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第三話 「静寂が覚める前に」3

 真美が計画した病院の職員に見つからないためのルートを通って慎重に病院内を歩いていく。静まり返った病院内では僅かな足音でも大きくフロアに響き渡ってしまい、焦る気持ちがより大きくなる。時間は限られている。私はそのことを忘れないように胸に刻んで、点字ブロックと白杖を頼りに一歩一歩確実に、焦らないように歩いていった。

「非常階段を通っていくよ、郁恵、気をつけて」

「うん……」

 重い扉を開いた先にある非常用階段。エレベーターでの移動が当たり前の病院内において、この階段を使う人はほとんどいない。ここを通っていけば恐らく誰にも気付かれることなく一階まで辿り着けるだろうというのが真美の推測だ。

 私は手すりを掴み、白杖を右手に持ちながら、慎重に階段を一段一段下っていく。一階まで降りるのは時間がかかるが、はやる気持ちを抑えて確実に一段ずつ降りていく。私自身、体力がある方ではないけど、長時間歩けないわけじゃない。それは真美も同じようで、息を切らす様子はなく足取りはまるで普段と変わらない様子だった。

 一階のフロアまで誰にも気付かれることなく辿り着き、裏口から私達は病院の外に出た。警備員に見つかったり、誰かに非常ブザーでも鳴らされたらどうしようなんて行く前は何度も不安になって考えていたけれど、全部杞憂(きゆう)に終わった。市内の病院の中でもここは大きい方だと思うけど、警備体制が万全でなくて良かったと今だけは思えた。


 念願の外の世界に出ると、生暖かい湿気が入り混じった外気が身体を包む。まだ日が出ていないとはいえ、夏真っ盛りのこの時期は朝方になると生ぬるい風が吹いている。この風を受けるのも久しぶりの感触だった。

「はぁ、緊張した……。本当に誰にも気付かれてないよね?」

 私は外に出られた安堵と共に深呼吸をすると、不安になって真美に聞いた。実際、こんなに上手くいくとは思ってもみなかった。

「大丈夫よ、ワクワクしてきたでしょ? さあ、行きましょう。まだ、冒険は始まったばかりよ」

 今ならまだ取り返しはつく。内心ではそう思いながらも私は「うん」と頷いて、真美の言葉を信じて先へ進むことにした。

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