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輪廻転SHOW!魔王の息子  作者: 月のそうま
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マルガレーテの試験なのです

休憩を挟んでマルガレーテのところに、木こり、王都の冒険者、見習い少年、金髪・碧眼女性が集まる。

すぐ近くでウイング、アリア、モーリー、ムース、ミルキルも見守っている。

元魔法ギルド職員は冒険者ギルド職員に預けてある。


「精霊魔法……この目で見たかったですね……」


ムースが残念そうに言っていた。


「では、各人、木剣であそこにある鎧を相手に型を見せてもらう!」


マルガレーテが試験を受ける者たちに宣言する。


「おいおい、姉ちゃん。

そりゃないだろ……」


王都の冒険者が渡された木剣で肩をポンポンと叩きながら文句を言い始める。


「これでも俺は王都でも一目置かれる冒険者だったんだぜ?

それを型だけ見て終了ってんじゃ、アピールのしようがないだろ?

後衛試験は顔見せだと思って我慢したが、前衛まで初心者用の試験で見られたんじゃ、今後の仕事にも関わる。

こっちのギルドにだって、特例措置の模擬戦ルールくらいあるだろ?

アンタに見る目がないのは仕方ないが、それで他の冒険者に舐められるのは納得いかないぜ……?」


確かに、特に才能アリと試験官に認められれば、模擬戦で更なる実力を測るということがある。

試験官は実力も名声も兼ね備えた者がやっているのだから、そこでいい動きを見せれば、他の冒険者の見る目も変わってくる。上手くいけばいきなり指名依頼が来る場合もある。


マルガレーテも模擬戦で見てみようと思った者はいる。

それは木こりと金髪・碧眼女性で、型を見た後に声を掛けるつもりでいたのだ。


だが、王都の冒険者には最初から期待していなかった。

せめてアピールの場になればと、唯一まともに剣術をやっていたであろう王都の冒険者のために型披露の場を提供したつもりだったが、どうやら最低ラインからのスタートが望みだったらしい。


「ふむ、いいだろう……ならば全員、模擬戦で見せて貰うとしよう……」


「おう、そうこなくちゃな!」


「ええっ!?あの『白夜の蒼炎』のマルガレーテさんと、も、模擬戦!?」


王都の冒険者のやる気とは裏腹に見習い少年は目を白黒させる。

マルガレーテは優しげな笑みを浮かべ、見習い少年に言う。


「なに、緊張する必要はない。

別に勝ち負けで判断する訳ではない。

自分の実力を知れるいい機会だと思って、全力を尽せば、見る者が見れば分かるよ……」


「あ、はっ、はいっ!」


マルガレーテは見習い少年の元気のいい返事に微笑みかけると、全員を待たせてギルド職員を呼びに行った。

呼ばれて来たギルド職員は元冒険者で今では魔物解体を取り仕切る親方、ウォダツだった。


「あれ、大将が審判やるです?」


ウイングの声にウォダツがニンマリと笑う。


「おう、まだ樹海に行った奴らが帰ってくるには早い時間だしな……手が空いてたから俺が見てやることにしたぜ!

ギルド職員のウォダツだ。審判をしてやる」


全員にウォダツが声を掛ける。

本来の模擬戦ならばギルド職員が審判につくことになっているのだ。

ウイングが試験を受けた時は、試験官の奸計に嵌められて審判なしだった。

あれが特殊な事例ということだ。


「ならば、まずはお前から見てやろう……」


マルガレーテは言ってから木製の盾と木剣を持った。


「ふん、盾まで使うのか……試験官様だけ特別待遇か?」


王都の冒険者は挑発ついでに不満を口にする。


「私はこれが本来のスタイルだからな……どうせなら、本気でやってやった方がお前も満足だろう?

木剣が不満ならお前は実剣でも構わないぞ?元々、そこの彼の力量を見る時は本来の得物で見させて貰うつもりだしな……」


と、マルガレーテは木こりを示す。

王都の冒険者はマルガレーテの挑発にやすやすとかかって憤慨した。


「はんっ……何が本来のスタイルだ!

負けた時の言い訳用だろうが!」


「ぶははははっ!そんなこと言って、自分が負けたら木剣じゃバランスが違うからとか言い訳するんだろ?

魂胆が見え見えすぎ!浅いなあ、アンタ!こりゃ期待して損したわ!」


ミルキルが吹き出したように笑う。

ついでに自分の見立て違いに気付いたのか、賭けは負けを覚悟したようである。


「ミルキル姉さん。せっかくご自分で逃げ道を作ろうとしてたんですから、それぐらい認めてあげないと大人げないですよ……」


モーリーがミルキルを諌めるフリをして、更なる挑発を繰り出す。

ウォダツが渋い顔をしている。


王都の冒険者は、木剣を投げ捨てると腰の得物を抜いた。

幅広で分厚い身を持つブロードソードだ。


「お前らが言い出したんだからな!後悔するなよ!」


ウォダツが一度、大きく息を吐く。


「はあ……まあ、お互いにやり過ぎないようにな……」


ウォダツも元冒険者だけあって、止めようとは思わないらしい。自分が監督していれば大丈夫だろうという自負もある。


「んじゃ、二人とも少し下がれ。ほれ、全員下がってスペースを空けろ。

いいか?………………始め!」


ウォダツの掛け声に王都の冒険者が駆け出す。


「うおぉぉぉぉぉぉ!」


王都の冒険者は、駆け込み様、勢いを乗せてマルガレーテの盾を狙った。

木製の盾などで止められる攻撃ではない。普通に受ければ盾ごと真っ二つだ。

避けるか躱すかと王都の冒険者は見ていて、すぐに追撃を放つつもりでいる。

だが、マルガレーテは受けの体勢を取る。


バカが!それなら腕一本貰ってやる!


と、王都の冒険者がそのまま剣を振り下ろす。

マルガレーテはブロードソードの一撃を盾でやんわりと受け止めた。木製の盾が壊れないように上手く相手の力を逃がしながらの受けだった。

普段は魔物の突進を盾一枚で完全に止めてみせるマルガレーテだ。魔物の突進より弱い斬撃など、木製の盾でも充分だ。


王都の冒険者に大きな隙ができるが、マルガレーテは攻撃しない。まずは充分に打ち込ませて力量を測るつもりだった。

王都の冒険者は何故、自分の攻撃が止まったのか分からないまま、マルガレーテが攻撃して来ないのは怯んでしまったからだと判断して、右に左に斬撃を浴びせていく。

その全ての攻撃を躱す、受ける、避ける、時に弾くマルガレーテ。

ウイングとの訓練を日常にしていると相手の攻撃がよく見える。むしろ、遅い。

なるべく様々なシチュエーションになるように、たまに攻撃を入れてやるが、剣熊ソードベアを模した左右のコンビネーションも、一角狼ホーンドウルフを模した距離を開けてからの突進も、ことごとくヒットしてしまう。

空手兎カラーテラビットの三角蹴りをイメージした、木剣を斜めに振ってからの攻撃はなんとか防いだが、体勢が崩れている。

マルガレーテは魔物をイメージした早さでの攻撃しかしていないが、王都の冒険者はほとんど反応できない。


はたと気付けば、王都の冒険者は肩で息をして、痣だらけだった。

マルガレーテは、ひと通り試し終わったと見て、最後に盾で殴りつける。

王都の冒険者は単純なそれを喰らって、伸びてしまった。

ウォダツによって、終了が告げられる。

意識を取り戻した王都の冒険者にマルガレーテが告げる。


「正直、危ういな……王都ではどうだったか知らないが、樹海の魔物は貴方が考えるよりも余程強いと見た方がいい。

失格とは言わないが、まずは空手兎カラーテラビットから始めて、しっかり経験を積まないと、簡単に命を落とすことになるだろう……」


王都の冒険者は俯いたまま、何も答えられなかった。


次は見習い少年の番だった。

見習い少年は深く頭を下げると元気よく挨拶する。


「おねがいしますっ!」


木剣を構えた形は、王都の冒険者より様になっていない。

マルガレーテは盾と木剣を構えて、距離を取る。


「先ほどの戦いは見ていたな?

まずは存分に打ち込むといい」


「はいっ!いきます!」


ウォダツが無理に始めさせるでもなく、模擬戦は始まる。

見習い少年は十二歳の頃からこのギルドで荷物持ちをやってきた。

樹海にも、もう何度も足を運んでいる。

直接、魔物と戦ったことはないが、冒険者が魔物と戦う姿を三メグリ〈年〉もの間、見つめ続けてきたのだ。

だから、マルガレーテの意図するところが分かった。

最初は全力で攻撃を当てにいく。

剣術などは知らないが、先輩冒険者たちの見様見真似の攻撃だ。

だが、攻撃だけに意識を割くようなことはしない。

見習い少年が見てきた冒険者は死なないこと、攻撃を受けないことを中心に戦っていた。それを真似する。

マルガレーテが突進の構えを見せれば、冷静に捌くことに意識を集中する。

空手兎カラーテラビットの三角蹴りは身体の向きを正面から迎え打てるように素早く入れ替える。

剣熊ソードベアのコンビネーションは分かっていても防げなかったが、喰らってからすぐに離れて体勢を立て直した。


マルガレーテは満足げに頷き、ウォダツから「止め!」と合図が掛かる。


「うむ、基本は理解できているな。攻撃の時に一撃で仕留めようとしないで、相手を弱らせるつもりで傷ひとつ作ってやるという意識でやるといい。

一人でやるよりも仲間を作って、役割分担して戦うようにすれば、すぐに稼げるようになるだろう」


「あ、ありがとうございますっ!」


少年は感動したようにマルガレーテの言葉を噛み締めた。

多少の打ち身はあるが、冷静に対処すればやっていけそうだと自信もついたようだった。


「あの若さであれだけできるなら、将来有望ですね!」


アリアが感心していた。


「まあ、嬢ちゃんは薬草採取ばっかりやってたからな……」


ウォダツが初期のアリアを思い出すように言う。

冒険者ギルドでは希望者に戦い方の講習をする講座もある。

昔のアリアは講習を受けていたが、受ける依頼は採取系ばかりで、狩り系依頼は臨時パーティーを組んだ時だけというやり方をしていた。基本ソロ活動だったから仕方が無い。


「よし、やろうか?」


マルガレーテが木製盾を自前のカイトシールドに持ち替えて、木こりに告げる。


「うす!」


木こりは使い慣れた斧だ。


二人は模擬戦を開始した。

木こりの振る斧は、基本的に木を伐る形で振られる。

さすがに木製盾では受けきれない。

町の西、開拓中の樹海で働いていただけあって、魔物の対処方もある程度知っている。

だが、攻撃は単調だ。見習い少年とは攻撃の威力が違うため、手数よりも一撃で決めるように動くべきだろう。


マルガレーテはそれを見抜いていたからこそ、木こりが苦手そうな目まぐるしく立ち位置が変わるような戦い方を仕掛ける。

案の定、木こりは激しく動く相手は苦手そうだ。

また、牽制攻撃や本命の威力を乗せた攻撃、どちらも関係なく木こりは対処しようと斧を振る。

これではどんな体力自慢でもすぐに息切れしてしまう。


多少の知恵をつけた魔物はフェイントを使ってくるものもいる。


「軽い攻撃だと見切ったなら、無理に合わせようとするな!

それなりの鎧があれば無視でいい!

君の体力ならそれが出来るっ!」


言いながらマルガレーテは牽制とフェイント、本命を織り交ぜて攻撃していく。

木こりは、今までマルガレーテの剣先ばかりに意識がいっていたが、マルガレーテ自体を見るようになる。

マルガレーテはわざと単調な攻撃を繰り返す。

踏み込みが浅いのは牽制攻撃、深く踏み込めば本命の攻撃だ。


「わかった!」


木こりは浅い踏み込みの牽制攻撃を無視して、マルガレーテに斧の強打を浴びせる。

強打はマルガレーテの盾に防がれるものの、マルガレーテを大きく後退させることに成功した。


「それまでっ!」


ウォダツから声が掛かる。


「なかなか良かったぞ。だが、踏み込みが浅くても強打を放つことは出来る。

今はわかりやすくやってみせたが、相手の全身を見て、総合的に判断できるようになれば、さらによくなるだろう!」


「うす!ありあっとしたっ!」


木こりはありがとうと言いたかったのか、短縮して頭を下げた。

自信がついたのか、鼻を膨らませて興奮していた。

木こりは冒険者を目指したものの、あまり前に出る性格ではなかったため、静かにしていたが、自信が彼を変えたのか、見習い少年にこんなことを言い出す。


「なあ、よ、良かったらパ、パーティー組まないか?」


「えっ!」


「お前は冒険者のなんたるかを、俺より知ってるだろ?

だ、だから、色々教えて貰えたら……と思って……」


「おじさんと?」


「バ、バカ!俺はまだ十八だ!おじさんじゃないぞ!」


「「「えっ!?」」」


何故かその場にいた全員が目を丸くしていた。

体格といい、深い皺の刻まれた顔といい、どう見ても二十代後半、下手をすれば三十代かと見ていたのが共通認識だったのだ。


見習い少年は少し笑ってから、それから答える。


「おじさんのパワー凄いしね!

ぜひ、お願いするよっ!」


「おじさんって呼ぶなよ……もう……」


木こりはその時だけ幼さを残した不貞腐れ顔を見せて、見習い少年と握手を交わすのだった。


「さて、最後の一人だな。

君は木剣でいいのか?」


マルガレーテが金髪・碧眼女性に向けて聞く。

金髪・碧眼女性は少し考える素振りを見せてから、ニッカリと笑った。


「うん、これでいいよ。

でも、お願いがある……」


年の頃は十七、八。ムースほどではないが、巨乳持ち。

さらには精霊魔法の使い手でもある。

離れて見ていた時は分からなかったが、ボーイッシュな性格の持ち主らしい。


彼女は鎧ひとつ着けていなかった。ブラウスに長めのスカート、それだけだ。

そんな彼女がするお願いとはなんだろうか。

簡易な革鎧くらいなら冒険者ギルドも貸し出してくれるだろうとマルガレーテは考える。


「なんだ?」


「うん、ボクの相手はあの子がいいな!」


彼女が指差した先にいたのはウイングだった。


「へ?僕です?」


「うん、たぶん、この中だと君が一番強いよね?

それなら、強い人とやった方がボクの強さを見てもらえると思うから!」


あっけらかんとした物言いにマルガレーテは一瞬、言葉を探してしまう。


「あ、いや、確かにウイングは強いが……その、いいのか?」


少し心配そうにマルガレーテは聞く。

それには、ウイングが少し膨れる。


「僕だって、手加減くらいできるですっ!

マルガレーテの中で僕はどういう位置付けです?」


「くそ強い新人」「達人級の子供」「常識が通用しない優しい男の子ですかね……」「頼れるけどダメな子?」「見どころのある新人だな」


マルガレーテに代わって、ミルキル、モーリー、ムース、アリア、ウォダツが次々とそう評する。

ウイングが打ちのめされて肩を落とす。

マルガレーテはそれには答えず、苦笑いで金髪・碧眼女性に告げる。


「……それで、いいのか?あくまで模擬戦で君の前衛としての力量さえ見せて貰えれば済む話だ。

勝ち負けは関係ないが、ウイングは速い。

下手すれば、君の力量を見る前に終わってしまう可能性もあるぞ?」


金髪・碧眼女性はコクコクと頷き、イヤミのない口調で述べる。


「たぶん、お姉さんだとすぐ終わっちゃうから、やっぱり、あの子がいいな!

ボクってば、かなりチートだから!」


「チー……なんだか良く分からないが、自信があるようだな……。

いいだろう。ウイング、相手をしてやってくれるか?」


ウイングは暗い影を背負ったまま、ジトーっと金髪・碧眼女性を見る。


「ふっふっふっ……くそ強い、達人級の、常識が通用しない、ダメな新人でよければ、相手するです……」


マルガレーテは木剣をウイングに渡しながら告げる。


「あ、ああ……わ、私はウイングはその……アレだ!

卵焼きの天使だと思ってるぞっ!」


言ってからマルガレーテは頬を真っ赤に染める。

だが、ウイングはそれを見ることなく、言葉に反応してしまう。


「天使……ふっ……ボクも堕ちたモンです……親兄弟が聞いたらガン泣きモノです……」


ミルキルなどはマルガレーテの反応に、まさか、と見てから、ふーん……とニヤニヤしていたが、アリアは引き攣った顔でマルガレーテを窺い、ムースは変わらぬニコニコ笑顔、モーリーは冷静を装ってカタナの柄を強く握っていた。

それから、ウイングの呟きをまともに聞いたのは金髪・碧眼女性だけだった。


「ガン泣きね……」


口の中だけで、その言葉を反芻した。


「あー、まあ、お互いに納得してるならいいか……ほれ、もうちょい広がれ。

んじゃ、始めるぞ……」


ウォダツがウイングと金髪・碧眼女性の距離を開けさせる。

それから、「始め!」と声を掛けた。


どちらも、ダラリと木剣を構えもしていないまま、模擬戦は始まった。

と、金髪・碧眼女性が掻き消えるようにいなくなったと思うと、木剣同士が打ち合う音が響く。

ウイングが女性の木剣を防いだところだった。


「速い……」


マルガレーテが先ほどの乙女の顔ではなく、戦士の瞳でそれを見ていた。


「あれ、反応された!?やるじゃん!」


女性がウイングにだけ聞こえる声で呟く。

ウイングはその声に顔を上げた。

女性は大きく飛び退く。


「消えた……」


観客に回っていた見習い少年が言う。


「先生モードのウイング並の速さですよ、アレ……」


アリアがそれを目で追いながら、驚いていた。


「型がなってないから、剣撃が軽いです……」


言ってウイングが飛び込みで剣を振るう。


「わわっ!」


女性はそれを瞬発力で回避する。

ウイングは追撃で剣を振るう。

右に左に、金髪・碧眼女性はそれを跳ぶように回避する。


「跳んだらいい的なのです!」


飛び退る女性の着地点にウイングが足払いを掛ける。

見事、それに引っ掛かって女性は転ぶ。


「イタタ……ちょっとー、大人げないよキミ!」


「どーせ、そういう評価なのです……」


むくれてツーンとウイングがソッポを向く。

女性が立ち上がると、お尻の埃を叩いた。


「うーん……あっ!あれだ、剣道の授業で習った摺足……だっけ?」


律儀に待っていたウイングは一瞬、目を剥いた。


「剣道の授業……」


ウイングの呟きは聞かず、金髪・碧眼女性は剣を構えて、足を上げずに、地面を擦るように移動を始める。

と、思うと片足で踏み込んで中段からの面打ちをしてくる。

ウイングはそれを弾くと、そのまま身体を寄せて鍔迫り合いに持ち込む。

最初は形だけと、余り力を入れずに押すと、金髪・碧眼女性は圧倒的な膂力で押し返してくる。

ウイングは慌てて力を込める。だが、それでもじりじりとウイングは押されていく。

ウイングは糧を使うか躊躇する。

冒険者の前衛としてやっていけるか力量を測る試験で力で押し負けそうだからと糧を流し込んで『人化の指輪』の制限を解除するのは、試験をする側として正しいのだろうか……そう思いながら相手と目線を合わせる。

金髪の生え際に黒いものが見える。

ウイングはもっと良く見ようと目を瞬かせる。手が使えるなら、擦っていたところだ。


「ちょっと!他人の顔をジロジロ見ないでよ!」


金髪・碧眼女性が思いきり力を入れた。

その拍子にウイングが転んでしまう。


「まさか、力もウイング並なの!?」


モーリーがそれを見て驚いていた。

今度はウイングが立ち上がるのを、金髪・碧眼女性が見守る番だ。


「へへ〜っ、ちょっと凄いでしょ!」


金髪・碧眼女性が掌を返して指先でウイングに、来い来いと示して見せる。


「もしかして、カツラです?」


立ち上がったウイングが剣を構えながら聞く。

すると、金髪・碧眼女性は顔を赤くして、


「失礼な……これはウィッグ!ハゲ隠しじゃないぞ!」


「いや、カツラだからハゲって決めつけの方が失礼なのです……」


ウイングの反論はもっともだったが、問題はそこではない。

金髪ウィッグの黒髪・碧眼女性へとウイングが駆け込んで、袈裟斬りの要領で斜めに斬り込む。

女性はそれを弾こうとするが、空を切る。

それはウイングのフェイントで、本命は逆からの一撃だ。


「やばっ!」


女性は力任せに反対へと木剣を振る。

だが、小手先の力任せで木剣を振ったため、女性の身体が泳いでいた。

ウイングはそれを見逃さず、勢いをつけて身体ごと突進する。

いくら女性の膂力が強くとも、バランスを崩したままでは止めきれない。

女性は尻もちをついた。


「いっ、た〜いっ!……女の子になんてことするんだ!

もう、許さないからね!」


立ち上がろうとして、女性は目を押さえる。


「あ、ちょっと待った……コンタクトずれた……」


「コン……タクト……まさか……」


慌ててウイングは女性の瞳の色を確認しようとする。


「ちょっ、危ないだろ!瞳に触ってる時に揺らすなっ!」


「あ、ご、ごめんなのです……」


律儀に謝って、待つウイング。

すると、女性は上を向いて数度瞬き、それからウイングに顔を向けて、ニヤリと笑った。


「ところでさ……


……キミも、勇者?」


ウイングは絶句した。



「あの二人は何してるんでしょうか?」


アリアが目を押さえる金髪・碧眼女性とそれを覗き込むウイングを見ながら言う。


「もしかして、口説いてたりして?」


ミルキルが意地悪な口調で言う。


「もしかして、目を傷付けたりしたのか!?」


マルガレーテが焦る。


「それなら、ウイングは黒い剣を抜くんじゃないでしょうか……」


ムースが考えながら言う。


「まあ、ウイングが常識知らずでも、さすがに彼女を口説くとは思えませんけど……」


モーリーも思案顔だ。


「何を話してやがんだ?どうする?一度、止めるか?」


ウォダツがマルガレーテに確認する。

そうして、話している内にウイングと女性は、離れてまた対峙しあった。


「特に問題ないようだな……もう少し様子を見よう……」


マルガレーテがそう判断する。

二人の剣劇はまだ続くようだった。

ようやく、二人目の勇者?登場です。

予定では勇者はここで一度打ち止めです。

まあ、一人目の存在をウイングはまだ知らない訳ですが……。

大筋の予定から大きく外れないでくれよーと思いつつ、勇者たちは自由人なので、作者としても気を抜けません。

まだまだ道半ばですが、温かく見守って下さればと思います。


……これ、主人公が魔王になるお話のはずだよね?

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