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輪廻転SHOW!魔王の息子  作者: 月のそうま
79/151

バカ伯爵なのです

一万ユニーク達成です!

いや、人気作家の方と比べたら大したことないんでしょうけど、個人的に小躍りしたくなります。

ひゃほーい!

本当に、本当にありがとうございます!

いやあ、書き続けて良かったなあ。

まだまだお話は続きますが、これからも温かく見守って下さればと思います。

あ、感想いらないとかって意味じゃないですよ。

初めての感想くれる勇者様募集中です!

お叱り、ご指摘も受け付けております。

日が暮れていく。

狩りが終わって、獲物を使った宴の時間である。

忙しく立ち働くのは樹海探索を生業とする兵士五名と『白夜の蒼炎』の六名のみで兵士二十名は夜の見張りがあるため酒はほどほどだが、大いに盛り上がっている。

特に獲物を狩った兵士などは領主の前で良いところを見せ、褒美を約束されているのでホクホク顔だ。


メニューは持ち込んだ野菜と獲物の肉を使ったバーベキューである。

とは言え、味付けは塩のみでとても美味いとは言えないはずなのだが、気分もあるのか皆、「うまい!うまい!」と食べている。


ウイングたちは樹海探索を生業とする兵士五名の指導で、野菜を切ったり、肉を焼いたり、配膳したりと休む暇もない。

悲しいかな子爵御一行の中では一番下っ端扱いなので、それも仕方ない。


「おーい、肉をくれ!肉が足りんぞ!」


「はいはい、こちら追加のお肉ですよ……」


兵士の声に応えてムースが大皿に乗せた串焼き肉を持っていく。


「いやぁ、噂には聞いていたが、本当に美人揃いなんだな、『白夜の蒼炎』ってのは……」


兵士の一人が鼻の下を伸ばしてムースに語りかける。


「まあ、お上手ですね……そんなこと言ってもお肉は増えませんよ……」


ほわほわとそんな受け答えをするムースだが兵士たちの視線はその超ボリュームな胸の肉に釘付けである。


「いやいや、量は充分だよ……これだけあったら文句なしだ……デヘヘ……」


ムースが持つ大皿に手を伸ばす兵士の手のひらは何故かわきわきと開閉を繰り返している。


「こらこら、お前は何の肉を掴むつもりだ?」


兵士たちにねぎらいの言葉を掛けて回る近衛兵長ダンマクが笑い交じりに注意を促す。


「え、も、もちろんこの串焼きですよ、イヤだなぁ……」


言って兵士は大皿の上の串焼きを取る。

武勲を上げたことで少々気が大きくなっていた兵士は焦りながらもそう答える。


シューティ子爵の兵たちはさすが教育が行き届いているのか、すぐに意識を戻すが、シミュレー伯爵の兵士はそうはいかない。


「おい、女なら酌のひとつもしろ!」


モーリーは無言で酒壺を兵士の目の前に置いて、立ち去ろうとする。

だが、兵士はその手を掴んで自分の横に座らせようとする。


「愛想がねえな……少しくらい相手をしろや。

俺達は伯爵様付きの兵士だぞ!わざわざ子爵領まで足を運んでるんだ。

俺たちの相手をするのはシューティの町に住む者の義務みたいなもんだろうが!」


そのままモーリーの腰に手を回そうとした兵士の腕を掴む者がいる。

マルガレーテだ。

片手に酒壺を持ったまま兵士を睨む。


「そこまでにしておけ!

伯爵様の顔に泥を塗るのが貴殿の仕事か?

それにあまり無礼が過ぎるとウチの子が暴れるんだ……これは貴殿のためでもある……」


焦った様子でマルガレーテはウイングをチラと見る。

幸いウイングは肉を焼くのに忙しく、まだこちらには気付いていない。

塩味だけではあまりに不憫だと思ったのか、自前の調味料を取り出して振る舞い始めていた。


「なんだこの深い味は?」「ふっふっふっ……海藻と魚を乾燥させて粉にしたものなのです……」


樹海探索を生業とする兵士の驚きにウイングは鼻高々で答える。


「こっちは甘辛ダレで、こっちは燻製した塩なのです……」「なっ……うーまーいーぞー!」「ただの肉に塩を掛けただけなのに……この香ばしさ……」「まだあるですよ!さっき拾ってきたフォンサンの実の果汁を少し垂らすと……」「脂がしつこい部位がこんなにもさっぱりと……」


声を聞いた兵士たちが集まって、人だかりができている。

マルガレーテは頭を抱えそうになるが、気を取り直して伯爵の兵士を睨む。

伯爵の兵士もそれを見て、それから不敵な顔になる。


「はんっ……剣熊ソードベア一匹に苦戦していたガキが何だって?

この女が相手ができないってんなら、お前が相手してくれてもいいんだぜ?」


「はあっ……騒ぎになって困るのは貴殿だろうと警告したんだがな……」


マルガレーテは今度こそ頭を抱えて、それから兵士に向き直った時には瞳に剣呑な光をたたえている。

マルガレーテの手が腰の剣に伸びる。

伯爵の兵士もそれを見て腰を浮かせかけたところに、ずいと串焼きが差し出される。

いつの間にか人だかりを抜けて来たウイングが皿に乗せた串焼きを差し出したのだ。


「僕の仲間がご迷惑をお掛けしてるみたいで申し訳ないです……ちゃんと言って聞かせるので、これでも食べて待ってて欲しいです!」


マルガレーテとモーリーが驚きの顔でウイングを見る。


「ウイング……どういうつもりよ!」


それまで耐えていたモーリーが噛みつかんばかりに言う。

ウイングに暴れさせる訳にはいかないと、毒舌を封印して耐えていたのに、そのウイングが伯爵の兵士の味方をするとは思わなかったのだ。

伯爵の兵士は浮かせかけていた腰を降ろして、大仰に串焼きのひとつを取る。


「ふん、分かってるじゃねーか。

これはあっちで振舞ってたやつか?」


「それとはちょっと違うやつなのです」


「おい、毒でも盛ってるんじゃねーだろーな?」


「そんな訳ないです。昔、食べて美味しかった店の味の再現なのです。はむっ……もぐもぐ……うん、上手く出来てるです……」


その赤い粉をまぶした肉をウイングは食べてみせる。

伯爵の兵士だって、何も本気で毒を盛ったのでは?と思った訳ではない。

だが、下手に出たウイングにどちらが格上なのか理解させるために揶揄しただけだ。


「ふん、酒に合わなきゃ作り直させるぞ!」


「それは大丈夫です!酒場で出ていたおつまみが元なのです……」


ウイングがモーリーとマルガレーテに睨まれる中、にこやかに応じる。

伯爵の兵士は串焼きをガブリと食んで、酒を口元に持ってこようとして叫ぶ。


「うっ……マカラアァァァッ!!」


伯爵の兵士は仰け反って、そのまま倒れる。


「あれ?ガチ辛じゃなくて、大辛じゃなくて、中辛根性焼きを目指したですけど、考え方が甘々なバカにはまだ辛かったですかね?」


ウイングはニヤリと笑う。その笑みは悪魔のものだった。


「な、なにが起きたんだ?」


マルガレーテが困惑して聞く。

伯爵の兵士は白目を剥いて、はひはひと弱く息を吐いていた。

ウイングは赤い串焼きの盛られた皿の上二段を避けて、下の段に盛られた串焼きを取る。


「こっちは辛味を抑えたやつなのです……」


言ってウイングが赤い串焼きをマルガレーテに差し出す。

見た目では判断がつかない。

恐る恐るマルガレーテがウイングの手から串焼きを少しだけ齧り取る。

もぐもぐとその小さな塊を咀嚼する。


「甘い……うっ……か、辛いっ!でも……」


しばらく咀嚼を続けて、それを持っていた酒壺の酒で流す。


「……っはぁ……これは……衝撃だな……やみつきになる旨さだ……」


「ですです!」


「ちょっと、ウイング!私にも味見させなさいよ!」


モーリーがウイングの手を押さえて、串焼きを自分に向けると、ゆっくりその艶やかな口を近付ける。

なんだか、気恥ずかしくなるウイングだが、そんなことはお構いなしにモーリーも串焼きを齧る。


「……んっ……はぁ……んくっ……はぁはぁ……あむ……」


ひと口でその旨味と辛味、奥底に秘められた甘味の虜となったモーリーが物も言わずに串焼きに齧りつく。


「モーリー!一人で食べるつもりか!?」


何故かマルガレーテもウイングの手ごと引き寄せると、それに口を付ける。


「はぐっ……んっ……はふっ……んあっ……はぁはぁ……」


モーリーとマルガレーテの二人が奪い合うようにウイングの手を自分の方へと引き寄せあって串焼きを食べる。

ウイングは頭に血が昇るのを感じながら、なすがままにされている。


「ちょ……何してるんですか、ウイング!?」


給仕から戻ってきたアリアが三人の痴態を見て顔を真っ赤にする。

いや、別に痴態という訳ではないが、アリアもそこに何らかの官能的な雰囲気を感じ取ってしまったのだろう。

ウイングがようやく正気に返ったようにアリアを見る。

その時には二人も食べ終わってしまったようで、辛さに瞳を潤ませながら、上目遣いにウイングを見て言う。


「「もっと……」」


「あわわわわ……これはちょっと封印するです……」


慌ててウイングは赤い串焼きの乗った皿を取ると、逃げるように焼き場に戻っていった。


一方、子爵と伯爵のところにはミルキルが行っていた。


「やはり、狩りの醍醐味は新鮮な肉ですな!」


兵士たちから少し離れたところで伯爵と子爵、二人が一献傾ける。


「喜んでいただけたようで何よりです」


子爵が嬉しそうに伯爵のグラスに酒を注ぐ。

伯爵もそれを満足そうに受ける。


「何より、日頃は館の中ばかりにいると時折、息が詰まるような気分にもなりますからな……こうして野外で月を眺めながらというのも風情があってよろしい……」


「伯爵様のような方でも息が詰まるなどということがありますか?」


子爵も自分のグラスを傾けながら聞く。


「そうですな……同じ樹海の隣に街を構える者として、お恥ずかしい話ですが、我が街は子爵殿のところのように冒険者が育っておりません……優秀な人材を育てようにもギルドの者は金の無心ばかりで、いっこうに成果は上がらず……そういえば子爵のところでは雷牙槍地竜ヴァジュランダドレイクの死骸を発見したとか?」


「あ、それあたしらですよ!」


ミルキルが串焼きを並べながら言う。


「なにっ?」


「おお、お前たちだったのか……」


伯爵と子爵が驚きの声を上げる。

子爵は少し考えてから、思い出したように言う。


「確か、冒険者の綱紀粛正にひと役かったのも、お前たちではなかったか?」


「ええ、子爵様のお名前で勲章も貰いましたよ。あれ、子爵様、グラスが空じゃないですか!言って下さいよ、もう……」


ミルキルが子爵のグラスに酌をする。


「おお、すまんな!やはりそうであったか!」


「では、さしずめこの者たちは子爵の幸運の女神かもしれませんな!……なんと羨ましい……」


「はっはっはっ!確かに……こういう者たちに町に居着いて貰えるのは幸運なのでしょうね!」


子爵は満足そうに答える。


「町は潤い、子爵の名声も高まり、しかも、このように美しい女神の加護もある……どれ、私にも一杯、女神から酌をいただけますかな……」


伯爵がグラスを空けて差し出す。


「え、そんな……伯爵様から女神と呼ばれるほど大層な者じゃないですよ……」


ミルキルが嬉し恥ずかしといった仕草で伯爵にも酌をする。


「いやいや、この一杯にはきっと女神の加護が宿ることでしょう……」


伯爵はヤニ下がった顔でそれを飲み干す。


「へえ、伯爵様はお酒もお強いんですねえ……」


ミルキルがさらにもう一杯と酌をする。


「はっはっはっ……美しい上に世辞も使えるとは、冒険者にしておくのが勿体ない女神ですな!」


「いやいや、あたし、お世辞は苦手なんで思ったことしか言えませんよ……」


にこにことした子爵もグラスを空けて、ミルキルの方へと突き出す。


「どれ、私にももう一杯貰えるかな、女神よ」


だが、ミルキルは急に頬を膨らませて怒って見せると、サッと酒壺を抱え込む。


「ダメですよ……さっきのは勲章を頂いたお礼のお酌で、今回のお仕事にはお酌は含まれてないんですから……」


子爵の表情が落胆に変わる。


「おや、それでは私にはどんな意味でお酌をしてくれたのかな?」


伯爵が聞くと、ミルキルはにこにこして、身を乗り出し、その薄い衣装に包まれた胸の谷間を強調する。


「そりゃ、もちろん、イイ男にはお酌するのが女の義務ですからね!」


「ほうほう……イイ男かね?」


伯爵は嬉しそうに空いたグラスを差し出す。


「ええ、伯爵様と言えば王様の次の位で、領地も広いんでしょう?それに、魔導兵器も伯爵の持ち物なんでしょう?

地位も権力も力も兼ね備えた男なんて、魅力的じゃないですか!その大振りな顔立ちも包容力があって、勇ましくって、ス・テ・キ……キャッ……!」


ミルキルは頬を染めて、それを両手で隠す。

内心では、うげ〜、と吐きたくなるような思いだが、借金させないぞ作戦のためだと言い聞かせる。

別にミルキルが頑張らなければならないという話ではない。

だが、ダンマクの思惑を全部晒した上で、今回の依頼を受けた以上、なるべく依頼主の意向に沿った行動をするのは冒険者としては当たり前のことで、それが誠意だと考えての行動なのだ。


「ふっ……はははははっ!

これこれ、あまり開けっ広げに褒められても困ってしまうだろうが……」


「あたし、伯爵様のところで冒険者やろうかな……待遇良くしてくれる?」


「むふふっ、それは働き次第だがなぁ……」


「え〜、伯爵様から指名依頼入ったりしちゃったりして?

色んな冒険させられそう……きゃーっ!」


「まあ、来るなら拒まんよ。

冒険者とはそういうものだしな……指名依頼も欲しいなら出してやるが、私の冒険は甘くないぞ~ふひひっ……」


ミルキルは完全に悪ノリしている。

伯爵もいけない方向に意識が向いているのか、子爵は置いてきぼりだった。

子爵は面白くなさそうな顔をして呟く。


「王の次はその血筋である公爵を除いても、侯爵、伯爵で二番目だし、広い領地も発展させなければ金にならん……それに魔導兵器だってハスタの借り物で期限付きの代物じゃないか……第一、伯爵は私に借金の申し込みをしにきている身じゃないか……なのにウチの町の冒険者をたらし込んで、金だけじゃなく人材まで無心する気か……」


ミルキルはその呟きを聞き逃さない。

伯爵に熱っぽい視線を送っていたのを逸らすと、急に冷静になったような顔をする。


「あ、でも〜、やっぱり無理かな〜」


「はっ?何が無理だというのだ?」


「前にあの……息子さんのアビーバ様があたしの仲間に酷いことしようとして、それが法王様お墨付きの宿で事に及ぼうとしたもんだから問題になったのよね……そんなところに仲間が行くって言う訳ないし、実際問題、子爵様の町で私達充分満足してるしね〜。

やっぱり、やーめた!ごめんね、伯爵様……。

あ、お目汚し失礼しました、子爵様。

仕事、戻りますね!」


言ってミルキルは子爵のグラスに酒を注ぐと、スルリと去ってしまう。


「な、なんだあの女は……」


肩透かしを食らった伯爵はぼう然とする。

それを見る子爵の顔は冷たいものだった。

伯爵は暫くして我に返ると、乾いた笑いを浮かべて子爵に向き直る。


「は、はは……最近の女は何を考えているのか、良く分かりませんな……」


「それよりも、伯爵様。アビーバ殿が何やら法王様お墨付きの宿で問題を起こしたとか?

この辺りで法王様お墨付きの宿と言えば我が町の『涼風亭』しかありませんが、どういうことでしょうか?」


「さ、さあ……?」


伯爵が汗を垂らす。

子爵は今まで、自身が爵位を得るにあたって伯爵の力添えがあったからこそ、借金の申し入れにも快く応じてきた。

だが、この国は法王の治める国ヒメルトヴィラの庇護の元に他国からの干渉を跳ね除けてきた。

伯爵の子息が問題を起こしたことで、それが法王の耳に入ればどんな厄事が降り掛かるか分かったものではない。

風向きが変わったのだと子爵が判断を下すのに、時間は掛からなかった。


その後、アビーバが呼ばれ、『白夜の蒼炎』が呼ばれ、事態は簡易裁判のようになる。だが、双方共に水掛け論で子爵は『涼風亭』の者に話を聞くまではと保留にした。


翌日、狩りの予定は切り上げとなり早朝から町へと引き返すことになったのは言うまでもない。

行きも帰りも肩を落として、樹海の中を進むアビーバは、昨日から眠れずにげっそりとした顔をしていた。

伯爵と子爵も不仲になったのを現すかのように離れて馬を進める。

気分良く進むのは子爵の子息、近衛兵長のダンマクだけだ。


ちなみに『白夜の蒼炎』は我関せずといった雰囲気で、最後尾で目が届かないのをいいことに、お気楽に進んでいく。


町に帰り着くと、解散とはならずそのまま『白夜の蒼炎』もシューティ子爵の館まで同行することになる。


館の一室に案内されて、暫く待たされる。

待たされている間にダンマクがやって来た。


「此度は本当に良くやってくれた。

子爵様もこれで伯爵との縁が切れそうでせいせいすると仰っておられた。

これで財源を町の発展に使えるだろう……」


「まあ、それはいいんだけどさ、アビーバとあたしらの件はどうなるのさ?」


ミルキルが苛立ちを隠さずに言う。


「今、『涼風亭』のウォーレン殿を呼んでいる。

おそらくはウォーレン殿の采配に従うことになるだろう……」


「あれ?なんでそこでウォーレンさんが出てくるです?」


「そうか、お前たちが知らないのも無理はないな……『涼風亭』のオーナーは法王様なのだ。そして、ウォーレン殿は元法王様の侍従長をなさっていた方なのだ……」


「「「「「「ええっ!!!」」」」」」


全員が綺麗に唱和して驚いた。


「我が国はヒメルトヴィラ法国の庇護の元にあるのは知っているな。

ウォーレン殿が年齢を理由に法王様の侍従長を辞退なされた時、法王様がそれまでの労苦に報いるためとウォーレン殿の希望を聞かれた。

そこでウォーレン殿は故郷で宿屋でもやりながら静かに暮らしたいと申し出て、法王様が贈られたのが『涼風亭』で、そんな物を貰う訳にはいかないと、ウォーレン殿のたっての希望で、名義上のオーナーは法王様となっている。

ある意味、あそこは治外法権で我らが判断を下せる場所ではないのだ。

今でもひとメグリに一度は法王様がお忍びで静養に来られるしな……。

ちなみにこのことは子爵様と我ら近衛、あとはグアーメ国王しか知らぬこと……お前たちも吹聴してくれるなよ……」


全員がコクコクと頷く。

どうりでオーナーを見たことがないはずだった。

ミルキルなどは軽く売りまくった情報の価値に青ざめていた。


「あたし、どうなっちゃうんだろ……」


「『涼風亭』が法王様お墨付きの宿というのは、ウォーレン殿が公言していることだから問題はない。

まあ、アビーバが出入り禁止となったことも、グアーメ国王の耳に入らなければ問題ないだろう……ただし、グアーメ国王が知ることになれば適当に理由をつけてアビーバは処分されるだろうがな!はっはっはっ……!」


「そこ、笑うところじゃないんじゃ……」


アリアが律儀にダンマク相手にツッコミを入れていた。


「ああ、そっか……処分されるのがアビーバなんだったらまあいいか……いや、心配して損したわ!あっはっはっ……!」


ミルキルも笑っていた。


「ミルキルさんまで……」


アリアが少し引いていた。


「まあ、この話をしたのは理由がある。口裏合わせと言った方が分かりやすいか?

理由がいくつかあってな……」


そうしてダンマクは説明を終えると、「報酬の話はまた後でな……」と言い残して去っていった。


その後、『白夜の蒼炎』が呼ばれ、子爵の執務室に通される。

そこには子爵とダンマクの二人しかいない。


「『涼風亭』のウォーレン殿の証言により、アリア、ウイング両名の潔白は証明された。

アビーバ殿は政治的判断を含めて、不問となったが説明はいるか?」


子爵はアリアとウイングの二人を見て言う。


「いいえ、それで結構です……」


二人がこう言ったことで公的には説明はなかったことになる。

ウォーレンからは、『白夜の蒼炎』になら出自を明かしてもいいと言われているらしい。

説明を求めた場合、先程ダンマクから受けた説明をもう一度聞くことになる。

だが、その場合『白夜の蒼炎』は冒険者として終わる。

ウォーレンは出自を明かした上でも『白夜の蒼炎』を信用しているから問題はない。

問題になるのは、グアーメ国王と子爵だ。

秘密を知った以上は仲間になれ、つまり仕官しろと迫るしかなくなるのだ。

ウォーレンがいいと言った以上、国王も子爵も『白夜の蒼炎』を信用する。だが、秘密を知る者に他国に行かれでもしたら大変なことになるので、『白夜の蒼炎』に自由を与えることはできない。

そこでダンマクが先に口裏合わせに来たのだ。

もちろん、秘密を話すことはできないが、自由を守る選択肢を与えてもらったということだった。


それから、子爵はミルキルを見る。


「ミルキル、その方には目を覚まさせてもらった……礼を言う。

役目の上でのこととは言え、嫌な思いもさせたことと思う。

まあ、浅ましい領主だと笑われるだろうが、見事手玉に取ってくれたものだ……その手腕、感服したとしか言えぬ……だが、だからこそ曇った眼に薬を差されたと言える。

感謝する……」


「いえ、女に騙されるのも男の器量と心得ます。

ですが、失礼な態度を取ったこと、誠に申し訳ありませんでした……」


ミルキルは今まで見たこともない完璧な礼をしてみせた。

勲章を貰った時でさえふざけて知り合いに手を振っていたミルキルがだ。

ウイングは驚きでそれを見ていた。

今回、ダンマクの提案で、ミルキルの行動はダンマクの指示によるものという形を取ることになった。

町の発展に金を使いたいダンマクが父親である子爵に対して点数稼ぎをしたいというのと、ミルキルが不敬罪に問われるのを防ぐためだ。

ミルキルの仕事に対する誠意にダンマクが手を差し伸べた形になる。

ミルキルとしても有難い申し出だった。不敬罪は嫌なので。

だが、ここで子爵が茶目っ気を発揮する。


「礼はやはり個人への指名依頼がいいだろうか?」


男として他の男を前に貶されたプライドが言わせたのだろうか?

冗談交じりだが、恨み節だろう。


「いえ、でしたら今度、皆を晩餐にでも招待して頂ければ充分です。

義務はちゃんと果たしますから……」


ミルキルはにっこり笑って答える。

これは、暗に領主がイイ男だと褒めた形なので、子爵もにこやかになる。


「わかった、この町を支える冒険者たちと一度じっくり話をしてみたいと思っていたところだ。考えておこう」


そうして、子爵は伯爵からの金の無心を断り、ダンマクから依頼料一万ジンと獲物の取り分に色をつけて二千ジンを貰って、依頼完了となったのだが、話はそれで収まらなかったのである。


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