↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻転SHOW!魔王の息子  作者: 月のそうま
81/151

暗殺者なのです

マルガレーテが新しい足甲とカイトシールドを手に意気揚揚と店から出てくる。

足甲もカイトシールドも黒く染色してあり、ポイントで銀色の縁取りがしてある。


「おお、かっこいいです!」


「銀色がワンポイントでかわいいですね!」


ウイングやアリアがマルガレーテの新装備を褒める。


「動きやすさは?」


ミルキルが聞くと、マルガレーテは軽く足を踏み鳴らして、盾を八の字に回して見せる。


「想像以上に軽いな……これならもっと能動的な防御も出来そうだ」


マルガレーテは満足げに頷く。


「さあ、じゃあそろそろイヌフジさんのところにいきましょうか?」


魔物狩りの翌日、昨日は子爵の館で身の潔白を証明し、今日は『魔導兵器』の整備士アンキ・イヌフジに頼まれて『魔導兵器』に魔法力を篭めるべく、また子爵の館に呼ばれている。

呼ばれたのはウイングだけだが、せっかくなら『魔導兵器』を近くで見てみたいとムースが言い出し、ならばパーティー全員でどうぞという話になったのだった。


ウイングたちは子爵の館を訪れる。

だが、館の中に入ることはなく、そのまま厩舎の近くの広場を指示される。


魔導兵器『スイテン・隣』は荷車から降ろされ、正座の格好でそこにある。

腕の装甲の一部が外され、アンキはその装甲を裏から叩いて修理しているところだった。


それを見たウイングは仲間からスルリと離れると、アンキの持つ装甲板を支える。

アンキと目が合う。


「ああ、来たのか……」


『白夜の蒼炎』に挨拶しようとするアンキを制してウイングが言う。


「先にこっちを叩くです!」


アンキはクスリと笑うと女性陣に顔だけ向けて、「すまんな、少しだけ待ってくれ……」と言うと、ウイングと二人、手馴れた様子で装甲板を叩き始める。

アリアとマルガレーテを筆頭に女性陣は苦笑いだ。


カーン、カーン……と子気味良い音が流れて、ウイングがサッと持ち上げた装甲板の表を確認すると、アンキが横から表面と裏面に指を当てる。

裏面に当てた指をそのままに、ウイングがそこを中心にするように台座に置く。

すると、アンキが金槌でまた、カーン、カーン……と叩く。

ウイングがまた装甲板を持ち上げる。

アンキは頷く。それから『スイテン・隣』を示して、装甲板を持っていかせる。

ネジとレンチのような物をアンキが取り出して、ウイングが押さえる装甲板を『スイテン・隣』に取り付けると、道具をしまい、手拭いで手を拭きながら女性陣へと挨拶に来た。


「お待たせして申し訳ない……」


「いや、大して待たされた訳でもない。それよりも、大人数で押し掛けてしまって、こちらこそ申し訳ない……」


マルガレーテが挨拶している間にウイングはアンキの道具入れからツヤ消し剤のようなものを取り出して、装甲板に塗ると、スポンジのような植物の実を取り出して、その装甲板を仕上げていく。


「それと、アレは大丈夫なのか?」


勝手に『魔導兵器』の装甲板を仕上げていくウイングを見て、マルガレーテが聞く。

アンキもそれを確認して。


「ああ、ウイングは良い親方に付いてるな。丁寧な仕事で助かるよ!」


勝手に触っていいのか?という意味でマルガレーテは聞いたが、アンキは別の意味で受け取ったようだ。


「アンキ!こっちの装甲板はどうするです?」


ウイングは魔法力の提供に来ているはずだが、すっかり職人の目になって手伝うつもりのようだ。


「いや、そこは急ぎじゃないからやらなくていい!」


アンキはウイングに答えて、女性陣に向き直る。

手伝ってもらえるのは有難いが、修理はほぼ終わっているし、ウイングのパーティーメンバーが待っている。

アンキは空気が読めるタイプだった。


「さ、じゃあ、ハスタ王国が誇る自慢の一品。

『魔導兵器』を見ていってくれ!

まあ、機密の塊みたいなものだから、答えられない部分も多いが、アンタ達には助けられたからな。

簡単な説明くらいはしてやれると思う」


そう言って、女性陣を魔導兵器の前まで案内する。


「清掃はきっちりしてあるから、触ってみてもいいぞ」


アンキの言葉に従って、ムースやアリア、ミルキルなどが思い思いに見聞する。


「これって鎧なの?」


モーリーが装甲板に触れて、アンキに聞く。


「ああ、元々は怪力手甲という、力のない者でも力仕事が出来るようにと作られた魔導器による補助機構を持たせた手甲が始まりだったんだ。

だが、腕だけ怪力になるというのはバランスが悪くてな……どうせなら全身覆ってしまえばバランスが取れるだろうって考えから、この鎧は生まれたんだ」


アンキは魔導結晶のことを魔導器と纏めたが、これは機密に当たるので仕方がない。


「身体というのは全て繋がって連動して動いているのです。

だから、腕の力だけが強くても重い物を持つことはできないのです」


何故かウイングが説明を足してくる。


「ウイングは詳しいな……。怪力の腕で剣を振れば、もちろん剣閃は鋭くなる。だけど、腕だけで振る剣よりも、全身を使った一撃の方が威力は大きくなる。

それに腕の力だけ強くても、それを支える肩や背中、足の筋肉が強くなければ、最悪、腕が千切れるなんてことも起きるんだ。

だから、コイツは全身鎧でなくちゃならなかったのさ……」


「へえ……」


「ただ、全身鎧にするに当たって、必要な魔導器の数が多くなり過ぎてな……人間の動きをほぼそのまま模倣するためには、この大きさが必要になったってことだ」


モーリーは自分の腕を曲げたり伸ばしたりして、身体の動きを確認したりしている。

すると、今度はムースが聞く。


「あの、この魔導兵器には魔法力が貯められるんですよね?

どうやってるんです?」


「あー、それは機密なんだ……すまない。

ただ、簡単に言うと人間はどうやって魔法力を貯めているのかってのと同じ質問なんだ。

実際問題、俺達が知ってる魔法知識なんてのは表層部分だけで、古代の叡智に比べたら……っと、これ以上は言えないな……すまない……」


アンキの言葉はほぼ答えみたいなもので、ハスタ王国にとっては最重要機密にも抵触する恐れがある。

ハスタ王国には口伝で魔法の、延いては魂に関わる深奥の一部が伝わっており、その謎を一部とは言え解いたからこそ『魔導兵器』は生まれたのだが、ハスタ王国が世界で生き残るためにはそれを独占するしかないのだった。

心を許しているためか、アンキの口はつい軽くなってしまったようだった。


「古代の叡智……」


ムースは、そう言って考えてしまったが、すぐに否定に繋ぐ。


「いえ、すいません、今のは忘れますね……」


「そうしてくれると助かる……」


ふと、今、自分たちが教わっているウイングの魔法知識は、まさしく古代の叡智の一部なのではとムースは思ってしまったが、アンキのためにも追及しない方がいいだろうという判断だった。


「ああ、そうだ。よければ一度着てみるか?」


アンキが話題を変えようとそう言い出す。


「バカ貴族にアンキが怒られるんじゃないです?」


「バ……ああ、アビーバ様な。

あの方は今回の事で伯爵様から勘当されたから、もうこの館には居ないんだ。

お陰で俺の立ち位置も微妙になって、当座は伯爵様のところで厄介になるが、どうするかは本国に問い合せてみないと何とも言えないんだ。

でも、そんなことになったから、今はコイツが浮いてる状態でな、アンタ達に試させたところで、怒るヤツがいないんだ」


「へー、勘当かぁ、伯爵様も思いきったことするねぇ……」


ダンマクから事情を聞いた側からすれば、英断とも取れるが、ミルキルは目を光らせる。

法王が認めた宿でやらかしたというのは確かに外聞が悪いが、相手は所詮、根無し草の冒険者だ。

事情を知らないはずの伯爵からすれば、子爵の機嫌を損ねる原因になったとは言え、それで勘当とはやりすぎどころか、何か裏があるのではないかと疑いたくなってしまう。


「まあ、それだけ伯爵様も子爵様のご機嫌を慮ったということじゃないでしょうか……?」


アリアなどは、勝手に伯爵も子爵から事情を打ち明けられて、そういう判断をしたものと思い込んでいるので、あまり疑問を感じなかったらしい。


ミルキルとアリアの差は実際に伯爵と子爵の人と成りを見たかどうかの差異かもしれない。

だが、ミルキルもここでその話を広げる程、愚かではない。

何しろアンキは事情を知らないのだ。


「ま、そういうことなら、アタシが着てみようかな?」


「え、私も着てみたいわ……」


「いやいや、全身鎧なら私だろう……」


ミルキルの言にムース、マルガレーテと手を上げていく。


「あー、時間はあるから全員、試してもらってもいいんだが……魔法力の問題がな……」


アンキが難しそうに苦笑しながら首を捻る。

だが、ウイングはアンキの肩に手を置いてにこやかに笑う。


「問題ないです。魔法力なら売るほどあるですから!」


そうして、全員が『魔導兵器』を試して、最後は魔法力を満たんにして返したのだった。

アンキはウイングの魔法力の多さに呆れるばかりだった。


その翌日の晩である。

ミルキルは子爵の館から帰ったあと、全員に身辺に気を付けるように語ったが、起きるものは起きるのである。


『涼風亭』は寝静まっていた。

宿を切り盛りする執事風使用人こと、実質的なオーナーであるウォーレンは翌日の仕込みをしていたが、急に立ちくらみを覚えた。

大掛かりな仕掛けだった。

宿を丸ごと包むように眠りの粉が空中を漂っていた。


「くっ……これ、は……」


ウォーレンは苦悶の表情のまま、倒れる。


暗殺者集団『死出の蝶』と呼ばれる者たちの仕業だ。

それを取り仕切るのは、アビーバの話を聞いていた女性の給仕である。


『死出の蝶』がここまで大掛かりな仕掛けを行ったのは、宿の防犯設備が思いの外充実していたからだが、別に無差別虐殺をするつもりではない。

標的は三人、アリア、ミルキル、ウイングである。

アビーバを利用し尽くす腹積もりだが、それとこれとは別で、依頼は受けた以上、完遂するのが『死出の蝶』の信条だ。

七人の蝶が静かに『涼風亭』へと侵入を果たした。

全員、黒ずくめで蝶のゴーグルに口と鼻も布で覆っている。


標的は全員二階に泊まっている。

角部屋、その隣、その隣の隣、三ヶ所である。

三人が張り付いて、奪ってきた合鍵で慎重に鍵を開ける。

同時に更に三人が開いた扉に飛び込んだ。

手には大振りなナイフが握られている。


一番離れた扉に飛び込もうとした蝶の一人は動きを止める。

入り口に罠が張り巡らせてあった。

解除しなければ入れない。


角部屋の隣に入った蝶の一人は、ベッドの膨らみにナイフを振り下ろした。

ザクッ、と妙な手応えと共に土でも掘った音がする。

慌てて布団を捲ると、そこには土人形が寝ていた。


最悪だったのは角部屋だ。

中に入った瞬間、誰かにぶつかる。

弾かれるように距離を取った蝶の一人は、それを見てしまった。

黒いマント、黒かった頭が徐々に赤みを帯びてオレンジ色のカボチャ頭になる。手にはやはりオレンジの死神の鎌。


「っ……!?」


声にならない悲鳴を上げると同時、死神の鎌が振るわれ、ナイフを持った蝶の腕が肩から落ちた。

痛みに声を出そうとした瞬間、黒マントの空いた手が指を一本立てて口元に動く。

その手もオレンジ色が流れるように浮き出ていて、恐怖を誘う。

静かにしろ、そういう命令だ。

ジャック・オー・ランタンは浮いているのか、足を動かすことなく近付く。

片腕を丸ごと無くした蝶は、恐怖に声も上げられず、そのまま下がる。

廊下で待機していた女性の給仕こと『死出の蝶』の頭目はギョッとした。

併せて、扉を開けた三人の蝶も息を詰まらせる。


ジャック・オー・ランタンは静かに角部屋の扉を閉じる。


失敗を悟った頭目は小さく、だが鋭い声を発する。


「……散っ!」


全員が引いていく。

ウイングの部屋に入った蝶は開け放たれた窓から身を踊らせた。

それ以外は全員が階段に殺到する。

混乱もなく、潮が引くような撤退ぶりだ。


ジャック・オー・ランタンは音もなくソレを追う。

まるで宿から出ていけと言うような追い方だ。

蝶たち全員が宿から出た瞬間、ジャック・オー・ランタンの速度が上がる。


蝶たちは全員が散り散りに逃げていく。


三人が右へ、二人が左へ、一人は正面の路地に入る。

ジャック・オー・ランタンは鎌を一振り。

右へ向った三人に火弾が飛ぶ。

三人が三人共、全身を焼かれ転がった。

左に向った二人にも、鎌を一振り。

二人はすぐに分かれて逃走しようとするが、まるで猟犬のように火弾が追って、やはり全身を焼かれ転がった。二人の内の一人は片腕も失くしているので、再起不能かもしれない。

全身を焼かれた者たちは死んではいないが、それなりの報いは受けたようだった。


だが、ジャック・オー・ランタンはそれを見届けることなく最後の一人を追う。

それは『死出の蝶』の頭目だ。


ジャック・オー・ランタンは夜空へと浮き上がる。

夜の帷に隠れるように頭目を追っていた。



一方その頃、子爵の館でも異変は起きていた。

『死出の蝶』の手引きで入り込んだアビーバによる『魔導兵器』の強奪である。

『魔導兵器』は強奪防止のために起動鍵がついている。

それは普段、アンキ・イヌフジが肌身離さず持っている物で、まともな判断ができない程に追い込まれたアビーバの凶刃がアンキの動きを縫い止め、奪われた。


寝込みを襲われ、腹に一撃、胸元に下げた鍵を引きちぎるように奪うとアビーバは駆け出した。

厩舎に一番近い部屋で寝起きをしていたのが、アンキの命をぎりぎり救った。

『魔導兵器』を目にして焦ったアビーバがトドメを刺さずに逃げ出す。


「ま、待て……アビー……」


アンキの意識はそこで途切れる。


「ふ、ふは、ふはははは……すぐに戻りますぞ、父上!これで俺が後継者だ!おっと、顔を隠さねばな……」


アビーバは 懐から取り出した蝶の仮面をつけると、『スイテン・隣』を着込む。

起動鍵を使い、接続の呪文を唱える。


「おお、魔法力も満たんにしてあるじゃないか!」


今回はウイングも学習したのか、無理に詰め込むことはしなかったようで、気分が悪くなることもない。


『スイテン・隣』が歩き出す。だが、その巨体だ。

すぐに警護の兵士が飛んでくる。


「止まれ!こんな夜分に何事かっ!」


兵士が槍を向けて、光の魔導具を向ける。


「……眩しいな。邪魔だ貴様ら!」


『スイテン・隣』がその巨剣を振るう。

兵士は後退しても、まだ射程の内だ。

アビーバの腕でも両断。兵士は上下に分かれて、憐れにもその命を散らした。

そのまま館の正面、正門から歩いて出ていこうとする。

その頃には兵士が集まってくる。


「何者だっ!賊めっ、容赦せんぞ!」


群がる兵士に巨剣を振るう。


「誰が賊かっ!俺は伯爵だぞ!間違えるなっ!」


アビーバは怒り任せに攻撃を開始する。

本来ならば兵士が集まる前に迅速に逃げ出さなければならないところを、アビーバは増長したのだった。


子爵の館でそのような騒ぎになっているとは知らず、家々の屋根ギリギリ程の高さを飛んで、頭目を追っていたジャック・オー・ランタンだったが、町の西の端まで逃げた頭目に、これはおかしいぞ、と思い始めていた。

途中から、逃げきったと思ったのか、一度後ろを振り返り、確認してから走り出したので、てっきりアジトに向かっているものと判断していたが、西の端、木製の城壁代わりの柵のところまで来てしまう。

その柵の外は町を拡張するための基礎工事を行っているはずで、その区域の周りは樹海だ。

基礎工事だって、木々を切り倒して、根を掘り返し、平地を作っているだけの簡易なもので、アジトを置けるような場所ではない。

何しろ、樹海を切り拓いている最中だから危険すぎる。

だが、柵のところには恐らくウイングの部屋から逃げた蝶の一人が待ち構えていて、縄ばしごを柵に掛けて用意していた。


やっぱり、樹海に行くつもりですかね?


そう思って見ていれば、頭目と蝶は外に進み始めている。

ジャック・オー・ランタンは見つからないようにオレンジ色の部分を黒く染めて、隠れている。


アジトまで行けば、全員まとめて捕まえられると思ってたですけど、なんか雰囲気が違うです……。


ジャック・オー・ランタンがそれをどうするかと考えていると、遠く喧騒が聞こえてくる。


「樹海に逃げるつもりだぞ!行かせるな!」


ドゴンっと音がして、人間の叫びが聞こえたかと思うと『スイテン・隣』が道の向こうに見える。

『スイテン・隣』は巨剣を横薙ぎに一振り、兵士が二人ほど吹き飛ぶ。

『スイテン・隣』の背後から兵士が魔法を放つが、その厚い装甲は抜けない。


「何としても捕えよ!捕えられなければ、子爵殿に責任を取ってもらうぞ!」


叫ぶのは伯爵で、巨剣の届かない遠方から声を張り上げる。

ジャック・オー・ランタンはそれで事件が起きていることを知る。


もしかして、連動してるですか?連動してると思って動いた方がいいですね……。


そうしている内に町の西門近くまで『スイテン・隣』はやってくる。

厚みを持たせた木製の門とはいえ、『スイテン・隣』の膂力を持ってすれば三合と保たないだろう。


「さすがに門を壊されるのはまずいですかね……先にアイツらを何とかするです!」


ジャック・オー・ランタンが呟くと、柵を乗り越えた二人の蝶を追って、柵を飛び越える。


「なっ……!?」


柵に掛けられた縄ばしごを降りている最中、頭上に影ができたかと思えば、カボチャ頭の黒マントが浮いているのを見て、『死出の蝶』頭目が思わず声を上げる。


「お頭っ!」


先に縄ばしごを降りきっていた蝶が投擲用のナイフを咄嗟に投げてくる。

だが、ジャック・オー・ランタンはそのナイフを鎌で全て弾く。

その間に頭目は縄ばしごを飛び降りる。


「逃げるよ!」


二人が逃げようとした瞬間、目の前にジャック・オー・ランタンが降り立つ。

と、同時に鎌を振るう。

蝶の首が舞う。


「ひっ……」


「シャベルクチハ、ヒトツデイイ……」


くぐもった声。風の精霊ジーンが作った機械音声ならぬ精霊音声だ。

ジャック・オー・ランタンはいつの間にかロープを手にしている。

それで頭目の手足を結んでまとめると、片手にそれを持って、西門へと飛んだ。

頭目は海老反りの格好で拘束されたまま、人生で初の飛行を味わった。



ジャック・オー・ランタンは外から西門を飛び越える。

ちょうど『スイテン・隣』がその巨剣を西門に振り下ろそうとしている時だった。


あ、それはダメです!


片手にお土産状態の頭目を持ったまま、もう片方の手に持った死神の鎌で『スイテン・隣』の巨剣を受け止める。


「なっ!?なんだコイツは!?」


アビーバが目を見開く。


「まさか……魔物……!?」

「いや、魔物が武器を持つか?」

「だが、外から来たぞ!」

「待て!手に持っているのは……人間?」

「本当だ!あの蝶の仮面は『魔導兵器』を奪った賊の仲間か……?」

「それに『魔導兵器』が外に出ようとするのを止めた!?」


突如現れたカボチャ頭に兵士たちが混乱する。


「くっ……ええい、邪魔をするなっ!」


『スイテン・隣』がもう一度振り上げた巨剣でジャック・オー・ランタンを狙う。

ジャック・オー・ランタンは門が壊されないなら問題ないという風に、その巨剣をすり抜けるように避ける。

たまらないのは『死出の蝶』の頭目で、振り回された上に眼前を巨剣が唸りを上げて通り過ぎた。


「や、やめ……ひぃっ……!」


それに気付いたのか、ジャック・オー・ランタンは頭目を一瞥すると、周りで槍や剣を構える兵士に向けて放る。

兵士たちは慌てて武器を落とすとそれを受け止めた。


ジャック・オー・ランタンはそれにひとつ頷くと、ヒラヒラと『スイテン・隣』の周りを飛び回る。


久しぶりに飛ぶと気持ちいいです。でも、いつまでもこのままとはいかないですね。


「おのれ!ちょこまかと!」


『スイテン・隣』が巨剣を振り回す。

だが、それは巨剣に振り回されているようにも見える。

ジャック・オー・ランタンはこともなげに巨剣を避けていたが、スルリと背後に回ると背中に取り付いた。


「我が……力を……」


それはアビーバにだけ聞こえた小さな声だった。


「くっ……どこへ……」


振り向いたところで、アビーバはジャック・オー・ランタンを見失った。

ブツブツと呟く声は背後から聞こえる。


「逃げるなっ!」


背後に向けて身体ごと巨剣を振るが見当たらない。

と、アビーバの中に力が湧いてくる。

身体が熱い。

かと思えば、身に覚えのある感覚が襲ってくる。


「ま、待て……やめろ!ダメだ!それは……」


『魔導兵器』の魔法力メーターは八割ほどだったのが十割に戻っている。

ジャック・オー・ランタンは何度も繰り返した『魔導兵器』への魔法力籠めの文言を呟いていた。

いっぱいになっても、無理矢理糧を流し込む。


壊したらアンキが泣くですからね。


「……うぷっ……やめ……」


『スイテン・隣』は巨剣を取り落とすと、四つん這いの格好になる。


「おぼろろろろろ……」


魔物狩りに同行した兵士は妙な既視感を覚えたことだろう。

だが、疑惑だけでは決めつける訳にもいかない。


ジャック・オー・ランタンは容赦せず糧を流し込む。

魔導器の光と篝火に照らされて、『スイテン・隣』は動きを止めた。

呆然とそれを見る兵士たちに向かい、片手を上に上げたジャック・オー・ランタンは、手首を返して、下にある『スイテン・隣』を指差した。

気付いた兵士が声を上げる。


「よ、鎧から賊を引き離せ!」


その声に我に返った兵士が、賊を引きずり出す。

賊はふらふらとしたまま、地面に座り込む。

兵士が両腕を抑えたまま、蝶の仮面を毟り取る。


「アビーバ・シミュレー……」


「ぐ……は、離、せ……離せ!俺は伯爵になる男だぞ!……うぷっ……『魔導兵器』は俺のものだ!俺が動かして、何の問題がある!?」


「ア、アビーバ……」


ようやく『魔導兵器』の暴走が止まったと見て、伯爵と子爵が馬を寄せてくると、その賊を見て伯爵が青ざめる。


「父上!こ、これは少し借りるだけで……例のアレは滞りなく……」


アビーバが言い訳のように言うと、近くに転がされている女性の給仕と目が合う。


「あ、お、お疑いなら、そこの女にお尋ねいただければ……」


「例のアレとは何ですかな?伯爵様?」


子爵が伯爵に聞く。


「し、知らん!あいつは勘当した男。何をしようと私の関知するところではない!」


「なっ!ち、父上っ!?」


「私を父と呼ぶなっ!痴れ者めが!斬れ!町を騒がせた大罪人だ!早く斬って捨てい!」


叫ぶ伯爵に動く者は誰もいない。


「ち、父上……何故……」


「貴様!不敬罪だ!」


伯爵は馬から落ちるように降りると、兵士が腰に差した剣を抜き取った。そして、慌ててアビーバに近付くと剣を振り上げる。


「いかん、伯爵を止めろ!」


慌てて子爵が静止の声を上げるが、突然のことに兵士たちは出遅れる。


バキンッ!甲高い音を立てて伯爵が振り上げた剣が折れる。

今まで目立たぬように静かにしていたジャック・オー・ランタンが掌を向けていた。


「今だ!伯爵を押さえろ!」


子爵が命令すると兵士たちが伯爵を取り押さえた。

子爵は馬のまま、四つん這いの『魔導兵器』の横まで行くと、その上に立つカボチャ頭に声を掛ける。


「お前は何者か?挙動から見れば敵対者ではないと見るが?」


「ジャック・オー・ランタン……」


「魔物か?人か?それとも……」


ジャック・オー・ランタンは飛び立つ。何も答えずに西門を飛び越えると樹海の中に消えた。


「子爵様!追いますか?」


兵士の一人が聞く。


「いや、いい……アレは追って何とかなるものではないだろう……」


その後、ジャック・オー・ランタンは樹海から町へと舞い戻ると最初にアリアの部屋の窓に取り付く。


ふう……気付かず寝てるですね……。


眠りの粉は強力なものだったらしい。魔族には効かないものだったようだが……。

部屋の中に入ると、落とした蝶の腕を拾う。

血は落ちていない。焔の精霊剣で炭化させながら斬ったので、少し黒い跡が残った。

腕は中庭で灰にした。


それからミルキルの部屋を見る。

あちこちにあからさまな罠が置かれている。

なるほど、と理解して、扉を閉める。

気を付けろと言い出したのはミルキルなので、何かしら対策してあるだろうと思っていたが、見てすぐ分かる罠が張られていれば、普通に襲ってくる相手ならば充分に時間稼ぎができるだろう。


それからジャック・オー・ランタンは精霊武装アーマーポゼッションを解いて、ウイングの姿になる。

朝になれば大騒ぎになるだろうな、と思いながらウイングはベッドの脇、暗がりの死角に潜り込むとひと時の休息を取るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。