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絶対君主のハリネズミは、専属マネージャーにだけ甘く牙を剥く〜崖っぷちアイドルをプロデュースしたら、世界一重い愛で包囲されました〜  作者: はりねずみの肉球
第7章:最後のステージ

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【Part 4】夜明けの帰還と、終わらないプロローグ

深夜の裏路地。

冷たいコンクリートの壁と、ルイの熱い胸板に挟まれたまま、私は子どものように泣きじゃくった。

彼を置いていこうとした罪悪感と、彼が私を強引に引き留めてくれたことへの、どうしようもないほどの安堵感。その二つの感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って、涙腺が完全に壊れてしまったのだ。


「……いつまで泣いてんだよ。服、鼻水まみれなんだけど」


頭の上から、呆れたような、でもひどく優しい声が降ってくる。

ルイは私を抱きしめていた腕を少しだけ緩めると、長い指で私の目元を拭った。


「な、泣いてないし。鼻水もつけてない……っ」


「嘘つけ。顔ぐちゃぐちゃだぞ」


ルイは意地悪く笑い、今度は私の額に軽くデコピンをした。

「痛っ」と私が小さく声を上げると、彼はそのまま私の手首を掴み、自分の唇にそっと押し当てた。


「っ……!」


手首の脈打つ部分に落とされた、熱くて柔らかな感触。

ビクッと肩が跳ねた私を、ルイは切れ長の瞳で真っ直ぐに見下ろす。


「もう二度と、勝手にいなくなるな。お前は俺が……俺たちが、世界一のアイドルになるのを一番近くで見届けるんだろ」


「……うん。見届ける。絶対に、離れない」


私が力強く頷いた、その瞬間だった。


「ひなちゃぁぁぁぁぁんッ!!!」


路地の入り口から、鼓膜を破らんばかりの大絶叫が響き渡った。


ビクッとして振り返ると、金色の髪を振り乱した陽斗が、涙と鼻水で顔をドロドロにしながら猛スピードで突進してくるのが見えた。

その後ろからは、肩で激しく息をする透が、膝に手をついて「……っ、足、速すぎんだろ……」と死にそうな顔で呪詛を吐いている。


「えっ、陽斗くん!? 透くんまで、なんで……!」


「ひなちゃん! 俺たちを捨てないでぇぇっ!!」


陽斗が私に向かって両手を広げ、思い切りダイブしてこようとする。

しかし、その目論見は、私の前にスッと立ち塞がったルイの長い脚によって、無惨にも蹴り止められた。


「ぐはっ!」


「俺のマネージャーに鼻水つけんな。汚ぇ」


「なっ……ルイくんズルい! 俺だってひなちゃんに抱きつきたいのに!」


陽斗がお腹をさすりながら抗議するが、ルイは冷たく鼻で笑い、私を自分の背中に隠すようにして庇った。


「遅ぇんだよ、お前ら。水瀬はもう俺が捕獲した。諦めろ」


「捕獲って……虫じゃないんだから」


私が背後からこっそりツッコミを入れると、ようやく息を整えた透が、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

彼は倒れていた私のキャリーケースを無言で引き起こし、そのハンドルをガシッと掴む。


「……マジで、ふざけんなよ。打ち上げの途中でルイがいきなり飛び出していくから、何事かと思っただろ」


透は私をジロリと睨みつける。その瞳は怒っているように見えて、目元が微かに赤く腫れていた。


「せっかくのステージ大成功だったのに、あんたがいなくなったら、何の意味もねぇだろ……バカ」


「透くん……」


「次また勝手にいなくなったら、このキャリーケース燃やすからな」


物騒な脅し文句とは裏腹に、透は私のキャリーケースを絶対に離さないとばかりに強く握りしめている。

彼らもまた、私が残した鍵とパスを見て、血の気を失って探しに来てくれたのだ。


「……ごめんなさい、二人とも。そして、ありがとう」


私が深く頭を下げると、陽斗が「もう絶対許さないんだからね!」と唇を尖らせながらも、私のエプロンのポケットのあたりをギュッと掴んだ。


「ひなちゃんがいないと、俺、朝起きれないし! ご飯も食べれないし!」


「それは自分でできるようになりなさいよ……」


「俺たちには、あんたが必要なんだよ。……全員、な」


透がキャリーケースを引きながら、フッと柔らかく笑う。


その三人の姿を見て、私はようやく心の底から、重たい鎧を脱ぎ捨てることができた。

彼らはもう、大人に怯える子どもじゃない。

私の弱さも、不器用さも、全部ひっくるめて受け入れてくれる、頼もしい『パートナー』になっていたんだ。


「……帰るぞ。社長が打ち上げ会場で発狂してる頃だ」


ルイが私の手首を掴んだまま、前を向いて歩き出す。


「えっ、打ち上げ戻るの!? 私、こんな泣き腫らした顔で……」


「関係ねぇよ。お前も俺たちのチームなんだから、堂々としてろ」


ルイの大きく熱い手が、私の手をしっかりと握り直す。

もう、振り払おうなんて思わない。


「ひなちゃん、手繋ごー!」

「陽斗、お前は俺のキャリー持て」

「えー、透ヒドい!」


深夜の新宿。

冷たかったはずの夜風は、今はもう不思議と心地よく感じられた。


ビルの隙間から、ほんの少しだけ白み始めた夜明けの光が差し込んでくる。

その光に照らされた三人の背中は、昨日までとは比べ物にならないほど大きく、そして眩しく輝いていた。


「……行くよ、みんな! 明日からもっと忙しくなるんだからね!」


私が彼らの背中に向かって声を張ると、三人は同時に振り返り、それぞれの最高の笑顔を見せてくれた。


彼らが『最強のアイドル』へと駆け上がっていく、波乱万丈な日々。

そして、絶対君主である彼との、甘くて危険な距離感に振り回される日々。

私たちの本当の物語は、この眩しい朝日から、いよいよ本格的なプロローグの幕を開けたのだ。

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