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第二話 「砂絵の呼び声」2

「チューリップって、色によって花言葉も違うのよ」

「そうなんだ……。真美は詳しいね」

 私は手渡されたチューリップの匂いを嗅ぎ、花に優しく触れてみた。とはいえ、それで分かるのは形だけで、色を判別することはできない。

「不思議ね、触っているとどれも同じに感じるのに、何種類も色があるなんて」

「品種によって異なるのよ、ポピュラーなのは赤だけど、他の色も人気あるのよ」

 色素の違い? そうして様々な色彩が存在するのも観賞を楽しむ人間のエゴだろうか。欲しいものは持っておきたい。それは一つではなく、たくさん並べればその分だけ華やかさが増して満足度が上がる。

 色に意味を付与するのも人間自身の意思と感情によるもの。そう思うと人は色に魅せられているということが言えるのかもしれない。真美は引き続きチューリップの花のことを教えてくれたけど、私はそのことにあまり興味を持てなかった。

「この前、パプリカにも様々な色があるのよって奈美さんが力説してた」

 私は思いつくままに次の話題を振った。チューリップや薔薇に複数の色があることは知識として頭に入っていても、花を愛でる趣味のない私には楽しめない。だから、私は昼食に入っているパプリカの話をしてくれた、看護師の奈美さんとの会話を取り上げた。

「そうね、よく見るのは赤とか黄色だけど、全部で八種類あるみたい」

「不思議だね、血の色はいつも赤なのに、色んな色があるなんて」

「血の色が赤いのは、ヘモグロビンが酸素と結びついて鮮やかな赤になるからだけど、二酸化炭素を多く含んでいる場合は赤黒くなるのよ」

「じゃあ、パプリカが赤いのは?」

「パプリカが赤くなるのは香辛料などに使われる唐辛子などに含まれるカプサイシンに似た、カプサンチンのおかげだから」

「カプサンチンって何? 辛くないのにカプサイシンに似た名前の成分が入ってるなんてインチキじゃん」

「そんなこと、私に言われても……」

 パプリカはビタミンCやカロテンなど、栄養価豊富で健康にいいのよって、奈美さんは力説してくれたけど。時々、色というものがよく分からなくなる時がある。私にとって色は知識でしかない。

 黒と聞くとすぐに夜とか闇とか、そういうものが連想されて、それが無意識に感情に転化される。知識として理解することと、感情として理解することとが、どう関係して結びつくのか分かりづらい時がある。

 だから赤と聞くと、すぐ危険なことに血の色をイメージしてしまう。血が流れるとき、大体身体の痛みも一緒にあって、だから赤には怖いイメージが勝って刷り込まれている。

 でも、本当はもっと色んなところに赤色はあって、そこにはそれぞれの赤い色をしている理由があることを知っている。そうした知識があっても、なかなか冷静になって上手く情報を整理して考えられないのも人間の習性なのかもしれない。

 他者から見て、どうかしてると言えば、どうかしているのかもしれないけど、私にとって色とはそんなイメージなのだ。

「でもね、例えば青色には食欲(しょくよく)減退(げんたい)の効力があって、青い着色料を使ったブルーカレーがあるくらい、ダイエットに効果があったりするのよ」

 続けて色彩の不思議を語る、真美の話は、私には全く分からない未知の世界の言語に思えた。

 こうして、私の病室に置かれた花瓶には、真美から渡された三色のチューリップが飾られた。それが、真に私の好みかと問われれば、視覚的に評価できない私には難解な問いだ。そういう意味を踏まえて、私にとっては花より団子なのかもしれないと、こっそり思ったのだった。


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