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九十六話 海賊討伐3

「海賊です! 村の人は丘の上の空き家へ非難してください!」


 村へと辿り着いたアレクは声の限り叫びながら、海辺の桟橋へと向けて走る。だが、突然の事に思考が追いつかないのか、村人はアレクを追って桟橋の方へと集まってきてしまう。その村人の行動に思わず舌打ちをしたくなってくる。そんな中、剣を片手に兵士らしき数人がアレクを見とがめて行く手を塞いだ。


「おい! 何の騒ぎだ? さっきの爆発はお前の仕業か」

「丘の上から怪しい船が桟橋へ着くのを見たんです! 見張りの兵士が倒れるのも見ました」


 敢えて爆発には触れずに端的に事情を説明する。見張りの兵士が倒れたという言葉に、寝起きの兵士達は顔を見合わせてどうしたら良いか思案しているようだ。


「とりあえず様子をみてみよう。おい!二人ほど俺と付いてこい、残りは念のため村人の誘導だ」

「ちょっと! 相手は五人以上は居ます。二人や三人で向かうのは危険過ぎます!」


 アレクが注意を呼びかけるが、兵士は聞く耳を持たずに桟橋へと向かって行ってしまう。残った兵士が三人程で村人がこれ以上桟橋に近づかないように指示を出しているが、海賊が襲ってきている事を信じていないのか緩慢とした動きである。



 桟橋へと向かった兵士がいくら腕が立つとしても、七人の海賊相手に勝てるとはアレクには思えなかった。恐らく相手には魔法使いも数名居るだろう。信じて貰えない現状に苛立ちばかりが募る。

 桟橋の方からは物音一つせずに、海賊と兵士が戦っているような気配は感じられない。だが、様子を伺っているアンによって、既に向かった兵士三人も殺されたとアレクは知っていた。海賊は恐ろしく腕の立つ相手のようだ。まるで暗殺者のように闇夜に姿を隠して物陰からの首への一撃だった。


(まずい。残った兵士はここにいる三人だけ。どうやっても海賊を足止め出来そうな腕じゃない)


 アンから海賊がこちらへ忍び寄って来ていると報告を受けつつ、アレクはどうしたら良いか考え続ける。だが、考えている間もなく近づいてきた海賊が弓をこちらに向けているのが見えた。


「海賊だ! 《フラッシュ》」


 兵士の一人に向けて弓を構えていた海賊に対し、激しい光を放つ魔法で強力な光を生み出して目つぶしを行ったアレク。海賊は突然の光に目をくらませつつも矢を放った。近くの建物の壁に刺さった矢を見て、村人はやっと海賊が本当に襲ってきたのだと理解し、悲鳴を上げる。


「早く丘へ皆を連れて逃げてください!」


 我先へと逃げ、蜘蛛の子を散らすように逃げる人々に向けて再び叫んだアレクは、海賊を足止めすべく自らの背後に土の壁を横一線に生み出す。


「ほう、魔法使いか。これだけの土壁を一息に出すなんざ並の術者には出来ねぇ芸当だ」


 気付かれ、村人が逃げ出してしまったが故に身を隠す必要が無いと判断した海賊が物陰から姿を現した。アレクの背丈ほどの土壁のこちら側には、アレクと七人の海賊が対峙する格好となった。


「村の奴らを逃すために自らを犠牲に……か。英雄志望か知らんが、そんな事だから短い生涯を終える結果になるんだとあの世で後悔しな!」


 海賊の頭目らしき男がそう言い捨てて笑うと、残った海賊達も下卑た笑い声を上げる。油断してくれるのならば幸いと考えたアレクだったが、数人の弓が自分へと向けられていて下手に動くと即座に急所を貫かれるだろう事は容易に理解できた。


「この周辺を荒らし回っていた海賊ですよね? 何故こんな何もなさそうな漁村を狙ったんです?」


 アレクは時間を稼ごうと頭目を睨み付けながら語りかける。フィアから話を聞いたミリアであれば、こちらに向かって来てくれるだろうと考えてのことだ。そんなアレクの思惑に気付いているのか、頭目は面白くなさそうに唾を吐き捨てて一言だけ答えた。


「アジトを手放さないといけなくてな。国へ帰る駄賃と腹いせに奪ってやろうと思っただけだ。――やれ!」


 頭目の合図によって、アレクへ向けて二本の矢が放たれる。回避する間も無く、矢はアレクの肩や太ももに突き刺さった。矢を受けて地面へと倒れ込んだアレク。致命傷には程遠いが、これで逃げることは出来なくなった。そんなアレクを見て頭目は部下に指示を出す。


「さっさと殺して金目の物を奪うぞ。海軍の奴らが追ってくるだろうから長居は禁物だ」


 アレクへのトドメは頭目が行うのだろうか、真っ直ぐ近づいてくるのは頭目だけで、他の六人はアレクを迂回するように移動し始める。だが、矢を受けた脚を引きずりながらも立ち上がったアレクに海賊達は警戒の色を強めて立ち止まる。


「残念ながら、もう二度とあんな光景を見るのはゴメンなんだよ。《眷属召喚》!ツヴァイ、ドライ!」


 アレクは周囲から村人が全て居なくなったのを確認して眷属召喚を行う。もう二度とロハの村のような悲劇を生み出さない為にも全力で戦う事を覚悟したアレクによって、骸骨騎士たる二体のスケルトンが呼び出される。


「ひっ! 化けもの!」


 アレクを囲んでいた海賊の喉から怯えの含んだ声がもれる。召喚された二体のスケルトンは近くにいる海賊へとそれぞれ襲いかかると、恐怖からか剣を闇雲に振り回しているだけの海賊の一人を槍で一刺しにした。致命傷ではないが重い傷を負った海賊は戦線離脱を余儀なくされる。

 これで海賊の残りは六人に減ったが、頭目の男は直ぐさまアレク達から距離を取ると、部下へと指示を出す。


「二人で一匹を抑えろ! 片方を三人であたれ! 俺はこの餓鬼を抑える」


 初めて見る異形の者に対峙した割に肝の据わった男である。長年海賊として修羅場をくぐって来ただけあって、剛胆な性格をしているようだ。確かに二人がかりであれば、ツヴァイとドライを抑える事も可能であろう。更に三人が相手となれば、流石に倒されてしまうかもしれない。だが、アレクとしても黙って倒されるまで待つつもりは無い。


「《眷属召喚》、《リッチ》!」


 頭目の男はアレクへと視線を戻し激しく舌打ちをした。これ以上訳の分からない化けものを呼び出されてしまうと勝ち目が無くなってしまうと即座に理解した。急いで魔法を唱えてアレクに放とうとした頭目であったが間に合うはずも無い。

 既に召喚は行われた。膝立ちのアレクの両脇に二人の子供が姿を現したのだ。


「「ご主人様。リッチの姉弟、ただいま参上!」」


 元気の良い声で名乗りを上げたのは、黒髪黒目の十歳程度の双子のように似たような顔立ちの少女と少年だった。漆黒のローブを着て、その腕には背丈の倍はありそうな巨大な鎌を担いでいる。スケルトンに比べると随分と可愛らしい顔立ちで、どんな化けものが呼び出されるのかと覚悟していた海賊達からすれば拍子抜けもいいところだった。


「へっ。そんな餓鬼二人が加わったところで怖くもねぇ!まとめて魔法で吹き飛ばしてやる」


 頭目はそう吐き捨てるように言うと、魔法の詠唱を始めた。それに対して双子の姉弟は不快感を露わにして頭目を睨み付ける。


「ちょっと! むさいおっさんが言うに事欠いて可憐な少女に何てこと言うの! 少しお仕置きが必要みたいね。《ファイアアロー》」


 双子の姉が可愛らしく怒りながらも《ファイアアロー》を詠唱破棄で唱えると、頭目へと火の矢を飛ばす。詠唱途中だった頭目は慌てて火矢から身を躱すと、驚きの声を上げた。


「馬鹿な、詠唱破棄だと!? こんな餓鬼がか!」


「ふん! 私は偉大なるご主人様から作られたのよ。ご主人様には及ばなくとも詠唱破棄くらいは当然よ!」


 腰に手を当て、海賊の頭目へと指を向けつつ言い放つ。自慢げにその小さな胸を張る少女を忌々しげに睨み付ける頭目。この間に、弟の方がアレクに刺さった矢を抜きつつ魔法で治癒を試みる。


「《リカバリー》――姉さん、そいつらはご主人様に傷を負わせた者達です。一切の慈悲無く、可及的速やかに倒して下さい」


 淡々と冷酷な台詞を呟く弟の言葉に、姉の方は肩をすくめながら次々と魔法を放ち頭目の男を牽制していく。やがて傷が癒えたアレクは立ち上がると、未だツヴァイとドライを足止めしていた海賊に向けて魔法を放ち、均衡を破る。一旦均衡が崩れるとツヴァイ達によって海賊はあっさりと切り捨てられ残るは頭目一人となった。


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