第十一章 給食と着替え
「みんなー。先生が、給食の準備できしだい、先に食べててって!」
楓は教室に入るなり、クラス中に聞こえる声で言った。時間が止まったように教室は一瞬静まり、それから、また時間が動き出すように騒がしくなった。
配膳の準備を始めた楓のまわりに、何人かが集まって何か話している。たぶん、トイレの騒ぎのことだろう。
オレは自分の席に戻った。机の配置が変わっていて、四つから六つの机が島型にくっつけられ、小さなグループを作っていた。三時間目まで座っていた自分の机を見つけて、とりあえず座る。
給食の準備って、何をすればいいんだろう。転校初日で勝手が分からず、手をこまねいていると、クラスメイトから解放された楓が席に戻ってきた。
「給食、食べよ」
そう言って、オレの手を引いて配膳の列に連れて行ってくれた。ランチプレートを持って並び、ご飯、おかず、汁物、牛乳、デザートを順に載せて、自分の島に戻る。島には、楓とオレ以外のメンバーはもう座っていて、「いただきます」の号令を待っている状態だった。
「前の学校の給食も、こんな感じ?」
同じ島の男子が話しかけてきた。前の学校──そうか。クラスのみんなにとってオレは、本土から転校してきた、普通の小学五年生の女の子なのだ。
「前の学校はね、学校の中に給食室があって、そこで給食のおばちゃんたちが作ってた。プレート持って並ぶのは一緒だよ」
かつて自分が小学生だったころの記憶を、「転校前の学校」の話として答えた。……ところで、この男の子の名前、何だったか。沖縄の苗字は、覚えるのが難しい。
「三時間目の休み時間、トイレで何があったの?」
別の男子が訊いてきた。
「どうせまた鉄男が、女子のスカートめくりでもして怒られたんでしょ」
オレが答えるより早く、隣の女子が冷めた声で割り込んだ。
「何? パンツ見られちゃった?」
男子がにやにやしながら訊くと、「お前サイテー」と、その女子が男子を睨んだ。
「……鉄男君って、よく女子のスカートめくりしてるの?」
「そうよー。スカートめくりの常習。スケベの常習犯さー」
さっきの冷たい声はどこへやら、女子は今度は面白おかしく言った。
「で、パンツ見られたわけ?」
「忍! あんた、なんでさっきからパンツにこだわるわけ? あんたもさくらのパンツが見たいの?」
「は!? 何言ってる、チゲーよ!」
二人の夫婦漫才のようなやり取りに話は流れていき、結局、パンツを見られるどころか膝まで下ろされかけていたことは、言わずに済んだ。──もっとも、それがみんなに知れ渡るのは、時間の問題だろうけれど。
給食の時間が終わるころ、担任のみやこ先生が教室に戻ってきた。昼休みに入ると、先生は教壇の横の机にオレを呼んで、保健室でお母さんと話した内容を、かいつまんで教えてくれた。
昼休みの終わりを告げるベルが鳴り、五時間目が始まった。五時間目は、体育。
「はいはい、着替えて体育館に集合!」
先生の声が飛ぶ。
この学校では、女子は隣の多目的教室、男子は自分の教室で着替えることになっている──らしい。が、オレはそんなことは知らなかった。
女子たちがぞろぞろと教室を出ていく。一方で、女子が全員出る前から、気の早い男子はもう着替え始めている。なるほど、おおらかなものだ。
オレも急いで着替えなくては。「本物のさくら」が前の学校で使っていた体育着を、鞄から取り出した。この学校の体育着とは、デザインが微妙に違う。といっても、襟と袖に色のラインが入っているかいないか程度の違いで、この学校のは真っ白だ。一人だけ色付きは目立つかな──そんなことを考えながら、服のボタンを上から外し始めた。
上半分くらいまで外したところで、
「ちょっと、ちょっと、さくら!」
楓の声が飛んできた。
「女子は、隣の多目的教室で着替えるんだよ!」
ふっと教室を見渡すと、何人かの男子が、こっちをチラチラと見ていた。
(……また、やっちまった!)
トイレのときは完全にテンパった。が、今度は、何でもない顔で切り抜けよう。
「あぁー、そうなんだ。知らなかったよ。男女別々なんだね」
男子の視線を感じつつも冷静を装い、何事もなかったかのようにボタンを留め直して、楓と教室を出た。背中で、また漫才が始まるのが聞こえた。
「忍! 何見てんの!」
「ぜんっぜん見てねーし! ブラなんか!」
「ブラ? ──見てるじゃん!」




