第四章 目覚め
ベッドの上で仰向けのまま、オレは見覚えのない天井を見つめていた。
ここはどこだ。まだ夢の中か。
それにしても、意味の分からん夢だった。寿命と引き換えに若返らせてやるとか、女の子にしてやるとか。──でも、本当に女の子になれたら、どんなに……。
「さくら! さっきから何を寝ぼけたこと言ってんの! 本っ当に遅刻するよ!」
さっきの女の人の声が、今度は夢とは思えないリアルな音で部屋中に響きわたった。
「えっ。……これ、夢じゃない?」
間違えて、知らない人の家に上がり込んで寝てしまったのか? まさか。オレは昨日の記憶をたどった。仕事を終えて、終電ぎりぎりで家に帰って、疲れて風呂にも入らずに寝た。間違いなく、自分の家に帰っているはずだ。
じゃあ、ここはどこだ。
ベッドから上半身を起こして、部屋を見渡した。両開きの窓があって、知らない女の人がちょうど、薄いピンク色のカーテンを開けているところだった。朝の光がどっと流れ込む。右の壁際には姿見が立てかけてあり、その鏡に、ベッドの上に座っている誰かが映っていた。
「……誰? オレ?」
恐る恐るベッドから降りて、鏡に近づいた。そして、息を呑んだ。
鏡の中には、寝間着姿の、小学生くらいの女の子がいた。
オレが右手を上げると、女の子も右手を上げた。首をかしげると、女の子も首をかしげた。すかさず寝間着のズボンのゴムを引っ張って、股間を覗き込んだ。
「ない! ──やべー、マジでない!」
ゴムを引っ張っては覗き、引っ張っては覗き、何度も確認した。何度見ても、ない。
あの悪魔のような何かとの契約は、夢ではなく、現実だったというのか。
でも、待て。あいつは「十七歳の女の子にしてやる」と言っていた。鏡の中のこの子は、どう見ても小学生だ。それに──寿命は残り一年になる、とも言っていたな。
じゃあ、オレの寿命は、残り……一年?
鏡の前で固まっているオレの異様さに気づいたのだろう、オレを「さくら」と呼ぶ女の人が、そばに来て顔を覗き込んだ。
「ねえ、あんた、ほんとに大丈夫?」
心配そうな目だった。どうする。今は適当に誤魔化して乗り切るか? ──いや、無理だ。ここがどこかも分からない。自分の名前すら分からない。たぶん「さくら」? 歳は? 苗字は?
何も、分からない。
仕方がない。オレは観念して、女の人を見上げた。
「あのー。
わたしは、誰ですか。
ここは、どこですか。
……わたしは、女……の子?」




