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輪廻転SHOW!魔王の息子  作者: 月のそうま
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実験体なのです

『烏賊蜘蛛竜』が突撃する姿は、まるで空を飛んでいるようにも見える。

超低空を蜘蛛足を動かし移動する様は翼をはためかせた竜人のようだ。

アールタイルは『烏賊蜘蛛竜』を悠長に待ったりしない。

相手の突撃に合せて自らも突撃をかける。


「ぬおりゃあああっ!」


正面から屈服させてやるとばかりに大剣を上段から落とす。

『烏賊蜘蛛竜』は間合いに入る瞬間、その蜘蛛足をたわませて頭上に跳ぶ。

そのまま顎を開いて、丸呑みにしてやるつもりで頭から落ちる。


「させませんっ!」


ムースが用意していた氷の矢の魔法を放つ。

『烏賊蜘蛛竜』は跳んだことで、自由落下に任せるしかない。

だが、氷の矢を烏賊触手で弾く。

アールタイルは無理矢理な体勢のまま大剣を斬り上げに変化させる。

『烏賊蜘蛛竜』の顎先をジャリッ!と大剣でかちあげる形になる。

アールタイルの目の前に『烏賊蜘蛛竜』が着地、アールタイルはそのまま大剣をもう一度振り落とす。


「もらったあああ!」


だが、着地と同時にもう一度開かれた顎の奥、そこに爆ぜる炎が見えたと思うと、ブレスが吐き出される。

瞬間の反応でアールタイルが横に転がり、ギリギリで致命傷を避ける。

アールタイルの鎧が熱に耐えられずボロボロと肩と腰の辺りを露出させる。

『烏賊蜘蛛竜』がそれを追うように体勢を整える。

アールタイルが反撃で出した大剣による横薙ぎの一閃は虚しく空を斬る。

『烏賊蜘蛛竜』はそれを嘲笑うように瞳を細めると、鱗に覆われた本来の足で立つ。

烏賊触手が左右からアールタイルを襲う。

アールタイルは左からくる触手を無視して、右の触手を斬りにいく。

捨て身で放った斬撃は右の触手を斬るが、左の触手がアールタイルの左胴に張り付く。

吸盤によって張り付いた触手がアールタイルを持ち上げると、そのまま地面に叩きつけた。


「ぐはっ……!」


衝撃に息を詰めて、アールタイルが耐える。

しかし、そこで終わりではない。

『烏賊蜘蛛竜』は更にアールタイルを持ち上げる。


「……風薙の刃!」


振り上げた烏賊触手は半ばからムースが放った真空の刃に切断される。

アールタイルはどうにか空中で身体を捻って、受け身をとる。

『烏賊蜘蛛竜』がムースを見る。

どうやら、こちらが脅威だと感じたようだ。

蜘蛛足を伸して、身体を横に倒す。突撃の姿勢だ。

ムースは次の詠唱を続けながら、そちらに注意する。

灰魔法の便利なところは、魔法力を流す感覚さえ掴めば、集中が必要無いというところだ。


「マナよ集いて、切り裂く風の剣となせ!……風、はっ……!」


ムースが全てを言い切る前に、言葉を止めて横っ飛びに身体を転がす。

そこを『烏賊蜘蛛竜』の炎のブレスが通り過ぎる。

避けられたと知るや、蜘蛛足を忙しなく動かして『烏賊蜘蛛竜』が突撃を敢行しようとした瞬間、身体を横から蹴り飛ばされる。

アールタイルだった。大剣を振る間も惜しいとばかりに、身体を起こしながら走り込み、蹴りを放ったのだ。


「きしゃあああっ!」


鬱陶しいという風に『烏賊蜘蛛竜』がアールタイルに叫ぶ。


「貴様の相手は……俺だっ!」


左手一本で大剣を引き摺りながら、アールタイルが叫ぶ。

右手は最初に喰らった顎の一撃とブレスによる火傷でかなり悲惨な見た目になっている。叩きつけられたのも効いている。


『烏賊蜘蛛竜』はもう一度二足で立つと、蜘蛛足を大きく拡げて威嚇する。

一人と一匹の距離は、ほんの二歩で間合いに入るほど近い。

アールタイルは気合い一発、「ふんぬああぁっ!」と叫ぶと、左手一本で大剣を構えた。


「来いっ!ぶち殺してやるっ!」


『烏賊蜘蛛竜』は二本の烏賊触手と左の蜘蛛足二本を失っている。顎の傷は大したことはない。

ほんの二歩、その間合いをお互いに大きな一歩で詰めて、息が掛かる程の接近戦になる。

アールタイルは動かないはずの右腕を動かして、蜘蛛足の一本に自ら刺さることで、一本を封じる。

左手の大剣は柄で細かく蜘蛛足の爪を防いだ。

『烏賊蜘蛛竜』が顎を開こうとすれば、その鼻先に頭突きを入れる。

一瞬、『烏賊蜘蛛竜』がたじろぐ。

その隙を逃がさず、アールタイルはさらに一歩、『烏賊蜘蛛竜』の二足の間に足を入れ、膝蹴りを見舞った。

たたらを踏んで、『烏賊蜘蛛竜』が下がる。

瞬間、大剣が振り下ろされる。

蜘蛛足が防御するように前に出され、上から二本の蜘蛛足が切断、三本目で止まる。

『烏賊蜘蛛竜』の顎が開かれる。

ブレスにはある程度のタメが必要なのか、それまでよりも明らかに火線が細い。

アールタイルは首を曲げ、身体を捻って火線を躱す。

それでも、左耳は一瞬で炭化した。

だが、アールタイルの瞳は生気を失うことなく次の攻撃手段を探していた。

しかし、『烏賊蜘蛛竜』とてそれは同じことで、残った蜘蛛足がアールタイルに向けて突き出される。

アールタイルの左から一本、これをアールタイルは足甲で滑らせてガード。

右三本目にはアールタイルの大剣が半ばまで埋もれているため、そのまま押し込んで動かせないようにする。

右四本目、これは防ぎようがない。

耐えるしかないと、アールタイルは腹に力を入れた。


「ぐっ……」


だが、そこに割り込んだのはムースだった。

身を呈して蜘蛛足の一本がムースの背中に刺さる。

驚いたのはアールタイルだ。


「なっ……!ム、ムースっ!」


ムースは元々、後衛専門で、だからこそ動き易いように防具もローブとポイントだけを守る部分鎧程度の装備しかない。

割り込めばどうなるかは、ムースが一番知っているはずだった。


「何故だ……」


それにムースは答えることなく、代わりにこんなことを言った。


「……生命のマナよ、彼の者に光を……治癒ヒール……」


ムースは意識を魔法力の流れに集中する。

アールタイルの負傷は激しい。

今のムースにどこまで治せるかは分からない。

しかし、アールタイルの力がなくては、この『烏賊蜘蛛竜』は倒せない。

だから、ムースは託すことにしたのだ。

自分のギリギリまでの魔法力を全てアールタイルの治癒に傾ける。


アールタイルの背中の肉が盛り上がって、刺さったままになっていた蜘蛛足が落ちる。

腹や腰の火傷が急速に治癒していく。全身に痒みが走るのを耐える。

だが、アールタイルが何より驚いたのは右腕だ。

もう感覚がほぼなくなっていた右腕が熱い。

刺さっているはずの蜘蛛足が押し出されていくのが分かる。

同時に戻っていく右腕の感覚。

拳を作る。そこには確かに拳の感覚があった。


慌ててアールタイルは右腕でムースを支える。

ムースからずるりと何かが抜ける感覚。


「……あと、お願いします……ね……」


ムースはそれだけ言って、目を閉じると全身から力が抜けていく。


「ムースっ!」


アールタイルは力が戻った右腕でムースをしっかりと掴む。

はたと見ると、『烏賊蜘蛛竜』が後ろに飛び退いていた。


こちらを睨む『烏賊蜘蛛竜』にアールタイルも視線を返す。

攻撃してこないのは、ブレスのためのタメ時間だろうか。

アールタイルは『烏賊蜘蛛竜』を睨みながら、ムースをゆっくりとその場に寝かせる。

ムースは魔法力を使いきったため、その場で気絶していた。


アールタイルは両手で大剣を構えると、じりじりとムースから離れる。

『烏賊蜘蛛竜』も倒れたムースは後でいいと思っているのか、アールタイルの動きに合わせて、少しずつ身体の向きを変える。


『烏賊蜘蛛竜』が膝を曲げて、突っ込む姿勢を見せる。

アールタイルも同様に大剣を掲げて、今にも走り出さんばかりになる。


「……まさか、もう一度右腕が使えるようになるとはな……アイツの黒い剣以外にも秘密があるとは思わなかったが……今は驚いている場合じゃねぇ……コイツを殺してから、ゆっくりと驚かせてもらうぜ……」


アールタイルはブツブツと呟きながらも、意識は『烏賊蜘蛛竜』から外さない。

『烏賊蜘蛛竜』もただブレスを吐いたところで当たらないと知っているためか、動けずにいる。

知性は無いが、知能がゼロという訳でもないようだ。


アールタイルは前に出ようとフェイントを掛ける。

反応した『烏賊蜘蛛竜』は前に出た。

それがフェイントだと知ったところで今さら戻れない。

さらに距離を詰めて接近戦になる。

顎を開いて、ブレスと見せ掛け、アールタイルが大きく逃れたところに蜘蛛足で突き刺しを決めるつもりだ。


アールタイルは顎が開く瞬間、『烏賊蜘蛛竜』の下に潜り込む。

左右から蜘蛛足が襲ってくる。

アールタイルは避けも弾きもしない。ただ全力で伸び上がりのアッパーを放つように大剣を突き出した。


アールタイルの横っ腹に蜘蛛足の爪が刺さる。

勝った!そう『烏賊蜘蛛竜』は確信した。と、同時に大剣が届く。

ずぶり!と音を立てて、顎下から大剣が突き出た。

先程の無理な体勢からの一撃ではなく、しっかりと力を載せた一撃である。


「ぎじゅるるるるるるっ……」


『烏賊蜘蛛竜』が暴れる。切断された烏賊触手の残りで、アールタイルの肩を、頭を、脇を、めちゃくちゃに殴りつける。

アールタイルはそのまま『烏賊蜘蛛竜』を持ち上げると、前進する。

『烏賊蜘蛛竜』の足が腹を打つ。蜘蛛足を抜こうと藻掻く。

だが、アールタイルは全身の筋肉を膨張させ、それを許さず、ひたすら前進する。

『烏賊蜘蛛竜』は壁に叩きつけられる。

アールタイルは大剣に刺さったままの『烏賊蜘蛛竜』を重し代わりに、ひたすら壁を大剣で殴る。

一度の叩きつけで大剣が『烏賊蜘蛛竜』の頭を断ち割ろうと、穴を拡げる。

まだ届かないかと、アールタイルは身体ごと壁に叩きつける。

アールタイルの大剣の鍔が『烏賊蜘蛛竜』の喉元、竜の逆鱗と呼ばれる場所を押す。激痛が『烏賊蜘蛛竜』を襲う。

だが、それ以上に『烏賊蜘蛛竜』は恐怖した。

その逆鱗の位置はブレス器官に通じている。

叩きつけられ、激痛が走り、ブレス器官から炎が漏れる。

だが、顎は閉じられているため、炎は行き場を失い『烏賊蜘蛛竜』の肺腑を焼く。


「ぐおおりゃあああっ!」


殴られ蹴られ、相当なダメージを負っているはずなのに、アールタイルは止まらない。

『烏賊蜘蛛竜』の口中から溢れたブレスの炎を浴びても怯まない。大剣を通じて、熱が伝わり、柄から肉の焼ける匂いがしても関係ないとばかりに愚直に叩きつける。


「死ぃぃぃねえええっ!」


渾身の一撃。それまで何度叩きつけようとも微動だにしなかった壁に、ついに亀裂が走る。

同時に『烏賊蜘蛛竜』の喉奥から、グプッ……と音がしたかと思うと、その腹が急速に膨れてくる。


「離れろ!」


どこかから声が掛かる。

アールタイルはその声に従うというよりも限界だった。

大剣ごと『烏賊蜘蛛竜』が壁にめり込んでいた。

アールタイルが腕の力を抜いたと思うと、そのままふらふらと二、三歩退る。

と、何もない場所で自分で自分の足をもつれさせ、大の字に倒れた。

倒れると同時に『烏賊蜘蛛竜』が爆散した。

炎がアールタイルの前面を炙る。

アールタイルは白目を向いて気絶するのだった。



一方、マルガレーテたちの戦闘も佳境に差し掛かっていた。

『角馬』はもう何度、角による突進を繰り返したか分からない。

マルガレーテの防御を破ることができないのだ。

足を止めて、何度となく角を打ち付けてみても、マルガレーテの盾より先に進めない。


距離を取って、翡翠の瞳で盾持ちを麻痺させてから突っ込んでみても、後衛からの巧みな援護で後退させられてしまう。

火の精霊使いの放つ火弾の魔法は数が多い。

『角馬』の火耐性がある鬣で受ける分には問題ないが、『角馬』は全身が火に耐性を持つ訳ではない。

火弾は的確に対処しなければならない。

厄介なのが弓使いで、火弾に紛れて、盾持ちに隠れて、嫌なところに弓を放ってくる。

しかも、時折、火弾並の矢を織り交ぜて放ってくるため、注意が必要だ。

既に普通の矢を二発、右の後ろ脚に当てられ、微妙に動き辛い。魔法と違って矢は物質としてそこに残るのが厄介だ。

一度は腹に喰らって、それが火弾並の威力だったので、『角馬』は回復を使わされた。

さらには魔法使いも邪魔で、氷弾、風撃、火弾と使い分けて来る。

火弾は鬣を盾状にして受ければいいが、氷弾は弾かないと危険だ。

鬣は細い毛の集合体なので、盾状にして受けるとそこが凍って、鬣の動きが鈍くなる。

風撃は気配を読まないと、目視で受けるのは難しい。


『角馬』はアキラの言ったように『ユニコーン』の特性を持っている。

『ユニコーン』の特性、それは回復魔法である。

だが、無尽蔵に回復魔法が使える訳ではない。

魔石持ちの魔物ならある程度の自由度があるが、『角馬』は人間と同じように魂の器から糧を供給している。それも、雫石ドロップ級の魂の器なので、簡単な治癒魔法で十数回、大きな治癒魔法なら四、五回使えば限界を迎える。

そこから先は文字通り、魂を削る行為に繋がってしまう。


そして、『角馬』の回復魔法は既に限度いっぱいまで使用済みだった。

『角馬』が得た情報は全て身を持って体験した末のものだ。

またもマルガレーテの盾に突進を阻まれる。

『角馬』はわざと掠めるように突進して、そのまま後衛に向けて、更なる突進を仕掛けるつもりだった。

だが、盾持ちはしっかり正面に回りこんで、突進を受け止める。

正面から受ければ、マルガレーテとてただでは済まないはずだが、いつの間にかマルガレーテの動きは当初のものに戻っている。

これはマルガレーテの持つオリハルコン装備のせいだった。

筋肉が断裂するような突進の衝撃を正面から受けても、自動回復魔法のように、マルガレーテは少しすると回復する。

ただし、マルガレーテの装備は合金で回復効果はかなり低い。

だが、後衛組が援護で時間稼ぎをすることによって、マルガレーテの回復時間を取っているのだ。


『角馬』は鬣の触手を十本だけ、突進の度に、盾で防がれる度に、マルガレーテに這わせて傷を与えている。

殆どはマルガレーテの全身鎧に防がれているが、たまに手応えがある。

針で刺される感覚を突進を受け止めた時に、三回に一回くらいの割合で与えている。

衝撃には強い盾持ちでも、致命打にはならないとはいえ、針で刺してやれば、稀に力が弱まる時がある。

その時は盾持ちの後ろに抜けるチャンスだ。

だが、どうやっているのか、後ろに抜けたと思うと後衛組はそこにはいない。


ミルキルがマルガレーテの動きを的確に読んで、全体で連携しながら移動しているだけなのだが、それが『角馬』には分からないのだ。


いい加減焦れたミルキルがマルガレーテに叫ぶ。


「マルガレーテ、アリアの奥の手で行こう!」


ミルキルが提案したのは、アリア渾身の真空刃による攻撃のことである。

アリアは真空刃の制御が苦手で、度々やらかしている。

しかし、ここぞという時の攻撃力はパーティー内でもかなり信頼度が高い。


「ダメだ!下手に逸れたらウイングたちやアールタイルたちに迷惑が掛かる!」


敵の魔物は自信があるのか、単純なのか、一度決めた敵をひたすら狙う傾向が強いが、そのせいで乱戦のような形になっている。

アリアが魔法制御をしくじれば、大変なことになる可能性がある。


「マルガレーテさん、任せて下さい!もうひとつ方法があります!」


「もうひとつ?」


アリアが胸を張って言うのに、ミルキルが聞き返す。


「自重しないなら、いいですよね!

……マリア!」


アリアの呼び掛けに水の精霊タマ・マリアが現れる。


「それが、アリアの精霊……」


アキラが呟く。


「お母さん!ついに私にも補助以外のお仕事が……」


水の精霊タマ・マリアが喜びの声を上げる。


「マ、マリア……そういう言い方は誤解を招くので……そのう……」


アリアが恥ずかしそうにする。

だが、誤解というより正解というものだろう。

アリアが精霊魔法を使うのは、宿で喉が渇いた時程度で、あとは話し相手になってもらう、水魔法の制御の補助程度しか呼び出さないのだ。

タマ・マリアとしては初めての大仕事と言っても過言ではない。


「……にしても、裸ワイシャツで人型の精霊って、そんなのもいるんだ……」


アキラが不思議なものを見たという感覚で呟いていたが、アリアはそれに気付かず、タマ・マリアに魔法力を注ぐ。


「マリア!水砲穿みずほうせん!」


アリアが魔法力と一緒に渡したイメージは高圧の水流によって敵を穿つというものだった。

前にウイングから聞いたことがあったのだ。高圧水流の威力というものを。


タマ・マリアの前に巨大な水球が生まれる。

その水球の一点から噴き出す水流は全てを穿つ超高圧水流だ。

危険を感じた『角馬』が鬣をまとめて盾にする。

巨大な水球が水流になって消えるのは一瞬だった。

水風船の口から噴き出る水のようにも見えた。

だが、威力は鋼鉄を切り裂くほどのものがある。

鬣の盾を貫き、胴体を真っ二つにし、さらに謎材質の床にも幅一ミョーン〈メートル〉厚さ一ミョン〈センチメートル〉ほどの水たまりを作った。


『角馬』の身体がズレて横倒しになって、初めて勝ったのだと分かった。


マルガレーテが戦況を見回して叫ぶ。


「離れろ!」


その声にアールタイルが天啓を受けたような瞬間的な反応を見せる。

だが、反応と言っても動きはまともではない。

爆発が起きて、身を伏せてから、皆は慌ててそちらに動いた。



『角馬』が真っ二つになり、『烏賊蜘蛛竜』が爆発した頃、ウイングとモーリーは『孔雀蛇』と未だ戦っていた。

接近戦こそが有効と、二人は『孔雀蛇』に張りつくように戦おうとしていたが、『孔雀蛇』はその虹色の翼を羽ばたかせて飛んだ。

まるで東洋の龍のように、その身をくねらせて飛んでいた。


『孔雀蛇』は全身の鱗がかなり強力な対呪装甲になっていて、どの属性の魔法もダメージは一割を切るほどしか与えられない。

その上、虹色の翼から放たれる光線のような魔法はウイングの魔法を五割近く撃ち落とす精度がある。

接近戦では牙から滴る毒液と、締め付けに注意しなければならない。

丸太ほどの太さで締め付けなどされたらたまらない。

周囲を囲まれたら、攻撃よりも回避を優先する。これはウイングとモーリーの共通認識である。

毒液は触れただけで鎧を溶かすほどの強酸らしく、地に落ちた雫にも注意が必要になる。


それでも、ウイングとモーリーはかなり優勢に戦いを進めていたのだ。

ウイングが魔法で注意を引きつけて、モーリーが斬撃を与える。

モーリーが締め付けの対象となると、ウイングが突っ込んで斬撃を与える。

その間にモーリーは締め付け範囲から逃れる。

ウイングは素早さを生かして、距離を取りながら魔法を使えば、『孔雀蛇』から迎撃の光線魔法が放たれる。

そこでモーリーが突っ込んで斬撃を与えるというルーティンが成立していたのだ。


カラカラカラカラ……『孔雀蛇』の尻尾が鳴る。

規則的に鳴るリズムにいつのまにか二人は引き込まれていた。

カラカラカッカラカラ……一瞬だけ崩れるリズム。

無意識にリズムに合わせていた二人は一瞬の間隙に動きが乱れる。

その瞬間、モーリーに牙が迫る。

あわやというところで、ギリギリウイングの援護が間に合うが、大きな隙ができる。

その瞬間、『孔雀蛇』は飛んだ。


それまで受動的に戦っていた『孔雀蛇』だが、飛んだことで能動的になる。

牙で狙う、尻尾が振るわれる、光線魔法が戦闘機の機銃のように辺りを掃射する。

天井が飛ぶには低いため窮屈そうだが、『孔雀蛇』は空間を巧みに使って、モーリーはほぼ無力化されてしまう。


「届かない!せめて五ミョーン〈メートル〉くらいまで降りてきなさいよ!」


苛立ち紛れにモーリーが叫ぶ。

確かにモーリーならば、壁を蹴って五ミョーン〈メートル〉ほどの高さを攻撃するのは可能かもしれない。

だが、『孔雀蛇』はそれを理解しているのかは分からないが、とにかく高度を取ってなぶり殺しにしてやろうという意図が窺える。


「ウイング!こっちに奴を近付けさせるな!」


ムースとアールタイルの怪我を知って、回復魔法を使うべく二人の方に行ったミルキルが叫ぶ。


「アキラ、アリア、援護の魔法力はまだあるか?」


マルガレーテが二人をかばう姿勢を見せて聞けば、二人からは「任しといて!」「やれます!」という頼もしい返事が返る。


「魔法はほとんど効かないです!やるなら数を揃えないと迎撃されるです!」


言ってウイングが火弾を二十ほどまとめて放つ。

『孔雀蛇』は空中で動き易くなったのか、身体をくねらせ、同時に翼から光線魔法で迎撃に出る。

ウイングの火弾がただ真っすぐに飛ぶだけならば、今までよりも命中率が下がっただろう。

ウイングの火弾は、波動の精霊ラッシュの誘導があって、ある程度、誘導弾のような動きをする。

そのため、『孔雀蛇』が地上にいた時より身体を晒す面積が拡がり、光線魔法で迎撃できる範囲にも限りがあるので、命中率はかなり良くなっていた。

だが、やはり魔法攻撃では威力が出ない。

さすがに広い空間と言っても戦術級魔法が使えるほどの広さはない。


アキラとアリアはその光景を見て、息を飲む。

下手に手を出せば、光線魔法の迎撃の余波を食らうことになる。

ウイングは素早く回避行動を重ねることで、どうにかやり過ごしているが、自分たちに同じことはできないと思ったのだ。

アキラの能力なら、本来は同程度のことは可能だが、いかんせん実戦経験が圧倒的に不足している。


マルガレーテがアリアの前に出て盾を掲げる。


「アリア、撃て!アイツの魔法は一発たりとも通さない!」


その声に背中を押されたのか、アリアが大きく頷く。


「はい!

……マリア、いくよ!」


そのアリアの声に、水の精霊タマ・マリアは直径十ミョーン〈メートル〉はある水球を生み出す。

そして、アリアは叫んだ。


砲穿華ほうせんか!」


水球から十本の水流が出るのと、『孔雀蛇』が光線魔法を放つのは同時だった。

水流と光線が交錯して、お互いを打ち消しあう。

だが、水流の内、三本が『孔雀蛇』を穿ち、光線の内八本がアリアの居る辺りに降り注ぎ、その内、三本はアリアに直撃するコースだった。


「きゃあっ!」


三本の光線の内、二本はマルガレーテの盾に、一本はマルガレーテの腹の鎧を砕いて血を吹き出す。


「ぐっ……だ、大丈夫だ……」


「マルガレーテさんっ!」


「マルガレーテ!」


アリアとアキラが同時に駆け寄る。

マルガレーテがくずおれた。


「ま、まずいです。アリア、これを使うです!」


ウイングが魔剣サブナクをアリアの傍らに投げる。

アリアはそれに頷くと、魔剣を手にマルガレーテの治療に入る。


くそっ、マズイ……このままじゃ、ジリ貧だ。


どちらが思ったのか、いや、どちらもそこに辿りついたのだろう。

ウイングとアキラは同時に『孔雀蛇』を睨みつけた。

ウイングは風の精霊ジーンに大量の糧を渡すと、そのまま大きく跳躍した。

アキラは普段から片時も離さず身に着けているマントの留め具を外すと、その背中から真っ白な翼を拡げた。


「「えっ……!」」


アリアがアキラを見る。

モーリーがウイングを見る。


ウイングとアキラ、二人はお互いを認識する。

だが、それは一瞬のことで、同時に視線を切ると『孔雀蛇』へと向かった。


空を飛ぶ。

それは人に在らざる所業と言わざるを得ない。


『孔雀蛇』は弾丸のように飛び来るウイングに光線魔法を放つ。

ウイングは白い小剣、魔法を喰らう『クランクランチ』で光線を防ぎながら、一直線に頭へと向かった。


アキラは鉄剣を抜くと、翼をひと振り、加速して尻尾を狙う。

しかし、『孔雀蛇』もそのことには気付いている。

尻尾はアキラを狙う。

一度、アキラは錐揉みするように尻尾を避けると、『孔雀蛇』の上を取る。

そこから落ちるように、振るわれた尻尾を追うと鉄剣を振った。


同じく、『孔雀蛇』の頭に肉迫したウイングは、牙をギラつかせる頭を回し蹴りの要領で斜め下に蹴り飛ばす。


尻尾を千切れる寸前まで傷つけられ、頭を蹴り飛ばされた『孔雀蛇』は、重力に引かれるように高度を落とす。


「モーリー!」


ウイングが唖然と見ていたモーリーに声を掛けると、モーリーは瞬時に我に返った、と同時に壁を蹴って飛び上がる。

『孔雀蛇』の頭が届く位置にある。それだけで充分だった。

ウイングが蹴り飛ばした頭を追う。

二人のカタナと小剣が『孔雀蛇』の頭を深々と傷つける。

さらに、そこにアキラが方向転換して向かってくる。


「でりゃあああっ!」


アキラの鉄剣が『孔雀蛇』の頭に突き刺さる。

その勢いで頭が千切れた。

どんっ、と頭が地面に跳ねる。

アキラはその頭に乗るような形で一緒に跳ねた。

その拍子にアキラは投げ出されるが、空中でくるりと回ると静止、翼をひとつ羽ばたかせて地面に降り立った。


『孔雀蛇』の身体がドサドサと落ちる。


アキラは翼を仕舞うと、何事もなかったようにマントを身に着けた。

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