表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対君主のハリネズミは、専属マネージャーにだけ甘く牙を剥く〜崖っぷちアイドルをプロデュースしたら、世界一重い愛で包囲されました〜  作者: はりねずみの肉球
第8章:境界線の溶ける温度

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/41

【Part 2】熱狂の全国ツアーと、5万人の光の海

神戸でのキックオフイベントと『ハリネズミ雑貨展』の大成功を皮切りに、彼らの快進撃は、まさに誰にも止められない巨大な熱のうねりとなっていった。


夏を駆け抜ける、怒涛の全国ツアー。

地方のホールクラスから始まったライブは、公演を重ねるごとにチケットがプラチナ化し、瞬く間にアリーナクラスへと規模を拡大していった。


テレビの音楽番組への出演、雑誌の表紙、企業CMのタイアップ。

息をつく暇もないほどの殺人的なスケジュールの中、彼らは一度たりとも弱音を吐かなかった。

陽斗は底なしの体力と笑顔で現場の空気を明るく照らし、透は喉のケアを徹底しながら毎公演で完璧なピッチを叩き出し、ルイは絶対的なリーダーとして、チームのパフォーマンスをミリ単位で研ぎ澄ませ続けた。


そして――季節が少しだけ秋の気配を帯び始めた頃。


「……信じられない。本当に、ここまで来ちゃった」


国内最大級の収容人数を誇る、超巨大ドームアリーナ。

私は、開演を三十分後に控えた無人のアリーナ席の最後尾に立ち、頭上に広がる途方もなく巨大な空間を見上げていた。


本日のツアーファイナル。観客動員数、五万人。

あの日、数十人しかいない小さなライブハウスで、互いの音も聞かずにステージを崩壊させていた彼らが。

たった数ヶ月で、五万人もの熱狂的なファンを熱狂させる、正真正銘の『トップアイドル』へと登り詰めたのだ。


「水瀬さーん! メンバーのインカムの最終チェック終わりました! あと十五分でスタンバイお願いします!」


アリーナを走り回るスタッフの声で、私はハッと現実に引き戻される。


「はい! 今すぐ向かいます!」


私はバインダーを抱え、迷路のように入り組んだドームの裏側、熱気に包まれたバックヤードへと走り出した。


「ハァ……ハァ……ヤバい、さすがにちょっと緊張してきた……っ」


広大な専用楽屋。

豪華な装飾が施された真紅のミリタリー調のステージ衣装に身を包んだ陽斗が、落ち着かない様子で部屋の中をウロウロと歩き回っている。


「……落ち着け。お前のステップがブレたら、俺の歌の入りも狂う」


ソファに深く腰掛けた透が、ミネラルウォーターで喉を潤しながら静かに釘を刺す。その言葉とは裏腹に、彼の手元にあるペットボトルは、微かに、本当に微かにだが震えていた。

五万人の視線。それは、彼らが今まで経験したことのない、規格外のプレッシャーだ。


「二人とも、深呼吸して!」


私が楽屋に飛び込みながら声をかけると、二人は弾かれたようにこちらを向いた。


「今までやってきたことを思い出して。あなたたちはもう、どんなトラブルがあってもお互いをカバーできる最高のチームなんだから。……大丈夫、絶対に成功するよ」


私が一人ひとりの背中を力強く叩くと、陽斗はふぅっと長く息を吐き出して笑顔を作り、透は「分かってる」と小さく頷いてイヤホンを外した。


「――時間だ」


楽屋の奥、姿見の前で最終確認をしていたルイが、静かに振り返る。

真紅のロングジャケット。銀糸の刺繍。そして、五万人を完全に支配するために研ぎ澄まされた、氷のように冷たく、炎のように熱い切れ長の瞳。


圧倒的な王の帰還。

彼が一歩踏み出しただけで、楽屋の空気がピリッと引き締まり、陽斗と透の顔つきが完全に『プロ』のそれへと切り替わった。


「行くぞ。俺たちの証明を、五万人の目に焼き付けてやる」


「おうっ!!」

「……ああ」


三人が楽屋を出て、薄暗い長い廊下をステージへと向かって歩き出す。

私はその後ろ姿を、胸を熱くしながら追いかけた。


ステージの真下、ポップアップリフトの待機場所。

頭上からは、開演を待ちわびる五万人の地鳴りのような歓声と、手拍子が降り注いでいる。ズシン、ズシンと、コンクリートの床が揺れるほどのすさまじい熱気。


「スタンバイ、三十秒前!」


スタッフの鋭い声が飛ぶ。

陽斗と透が、それぞれのリフトに乗り込み、スタンバイの姿勢に入る。


私も最後のエールを送るため、中央のリフトに向かうルイの元へ駆け寄ろうとした。


ガシッ。


「……えっ」


すれ違いざま、暗闇の中で、私の手首が強い力で引かれた。

機材の影、スタッフの視界から一瞬だけ外れる死角。

ルイは私を力強く引き寄せると、そのまま私の背中を壁に押し当て、息がかかるほどの至近距離で私を見下ろした。


「ル、イくん……もう、本番……っ」


「知ってる」


ドームの轟音が響く中、彼の低く甘い声だけが、私の鼓膜を鮮明に震わせる。


「……ここまで連れてきてくれて、ありがとな。俺の、最高のマネージャー」


「……っ」


その真っ直ぐな感謝の言葉に、目頭が熱くなる。

でも、彼はそれだけで終わる男ではなかった。


ルイは私の顎を指先でクイッと持ち上げると、ギリギリで唇は触れ合わない、けれど確実に『熱』を共有する距離で、不敵に笑った。


「言っただろ。俺が誰も文句の言えねぇ頂点に立ったら、お前を俺の隣に引きずり出すって」


「ルイ、くん……」


「今日が、その日だ。……俺が五万人をひれ伏させる瞬間、一秒たりとも目ェ逸らすなよ」


暗闇の中で、彼の瞳が野心と強烈な愛情でギラギラと燃え盛っている。

私は胸の奥を鷲掴みにされたような甘い痺れを感じながら、力強くコクンと頷いた。


「うん。……行ってらっしゃい、私の王様」


その言葉に、ルイは最高に美しい笑みを浮かべ、私の頬を一度だけ愛おしげに撫でた。


「行ってくる」


彼は翻ってリフトに乗り込み、真っ直ぐに前を見据えた。

重低音のイントロが鳴り響き、五万人の絶叫がドームを揺るがす。


『――Ladies and Gentlemen! Are you ready!?』


バァァァァンッ!!!


特効の爆発音と共に、三人を乗せたリフトが一気に光の溢れるステージへと打ち上げられる。


私は機材の影から飛び出し、ステージ袖のモニターに張り付いた。

眩いばかりの光の海。五万個のペンライトが波打ち、割れんばかりの大歓声が彼らを包み込む。


最強のアイドルと、秘密の共犯者。

誰も知らない私たちの約束を胸に秘め、すべてを懸けた『頂点のステージ』が、今、華々しく幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ