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絶対君主のハリネズミは、専属マネージャーにだけ甘く牙を剥く〜崖っぷちアイドルをプロデュースしたら、世界一重い愛で包囲されました〜  作者: はりねずみの肉球
第8章:境界線の溶ける温度

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【Part 1】フラッシュライトと、王様の独占欲

カシャッ! カシャカシャッ!


眩いストロボの光が、真っ白なスタジオの空間に連続して弾ける。


「いいね、最高! ルイくん、もう少し顎引いて流し目! 陽斗くんは無邪気な笑顔で! 透くん、アンニュイな感じで視線外してみて!」


カメラマンの興奮した高い声が響く中、三人の被写体はレンズの前で完璧なフォーメーションを組んでいた。

あの運命のショーケースライブから、一ヶ月。

社長の宣言通り、彼らのパフォーマンスは業界関係者の度肝を抜き、またたく間に数々のメディアからオファーが殺到することになった。


今日は、若手アイドルの登竜門と呼ばれる有名音楽雑誌の表紙巻頭グラビア撮影だ。


「……すごい」


スタジオの隅。機材の陰から彼らを見守りながら、私は無意識に感嘆の息を漏らしていた。


陽斗は天性の人懐っこさを全開にして、カメラの向こう側にいる読者を射抜くようなキラキラした笑顔を振りまいている。

透は持ち前の透明感とミステリアスな雰囲気を纏い、ただそこに立っているだけで一枚の絵画のような存在感を放つ。

そして、神城ルイ。

彼は、もはや説明すら不要なほどの『絶対的な美』で空間を支配していた。カメラマンの要求をコンマ一秒で理解し、最も自分が美しく、かつ他の二人を引き立てる角度を完璧に計算して動いている。


(あんなに反発し合ってたのに、すっかりプロの顔になっちゃって……)


マネージャーとして、これほど誇らしいことはない。

スケジュール管理や各所への頭下げ、深夜に及ぶミーティングなど、私の業務量は以前の比じゃないほど激増したけれど、彼らが輝く姿を見られるなら疲れなんて吹き飛んでしまう。


「はい、オッケー! 素晴らしい! じゃあここで十五分休憩入りまーす!」


カメラマンの合図とともに、張り詰めていたスタジオの空気がふっと緩む。


「お疲れ様でしたーっ!」

「……疲れた」


陽斗と透が、一気に素の顔に戻ってこちらへ歩いてくる。

私は慌ててクーラーボックスから冷えたペットボトルとタオルを取り出した。


「お疲れ様、二人とも! すごく良かったよ!」


「ひなちゃん見た!? 俺のあのキメ顔! 絶対ファン増えるっしょ!」

「はいはい、カッコよかったよ。汗拭いてね」

「……俺、糖分欲しい。チョコないの」

「あるよ。透くんはビターチョコだったよね、はい」


二人の世話を焼きながら、私は視線の端で、遅れてこちらに歩いてくるルイの姿を捉えた。


黒のレザージャケットを肩に羽織り、気怠げに歩いてくる姿すら絵になる。

あの夜の裏路地での出来事以来。

私たちの関係は、表向きは『アイドルとマネージャー』のままだけれど、二人きりになった時や、ふとした瞬間に見せる彼の態度は、以前とは劇的に変わっていた。


「……水瀬」


低い、甘さを孕んだ声。

私の目の前で立ち止まったルイは、スッと手を差し出してきた。


「お疲れ様、ルイくん。はい、お水」


私が未開封のペットボトルを渡そうとすると、彼はそれを受け取らず、私の反対の手――私がさっき一口だけ飲んでキャップを閉めたばかりの、私物のペットボトルを強引に奪い取った。


「えっ、ちょっとルイくん、それ私の……!」


「知ってる」


ルイは悪びれもせず、私が口をつけたばかりのペットボトルのキャップを捻り開け、そのまま堂々と自分の唇を押し当てて、喉を鳴らした。


「……っ!!」


ゴクッ、ゴクッ、という音が響く。

彼の綺麗な喉仏が上下するのを至近距離で見せつけられ、私の顔は一瞬にして沸騰したように熱くなった。


「ちょ、何して……! 間接キス、になっちゃうでしょ……っ!」


私が小声で抗議すると、ルイは口元を手の甲で拭いながら、フッと意地悪く笑った。


「なんだよ。減るもんじゃねぇだろ」


「そういう問題じゃなくて! ここ、スタッフさんもいっぱいいるのに!」


「俺は別に、誰に見られたって構わねぇけど?」


ルイは私の耳元に顔を寄せ、吐息がかかる距離で低く囁く。


「……お前が俺のマネージャーだってこと、周りのオスどもに分からせとくのも悪くねぇしな」


「〜〜〜ッ!」


そのストレートすぎる独占欲に、私の心臓は完全にキャパシティを超えて悲鳴を上げる。

彼は最近、わざとこうやって私が照れるようなことを仕掛けてくるのだ。絶対君主のドSな性格に『オス』の要素が加わり、私に対する攻撃力は以前の比ではない。


「あーあ。ルイくんまたひなちゃんいじめてる。俺のひなちゃんなのに!」


隣でチョコをかじっていた陽斗が、ぷくっと頬を膨らませて抗議する。


「お前のじゃねぇ。水瀬は俺たちの……いや、俺の専属だ」

「えー! 社長は『お前ら三人のマネージャー』って言ってたもん!」

「俺が一番手がかかるから、俺優先なんだよ。文句あるか」

「……手がかかる自覚はあるんだな」


透が呆れたようにツッコミを入れ、陽斗が「ルイくんずるい!」と騒ぎ立てる。

わちゃわちゃとした騒がしいやり取り。でも、以前のような殺伐とした空気はなく、完全に気の置けない兄弟のようなやり取りに変わっている。


(もう、心臓もたないよ……)


私は真っ赤になった顔を両手で覆い、深呼吸を繰り返す。

仕事とプライベート。マネージャーと一人の女性。

その境界線が、ルイの熱によってドロドロに溶かされ始めているのを、私はどうすることもできずにいた。


「おい、水瀬。顔赤いぞ。熱でもあんのか」


ルイがわざとらしく覗き込んでくる。

その瞳の奥には、「もっと振り回してやる」というような、底意地の悪い、でもひどく甘い光が揺れていた。


「……誰のせいだと思ってるのよ、このバカ王様」


私が小さく睨み返すと、ルイは満足そうに口角を上げ、私の頭をポンッと軽く撫でた。


「さーて、撮影再開お願いしまーす!」


スタッフの声がかかる。

ルイは一瞬でアイドルの顔に戻り、「行くぞ」と二人に声をかけてスタジオの中央へと戻っていく。


私は、自分のペットボトルを両手でギュッと握りしめながら、その頼もしくも危険な背中を見送った。

アイドルとしての彼らを支えるという使命感と、一人の男性としての彼に惹かれていく感情。

この相反する二つの想いを抱えたまま、私たちの忙しすぎる日々は、さらにスピードを上げて加速していくのだった。

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