九十七話 海賊討伐4
「さて、貴方には色々と尋ねたい事がありますからね。出来れば投降して欲しいのですが」
海賊船に、まだ三人ほど残っているのは知ってはいたが、頭目が一番情報を握っているであろう。アレクは眷属四体で頭目を取り囲むように陣取らせた。頭目は忌々しげにアレクを睨み付ける。だがその目は油断なく周囲を伺っており、隙あらば逃げようと目論んでいるのが分かる。
頭目の男は逃げる隙は無いと判断したのだろう。手に持った剣でアレクへと斬りかかろうとしたがツヴァイにあっさりと阻まれてしまう。横からドライが斬りかかり胴を大きく切り裂く。男は悲鳴を上げて暴れていたが、次第に動きが小さくなり息絶えた。
「えっと。姉の方の名前がキャトル。弟の方がフュンフェ……でいいかな? 港に海賊船が停泊している筈だから制圧してきて。船と荷物への被害は極力抑えてくれると助かる」
アレクはひとまず《リッチ》の姉弟へと名前を付けると、二人に海賊船に残る船員を押さえるよう指示した。相変わらずひねりの無い名前だが二人は文句を言わずに頷くと大鎌を担いでいるとは思えない速度で港へと駆けていく。身体強化の魔法を唱えているようには見えず、元から能力が高いのだろう。
「あの二人なら例え船に残っている奴が全員魔法使いでも十分勝てるだろう」
そうしている内に、丘の上から応援に駆けつけたのだろう、息を切らせながらミリアとフィアが土壁を乗り越えてアレクの下へとやってきた。
「アレク君!」
心配したのであろう。アレクが無事であると分かったフィアがアレクに抱きついてくる。アレクはそれを受け止めながら、状況を把握しようとしているミリアへと視線を向けた。
「先生、海賊達で生き残りがいたら捕縛しておいてください」
「わかったわ。……とは言っても殆ど死んでるけどね」
ミリアはそう言うと周囲を見渡す。周囲には海賊が全て屍を晒していた。いずれにしろ眷属を見られたからには生かしておくわけにはいかなかった。もし衛兵に突き出した際に眷属のことを喋られでもすれば国に報告されてしまうのだから。
何度かアレクの眷属を見てきたミリアはツヴァイ達を見ても全く動じることは無い。だが、フィアはそうは行かなかった。アレクから離れ、やっと周囲の状況に気付いたフィアはスケルトンを見た瞬間、声も無く驚きアレクへとしがみつく。
「――!?」
思わず剣を向けそうになたフィアの腕をアレクが押さえる。恐怖に怯えるフィアにアレクが簡潔に眷属の事を説明する。
「フィア、あれは僕の作り出した魔法生物なんだ。敵じゃ無いから安心して」
「あれがアレクくんが前に言っていたもう一つの秘密?」
僅かに怯えの含んだ声で呟いたフィアではあったが、アレクの能力で呼び出した者ならばと気持ちを落ち着かせる事が出来たようだ。未だスケルトンに対し怯えているフィアへアレクは骨狼のアインを見せる。人骨は怖くとも小さなアインから慣れさせれば平気かもしれないと思っての事だ。
「え? これも眷属なの。……ちっちゃくて可愛いね」
アインへと意識が移り、フィアから怯えの色が消えるのを見計らってアレクはミリアとフィアに状況を説明した。海賊船も今頃は制圧しているはずだと説明すると、ミリアは海岸へと視線を向けながら溜息を吐いた。
「まったく。アレクが居なかったらこの漁村は滅ぼされていたわけね」
ミリアは海軍の手落ちに呆れているようだ。そして周囲に転がっている海賊の生死を確認して回る。話をしている内に僅かに息があった者も息絶えたようだ。
全員の死亡を確認すると、アレクはスケルトンの召喚を解除し消滅させる。海賊を見張る為に残しておきたいのだが、万が一戻って来た村人やランバートに見られると説明が面倒になるからだ。
「さて。これで大丈夫かな。海賊船がどうなったか心配だから様子を見に行かないと」
ミリアとフィアを伴って桟橋まで向かうアレク。道すがらランバートとエレンはどうしたのかと訪ねると、二人は逃げてきた村人を守って丘の上に残ったのだとミリアが説明した。
「ランバートとエレンには眷属の事は秘密にして欲しいな。あまり人に知られたく無いものだし」
アレクは簡単に眷属についてフィアに説明を終えると、そう言って口止めをお願いした。卒業後は自分と共にありたいと言ってくれるフィアや、師匠であるミリアは兎も角。卒業後は国へ所属するであろう二人には知られたくないとアレクは思っているのだ。
あの海賊達が潜水艇をどのようにして入手したのか。そして仲間が他に居ないか尋問する必要があったが、恐らく船の方に残った海賊も全て死んでいるだろう。
そんな会話をしている内に、三人は桟橋へと辿り着いた。
「ご主人様~。海賊船の中に居た奴らを全員倒しました! 制圧完了です!」
桟橋でアレク達を出迎えたのは、《リッチ》姉弟の姉であるキャトルだ。肩に担いでいた大鎌はどこにも無く、初めてキャトルと会ったフィアとミリアが「こんな子供が何故ここに?」と呟くのも仕方の無い状況だ。
桟橋の奥には停泊している海賊船。そしてその横には海賊らしき三人が血まみれで息絶えていた。その横にはフュンフェが立ち死んだ海賊達を冷たい目で見下ろしていた。
「思っていたよりも人間とは脆弱なのですね。ご主人様に敵対した以上は、その命で償うのは当然です」
フュンフェはそう呟きながら、倒れている海賊の一人を足のつま先で軽く小突く。
そんな眷属の態度にアレクは僅かに眉をひそめる。だが、自分が創り出した以上は性格を決定した要因が自分にあるであろうと思うと、複雑な気分になる。
「この子達もアレク君の眷属なの? ますます興味が湧くわね」
リッチの姉弟を見て、ミリアはそう呟いた。傍目にはいつもの無表情を保っているように見えるミリアだが、新たな眷属に研究者としての血が騒いでいた。
「さて。村人が戻ってくるといけないから二人は一旦戻って」
そんなミリアに気付くことも無くアレクはリッチの召喚を解除した。
「これで、夜が明けたら村人の誰かにエリシオールまで走って貰おうか。もしかすると、海軍が海賊を追って近くまで来ているかもしれないしね」
「そうね。私たちも疲れているし、この村の衛兵に周辺の見張りは頼みたいわね」
アレクの提案にミリアが応える。すでに夜中に近い時間であり、ずっと移動してきたアレク達は疲れが溜まっていた。アレクとフィアは頷くと村の広場へと向かうのであった。
広場では、丁度丘に村人を連れて避難していた衛兵が戻ってきていたようだ。アレク達が居なかったのでどうなったのか分からずに右往左往していた。
「ああ。丁度よかった。海賊船の制圧も終わりました。兵士の方には後始末をお願いしますね」
アレクの言葉に衛兵達は文句を言えるわけも無く後始末を請け負ってくれた。
高台へ避難していた村人へ状況を説明すると、村長を初めとした全員が喜んでくれた。海賊による被害は、見張りの衛兵が五名殺されたが、村人には被害は無かった。
「アレク君! 大丈夫だった? ちょっと服に血が付いてるじゃない!」
村人と一緒に村まで降りてきたエレンは、所々が血で濡れた状態のアレクを見て悲鳴を上げる。
「大丈夫だよ。怪我といっても大した事ないし既に治して貰ったから」
エレンを安心させようと、アレクは殊更明るい声で答える。一緒にやってきたランバートもアレクが無事であることに安堵したようだ。
「しかし、これだけの人数の海賊を一人で倒すなんてな。国から報償を頂けるんじゃないか?」
ランバートの言葉に、アレクは意味が分からず首を傾げる。ランバートの説明によると、盗賊や海賊などによる被害を未然に防いだり、大きな被害が予想される魔物を討伐した際に国や領主から報償が下賜される事があるらしい。
「海賊といっても十人程度だよ? そんな程度を倒したからって報償なんて……」
元より村人達の安全のために行った行為であり、報償が欲しい訳でもない。アレクはそう言ってランバートの言葉を否定した。仮に報償の話が出たとしても断るつもりであった。
そんなやり取りをしている内に、衛兵は初めに殺された二人の仲間を海から引き上げたり事後処理を行っていたようだ。桟橋に係留してある海賊船にも念のため見張りを立て、積み荷を盗られないようにするとアレク達へ連絡があった。
「じゃあ僕達は丘の上の空き家へ戻ります。何かあればそこに連絡ください」
アレク達はその兵士へ告げると村から離れた。流石に深夜を過ぎた事と、最初に見張りをしていたフィアは眠そうにしている。
丘の上にある空き家へと戻ったアレクとフィアは、商人のリコ達への説明をミリアにまかせて横になるため毛布へとくるまる。緊張から解放された二人は直ぐに眠りへと落ちていくのであった。




