戦士の産声
彼は歩いていた。
抜き身の長剣を杖代わりに、ボロボロの姿をしていた。
どこへ向かっているのかは分からない。
ただ、怨嗟の声が口から零れ続けていた。
「僕は悪くない……許さないぞ……何でこんな目に……嵌めやがって……永遠に苦しめばいいんだ……」
ガサリ、と葉摺れの音がする。
「ひっ……」
渇いた喉がひりつくような痛みを伝えるが、それを押し殺して長剣を構える。
だが、片足に痛みを覚えて、まともに剣を構えることもままならない。
身体さえ無事なら、魔物の一匹や二匹、どうにでもできるが全身に打撲を負い、運悪く右足に深々と木が刺さった。
その木を抜いて、手当てが出来ればまた違うのだろうが、木が刺さったまま、傷む足のまま走らなければならなかった。
おかげで神経でも壊れたのか、木を抜いて応急処置をした今でもズキズキとした痛みが走る。
どうするかと考える。
今の足で逃げられるか……いや、無理だろう。
ならば、剣では意味がない。一撃くらいなら受けられるが足が使えなくては踏み込んで攻撃などできない。
殺らなければ殺られる……。
ふと、頭の中を呪文が過ぎる。
相手は自分に気付いているだろうか?
気付いているなら悠長に呪文を唱える間、待ってくれる訳がない。
だが、一か八か、魔法に賭けるしかない。
「アーガモトーム……」
小さな声で、剣を構えるのと反対の手で小さく紋様を描いていく。
ガサガサ、と藪を掻き分けて現れる。
彼は集中を切らさないように、早口になる。
「ミカエルの術理……」
「待っへ!」
現れたのは見知った顔だった。
その顔を見た瞬間、慌てて彼は呪文を止めた。
「アンハ……ブリらったのへ!」
ソイツは身体のあちこちに火傷を負い、顎が潰れているのかまともに喋れていない。
彼同様、夜中に慌てて走ったのか衣服は破れてボロボロだが、傷は彼ほどではない。
「お前……何で……?」
「逃げらのよ……」
良く見れば、ソイツは普段から持ち歩く自分の荷物を背負っている。
ならば、こっそりと逃げ出したのだろう。
彼は、良かったと思った。気が抜けたら足に踏ん張りが利かなくなって、近くの木に寄りかかるようにズルズルと座り込んでしまった。
「アンハは?」
「僕もだ……」
「ホウ(そう)……」
「痛み止め、あるか……?」
ソイツが自分の背負い袋を降ろして荷物を漁る。
彼は痛む右足を出して見せる。
同時にソイツの荷物の中にそれを見つける。
神聖魔法を封じた魔導具。怪我を治してくれるものだ。
彼らは神殿とも強い繋がりがあったため特別に貸し出して貰えた物だ。
使うのはいいが、回数制限があるためおいそれとは使えない。
それを持っているとは都合が良い。
「おい、それがあるなら、それ使ってくれよ!」
「ラメ(ダメ)よ。ホレハ(これは)、アラヒ(わたし)が使うの!ハトイッハイ(あといっかい)ヒハ、使ヘナヒンラカラ(つかえないんだから)!
ハホーカアッラホーカ(まほうがあったほうが)ヒヒレリョ(いいでしょ)!」
「すまない、もう一度言ってくれ!」
彼は片手を耳に当てて、良く聞き取ろうとする。
ソイツも身を乗り出して声を大きくする。
「ラーカーラー(だ、か、ら)!……ウブッ……」
ソイツの胸から長剣が入って、背中まで抜ける。
彼は耳に当てていた手でソイツの肩を掴むと、長剣をもうひと押し。
「グッ……ブブッ……」
ソイツは壊れた顎から血を噴いて、驚いたような目をして彼を見る。
「声が大きいよ……誰か来たらどうするつもりなんだ……まったく……」
まるでイタズラの発覚を恐れる子供みたいに彼が言うと、自分に寄りかかるソイツからゆっくりと長剣を抜いた。
それから、両手でソイツをなんとかどける。
立つのが辛いので、座ったままソイツの背負い袋に近付いて、神聖魔法の魔導具を取り出す。
「僕だって魔法は使える……魔法も剣も使える僕と、魔法しか使えないお前なら、僕の傷を治した方が生存率が上がるに決まってるだろーが……昔から自分本位な奴だと思ってたけど、ここまで酷いとはね……気持ち悪いおかま言葉なんて使うくせに、礼儀作法も知らない、女性の扱いも下手、おまけに自分の方が先輩だからって偉そうにしやがって……その癖、真っ先に逃げたとは……飽きれてものが言えない。
僕はちゃんと戦った。アイツらの罠にお前らが嵌るから、こっちまでとばっちりだ……冗談じゃない……僕はまっとうにやってきたんだ!最後の尻拭いだって毎回、僕じゃないか!
女を供給してやって、お前らは汚すだけ汚して、最後は僕が言い含めてやらなければ、お前らじゃ何にもできないじゃないか!
くそっ!これ、どう使うんだったかな……。
僕が一番若手だから、それが仕事だって?冗談じゃない!
僕の苦労なんか考えたこともないんだろう?
酒場で暴れる度に僕がとりなしてやらなきゃお前らなんか全員死刑じゃないか!今の仕事だって僕が見つけて来たんだぞ!ドーパンと渡りをつけるのにどれだけ苦労したかなんて知らないんだろ?なのに取り分は折半だなんて、お前らがバカな証拠じゃないか!
あー、もうっ!発動の言葉だよなっ!おい、発動の言葉、覚えてないのかよっ!おい!
なんだよ、そんなので死んだのかよ!これだから後衛専門の奴は弱っちいんだよ!使えないな!
ああ、そうだ!『これぞ神の御業、我が身に光をさずけ給え!』だ……」
彼がそう言うと魔導具から光が零れる。
その光を浴びれば身体中の傷が癒される。
魔法力が魔導具にぐんぐん吸われていく感覚がある。
光が消えると同時に、カチリと魔導具から音がして魔導具の使用回数がゼロになった。
この一回で三百ジンだ。
魔導具には鍵穴があり、神殿で鍵穴をひと回ししながら特別な儀式とやらをしてもらうと、また一回使えるようになる。
その儀式代が三百ジンも掛かる。
五百ジンでふた回し、七百ジンなら、三回しという具合だ。
余りに高いので、彼らですらふた回しが限界、それも騙し騙しやっているので、今回はひと回ししかチャージがなかった。
だが、あるとないでは大違いなのは確かなので、彼らは魔導具を借りていた。
ちなみに、この魔導具は季節毎に五十ジン掛かる。
彼は、ゆっくりと立ち上がる。
傷や打ち身は消えたが、身体の奥底に残った痛みは消えていない。
だが、彼ならこの程度であれば充分に戦える。
あちこち鎧に欠けや罅がある。
倒れているソイツを見る。
衣服を脱がせ、中に着ていた部分鎧から使えそうな部分を流用する。
それから、脱がせた衣服、冒険者用の紫のローブもマント代わりに着込む。
腕が動かしにくいので、脇から下まで大きく切れ目を入れて、袖も外してしまう。
背負い袋から真新しい手拭いを見つけて、それで顔を隠した。
早ければあと三マワリ〈日〉もあれば手配されるかも知れない。
東と南はまずい。向かうなら北だろうか?
食料は心許ないが、狩りをしながら行くしかない。
彼はそう決めると北へ向けて歩き出した。
歩き続けて三マワリ〈日〉。
まずは距離を稼ごうと急いだため、手持ちの携帯食料はあと五マワリ分、北へ北へと進んだらいつかは隣国に出るだろう。
だが、あとどれくらいかかるかなど知りようがない。
魔物は徹底的に避けてきた。
彼の認識では樹海の奥だが、実際の樹海からすればまだ外縁部、西に向かえば雷牙槍地龍よりも強い魔物がゴロゴロいると言われている。
極力西に外れないように北へと向かう。
そろそろ狩りも考えた方がいいだろう。
おそらく、彼がいた町の者はここより北へと踏み込んだ者はいないはずだ。
魔物ははぐれを見つけなければならない。
彼は一人だ。群れと遭遇してしまえば命は無い。
急ぎたいが未知の領域、慎重に進むことにする。
右足はまだ痛い。普段はそうでもないが、強く踏み込むと鈍痛が走る。古傷のようになってしまったようだ。
それから六マワリ〈日〉。
夜である。
樹上に身体を縛り付けて寝る。
獲物は思うように取れず、携帯食料は尽きた。
魔法で水だけは確保出来るものの、いつ戦いになるか分からないため、最小限で済ませる。
ちゃんとした休息も取れていないため、魔法力の回復も覚束無い。
疲れはピークと言っていい。
樹上ならば、地面で寝るより安全度はマシというところだが、樹上を歩き、地を這う獲物を探す魔物もいる。気が休まらない。
風が吹けば目を覚まし、身体を固くする。
獣が鳴けば目を覚まし、やはり身体を固くする。
「くそ……アイツめ、簡単にくたばりやがって……見張りの役くらいには立てただろうに……それというのも、アイツらが俺を罠に嵌めやがったから……俺は何も悪いことなんてしていないのに……くそ……くそ……くそ……」
時たま漏れる怨嗟の声。
誰も彼もが憎い。
いつの間にか『僕』と呼んでいた一人称は、『俺』になっていた。
過去を思い出す。
憎たらしいが良い仲間だった。
最初は嬉しかった。憧れのパーティーに誘われたのだ。
金は元の所持金がいきなり百倍になった。
豪遊し、悪い遊びも少し覚えた。
仲間は戦い方を教え、冒険に必要なものを教え、自分をパーティーの中心だと持て囃した。
だが、次は怖かった。
もう一人くらい仲間を増やしたいと言われ、当時恋仲だった彼女を入れた。
彼女は泣きながら助けを求めた。
彼らに壊されていく様を縛り付けられた木から見ながら、奇妙な興奮を覚えた。
最後にボロボロになった女を抱いた。
何故か最高の気分になった。
だが、その女はどうでも良くなった。
それから、そんなことを繰り返した。
強気な女が泣きじゃくる様、悲しい過去を背負った女が絶望に染まる様、健気な女がそれでも自分に擦り寄ってきた時は気持ち悪かったが、それも今となっては楽しい思い出だ。
全てを支配していた。何も怖くなかった。
金も力も顔も話術も何もかも持っていた。
だが、今はどうだ?
金は役に立たない。力は消耗しきっている。顔を晒すのが怖い。言葉は意味を為さない。
一人きりだ。
唯一、支配しているはずの自分の身体でさえ、空腹は抑えようがないし、眠くても眠れず、右足の引き攣るような痛みは消えない。
あるはずのものがない。
それもこれも、ケチのつき始めはアイツだ。
まだ成人して間もないようなガキ。
自信満々で偉そうなガキ。
力量を試す場で、笑いながら俺を殺そうとして、さらには俺を罠に陥れて、また殺そうとした。
だが、俺は生き延びた。
いつか俺はアイツを殺す。
この手で腹を引き裂いて殺す。
この牙で首筋を噛み砕いて殺す。
殺す、殺す、殺す、殺す、笑いながら殺す、嘲笑を浮かべて、唾を吐きかけて、心も身体も魂すらも殺す。
そうして、全てを支配する。
また、あの全能感に身を浸すのだ。
それを思い浮かべると、また力が湧いてくるような気がするのだった。
「おーい!おにいさん!この焚き火、あたってもいーい?」
彼は慌てて自身を縛り付けていたロープを外すと、鞘に手をかけてそちらを見る。
焚き火は魔物避けでもあるため、まだ弱く燃えている。
その焚き火に十四、五の少年が勝手に薪をくべている。
彼はぞわりと全身が総毛立つような恐怖を感じて緊張する。
あの町の連中でこんな樹海の奥深くに来るような者はいない。
だが、追手が掛かっているだろうとは思う。
しかし、少年は一人きりで樹海の奥地を旅するには軽装と言ってもよい格好をしている。
黒髪だが一部分だけメッシュを入れたように赤い。
黒い瞳は星が瞬いたように光を映している。
お世辞にも筋肉があるとは言えない華奢な身体。
毛布と薄い背負い袋、ウエストポーチ。
名も無き農村で作られたような粗末な魔物製部分鎧に、安物の剣、首には浅葱色のマフラーをつけている。
少年は手にしていた魔物の肉を焚き火で炙り始める。
彼は迷う。
どうやら、追手には見えない。
だが、遭難者にも見えない。
何者なのか見当もつかない。
「……誰だ」
彼は小さく呟く。
少年は肉の焼き目に集中しながらも、意識だけを彼に向けて答える。
「リョウゼン・ミズキ……あ、こっちだと逆か、ミズキ・リョウゼン……神聖なんとか王国……?なんか、宗教国家で華々しく勇者デビューする予定!よろしく!
んで、おにいさんは?」
「貴族?いや、勇者だと……?」
家名があるなど貴族の家系かと思えば、勇者を名乗る少年に彼は驚きが隠せない。
では、神聖国ヒメルトヴィラで勇者召喚がなされたということだろうか?
確かに近隣で魔族、ゴブリンの大きな群れは現れたが、あの程度ではヒメルトヴィラが勇者召喚の儀式を行うとは考えにくい。
世界的に何かが起きたということだろう。
勇者には二種類いる。
自然発生する勇者と勇者召喚によって異世界から来る勇者である。
自然発生する勇者も異世界から来るとされているが、吟遊詩人が語る物語で聞いた程度で詳しくは彼も知らない。
勇者召喚によって現れる勇者は簡単だ。
いるかどうかも分からない『神』という存在に縋った人間が作った『神殿』。
中でも『大神殿』と呼ばれる過去の遺跡を使えば、勇者は召喚される。
どこからか勇者はやってくるのだ。
勇者は使命を帯びている。そしてその使命を理解している。
だから、どれだけ『神殿』の人間が勇者を欲していても、ただ呼んでも来ない。
時代なのか、世界なのか、神の気まぐれなのか、それが合致した時に勇者は現れるのだ。
ある者は異世界の情報を伝えるために、ある者は龍を倒すために、ある者は天変地異を止めるために。
だが、最も多いのは魔王を倒す使命を帯びた勇者だろう。
語られる物語に、描かれる絵画に、魔王と対峙する勇者はあちこちにいる。
だが、全ては伝説で神話だ。
この世界には『勇者』のようになりたいと思う者はいても、『勇者』になりたいと思う者はいない。
勇者の出現によって、人間世界に多くの実利がもたらされたのは事実だ。
だが、『勇者』は異世界出身。
この世界の人間は『勇者』にはなれない。
それが現実なのだ。
だから、この少年は現実をはき違えた者なのか?とも思う。
だが、この少年はそれとは違うようにも見える。
鎧の下に着ている服はこの世界のものではなさそうだし、余裕ぶった態度なのもおかしい。
黒髪黒目は勇者の証とも言われる。
だが、一部分だけ赤い髪の場合はどうだろう?
本当に勇者なのだとしたら、樹海の奥地で一人歩きまわっていても不思議ではない。
勇者には特別な加護があると言われている。
と、彼がじっと観察していると、ミズキと名乗った少年は自らの赤髪に触れる。
「これ?俺のトレードマーク。
わざわざ染めて貰ったんだよ、神様に。
なんか、黒髪黒目が勇者ってのがあるんでしょ?
それだと、俺が伝説になった時に埋没しちゃいそうだから、特徴付けにいいかと思って……。
でも、おにいさん、真っ赤な髪してるんだもんなあ……これじゃ没個性になりそうだよ……」
困ったとでも言うかのように少年は笑う。
「使命は……あるのか?」
「魔王退治だって。それが終わったら、元の世界に帰ってもいいし、この世界に残ってもいいって言われたな……。
そんなことより、おにいさんは誰?」
まるでそんなことは遊戯に過ぎないとでも言うかのように軽く答えて、少年は質問を繰り返す。
彼は少年の語る言葉の真偽を確かめようと、黙したまま観察を続ける。
だが、少年は憮然とした表情を急に彼に向けると怒りだした。
「ちょっと……名前あるでしょ!名前。
こっちだって、一応、気ぃ使って質問に答えてるんだからさ、そこは名乗るのが礼儀なんじゃないの?」
焼けた肉を振り回してミズキが抗議する。
彼は一日何も食べていなくとも我慢はできるが、さすがに目の前に良い香りを振り回されると、腹が鳴る。
「お腹、減ってるの?
んじゃ、まともに会話してくれるなら半分分けたげるからさ、それでどうよ?」
ミズキは肉の焦げ目がついたところをガブリと一口齧ると彼に差し出す。
彼はそれを取って、一口齧る。ただの素焼きだが口に物が入るということが有難い。
脂の微かな甘味を味わうようにして飲み込むと少年に差し出す。
「レイオ……レオンだ……」
ミズキがガブリと一口。咀嚼して飲み下す。
「レオンね……レオンは何でこんなとこに一人でいるのさ?」
レオンが肉を口にする。
「……命を狙われ、追われている」
ミズキもまた食う。
「訳ありかぁ……まあ、いいや。
どこか行くアテはあるの?」
レオンもまた食う。
「とりあえず、ヒメルトヴィラだ。その先は決めていない……」
ミズキもまた一口。
「ふむふむ……じゃあ、目的地は一緒か……それなら、一緒に行かない?」
食い終わってしまった肉を名残惜しく見ながらミズキが言う。
それをレオンは奪うようにして取ると、軟骨をガリガリと齧る。
そうして、食える部分がなくなると、レオンは骨を焚き火に投じる。
その手があったかと悔しそうな顔をするミズキを尻目に、レオンはその場でゴロリと横になる。
「見張りをやれ。あの月があの枝まで来たら交代だ」
「お、了解、了解!ようやく仲間一人ゲットだぜ!」
レオンと名乗った彼は目を閉じた。意識はすぐに落ちた。
深い眠りから急激に浮上する。
レオンは目を開けると同時に慌てて背中の解体用ナイフに手をやろうとするが、声が聞こえて動きを止める。
ゆさゆさと揺さぶりながら起こしてくるのはミズキだ。
「レオン!交代だよ……」
「ああ……」
レオンは起き上がる。
それを見届けて、ミズキは欠伸をしながら横になる。
「んじゃ、あと、よろしくー……」
言うか言わないかの内にミズキはすくに寝息を立て始める。
レオンはミズキに背中を向けると、顔を覆う布を外して、水袋の水で顔を洗う。それから、丁寧に布を巻き直して、しばらく見張りを続ける。
この勇者を名乗る少年は、レオンが訳ありだと理解した上でヒメルトヴィラまで同行しようと言ってきた。
どういうつもりだろうか?と考える。
樹海を抜けるまでなら協力関係を築いた方が有用なのは分かっている。
二人ならば獲物も狙えるだろうし、見張りを立てて眠れる。
だが、気を許す訳にはいかない。
もう罪悪感などないが、シューティの町では手配されているだろう。違法薬物の使用が発覚した以上、それは仕方がない。
だが、手配といっても形だけだ。
樹海に一人では、恐らく死んだだろうと思われるだろう。
ならば、近隣の町に手配書をまわすくらいはするだろうが、本格的に探すのは数マワリ程度で終わるだろう。
隣国であるヒメルトヴィラならばひとまずの安全は確保できるから、そうなるとこの少年は厄介だ。
訳ありだと知っている。
それだけで危険な相手になる。
一瞬、この場で暢気に寝ている内に殺してしまおうかと考える。
その時、寝ているはずの少年が話し掛けてくる。
「別に詮索しようとか考えてませんからね……樹海を出るまでは協力した方がいいと思いますよ……むにゃむにゃ……」
寝言風に釘を刺された。
もちろん、寝言ではない。
直前まで完全に寝入っていたのはレオンだって分かる。
ほんの少し、ごく僅かに漏れ出した殺気に反応したのだ。
レオンはこの少年を樹海の中で殺すのは無理だと悟った。
一方のミズキはと言えば、心の内でこんなことを考えていた。
訳ありってのがヤバいことなのは、何となく分かったな。
でも、犯罪者が勇者に出会って心を入れ替え勇者の頼もしい仲間になる……とか、渋くて格好良いよな。
そこそこ強そうな人みたいだし、顔を隠してるのもミステリアスな雰囲気でいいじゃん。
神様からチート能力山盛りで貰ってるし、多少スリルがある方が楽しいもんな……やっぱ、仲間にしよ……。
お気楽勇者の始まりはこんな第一歩だったのだ。




