第42話 検証する男
記録を書き終えてから、ヴァルターは一時間ほど動かなかった。
紙の前に座ったまま、前の周回の行動を時系列で整理した。
頭の中だけでやろうとすると、どこかが歪む。
だから新しい紙を取り、書きながら考えた。
* * *
最初の周回——
アンネリーゼへの印象改善を試みた。
接触の頻度を減らし、善意を示した。
結果:断罪、処刑。
二度目の周回——
保管庫付近を調査し、香料の流れを追い、レナの兄の死に迫った。
結果:毒殺。
* * *
では、どちらの行動が死因に繋がったのか。
アンネリーゼから距離を取ったこと。
侍女の失踪に介入したこと。
香の調査を進めたこと。
夜会に出席したこと。
すべてが怪しい。
だが、どれが直接の引き金だったかは、まだ分からない。
* * *
ヴァルターは顎に手を当てた。
証拠を集めて判断するには、情報が足りない。
だが情報を集めようとすれば、また動きが読まれる可能性がある。
ならばどうするか。
* * *
(実験をする)
ヴァルターはそう結論づけた。
今回のループは「助かるための試み」ではなく、「敵がどこに反応するかを観察するための試み」にする。
あえて前回と同じ動きをいくつか再現し、どのタイミングで相手が動くかを確かめる。
* * *
これは再試行ではない。
実験だ。
前回の行動をなぞりながら、どこで敵が「気配を変えるか」を見る。
生き残れるかどうかは、二の次でいい。
いや——正確には、死ぬことすら「データ」になる。
* * *
紙の上に、実験の手順を書いた。
まず、保管庫周辺の調査から始める。
前回、そこで香料と商会の繋がりに気づいた。
あの場所は、敵にとって何らかの意味がある。
同じ場所に同じように近づいた時、何が変わるか。
* * *
ヴァルターはペンを置いた。
窓の外には、まだ朝の光がある。
一日のうちに動ける時間は限られている。
迷っている場合ではない。
最初に再現対象に選んだのは、**保管庫周辺の調査**だった。




