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断罪された悪役令息は、処刑ループのたびに帝国を救う  作者: とま


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第33話 未来の癖

 翌朝、ヴァルターは書き出した。


 「未来知識を使う際のルール」という見出しをつけ、紙に向かった。


* * *


 昨日の社交会での失敗を、改めて分析する。


 辺境の物資の区間について、知っているのに知らないふりをした。

 だが「詰まった」ことで、知っている可能性が露見した。


 問題の本質はここだ。


 「知っているが言わない」という行動は、「知っている」という前提がある。

 だから自然と、その前提が漏れ出る。


 つまり、未来知識を持つことは——知識がない場合には絶対にしない不自然な迷いを生む。


* * *


 解決策は二つある。


 一つ目。その情報を「今の自分でも知り得る経路」で実際に入手する。

 実際に調べ、実際に情報を得た上で、それを根拠として話す。


 二つ目。知っていても、完全に知らないふりを徹底する。

 詰まらない。一瞬も変化しない。


 一つ目は時間がかかる。

 二つ目は技術が要る。


 ヴァルターは今の自分に、二つ目を完全に実行できるだけの演技力があるかを問い直した。


 ない、と判断した。


* * *


 ならば原則は一つ目だ。


 未来知識を使いたい場合は、まず「今の自分がそれを知っている理由」を実際に作る。


 情報を使う前に、その情報の入手経路を現時点で確立する。


 それができない情報は、使わない。


* * *


 もう一つの問題もある。


 先回りが多すぎることだ。


 ヴァルターは気づいていなかったが、最近の行動を振り返ると——問題が起きる前に動いている場面が多い。


 問題が起きる前に警備を確認した。

 噂が広がる前に対策を考えた。

 侍女の不審な動きを、普通の人間より早く察知した。


 これらは、未来を知っているから自然にできることだ。


 だが、普通の人間には「なぜそんなに早く気づくのか」という疑問が生まれる。


* * *


 カインはその疑問を持っている。


 「君は以前より、ずいぶん慎重になった」という言葉はその意味だ。


 慎重になった——ではなく、知っている——という解釈を持つ者が現れれば、それは別の脅威になる。


* * *


 ヴァルターは書いた。


 「先回りしない。問題が起きてから反応するように見せる」


 「未来知識を使う場合は必ず現在時点での根拠を用意する」


 「詰まらない。知らない時と知っている時の挙動を、意識的に統一する」


 書いてから眺めた。


 これは要するに——「演技が必要」ということだ。


 ヴァルターは演技が得意ではない。

 だが、学ぶ必要がある。


* * *


 その日の夜、また匿名の封書が届いた。


 今度は従者が受け取り、机の上に置かれていた。


 封を開けると、紙が一枚。


 整った字で書かれていた。


 「皇女を諦めたふりをして、次はどこを狙う?」


 それだけだった。


* * *


 ヴァルターはその紙を、しばらく見た。


 皮肉か。

 それとも探りを入れているのか。


 「皇女を諦めた」——アンネリーゼとの距離を取っていることは、周囲に観察されている。


 「次はどこを狙う」——距離を取った後に、別の何かを目的としていると見ている。


 この封書を送った者は、ヴァルターの行動の変化を読んでいる。


 そして「諦めた」ではなく「諦めたふり」と書いた。


 ヴァルターが何かを計算してアンネリーゼから遠ざかったと、判断している。


 敵が自分を読んでいる。


 あるいは——敵ではなく、試している者がいるのか。


 判断できなかった。


 ヴァルターは紙を燃やし、窓の外を見た。


 夜が深い。


 この宮廷で、自分は何重にも観察されている。


 それを覚悟の上で、動き続けるしかない。


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