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絶対君主のハリネズミは、専属マネージャーにだけ甘く牙を剥く〜崖っぷちアイドルをプロデュースしたら、世界一重い愛で包囲されました〜  作者: はりねずみの肉球
第6章:本当のチーム

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【Part 4】暗闇の円陣と、反撃のステージ

ズンッ……! ズンッ……!


腹の底を直接殴りつけてくるような、バスドラムの重低音。

地下の巨大なイベントホール。冷たいコンクリートの壁が、会場の熱気と無数のスピーカーから放たれる音圧で、ビリビリと微かな振動を続けている。


音楽業界の有力者たちが一堂に会する、合同ショーケースライブ。

楽屋が立ち並ぶ長い廊下は、むせ返るようなヘアスプレーの匂いと、行き交う大人たちの怒号、そして出番を待つアイドルたちの強烈な香水の匂いで満ちていた。


「うわ、あっちのグループ、すっげぇ人数。衣装も金かかってるなー」


壁際で出番を待つ陽斗が、廊下の奥を歩いていく大手事務所のグループを横目で見ながら、感嘆の声を漏らす。

彼らは全員がミリ単位で揃った動きをし、すれ違うスタッフには完璧な角度で挨拶を繰り返している。まさに、工場で精密に作られた『優等生』たちだ。


「……気持ち悪。あんなロボットみたいに並んで、何が楽しいんだか」


透が、壁に背中を預けたまま冷たく吐き捨てる。

彼の耳にイヤホンはない。外界の音を遮断せず、あえて周囲のプレッシャーを全身で浴びるように、その鋭い瞳でライバルたちを睨みつけている。


そして、神城ルイ。

彼は腕を組み、ただ静かに目を閉じて立っている。

漆黒のベロアコートを纏った彼の存在感は、何も発していないのにも関わらず、通り過ぎる他のグループのメンバーたちが思わず道を譲ってしまうほど、圧倒的なオーラを放っていた。


「スターリー・プロモーションさん! 次、スタンバイお願いします!」


インカムをつけたスタッフの声が、廊下に響き渡る。


「はい! 行くよ、みんな!」


私がパンッ!と手を叩くと、三人は同時に顔を上げ、無言のまま真っ暗なステージ袖へと向かって歩き出した。


ステージを隔てる分厚い黒幕の裏側。

表からは、前のグループに向けられた割れんばかりの歓声と、眩い照明の熱気が容赦なく押し寄せてくる。


(……すごい熱気)


私は三人の背中を見守りながら、ギュッとバインダーを抱きしめる。

たった一ヶ月前の単独ライブの時。この暗闇の中で、陽斗は恐怖に震え、透は心を閉ざし、ルイは彼らを切り捨てた。

あの地獄のような崩壊の記憶が、一瞬だけ脳裏をよぎる。


でも、今の彼らの背中は、あの時とは全く違う。


陽斗は自分の頬を両手でパンパンッと叩き、気合を入れるようにその場で軽くステップを踏んでいる。

透は深く息を吸い込み、首の筋を立てて、声帯の最終確認をするように無音のハミングを繰り返している。


そして。

ルイが、ゆっくりと振り返った。


「陽斗。最初のターンの着地、俺のブレスの音に合わせろ。走るなよ」


「分かってるって。完璧にキメてやるし」


「透。マイクのノイズが乗るかもしれない。出だしのキー、少しだけ張れ」


「……言われなくても。一番奥の客の鼓膜まで、俺の声でぶち抜いてやる」


短い、けれど絶対的な信頼に基づいた言葉の応酬。

ルイの指示に、二人が不敵な笑みで応える。

もう、誰も下を向いていない。彼らの目は、真っ黒な幕の向こう側にある『頂点』だけを真っ直ぐに見据えている。


「……ルイくん」


私が声をかけると、ルイは切れ長の瞳をスッと私に向けた。


「みんな、水飲む?」


私がクーラーボックスからペットボトルを取り出そうとすると、ルイの大きな手が伸びてきて、私の手首をそっと掴んだ。


「いらねぇ」


「でも、喉渇いてるでしょ……っ」


「いいから、手ェ出せ」


ルイに強引に手を引かれ、私は三人の中心――円陣の真ん中へと引きずり込まれる。


「えっ……ちょっと」


戸惑う私の右手を、ルイが自分の手のひらの上に乗せる。

その上に、陽斗が「ひなちゃんの手、ちっちゃ!」と笑いながら自分の手を重ね、さらに透が「……バカみたい」と毒づきながらも、迷うことなく手を重ねてきた。


男の人たちの、大きくて、熱くて、少しだけ震えている手。

その中心に、私の手がしっかりと挟み込まれている。


「お前も、部外者じゃねぇんだろ」


ルイが、至近距離で私を見下ろして笑う。

薄暗い袖の中で、彼の瞳だけが獲物を狙うようにギラギラと燃えている。

私の心臓が、ドクンッ!と、音響のベース音をかき消すほどの爆音で跳ねた。


「俺たちがここから這い上がんの、一番特等席で見とけ」


ルイの低く甘い声が、私の耳元を撫でる。

その言葉は、どんな甘い愛の告白よりも強烈に、私の胸の奥を撃ち抜いた。


「……うん。見届ける。あなたたちの全部を」


震えそうになる声を必死に抑え込み、私は彼らを見上げて、とびきりの笑顔を作る。

もう、ただのマネージャーじゃない。

彼らの居場所であり、彼らが帰ってくるための『盾』だ。


「行くぞッ!!」


ルイの低い号令とともに、四人の手が勢いよく空に向かって突き上げられる。

パンッ!!と小気味良い音が弾け、同時に、ステージを隔てていた黒い幕が、スタッフの手によって左右に大きく引き開けられた。


眩いほどの白い光が、津波のように袖に押し寄せる。


『――次は、スターリー・プロモーションより、期待の大型新人!』


アナウンスの声を切り裂くように。

ドゴォォォンッ!!

心臓を鷲掴みにするような、暴力的な重低音のイントロが会場を揺らす。


「行ってこいッ!!」


私の背中を押す叫び声とともに、三つの影が、眩い光の海へと躊躇いなく飛び出していく。


彼らがステージに足を踏み入れた瞬間。

会場の空気が、文字通り『凍りついた』のが分かった。

数千人の観客も、審査するように腕を組んでいた業界関係者たちも、彼らの纏う圧倒的なオーラに息を呑み、完全に動きを止めている。


センターに立つ神城ルイが、ゆっくりと顎を上げ、客席を睥睨する。

その冷酷で美しい絶対君主の視線が、会場中のすべての酸素を奪い去った。


『――♪〜ッ!!』


透の魂を切り裂くようなハイトーンボイスが、静寂を完全に打ち破る。

それに呼応するように、陽斗が重力を無視した爆発的なステップでステージを舞う。

そして、すべてを支配するルイの完璧なダンスが、三人の才能を一つの巨大な『熱狂の渦』へと昇華させていく。


「……いけっ!」


私は袖で両手を組み合わせ、彼らの背中を見つめながら叫ぶ。


本当のチームになった彼らは、もう誰にも止められない。

大人たちへの反撃。過去への復讐。そして、自分たちの存在証明。

すべてを懸けた『最後のステージ』の幕が、今、完全に切って落とされた。

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