第一話 「無色の世界」3
私、前田郁恵には色が判別できません、光も見えません。生まれてから一歳を迎える前に全盲になった私は色も光もない目隠しの世界で生きてきました。
私にとっての色とは知識として言語的に伝えられたものであり、光とは私にとって皮膚を通して伝わる太陽や蛍光灯からの熱の温かさでしかありません。それが私にとっての自然であり、ずっと通ってきた世の理なのです。
「心も身体もそばにあるのに遠くに感じてしまう。目が見えないということはそういうことだと思うの」
目が見えないということはどういうことかと問われれば私はこう答えるでしょう。人間が本来持つ五感の一つが失われているということは、確かに私の中で世界を把握するのに何かが足りないという認識を起草させている。それは視覚で捉えるよりも遠い認識であるかもしれないけれど、それを補うために他の器官を敏感に働かせて生きているとも言えます。
他者とは異なること、決定的な違いを持つこと。しかし、それは単純な不便さだけを表すものではない。他の人達が自然に見ているそれを、私なりに理解しようとすればするほど、私は異常な人間だということを突きつけられる。
想像と現実が合致しない世界で生きている。本来、見えるものを想像で補おうとすればするほど、人とは異なる自分を自覚させられること。それが、私にとって最も恐ろしいことなのだ。




