第三話 「静寂が覚める前に」5
「はい、長い旅になるわ。これでも飲んで落ち着いて行きましょう」
「うん、ちょっと階段を降りて、歩いただけに息が上がりそうになっちゃった」
「本当に……。心配な子ね、郁恵は」
「むぅ、これでも元気にお出掛けしてた頃もあるんだから」
「分かっているわよ。私も同じだから」
白杖片手にお父さんと街を歩いた日々が今は懐かしい。電車を待つ間、ホームの椅子に座り一息つく。つい安心して苦笑いが出た私はお気に入りのストレートティーのペットボトルを受け取り、口に含んだ。ほんのり甘い紅茶が喉を潤してくれる。真美はストレートティーって書いてあるのに砂糖が入ってるなんて詐欺だって言っていたけど、私はミルクティーやレモンティーよりも、この砂糖入りのストレートティーが好きだ。
電車を待っている時間はとても緊張する。周りの様子がよく分からないだけに、ちゃんと乗れるのか、本当に久々の外出で緊張しっぱなしだ。
外を歩いていると下を向きがちになるから、天を仰いで朝の少し冷たい風を受けてみる。アナウンスの声に耳を傾けたり、向かい側の線路を電車が通り過ぎる音と風を感じたり、普段は感じることのない新鮮な感覚に、身体は過敏に意識を高ぶらせる。
やがて、電車が到着すると、繋がれた手に導かれるように私は電車に乗車した。普段、一人で乗る時はどこの座席が空いているか分からないので扉の傍で立って目的地まで待っているけど、今は真美がいるので空いている座席にすぐに座ることができた。




