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絶対君主のハリネズミは、専属マネージャーにだけ甘く牙を剥く〜崖っぷちアイドルをプロデュースしたら、世界一重い愛で包囲されました〜  作者: はりねずみの肉球
第8章:境界線の溶ける温度

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【Part 3】五万人の証明と、君に捧ぐ絶対王政

ドゴォォォンッ!!


腹の底を直接殴りつけてくるような重低音と、五万人分の絶叫が、巨大なドームアリーナの空気をビリビリと震わせる。


ステージの中央。

眩いレーザービームが交錯する中、三人のシルエットが浮かび上がった瞬間、ドームの屋根が吹き飛びそうなほどの大歓声が巻き起こった。


「キャアアアアアッ!! ルイくーーーんッ!!」

「陽斗ッ! こっち見てーっ!」

「透くんヤバい、美しすぎる……ッ!」


客席を埋め尽くす、五万個のペンライトの光の海。

それはまるで、彼らだけのために用意された、地上の天の川のようだった。


『――♪〜ッ!!』


特効の煙を切り裂くように、透の突き抜けるようなハイトーンボイスが響き渡る。

マイクスタンドを握りしめ、五万人を真っ直ぐに見据えて歌う彼の顔に、もう一切の迷いや怯えはない。かつて外界の音を遮断するためにイヤホンを手放せなかった彼は、今、五万人の大歓声という『世界』を全身で浴びながら、嬉しそうに口角を上げて笑っている。


「……っ、透くん、すごい……」


ステージ袖のモニター前。私はバインダーを抱きしめたまま、震える声で呟いた。


キュッ、ターンッ!


透のボーカルに呼応するように、陽斗が花道を全速力で駆け抜ける。

真紅のミリタリージャケットの裾を翻し、五万人の視線を一身に集めながら、重力を完全に無視した大ジャンプを決めた。

「みんなーっ! 愛してるよーっ!!」

彼がカメラに向かって投げキッスをすると、客席の悲鳴がさらに一段階跳ね上がる。誰にも見つけてもらえなかった夜の公園の迷子は、今や五万人から愛される、誰もが認める太陽だ。


そして。

その爆発的な二人の才能を、ステージのど真ん中で完全に統率する男。


神城ルイ。

彼が長い脚でステップを踏み、鋭い視線を客席に向けるたびに、ドーム全体が彼の一挙手一投足に操られるように熱狂の渦へと巻き込まれていく。

圧倒的な美しさと、誰にも媚びない絶対君主のオーラ。

しかし、彼のダンスは決して独りよがりではない。透のブレスに合わせ、陽斗の着地に合わせて、完璧なフォーメーションの『軸』として存在している。


互いの才能を認め合い、背中を預け合える、本物の『チーム』。

それが今、五万人の観客を完全に支配しているのだ。


(……ああ、本当に)


私は、モニターに映る彼らの姿を見つめながら、ボロボロとこぼれ落ちる涙を拭うことすら忘れていた。


ボロボロの地下レッスン室で、互いに噛み付いていたあの日。

ガラスの灰皿が砕け散り、絶望の中で泣き叫んでいた夜。

絶対に諦めないと、彼らの首根っこを掴んで走り続けた日々。


そのすべてが、この五万人の光の海へと繋がっていたんだ。


ライブは怒涛の勢いで進行し、MCを挟んで後半戦へ。

ドームの熱気が最高潮に達する中、アップテンポなダンスナンバーから一転、会場の照明がふっと落とされた。


静寂が降りる。

メインステージの中央。ピアノの静かなイントロとともに、真っ白なピンスポットライトが、センターに立つルイを撃ち抜いた。


ラストナンバーの、バラード。


五万人が息を呑んで見守る中、ルイはマイクを口元にゆっくりと寄せる。

滴る汗が、彼の鋭い顎のラインを伝って光る。


『――どんなに暗い夜でも、お前が見つけてくれたから』


透の透き通るようなコーラスに乗せて、ルイの低く、甘く、熱を帯びた声がドーム中に響き渡る。

ファンたちは、その愛を歌う歌詞に酔いしれ、ペンライトを静かに揺らしている。


でも、私だけは知っていた。

この曲に込められた、本当の意味を。


ルイが、ゆっくりと顔を上げた。

五万人の観客がいるその先ではなく、彼が真っ直ぐに視線を向けたのは――ステージ袖の暗闇に立つ、私の方だった。


(……ルイくん)


モニター越しじゃない。

肉眼で、数十メートル先のステージの中央にいる彼と、視線が完璧に絡み合う。

ドームの巨大な空間の中で、私と彼だけが、見えない糸で強く結びつけられているような、強烈な錯覚。


『――だから今度は、俺がお前を永遠に照らす』


彼は歌いながら、私から一瞬たりとも目を逸らさなかった。

それは、五万人のファンに向けたラブソングという『隠れ蓑』を被った、私への絶対的なプロポーズだった。


『一秒たりとも目ェ逸らすなよ』

本番前に彼が言った言葉が、胸の奥で熱く燃え上がる。


見届けているよ。

あなたが、誰も文句の言えない本当の『頂点』に立つ、この瞬間を。


私が暗闇の中で、涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま大きく頷くと。

ルイは、今日一番の、最高に美しく、凶暴なほど甘い笑みを浮かべた。


「行くぞ、お前らァァァッ!!」


ルイの絶叫を合図に、ステージの全照明が一気に点灯する。

バァァァァンッ!!!

銀テープがキャノン砲から打ち出され、ドームの宙をキラキラと舞い散る。


「キャアアアアアッ!!!」

「最高ーーーッ!! 愛してるーーーッ!!」


陽斗が花道を走り回り、透が渾身のフェイクを響かせ、ルイがセンターで銀色の雨を浴びながら、五万人の歓声をその全身で受け止める。


熱狂。感動。そして、完全なる勝利。

彼らは自分たちの力で、この永遠に続く光の景色を、ついに掴み取ったのだ。


「ハァッ……ハァッ……! ありがとうございましたァァァッ!!」


全15曲。

アンコールをすべて終え、ステージから降りてきた三人は、全身汗でずぶ濡れになりながらも、信じられないほどの熱量と達成感を放っていた。


「ひなちゃーーーんッ!!」


一番に飛び込んできた陽斗が、私に向かって思い切りダイブしてくる。


「わっ! 陽斗くん、お疲れ様!」

「やった! やったよ俺たち! 五万人、マジで最高だったッ!」


陽斗は私をギュッと抱きしめ、子どものようにポロポロと涙をこぼしている。

続いて歩いてきた透も、肩で息をしながら、私に向かってふっと柔らかく笑いかけた。


「……水瀬。約束通り、最高の景色だっただろ」

「うん……っ、最高だった。透くんの歌、今までで一番すごかったよ」

「……当たり前だ」


透は照れ隠しのように顔を背けたが、その目元もまた、微かに赤く潤んでいた。


そして。

ゆっくりと歩いてきた、最後の一人。


「……おい、陽斗。いつまで俺のマネージャーに抱きついてんだ。離れろ」


ルイが、陽斗の襟首を掴んで乱暴に引き剥がす。


「えーっ、今日くらいひなちゃんに甘えさせてよ!」

「ダメだ。こいつは俺が労う」


ルイは陽斗と透をスタッフの方へと追いやると、私の目の前に立ち、真っ直ぐに見下ろしてきた。

汗で濡れた黒髪。荒い息遣い。

五万人を支配し終えた直後の、圧倒的なオスの熱気。


「……泣きすぎだろ、お前」


ルイの大きな手が伸びてきて、私の頬を伝う涙を、親指の腹でそっと拭った。


「だって……っ、本当に、最高で……」


「俺を見とけって言っただろ。ちゃんと見てたか」


「……見てた。一秒も、目逸らさなかったよ」


私が震える声で答えると、ルイは満足そうに口角を上げ、周囲に大勢のスタッフがいるにも関わらず、私の腰を強引に引き寄せて、自分に密着させた。


「っ……ルイくん、みんな見てる……!」


「言っただろ。頂点に立ったら、俺の隣に引きずり出すって」


ルイは私の耳元に顔を寄せ、誰にも聞こえない低い声で、甘く、そして決定的な言葉を囁いた。


「……今夜は、覚悟しとけよ。朝まで一睡もさせねぇからな」


心臓が、ドームの歓声よりも大きく跳ね上がった。

五万人を熱狂させた最強のアイドルは、ステージを降りた瞬間、私だけをどこまでも深く愛し尽くす、一人の貪欲な王様へと戻っていた。


光の海を越えた先。

私たちの本当の秘密の時間は、この最高の夜から、永遠に続いていく。

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