第17話 差出人なき警告
昨夜の手紙を、ヴァルターは燃やした。
だが内容は、頭に焼き付いていた。
一行。
たった一行だ。
「そのまま動けば、お前はまた処刑される」
* * *
「また」。
その一語が、ヴァルターの全身を冷やした。
「また」処刑される、と書いた。
「また」とは——過去に処刑されたことがある、ということを前提にした言葉だ。
それを知っている者が、いる。
ヴァルターはその事実を、一晩かけて噛みしめた。
可能性は複数ある。
一つ目。ループを知る者が実際にいる。
つまり、ヴァルターだけが処刑と巻き戻りを経験しているのではなく、同じ状況を知っている者が他にもいる。
二つ目。ループを知らないが、「処刑される未来」を何らかの手段で予見できる者がいる。
予言者、あるいは占術者の類か。
三つ目。これは罠だ。
「また」という言葉を意図的に使い、ヴァルターを動揺させ、行動を変えさせることが目的。
どれが正しいか。今の段階では、確認する方法がない。
* * *
筆跡については、あの一晩でできる限り思い出そうとした。
特徴のない写字体。
だが、書き方がやや左に傾く癖があった。
それが意図的なものか、自然なものかは分からない。
封蝋は単純な丸型。
インクは宮廷でも使われる標準品。
これ以上の手がかりはない。
* * *
助言か、脅しか。
文章の内容だけを見れば、「警告」と読むのが自然だ。
「処刑される」と教えることは、それを回避する機会を与えているとも取れる。
だが同時に、こちらの行動を止めるための脅しとも取れる。
「今の動きを続けると消される。だから止まれ」というメッセージとも読める。
どちらの解釈も成立する。
ヴァルターは結論を保留したまま、翌日の朝を迎えた。
* * *
考え続けても、答えは出なかった。
一つだけ確かなことがある。
あの手紙が何であれ——「嫌われないようにする」という方向では、もはや間に合わない。
ヴァルターはそれを確認した。
今まで試みていたことを整理する。
態度を柔らかくする——失敗。不自然すぎた。
文書庫で証拠を探す——途中。だが記録は既に操作されていた。
使用人通路の調査——有益だったが、監視されていることが分かった。
保管室の確認——近づけなかった。
どれも、半歩程度の前進に過ぎない。
「また処刑される」という言葉が本当なら——このまま進めば、最終的に断罪は変わらない。
* * *
ヴァルターは机に向かった。
紙を広げ、罪状の一覧を改めて見る。
五つの罪状。
その核心——「帝位簒奪を企てた嫌疑、偽造書簡」。
これを潰せば、他の罪状は崩れやすくなる。
問題は偽造書簡が今どこにあるかだ。
断罪の際に提出された書簡の原本は、どこかに保管されているはずだ。
半年後の断罪まで、その書簡は誰かが管理している。
それを今のうちに見つけ、「偽造である証拠」をつけることができれば——
あの断罪は成立しない。
* * *
だが、そのためには保管場所を特定する必要がある。
宮廷の文書庫は既に確認した。
そこには書簡の類が多数保管されているが、偽造書簡そのものを今の段階で特定して取り出すことは難しい。
もし書簡が文書庫以外の場所に保管されているなら——
可能性は一つある。
断罪に使われる証拠は、宰相府が一時的に管理するケースがある。
宮廷法の手続き上、断罪前の証拠は告発者か司法機関が保管する。
告発者は——アンネリーゼか、あるいは宮廷の司法機関か。
どちらにせよ、そこへ近づくルートを作る必要がある。
* * *
ヴァルターは紙を裏返し、新しい方針を書いた。
「保身で逃げることをやめる」
「先に断罪の核を潰す」
「偽造書簡の保管場所を特定し、それを「偽造」と証明できる証拠を押さえる」
行動の方向が定まった。
手紙の差出人が誰であれ、警告であれ脅しであれ——答えは同じだ。
動き続けるしかない。
ただし、より直接的に。
ヴァルターは灯りを消した。
夜の執務室に、燃え残った灰の匂いがかすかに漂っていた。




