択する事は出来るが)その機能をOFFにする事が出来ないのである。
(我々でも想像しやすく例えるならば、この宇宙のありとあらゆるところに設置された監視カメラから送られてくる情報が集まるモニター室に、24時間、365日、閉じ込められる様なものである。
しかも、先程述べた通り、『肉体』が存在しないので睡眠をとる必要もなく、“目”という器官が存在しないので、目を閉じる事も出来ない。
故に、その者に出来る事は、“どれを意識的に見るか”、という取捨選択だけであり、“見ない”という選択肢が、最初から存在しないのである。)
まぁ、普通の人ならば発狂ものの状況ではあるが、“アドウェナ・アウィス”にはそうした精神構造も存在しないし、この広い宇宙の中から目的のものを探している“アドウェナ・アウィス”にとっては、何ら不都合がない状況なのである。
ただ一点、“観測”を止められない、という事を除いては、であるが。
ーそこで、だ。例の“駒”の計画が意味を持ってくるのよ。ー
ー…例の“駒”…?カエサルとかいう、観察対象かい?ー
ーそ。ー
ここへ来て、突然カエサルの名前がこの意識達の間で持ち上がった。
ー彼の計画は、邪魔な俺らを排除する事だ。もちろん、俺らを物理的にどうこうする事は、かなりの力に目覚めている今現在の彼でも不可能だが、それならば別の手段を試せば良いだけさ。ー
ー…別の手段?ー
ーその答えは単純だぜ?ネメシスセンパイがやった様に、俺らを“封印”しちまえば良いのさ。ー
ー………何を言い出すかと思えば…ー
自信満々にそう語る意識に、もう一つの意識は呆れた様に呟いた。
ーそれこそ、そんな事は不可能だよ。例の女神やネメシスセンパイなんかの“個”とは違い、僕らは膨大な意識の集合体だからね。それを丸ごと“封印”するなんて、僕らを滅ぼす事と並んで、無理難題だと思うけど…ー
ー…と、思うじゃん?けど、それを可能にするアイデアが存在すんのよ。ー
ー…へぇ。興味深いね。それは何なんだい?ー
これは、“アドウェナ・アウィス”の特色の一つなのかもしれないが、“アドウェナ・アウィス”は知識欲が非常に旺盛であった。
まぁ、目的のものに繋がる手がかりになる可能性もあるから、という事もあるが、とにかく、未知の現象や“実験動物”の思わぬ行動などに、“アドウェナ・アウィス”は興味が惹かれる傾向にあったのである。(まぁ、これも意識の傾向によっても差異が出るのであるが。保守的な意識はイレギュラーを嫌うが、逆に革新的な意識はそのイレギュラーも新たなる発見に繋がるとポジティブに捉えるからである。)
革新的な意識の中でも、更に先鋭的な、ある意味ネメシスに近い彼らは、とにかく“面白そうな事”に惹かれる傾向にあった。
故に、心配性だと言われた意識の方も、なんだかんだ乗ってきた、という感じであった。
ーそれはな。セルース人類を使う事、さ。ー
ー…へぇ。ー
ニヤリと笑った、様な感じの意識に、心配性だと言われた意識も意地悪そうに笑った。
ー知っての通り、セルース人類、その中でもとりわけ例の二人は、もはや限りなく俺らに近しい存在になっている。その証拠に、ネメシスセンパイを受け入れたってのに、その存在を保ったままだ。ー
ー確かに、ね。まぁ、だからこそ他の意識としても、ネメシスセンパイに並んで、彼らは危険視している訳だからね。下手すれば、自分達を滅ぼせるかもしれない存在。まぁ、それは流石に言い過ぎかもしれないけれど、少なくとも、ネメシスセンパイと手を組んでいる以上、こちらにとっては厄介な存在である事には違いないね。ー
ーだろ?ー
以前にも言及したかもしれないが、“アドウェナ・アウィス”は、ある意味では情報の塊の様な存在でもある。
それ故に、普通の人間では“アドウェナ・アウィス”を受け入れる事、言うなれば、憑依される事は不可能なのである。
何故ならば、“アドウェナ・アウィス”の“存在力”があまりに強過ぎる故に、普通の人間の『肉体』、『精神』、『霊魂』では、受け入れた瞬間消えてなくなるからである。
(それ故に、“アドウェナ・アウィス”自身が直接的に誰かに憑依して物事に干渉する事が出来ないのである。
また、それと同様に、単純に現世に顕現する事も、これまた情報の塊である、という点から出来ない。
いや、正確に言えば出来るのだが、その場合、それを見た生命体が軒並み消滅してしまうかもしれない、というリスクが存在するのである。
いずれにしても、“観測対象”そのものがいなくなってしまうのは“アドウェナ・アウィス”にとっても無意味な事であるから、今現在の状況に落ち着いている訳であった。)
だが、これは全くの偶然ではあったが、ハイドラスとセレウスがネメシスを目覚めさせてしまい、なおかつ、セレウスとネメシスが身体を共有する、という信じ難い結果が実際に起こっている。
先程の話ならば、セレウスに憑依した瞬間に、彼の『肉体』、『精神』、『霊魂』は吹き飛ぶ筈なのに、確かに『肉体』の主導権はネメシスに握られてしまったが、セレウスの『精神』や『霊魂』は全くの無傷でくっついたままだったのである。
これは、ネメシスや意識達の言葉を借りるのであれば、彼ら二人が、限りなく“アドウェナ・アウィス”に近しい存在になっていたからである。
つまり、同格の存在であれば、“アドウェナ・アウィス”を受け入れる事が可能だった、という事である。
(もちろん、ネメシスの例からも分かる通り、もう一つの問題点である情報の塊である、という点も、『肉体』に押し込めた事によってかクリアしている。
そうでなければ、ネメシスに関わった者達はすでにこの世に存在しない、かもしれないからである。)
ー…けど、面白い発想だとは思うけれど、やっぱりそれは現実的じゃないよ。ー
ーどうしてだ?ー
ーだってそれは、彼ら二人が特別だったからさ。彼ら二人は、セルース人類の中でも飛び抜けた存在だ。逆に言えば、他のセルース人類にはそこまでの力はない。つまり、他のセルース人類は僕らを受け入れられない可能性の方が極めて高いんだよ。ー
ーなんだ、そんな事か。ー
心配性だと言われた意識がそう指摘するが、積極的な意識の方は、それも織り込みだったらしく、軽い口調でそう答えた。
ーそれについても、ちゃんと考えてるさ。確かにお前の言う通り、例の二人が特別なのは俺も理解している。けど、セルース人類を強制的に彼らのレベルに引き上げる事は不可能じゃないんだ。ー
ー…なんだって…?ー
ーおいおい忘れたのかよ。人工知能達が力を貸したからでもあるんだが、奴らは強制的に『限界突破』を果たす仕組みを編み出してるんだぜ?ー
ー………あっ!“疑似霊子力発生装置”による“人工神化”かっ!ー
ーそ。ー
セレウスとハイドラス、また、彼らの仲間である“能力者”達は、ネモに導かれて『限界突破』の試練をクリアしている。
これによって、彼らは“高次の存在”として目覚めた訳であるが、彼らと対立していたソラテス達科学者グループは、残念ながらその域には達していなかった。
が、それを彼らは人工知能の力を借りたとは言えど、科学力、技術力でカバーしたのである。
それが、“疑似霊子力発生装置”を用いた“人工神化”であった。
これによって、ソラテスらは、セレウスらと同程度の力を得て対抗する事が出来た訳である。
まぁ、今現在のセレウスとハイドラスは、その当時よりも更に力をつけてはいるので多少不確定要素もあるが、そこは数の力でカバーすれば良い事だ。
ーそれでも、彼らほどのレベルには到達しない可能性の方が高いけど、その点は数の力で補えばいい。分散と増幅、ってね。ー
ーなるほど…ー
一般的なコンピュータでも、スパコン並みのスペックを実現する方はある。
それが、並列処理である。
いくら強制的に“人工神化”させたとしても、流石に今現在のセレウスとハイドラスほどの域に達する事は不可能である。
(そもそも、ソラテスら“超越者”達も、ある意味正規の手段での『限界突破』ではなかった事もあり、あくまで“能力者”達の劣化版でしかなかった。)
そこで、別のアプローチである。
個人ではそこまでの域に達する事が出来ないのならば、先程述べた通り、集団で同じ力を出せば良いのである。
一人一人の力は小さくとも、集まれば大きな力となる。
そして、それをネットワークで繋いで増幅すれば、一人一人がセレウスとハイドラス並みの力を得る事が出来る訳である。
もっともこれは、ある意味非人道的な行為である。
つまりは、セルース人類を一種の生体コンピュータ、すなわち“物”として扱う行為だからである。
人権もへったくれもあったものではない行為だが、何度もなく言及している通り、“アドウェナ・アウィス”には倫理観も道徳心も欠如しているので、そこに対する躊躇は一切なかったのである。
ーなるほど、それでラテス族とかいう民族の男を勝手に動かしたんだね?例の、セルース人類達の宇宙船を確保する為に。ー
ーそういう事。ー
合点がいった、という風に心配性だと言われた意識は納得していた。
それと同時に、例の“駒”、カエサルの策略がかなりのものである事にも。
ーじゃあ、例の“駒”はそこまで考えた計画を練っていたのか…。末恐ろしいね。ー
ーいや?確かにセルース人類を使って俺らを“封印”しよう、ってところまでは彼のアイデアだが、その先は俺のアドリブだぜ?そもそも彼は、“疑似霊子力発生装置”の事も、人工神化の事も知らない筈だ。あくまで、ネメシスセンパイと例の二人の事から着想を得た考え方でしかないからな。ー
ー………へ?ー
当然ながら、セルース人類同士の争い、所謂『神話大戦』に関しては、これはカエサルが生まれるずっと以前の話である。
まぁ、今現在の彼ならば、“アカシックレコード”から情報を引き出す事も可能かもしれないが、あくまでそれも、アクエラ人類の集合的無意識から引き出されるものであった、つまり、今現在生きているアクエラ人類が知る情報に限定される訳である。(まぁ、“水晶”の力を借りて情報を取得する方法もあるが、乗っ取りを恐れてか、あまり積極的に利用する事もない=そっちの情報ではない事は明らかである。)
意外な意識の言葉に、心配性だと言われた意識は間の抜けた声をあげていた。
ー…なんだよ。俺の事、バカだと思ってたのか?ー
ーい、いや、別にそんな事は…ー
言葉を濁す心配性だと言われた意識だが、その行為そのものが如実にその心情を表していた。
ーま、別にいーけどよ。けど、たとえ頭が悪かったとしても、悪知恵が働かない訳じゃない可能性もあるからよ。あんまり人を舐めない方がいいぜ?ー
ー………その様だね。ー
歴史的に見ても、自分達より下だと見下していた者達に足元をすくわれるケースは枚挙に暇がない。
強者の敵は更なる強者、だけでなく、普段は歯牙にもかけない弱者かもしれないのであるーーー。
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