第三話 「静寂が覚める前に」4
この時間だとバスもタクシーもない。駅までは徒歩で行かなければならない。それは私にとって簡単なことではない。
初めての場所に出掛ける、初めての場所を歩くということはそれだけで大変なことでもある。慣れた場所なら歩いた距離やあらかじめ覚えている目印に従って、どの辺りを歩いているのか分かるので、道が間違っていればすぐに分かるし、引き返すこともできる。迷って混乱したりもしない。
もちろん全くリスクがないわけでもない。見えないということはどうしようもない事故だってある。歩きスマホをする人にぶつかることや点字ブロックに無造作に置かれた自転車に妨害されたり、自分ではどうしようもない事故はある。
それでも、少なくとも知らない道を歩くのに比べればマシだ。横断歩道にしても、あらかじめここは音が鳴る横断歩道だと知っていれば安心して渡ることができる。そういったことも含めて初めて歩く道だと探り探り、慎重になって歩くことになる。外の世界はバイクや自動車も走っている。危険は常にあると心に刻んでおかなければならない。
だからこそ、初めて歩く道であれば、あらかじめ目的地まで徒歩何分かといった情報が大事になる。それに従って通り過ぎないようにすることが重要だ。
病院から駅まではゆっくりと歩いても五分ほどあれば到着する。元々、多くの人が通ることが想定されている歩道は安全性が高い。しっかりと順序に沿って誘導ブロックが置かれ、歩道も舗装されて狭くもなく、突然自転車と交錯したりもしないので比較的楽だ。それに今は朝早い時間だから人通りも少なくて、人とぶつかるリスクもほとんどなく好都合だった。
特にトラブルに巻き込まれることなく駅に辿り着き、ICカードを使って改札を通る。誘導チャイムが鳴ると同時に駅のホームへと向かった。




