女心と秋の空
第三章スタートです!
アルフォンスは各自、明日に備えて休むよう言ったが、どう備えればいいか分からない。とりあえず夕食を食べてから風呂に入り、寝ることにした。
僕の寝室は紅茶を飲んだあの部屋だった。
夕食と風呂を済ませ、寝室へ戻ったが、特にすることもないのでベッドに横たわる。
天井を見上げながら昨夜からの出来事を思い返すと、どうしてもベンとオットーを殺したことばかり頭に浮かんでくる。
「ごめん……」
――トントントンッ。
ノックの音で目が覚める。疲れていたからか、寝てしまっていたらしい。
ベッドの上で身体を起こして返事をする。
「どうぞ」
入ってきたのはリナだった。
「お休み中だったかしら?」
「いや、気にしないで」
「そう」
リナがベッドの端に腰掛ける。
風呂上りなんだろうか? なんだか良い匂いがするし、毛先が少し濡れている。
「どうしたの?」
「聞きたいことがあるの。でも無理に答える必要はないわ」
「聞きたいことって?」
「あなたがマモンと契約する時に決めた対価って何?」
「悪夢に関する記憶をマモンに捧げろって言われたけど? それがどうかした?」
「そう、そうなのね」
「なあ、パンデモニウムって何なんだ? 何か知ってる?」
「……ごめんなさい。よく分からないわ」
嘘だ。フラウロスの魔法陣ですぐ見抜けてしまう。
「知ってるんだろ? 教えてくれよ」
「――私はね、愛を失ったの」
被せるようにリナが話し始めた。
「愛?」
「私が愛した人は幸せになれない。そういう対価を支払ったの」
親の愛を知らず、好きな人もいない僕にはそれがどういうことかよく分からなかった。
「そうなんだ」
とりあえずの相槌を打った。
「そう。これからの人生、私はひとりきりで老いて死んでいく運命なの」
「寂しいな」
「本当にそう思ってる?」
リナが僕に近づく。少し手を伸ばせば身体に触れる、そんな距離まで。
近づいたことで、リナの香りが強くなった。少し甘い、清潔感のある香り。
「お、思ってる」
女の人とこんな風に話したことがないからか、緊張する。
「あなたに想い人はいる? 抱きしめたい、キスをしたい、大切にしたいと思う人は?」
「いない。キスは今日……生まれて初めてした」
リナから見た僕の顔、真っ赤なんだろうな。
「そう、私も初めてよ。私が口づけをして、死ななかった人間は……」
言い終わる前にリナが僕にキスをした。ファーストキスよりも優しいキスだった。
「……どうして?」
訳が分からない。リナが僕にキスする理由は何なんだ?
「フランスの女は気まぐれなのよ。それじゃ、おやすみ。よい夢を」
リナはそのまま振り返ることもなく、部屋から出て行った。顔を真っ赤にした僕を残して。
――その頃、彼女はビッグ・ベンの上に立っていた。時計台から眼下に広がるロンドンの街を見下ろす。
全身黒装束の彼女の姿に気付く者は誰もいない。
「あなたの命ずるままに……」
ぼそりと呟くや否や、彼女の姿は消え去った。




