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レイ・チェンバースは悪夢を見ない  作者: ネジマキピエロ
[第二章]善と悪の境界線
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顕現

 指一つ動かせない状態の僕に抵抗する(すべ)はなかった。


「目を閉じて」


 リナが僕のまぶたに手を掛け、そっと両目を閉じさせる。


 何も見えない。見えなくなった分、互いの唇が触れている感触がよりはっきりと感じるようになった。


「そろそろよ。痛くないから安心して……」


 リナの声がどんどん遠くなる。それに加え、眠りにおちるような感覚が僕を襲った。

 眠っちゃダメだ、ここで眠ったら死んでしまう。頭では分かっているのに抵抗できない。キスの感覚もどんどんぼやけていく。


 もう……いいかな。昨日から色々あって疲れたし、眠っても――


『我はマモン。我の見定めし者を救済すべく顕現す……』


「キャーッ!!」


 聞き覚えのある、自己主張の強い話し方が聞こえた途端、リナの唇が離れた。

 同時に頭の中にかかったモヤが晴れ、さっきまで眠かったのが嘘のように五感が冴え始める。


 マモンがいるのか? またあの異世界に飛ばされたんだろうか?

 確認したくても目は開かず、話す事も出来ない。リナの拘束はまだ継続しているらしい。


『我はマモン。汝はアスモデウスの指先……色欲に溺れる堕天使の指先』


「どうして人間界に悪魔が存在するの!? 悪魔はもう人間界に存在できないはず!」


『その問いに答える我はマモン。我の司る大罪は強欲……欲深きゆえに人の世に姿を現す事をも望む。我は強欲……望みを叶える事は容易い』


「人間界まで来た望みは何なの!」


 リナの声色が震えている。よっぽどマモンの姿が恐ろしいんだろうか?

 そういえば以前、僕がマモンに会った時は暗闇の中だったから姿を見てない。やっぱり悪魔だから気持ち悪い、おぞましい姿なんだろうな。


『その問いに答える我はマモン。そこの者は我が契約せし指先……我の友であり、我の王であり、我の所有物。我は強欲……ゆえに指先を奪う(やから)を排除せねば』


 パチンという音が聞こえた途端、僕は前のめりに地面に倒れた。どうやら身体の拘束が解けたらしいが、変な重心で立っていたらしく自由になると同時にコケてしまったようだ。


「……痛い」


『汝に詫びる我はマモン。要らぬ事をしてしまったようだ……』


「いや。助かったよ、マモン」


 お礼を言おうと周りを見渡すが、リナ・グレイグースがへたり込んでいるだけで他に誰もいない。異世界に飛ばされた訳でもなく、さっきまでと同じ景色が広がっていた。


『ありがたきお言葉を頂いた我はマモン。さあ……選ぶのだ。この悪魔の手先……アスモデウスの女を如何(いか)に葬るかを』


 悪魔の手先って。お前も悪魔だろうと突っ込みたいが、そうしたところで屁理屈を言われるんだろうな。我はマモン、なんたらかんたら……って。


「ふう」


 ため息をついてリナを見た。僕と目が合うなり、リナの顔が恐怖で曇る。




「……マモン、いいんだ。もう自分の世界に帰ってくれていいよ」


『我はマモン。汝の願い……聞き届けた。忘れるな……我は常に、汝と共にある』


「ありがとう、マモン。でも今の言葉はストーカーみたいだぞ」


 ……返事がない。もう居なくなったらしい。マイペース過ぎて調子狂うんだよな。




「ありがとう。殺されるかと思った」


 リナが僕に礼を言う。


「聞きたい事があるから殺さなかった。ただ、それだけだ。もし満足のいく答えが得られなかった場合、マモンの手を借りずに僕の手で殺してやる」

出ましたマモン!

人間界に悪魔は存在できないらしいのですが、どうやって出てきたんでしょうか?


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