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輪廻転SHOW!魔王の息子  作者: 月のそうま
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カタナと盾なのです

マルガレーテとモーリー、黒い全身鎧に身を包む金髪の美女と同じく黒を基調として赤いフリルを入れた不思議なドレスアーマーに身を包む黒髪の美少女。

二人が並んで歩けば、皆が振り返る。

決してコスプレイベントでもあるのかしらんと思われる訳ではなく、町を代表する冒険者の一人として、美女と美少女の取り合わせが目を惹くものとして、注目されるのである。


その二人が武器屋に行けば、当然店主は値引きを考える。

もちろん、店主が男であるならばだが。

しかし、それを含めても二人が望む品は見つからなかった。

マルガレーテが望む魔法金属製の騎士盾はそもそも取り扱いが無い店が多く、あってもマルガレーテがこれだ!と思える品がない。

モーリーが望む銘品クラスの剣となると更に見つけられなくなる。

モーリーはウイングに借りた魔剣サブナクを使ってしまったがために、普通の剣では満足できなくなってしまっていた。

魔剣とは言わないまでも、せめて銘品をと思ってしまうのだ。

いっそのこと王都まで出向いて魔導機剣、それが無利なら魔導剣でも買おうかと半ば以上この町での剣の入手を断念し始めている。


「もう剣は諦めます。『ニック防具店』に向かいましょう……」


モーリーはマルガレーテに伝える。

『ニック防具店』にも剣の取り扱いはある。

あると言っても中古品ばかりで、売れなかった剣は防具の素材になってしまう。

事実上の断念宣言だ。

下手にそこそこの剣を新品で買うくらいなら、資金を残して中古品で暫く凌ぐ。

それから、王都グアーメに向かうしかないと判断したようだった。


「そうだな。銘品となるとあとは領主様の宝物庫の中になるだろうしな……ある程度まとまった金を持って王都辺りが妥当な線か……」


「樹海の中にはまだ未発見の遺跡があるとも聞きますし、それを探すという手もありますから……」


モーリーは樹海の遺跡を話題に出すが、本人がそれに期待していないのが丸分かりな言い方だった。


強運で未発見の遺跡を見つけ、そこにたまたま古代の魔剣が置かれている確率など考えるだけ無駄というものだ。

しかも、遺跡には大抵守護者ガーディアンと呼ばれる魔法生物がおり、さらにそこをねぐらにしてしまった魔獣や、魔法的に縛られた魔獣が飼われている場合もある。

古代の文明人は今よりも優れた魔法技術と臆病な気性を併せ持つ者が多かったらしい。

そこに大量生産品の武器で挑もうと思うほどモーリーは楽観的なものの見方はできない。


そんな運頼りなことを考えるくらいなら、素直に王都に行くべきだと思ってしまう。


ただ、王都では武器類の価格は高い。

大きな都市なので、強い武器と弱い武器の振り幅はあるが、良い品は城の兵士や貴族がすぐに買ってしまうのだ。

シューティの町のように需要と供給の釣合いがとれていない。

これまでの冒険者稼業で千五百ジンくらいまでなら、モーリーにも蓄えはあるが、王都で本当に良い品を見つけたいなら倍は欲しいところだ。


ウイングの訓練もひと段落したことだし、今後はもう少し大物を中心に狙っていこうかと二人は会話しながら歩いた。


そうして、『ニック防具店』へと足を踏み入れるのである。


「へい、らっしゃいなのです!

……って、マルガレーテとモーリーなのです」


瞬間的にマルガレーテは自分の額に手を当てて、失敗したというように呻く。


「……そうか。ウイングの用事が早々に終わるパターンというのもあったか……」


だが、そんなマルガレーテを余所にウイングがマルガレーテたちに顔を向けたのは一瞬で、そのまま一人の男と商談を進めていた。

そう、ウイングが主導で商談を進めていたのである。

気分は完全に親方の一番弟子といった風情だ。


「それで何が欲しいです?」


「鎧じゃなくて、素材を売って欲しいんだが……」


男は冒険者風の出で立ちだが、どうにも着せられているという感じだ。

筋肉の付き方からしても、筋骨隆々ではあるがどうにも偏りがあって、長年同じ動きを続けたような節が見える。


「素材は売り物じゃないです。

残念ですが、売ることはできないですよ?」


「ああ、それは充分に承知してるんだが、そこをなんとか頼めないかと……」


男の言葉は何とも歯切れが悪い。


「そういう時は冒険者ギルドに依頼を出すといいです。

よっぽど無茶な品でなければ大抵の物は手に入るですよ」


ウイングはただ断るのも悪いかと思い、善後策を提案してみる。


「ああ、時間があるならそうするんだが、それをしている暇がない。

失礼なのは承知の上でなんとか売ってもらえないだろうか?」


男の口振りからすると、男の望まない状況で困っているという風だ。

すると、奥で鎧の縫い付けをしていた親方、ニックが声を掛ける。


「おう、ウイング、訳ありみたいだな……話だけでも聞いてやんな!」


ウイングはチラと親方を見て、小さく頷く。


「じゃあ、とりあえず何が欲しいのかと、その訳だけでも聞かせるです。

その上で判断するです」


男は「申し訳ない……」と頭を下げてから話し始める。


その話というのはこうだ。

男は『ハスタ』という国から友好のためにと『シミュレー伯爵領』に派遣された職人だというのだ。


ウイングは『ハスタ』という国名に酷く動揺を見せたが、マルガレーテが『バウルード帝国』出身という話を聞いたばかりだ。

バウルード帝国があるなら、ハスタ王国もあるだろうと、どうにか動揺を抑えて、続きを促す。


シミュレー伯爵の五男という男が『ハスタ王国』に親善に来た時、国の副将軍が彼をいたく気に入り、『ハスタ王国』の虎の子である『魔導兵器』一機とその整備士である男を貸し与えた。

男は技術流出を防ぐための目付け役でもある。


今回、シミュレー伯爵がシューティ子爵に『魔導兵器』を披露することで、親交を深め、その後の話を進めやすくしようという意図がありここまで来たが、旅の途中、運悪く魔物に遭遇、撃退はしたものの『魔導兵器』が大きく傷ついてしまったのだという。

ある程度の修理素材は持ってきていたが、それは装甲部分の素材であり基幹部の素材は元より傷付く訳がないと持ってきていなかったのだ。


「あの馬鹿ボンが人の注意も聞かずに無理な機動をさせたせいで……第一、指の関節は衝撃に弱いから殴ったら壊れるって、普段から散々言い聞かせてたのに、いざ実戦になった途端、注意を忘れやがって……そのくせ、壊れたのは俺の注意が足りなかったからだとか、抜かしやがるんですよ!

しかも、修理はしろ、金は出さないって、どういうことだと思いますっ?」


話している内に男はヒートアップしたのか、最後は完全に愚痴になっていた。


「つまり、そのバカが無茶したせいで壊したロボ……『魔導兵器』のマニピュ……指関節に使う素材が欲しいってことです?」


ウイングの言葉に我に返った男が恥ずかしそうに頷いた。


「それってどんな素材です?」


「ミスリル……もしくはそれに準ずる魔法力を高める系の素材が二グト〈キログラム〉ほどなんだが、なんとかならないだろうか……」


「金はあんのか?」


親方であるニックが制作の手を止めて男の前に出る。

男は急にしょぼくれた顔をして、懐から金袋を取り出す。

それから、平身低頭、拝むようにして願いを口にする。


「頼む……今はそれしか払えないが、必ず借りは返す……これでなんとか……」


ニックが金袋の中を改める。

中には二十ジンと少し入っている。

それを横からウイングがのぞき見る。


「これはさすがに酷いです……原価の十分の一なのです……」


ウイングが顔を顰める。


「分かっている。原価にも満たないことは充分に承知している、だがそれしかないんだ……」


言って男は自身を見下ろす。


「そうだ、これはどうだ?」


男は腰のものを鞘ごと外して前に出す。


「見てもいいか?」


ニックがそれを受け取り鞘から少しだけ抜く。


「国から持ってきた家宝だ。

拵えはこちらに合わせてあるが、業物だ……」


「随分と身が薄いな……片刃?それにこの波模様……合金か?」


「親方、僕にも見せて欲しいです!」


ウイングはその剣を親方から受け取って、マジマジと見る。


「ぶっ……カタナなのです!」


柄と鍔は西洋風のものだが、その刀身は紛れもなく直刀だった。


「分かるのか?」


親方の質問にウイングが答える。


「これは親方の言う通り、合金製なのです。

硬い金属と柔らかい金属を何層にも重ねて、叩き延ばして、そうしてようやく出来るものなのです……」


「カタナを知っているのか?」


男も驚きに目を丸くしている。


「これ、柄と鍔はこのままです?」


「いや、ある。

少し待ってくれ……」


男は背負い袋から大事そうにひとつの包みを出すとそれを開く。


「これだ」


男は器用に元あった西洋風の柄と鍔を外す。

それから、包みからいかにも和風な木製の柄と丸鍔を取り出す。

ウイングは目敏くなかごに書かれている銘を読む。

そこには漢字で『七代 松風』とあった。


「しちだい、まつかぜ?」


男はビクリと身体を震わせると、恐る恐るウイングを見る。


「まさか……読めるのか?カムイ語だぞ……」


「あ、た、たぶんです……もしかしたら違うかもしれないですけど……」


ウイングは慌てて誤魔化す。だが、あまり誤魔化しにはなっていない。


「俺の国には勇者マツカゼの伝説ってのがある。

このカタナはその勇者にゆかりのあるものだ……ここにはカムイ語でその勇者に縁の言葉が入っていると言われていたんだ……」


「そ、そうですか……」


勇者マツカゼに縁のものと言えばそうなのだろう。

ただし、その勇者より七代後のモノらしいが。

だが、漢字がカムイ語という方が問題だ。

今日の自分は驚きすぎだと思うほどにウイングは動揺していた。

やはり、この世界は自分の前世でいた世界と関係があるのだろうか……そんな考えが過ぎる。

今ではこの世界に馴染みすぎて、前世のことは断片的にしか思い出せないが、この前世の記憶がもしかしたら世界を紐解く鍵なのかもしれないとウイングはそんな事を考えるのだった。


「ふむ、ハスタ王国の勇者に縁の品か……

手放してもいいのか?」


親方が男に聞く。


男は大して考えるまでもなく頷いた。


「家宝が間違いなく勇者と関わりのあるものだと分かったのは有り難い。

だが、それで俺が救われる訳じゃない。

俺は『魔導兵器』の整備士で、それを全うしなければ胸を張って国に帰れない。

あと三メグリ〈年〉は伯爵の元で言う通りに仕事をこなさなければ救われないからな……」


それから、男はカタナに和風の鍔と柄を付けると改めて親方に見せる。


「これで値段を付けてくれ……もし足りないなら、不足分は今度、必ず持ってくる。

頼む……」


親方は「ふむ……」と唸ると考え込んでしまう。

するとウイングが物欲しそうに親方を見ていた。

親方はやれやれと思いながら、ウイングに任せてしまうことにした。


「ウイングなら幾らの値をつける?」


「珍しい異国の武器……勇者が使っていた訳ではないでしょうが、縁の品……これは銘品として扱っていいと思うです……ただし、需要は限られるですから、中古で買い手がつくかどうか……店的には五百ジンで買って丁度いいくらいですかね?」


「そうだな……だがミスリル二グト〈キログラム〉に三百ジンも渡すとなると、店の金庫はスッカラカンだ……」


男は途端に青ざめる。

カタナの価値が思ったよりも高過ぎて、このままでは売れないかもしれない。

せいぜい売れても百ジンかそこらで、足りない金をどう工面しようかと考えていたところだったのだ。

ならば、ミスリルと交換で……そんな言葉が出る前に、親方と弟子の会話は続く。


「それで、買い手はつかないか?」


「そんなことないです。

すぐに売れるですよ!」


「なら、もう少し高く買ってやってもいいな」


「じゃあ、ミスリル、二グト、四百ジンに武器が無いのも可哀想なのでこの前、アールタイルが売りに来た剣をオマケにするです……」


「よし、そうしよう。

それでどうだ?」


ニヤニヤとした二人の会話はお互いだけが分かっているという風に進んでいき、唐突に親方が男に話を振ってくる。


「えっ……はっ……あの……?」


男は訳も分からず、頭にハテナマークを浮かべている。


「だから、ミスリルを二百ジンとして、それとは別に四百ジンとあそこの百ジンで売ってる魔物素材製の剣をオマケでつけるから、このカタナを売って欲しいと言ってるです」


「いや、それは有り難いが……いいのか?」


「まあ、家宝を売りに出そうって言うんだ、それくらいの値が妥当だろ?

ただし、すぐに売れちまうから、取り戻そうったって取り戻せないぜ。

それよりも加工場も必要だろ?

ウチで良ければ使っていいぞ……」


「いや、需要がないと……」


「僕が買うから需要はあるです」


「はっ?」


「こいつは弟子みたいなモンだがな、この町じゃ五本の指に入るくらい稼いでる冒険者だ。

んで、こいつが買いたいって目で見やがるから多少ふっかけても大丈夫って訳だ。

それでも多少は値切られてるかもしれんがな……」


「それは心外なのです!ちゃんと正規に値付したですよ!

親方が言うからイロつけたくらいなのです!」


「がっはっはっ……そうだったか?」


「そうですよ……まったくもう……」


親方はウイングにカタナを渡すと手のひらを出す。


「まあ、今回のは仲介しただけみたいなもんだからな……八百ジンでいいぞ」


「また親方はそういうどんぶり勘定にするです……そういうことするから金庫にお金が貯まらないですよ!」


ウイングは経営にも口出しできるほど内弟子化しているらしい。

なんとなく口を挟める雰囲気でもないと商品を物色しながら聞くともなく聞いていたマルガレーテとモーリーは何とも複雑な表情をしていた。


「そうか……アリアの忠告はこういう意味だったのだな……」


「マルガレーテ姉さん?アリアの忠告って?」


「ああ、『ニック防具店』に来るとウイングが弟子化するからと、注意を受けていたんだがな……」


「ウイングは将来的に防具屋でもやる気なんでしょうか?」


「分からん……分からんが、完全に気分は弟子みたいだな……」


男は親方の勧めに従い店の奥の加工場に消える。

何度も何度も感謝を述べながら。

ウイングは結局、親方の言葉に従って八百ジンでカタナを購入したようだ。

それから、ウイングはカタナを手にマルガレーテたちの所に来る。


「モーリー!これ使う気ないです?」


「それ、さっきの男から買った剣でしょ?

ウイングが使うんじゃないの?」


「僕のはあるから特に必要ないです。

それと、これはカタナって言うです。

たぶん、モーリーの家の剣術と相性がいいと思うです」


モーリーの剣術は実家であるテイラー流剣術とウイングに教わったレンバート先生仕込みの剣術のハイブリッド型になっている。

特に勇者であったカドウ・テイラーはウイングの前世にあった剣道と似た型を多く取り入れているため、カタナとの相性がいい。

ウイングはモーリーから剣術の型の話を聞いた段階で、日本人だったのでは?と疑った程だ。

それというのも独特な掛け声として、昔は「エーン!ドー!コテー!」という言葉を使っていたらしい。

ただ、対人戦だと掛け声で狙いがバレるからといつしか掛け声は封印されるようになったらしい。


「それで、幾ら払えばいいの?」


現在、剣術を教わる身であるモーリーからしてみればウイングの言葉を無下にもできない。

銘品だと言う言葉は聞いていたので、モーリーとしても否やはないが、慣れない武器というのが気になる。

多少、声に不満が交じるのも仕方のないことだ。


「八百ジンです」


「まあ、使ってはみるけど……合わなかったら返品するわよ!」


言って八百ジンを渡す。


「まあ、使えば分かるです!」


得意げにウイングはそう言った。


「なあ、ウイング……」


「なんです、マルガレーテ?

あ、オススメの盾なら、この耐熱、耐寒両面に優れた性能を発揮するプロテメラ鋼とディフリーズ鋼の合金盾とかどうですかね?オリハルコンとはいきませんけど、その分値段も抑えられるですし、普通の盾よりも防御力は格段に上なのです!」


「おお、それはいいな……って、違う!

いや、その盾自体はもちろん候補として考えるが、そうじゃない。

ウイングは将来的に防具屋をやりたいのか?」


マルガレーテは勧められた盾は素直に購入候補としたが、すっかり丁稚となっているウイングに危惧を抱いたのだ。

ウイングはそんな真剣な表情をするマルガレーテを見て、色々と理解したのか、納得顔で笑って答える。


「別にそういうのは考えてないですよ?

親方に鎧作りのノウハウは教えてもらっているですけど、あくまでも冒険者として、趣味と実益を両立した結果なのです。

防具の構造を知れば、いざという時に簡単な補修ができるですし、お客さんは冒険者が大半なので仲良くなれば情報も集め易くなるです。

さらに魔物素材の良し悪しを見抜く目や知らない魔法金属にも精通できるようになるです。

親方もこのことは納得済みで、たまにお店に来た時はお礼も兼ねて店の手伝いをしてるって感じなのです!」


「そ、そうなのか……?」


「そうなのです」


マルガレーテは拍子抜けしてしまう。

いつか、ウイングが冒険者を辞めるなどと言い出すのではないかと、何故だか不安になったのだ。

考えてみれば、パーティーを組んでいるとはいえ、ウイングが他に道を見つけたのならば喜んで送り出してやってもいいはずなのに、何を不安に思ったのだろう。


それだけマルガレーテがウイングに執着心を抱いていたということなのだが、マルガレーテはそれ以上考えるのをやめた。

何となく、突き詰めてしまうと良くないことのような気がしたのだ。


マルガレーテはウイングが勧める盾を握ってみる。

魔法金属だけあって、そこまで重くない。

盾の握りも、冒険者信頼の店『ニック防具店』のものだけあって、しっくりくる。


「ああ……この盾はいいな……カイトシールドの中では防御面積も少し広めで、盾裏のナイフ入れとミニポケットの心遣いがまたそそる……それで、これで幾らだ?」


「九百二十ジンなのです。

でも、親方からは最高で二割引きまではやっていいって言われてるですから、七百十六ジンなのです」


マルガレーテはそっとウイングに耳打ちする。


「……おい、いいのか?パーティーメンバーだからと無理する必要はないんだぞ?」


「別に無理してないですよ?二割引きでも採算は取れるですし、これは僕の持ってる権利なので、使わなきゃ勿体無いです。

それに誰にでも二割引きで売ってる訳じゃないですから、問題ないです……。

運が良かったってことなのです」


さすがにマルガレーテも納得したのか、二割引きで買うことにする。


「オリハルコンの手甲はどうするです?」


「何か出物でもあるのか?」


「足甲ならあるです。フェザリスとの合金で軽くて丈夫、オリハルコンの治癒効果は少し落ちてるですけど、ウチのパーティーなら充分に実用品なのです!」


「ふむ……先程の店で手甲が左右セットで千五百ジン……足甲は?」


「千二百ジンなので二割引きで九百六十ジンです」


「それは迷うな……」


マルガレーテが悩み始める。

元々、マルガレーテは金遣いが荒い方ではないので、二千五百ジン程の資金を用意してある。

手甲と足甲、盾を別にしても買えるのはどちらかだけになる。


「こっちの足甲は七マワリ〈日〉の間は取り置きできるです。

その間に稼げばどっちも買えるですよ?」


マルガレーテはハッと顔を上げる。


「取り置き?」


この町に取り置きというシステムはない。

冒険者が大量に集まるこの町では、売買予約をしていた相手が樹海に入って帰って来ないということもよくある。

故に、ある時払いが基本的な売買システムだ。

もしくは先払いの発注製作というのはあるが、あまり一般的ではない上に高くつく。

そこでウイングが持ち込んだ概念が取り置きシステムだった。

七マワリ〈日〉の間は他の者に売らない。

買えるのは取り置きをして貰っている者だけである。

ただし、七マワリ〈日〉経てば、早い者勝ちと棚に並べられることになる。


そんな説明を聞いたマルガレーテは、すぐ様飛びついた。

ウイングが親方に取り置きを頼んで、マルガレーテはモーリーと手甲を買いに行った。

それから冒険者ギルドで手頃な依頼はないかと粘ったようだが、近場で約七百ジン稼げる依頼となるとなかなか無い。

明らかに気落ちして、マルガレーテは『涼風亭』に帰るのだった。


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