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九十九話 エピローグ

 ゼファール国王であるヴァハフントが執務を行う机の上に、一束の報告書があった。椅子にはヴァハフントが腰掛けており、机と報告書を挟んだ対面には騎士団長のオルグと、海軍大将であるシーザーが並んで立っている。

 海軍大将とは、この国が持つ海軍の最高指揮官である。横に居るオルグよりも歳は上だろうか、五十に届くかどうかの初老の男である。年齢を感じさせない鍛えられた体と、強面の顔からはただならぬ威圧感が感じられる。


 そのシーザーに向かってヴァハフントが口を開いた。


「シーザー、そなたからの報告書は読ませて貰った」

「はっ!」


 国王からの言葉にシーザーは直立不動のまま短く応える。


「ここ半年ばかり近海を荒らしていた海賊が壊滅出来た事は喜ばしいな。しかし、その立役者が旅人である少年だというのは頂けんな。幾度となく軍を繰り出しておきながら近場にあった奴らの拠点を見つける事が出来なかった事は怠慢と言わざるを得まい」


「仰る通りでございます」


 国王からの叱咤をシーザーは一切反論することなく受けた。現場の指揮官である男が職務を怠慢していたことは事実であり、それによって一般兵の士気が低かった事が理由であると調査の結果分かったのだ。


「全て我が輩の目が行き届いていなかった故の事。申し開きもありませぬ」


 エリシオールから一報が届いて直ぐにシーザーは街へと査察官を派遣し状況把握に努めた。結果として腐る元となった男を更迭し、今回活躍したメゼルを部隊長へと昇進させたのだった。

 シーザーは処罰されることを覚悟していた。一兵士ならいざ知らず、部隊長クラスの失態に気付けなかった事は軍を統括する自分の責任であるのだから。

 だが、国王から掛けられた言葉は彼の予想とは反対の内容だった。


「とは言え、まさか海に潜行出来る船とは誰も予想は出来まい。今回のような事が無いよう現場の管理をしっかりと行うようにな」


 まさかお咎めが無いとは思っていなかった。シーザーは一瞬言葉に詰まったように息をのんだが、すぐに深く頭を下げた。


「はっ! 民の安寧の為今後一層励みます」

「うむ。そしてオルグよ」


 ヴァハフントはシーザーからオルグへと視線を移し、オルグの名を呼んだ。


「はい陛下。私は何故この場に呼ばれたのでしょうか?」


 話を聞く限り、海賊絡みの事件であったようだし、内地を担当しているオルグは何故この場に自分が呼ばれているのだろうと疑問に思っていた。


「うむ。この海賊を壊滅させるきっかけとなった旅人という一行の中にな。予の見知った名前を見つけたのだよ」


 そう語るヴァハフントの顔はどこか楽しげであった。


「お前の息子で確か学園に入っている者がいたな?」


 国王の言葉に、オルグはそういえばと思い出す。


「末の愚息が友人達と供に海へと行くと言っておりま……したが、まさか?」

「うむ。海賊を倒し村を守ったという一行の中に、ランバート・セグロアという名前があるのだよ。そして、半年前にユグドラルへ国賓として招かれたミリア・ナックスとアレクという名もあるな」


 オルグは自分の息子の名が呼ばれた事に驚く。


「あいつは何をしてるのだ……。それとミリア殿は存じ上げておりますが、アレクという名は有り触れております故、誰か分かりかねるのですが」


「アレクという少年は一年半前に盗賊団によって滅ぼされたロハの村での生き残りだ」


 オルグもユグドラルへと招かれた二人の名は見知っていた。しかし、まさかロハの村での生き残りであるアレクと同一人物だとは思っていなかった。


「おお、あの少年ですか。そうですか、学園を目指すとは言っていましたが無事に入学しておったのですな。しかし、たった一年で妖精に認められる程になっているとは」


 懐かしい名に、オルグは一年半前に数日間だけ供に居た少年を思い出す。

 しかし、ただの村人であった少年が、一年後には妖精に認められユグドラルへ招待されたという事に驚きを隠せなかった。

 そんなオルグの心中を察したのか、ヴァハフントも頷いて口を開く。


「うむ。ただの村人が学園に入学出来た事も信じられんがな。入学して僅か半年で最年少魔導師であるミリアに弟子入りしたそうだよ。そして一年足らずであの気むずかしい妖精に気に入られた」


 そしてアレクとミリアによって思いがけない成果が得られた。決して一定より交流を持とうとしない妖精族のほうから、お互いの医療に関する交流を持とうと持ちかけてきたのである。妖精族が得意とする薬学を知る事が出来れば、国内においての病気による死亡率を減らすことが出来ると期待されている。


「ユグドラルとの一件に次いで此度の海賊討伐……あの少年は予の予想外の事を起こしてくれる。興味深い少年よ」


 どうやらヴァハフントの興味を引いてしまったようだ。次は何をしでかしてくれるのだろうと年甲斐も無く心が躍る。


「アレクは有能な魔法使いだと聞く。直ぐにでも魔導師の称号を得るだろうな。その際には功績に応じて爵位でも与えてみようか」


 国王の呟きにオルグとシーザーは顔を見合わせるのだった。




 王城でそんな話がされている頃、アレクは学園の研究室で使い魔の実験を行っていた。

 およそ半年に及ぶ研究の末、やっと実現が出来そうなところまで来たのだった。


「えっと、紙に書いた陣の上に魔物の魔石を置いてっと――」


 準備を終えたアレクは、紙に描かれた陣へと魔力を込める。程なくして、置かれた魔石を中心に周囲の土が集まり、何かの形を造成してゆく。

 やがてそこには土塊で出来た獣が一体佇んでいる。見た目は正直言って酷い。狼のつもりで作ったのだが、四足獣だということしか分からず何の動物かは判別がつかない。

 だが、それでも一定の成果が出たことにアレクは喜んでいた。


「陣に書き込んでいる古代語ルーンが不完全なんだろうな。もう少し改良を加えないと人に見せられる物にはならないか」


 不完全ではあったが、半年掛けた研究の成果としては十分だった。これでアレクの考えていた理論が証明出来たからだ。


「やっぱり、どんな形になるかは魔石が鍵なんだな。蛇の魔物から取った魔石なら蛇型が出来るし、狼の魔物だと四足獣だった。だとすると、魔物の体内に魔石が作られるんじゃなくて魔石に応じて魔物が形成されているのかもしれないな」


 独り言を呟きながらアレクは新たな紙に古代語を書き加えていく。

 この学園を卒業するまで残り数ヶ月を残すだけとなっていた。果たして卒業までに完成させられるのだろうかと思いながらもアレクは研究を進めていく。

 ちょうど一区切りついた所で、部屋の扉がノックされた。


「アレク君居る? そろそろお昼だから一緒に食べない?」


 どうやらフィアが訪ねてきたようだ。あの夏以降、フィアとの関係も良好だった。ミリアとフィアの二人が同じ秘密を共有している状態である。


「うん、今片付けたら出るよ。少し待ってて」


 アレクは外で待っているであろうフィアに声を掛けると、目の前に佇む使い魔もどきから魔石を抜き取る。するとあっという間に形が崩れて土の山に戻ってしまう。

 アレクはそれを一瞥すると、手を洗い服が汚れていないかを確認してから扉を開ける。


「おまたせ」

「ううん。今日は何を食べようかしら」


 廊下を並んで歩く二人の手はしっかりと繋がれていた。既に二人が付き合っている事は周囲に知られているので遠慮することも無くなっていた。

 学園に入る時には一人きりになってしまったアレクだったが、王都へとやってきて学園に入った事でミミルやティルゾのように親身になってくれる親代わりも出来た。ミリアやフィアのように自分の秘密を知りながらも供に歩んでくれる人も見つけることが出来た。


 これからの長い人生において、様々なことがあるだろう。しかし、一人では無いという事でこれほど幸せな気持ちになれるのだなとアレクは心から思うのだった。

次話から章が変わります。ここまでお読み頂きありがとうございました。

【お知らせ】

不死王の嘆きの二巻が12月25日に発売されるらしいです。

詳しくは活動報告をご一読下さい。

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