第35話 失踪の意味
ミルヤの私室が一時的に封鎖され、持ち物の確認が行われた。
これは侍女失踪の際の宮廷の手順だ。
ヴァルターはその確認に同席する機会を得た。
「公爵家との関連で確認すべき事項がある」という名目で。
それほど疑われることなく、担当文官の立ち会いのもとで確認できた。
* * *
ミルヤの荷物は少なかった。
着替えが数枚。
日用品少々。
手紙が二通。
手紙の差出人は「家族」と書かれていたが、封は開いていた。
内容は他愛もない近況報告だった。
ただ——文中に、いくつかの不自然な単語が混じっていた。
「荷物の確認を月に一度」「届け先は変わらず」「受け取りを確認した」
これは家族への手紙の文面ではない。
符号だ。
定期的な受け渡しの確認を、家族の手紙に見せかけた通信文だ。
* * *
もう一つ、小さな布袋があった。
綿に包まれた、小指ほどの大きさの袋。
担当文官は気にしなかった。
だが、ヴァルターは袋に顔を近づけた。
かすかな香りがした。
甘く、落ち着いた香り。
ヴァルターはその香りを知っていた。
星見の夜会の夜に、薬師が運んでいた香炉から漂っていたものと、似ていた。
* * *
「これは何ですか」
文官に尋ねると、首を傾げた。
「香袋でしょうか。別段、不審なものではないかと……」
「いえ、持ち物の記録に残してください」
「はい」
ヴァルターはそれ以上追及しなかった。
だが、その香の種類を確認する必要がある。
* * *
翌日、ヴァルターはミルヤの行動記録を辿った。
侍女は宮廷の各場所へのアクセス記録がある。
全てではないが、正殿の主要な出入り口には記録が残る。
ミルヤの記録を見ると——週に一度か二度、皇族居住区の裏側の搬入口近くを通っていた。
そしてもう一ヶ所。
帝都の東側にある、取り壊された倉庫街の近く。
宮廷内部の出入り記録ではなく、外部の城門の通過記録だ。
外出が申請されていない日に、門を通過した記録が二度ある。
* * *
東側の倉庫街。
ヴァルターは地図を思い出した。
そこには、廃業した商会の倉庫跡がある。
フォスター行商組合——あの「廃業商会」が、かつて使っていた倉庫の場所と一致する。
* * *
ミルヤは皇族居住区の裏口と、廃業商会の倉庫跡を往復していた。
香袋を持っていた。
外部と定期的に連絡を取っていた。
そして、確認が入った翌日に消えた。
* * *
ヴァルターは記録を閉じ、廊下に出た。
「末端をすぐに切る」というのは、本当に正確な表現だ。
ミルヤは駒だった。
役目を終えたか、あるいは危険になった瞬間に、切られた。
では今頃、彼女はどこにいるのか。
それは分からない。
分からないが——よくない場所にいることは、容易に想像できた。
* * *
その夜、自室に戻ると、ヴァルターは机の上を見た。
いつも置いてある銘柄の酒瓶が、違う銘柄になっていた。
ラベルが違う。
栓の型が違う。
瓶の形が微妙に違う。
ヴァルターはそれを手に取り、光に透かした。
液体は澄んでいる。
色は普通の白ワインに見える。
だが、誰かが自分の不在中に、酒瓶を入れ替えた。
ヴァルターはその瓶を、床に静かに置いた。
飲まない。
そして誰にも言わない。
ただ、そこにあったことを覚えておく。
これは始まりだ、とヴァルターは感じた。




