第18話 偽造書簡の影
偽造書簡が偽造であることを証明するには、何が必要か。
ヴァルターは書き出した。
一、書簡の原本と、自分が実際に書いた文書との比較。
二、使われた印章の鑑定(印影の微差を証明)。
三、書簡の作成時期の特定(紙の経年や、インクの種類から)。
四、作成者の特定または証言。
このうち一と二は、書簡の原本へのアクセスがなければ動けない。
三は鑑定の専門家が必要で、断罪の場で発言力を持つ人物の協力が必要だ。
四が最も直接的だが、最も難しい。
だが現時点でできることがある。
「誰が作ったか」を絞り込む作業だ。
* * *
偽造書簡を作るには、何が必要か。
まずヴァルターの筆跡を知ること。
次に、クラウゼ公爵家の印章の形を知ること。
さらに、印章の使い方の癖——どの角度から、どの強さで押すかを把握していること。
それだけでは不十分だ。
書簡の書き出し方、言葉の選び方、文書の構成まで知っていなければ、精巧な偽造はできない。
つまり書簡を作った者は、ヴァルターの文書を長期にわたって観察してきた人間だ。
内側の人間。
クラウゼ家の者か、あるいは宮廷内でヴァルターの文書を定期的に見る立場にある者。
* * *
印章についての手がかりを探すため、ヴァルターは公爵家の印章管理記録を引き出した。
これは公爵家の専属文官が管理する内部記録で、外部への閲覧は限定されている。
ヴァルターは自分の私印の使用記録を、過去二年分確認した。
大半は問題ない。
公文書への押印、商取引の確認文書、辺境領主への通知。
だが一箇所だけ、記録が不自然だった。
帝国暦四百八十一年秋、ヴァルターが三日間不在にした際の記録だ。
その期間に、私印が一度だけ「点検のため保管室から取り出した」という記録がある。
点検。
印章の定期点検は確かに行われる。
だが、点検記録には通常、誰が行ったかの名前が記される。
その欄が、空白だった。
* * *
ヴァルターはその空白を見つめた。
意図的に消されたのか、最初から記録されなかったのか。
私印が取り出された——もし「点検」が偽の口実で、実際には印影を採取するために使われたなら。
偽造書簡に必要な印影の写しは、あの三日間に作られた可能性がある。
誰が行ったのか。
立ち会い者の名が空白なら、直接確認は難しい。
だが、当時の保管室の管理担当者は記録に残っているはずだ。
* * *
ヴァルターは管理担当の文官の名前を辿った。
名前があった。
だがその下に、小さく注記がある。
「翌年一月、職を離れる」
退職か、あるいは解雇か。
さらに確認すると——その文官は公爵家の職を離れた後、しばらく経て宮廷の下働きとして採用されている。
ヴァルターは手を止めた。
公爵家から宮廷の下働きへの転職は、格としては下がる。
なぜそのような動きをしたのか。
記録には理由がない。
* * *
その下働きの名前を確認した瞬間、ヴァルターは動きが止まった。
名前を、知っている。
以前確認した記録——レナの経歴に書かれていた、兄の名前だ。
レナの兄。
帝国暦四百七十八年没。宮廷下働き。
その兄が、クラウゼ公爵家の印章管理室の文官だったのか。
そして私印が「点検のため」取り出された翌月に、職を離れた。
さらにその後、宮廷の下働きに転じて——没した。
* * *
ヴァルターは記録を閉じ、椅子の背に身を預けた。
繋がった。
レナの兄は、偽造書簡に使われた印影の採取に、関わったか、あるいは関わらされたのかもしれない。
だから彼は消された。
「事故死」の記録だった。
そしてレナは、その兄を持つ侍女として、アンネリーゼのそばにいる。
レナの怯えが、単純な身分差の恐怖だけでないと感じたのは、正しかった。
* * *
ヴァルターは手帳に書いた。
「レナの兄は偽造書簡の準備段階で利用され、消された可能性が高い」
「レナは何かを知っているか、知らないまま宮廷に置かれているかのどちらか」
「いずれにせよ、レナは今後も注意深く見る必要がある」
そして最後に。
「偽造書簡の原本は、断罪の半年前から誰かが管理している。その場所を特定する」
ヴァルターは手帳を閉じた。
保管場所についての手がかりは、まだない。
だが敵が近い場所にいることは、今や確かだ。




