第43話 前回と違う廊下
保管庫へ続く廊下は、前回と同じはずだった。
同じ日、同じ時刻を選んだ。
昼を少し過ぎた頃合い。
書類の出入りが増える時間帯で、ヴァルターが廊下を歩いても不自然ではない。
* * *
だが。
廊下に入った瞬間、何かがずれていると気づいた。
ヴァルターは歩きながら、周囲を観察した。
明らかではない。
ほんのわずかな差だ。
* * *
前回は、廊下の右手に衛兵が二人いた。
今回は一人しかいない。
前回は、荷を運ぶ小者が三人通った。
今回は一人だけで、しかも荷の種類が違う。
* * *
ヴァルターは立ち止まらずに歩き続けながら、頭の中で照合した。
同じ日、同じ時刻——なのに、細部が違う。
偶然か。
それとも、ループは完全な再現ではないのか。
* * *
(微差がある)
ヴァルターはそう判断した。
ループは「同じ過去への巻き戻し」ではなく、「類似した過去への近似」なのかもしれない。
大筋は変わらない。
だが細部は——毎回、わずかに揺らいでいる。
* * *
これは重要な発見だった。
二つの意味がある。
一つ目。前回の知識が、今回の状況に完全には当てはまらない。
未来知識は万能ではない。
二つ目。敵も同様だ。前回の動きを完全には再現していない可能性がある。
* * *
つまり——敵と自分の双方に、「読み切れない余白」がある。
それは恐ろしくもあるが、同時に、隙になりえる。
ヴァルターは保管庫の扉が見える位置まで来た。
前回、ここにカインが立っていた。
だが今回は——
* * *
見知らぬ文官が一人、扉の前に立っていた。
カインではない。
四十代ほど、地味な灰色の上着、手に書類の束を持っている。
ヴァルターと目が合った瞬間、その文官は——わずかに視線を逸らした。




