第34話 切り離された侍女
東廊下を歩いていた時、ヴァルターは見た。
アンネリーゼ付きの侍女が、宮廷の外側に面した小さな扉の前で立っていた。
普通なら気にならない光景だ。
だがその侍女の動きが、妙だった。
周囲を確認してから、扉を開ける。
届けられた小さな包みを受け取り、すぐに扉を閉める。
受け渡しの動作が、慣れている。
* * *
ヴァルターは廊下の影に止まり、侍女が立ち去るのを待った。
彼女は包みを袖の中に収め、足早に戻っていった。
顔は確認した。
ミルヤ、という名前の侍女だ。
最近アンネリーゼ付きに配属された、若い侍女だった。
ヴァルターはその場を離れ、一人で考えた。
* * *
侍女が外部から物を受け取っていた。
それは必ずしも不審ではない。
家族からの手紙や私物の受け渡しは、通常の裏口を使えばいい。
だが今の場所は、使用人専用の搬入口でも正規の面会口でもない。
「使ってはいけない扉」に近い場所だ。
しかも、受け渡しの動作に慣れがある。
一度ではない、ということだ。
* * *
以前の自分なら、即座に行動していた。
アンネリーゼに報告し、侍女の配置換えを進言する。
場合によっては直接取り調べを求める。
だがそれをすれば——「また裏から人を動かした」という印象になる。
アンネリーゼに、「平民を使って周りを探らないで」と言われたばかりだ。
正面から行動すれば、また同じ摩擦が生まれる。
* * *
ヴァルターは別の方法を選んだ。
宮廷の警備管理を担う文官の一人に、別の名目で接触した。
「最近、東棟の非正規扉の使用記録について確認したいことがあります。公爵家の訪問者管理の点検の一環です」
文官は特に疑わず応じた。
「確認いたします。昨日は三回、同じ扉が開閉された記録があります。一回は清掃担当、残り二回は……記録が不明です」
「記録が不明とは」
「開閉センサーは反応していますが、担当者の記録がありません。何者かが非公式に使用した可能性があります」
「なるほど。ありがとう」
* * *
報告の形を作らず、警備の側から自然に動かした。
ミルヤという侍女の名前は出さなかった。
だがその翌日、ヴァルターは別の経路で確認した。
ミルヤが「親族の事情」を理由に一週間の休暇を申請していた。
その申請は認められ、彼女はそのまま休暇に入った。
* * *
しかし、休暇の翌日に確認すると——ミルヤは帰宅していなかった。
宮廷側の記録では「外出中」。
だが、彼女が住んでいるはずの場所に、彼女はいない。
翌朝、宮廷の朝の点呼で、ミルヤの名が呼ばれ、返事がなかった。
「失踪」として処理された。
* * *
ヴァルターはその報告を聞いた時、少し間を置いた。
(動かした途端に消えた)
自分が警備に報告を促した翌日に、ミルヤが消えた。
これは偶然か。
あるいは——ヴァルターが動いたことを察した誰かが、先に彼女を消したのか。
「末端をすぐに切る」。
それが、この組織の動き方だ。
* * *
アンネリーゼは侍女の失踪を知り、困惑した様子だという話を、ヴァルターは間接的に聞いた。
アンネリーゼへの報告は入っていない。
だが、彼女の周辺に外部と通じた侍女がいた——ということの危険性は、変わらない。
ヴァルターにできることは、やった。
しかしまた一つ、証拠が消えた。
ミルヤが受け取っていた包みの中身は、永遠に分からなくなった。
廊下に立ったまま、ヴァルターはため息をこらえた。




