崩壊の序曲なのです
死魂族は不死身であるとされている。
それは命の核と呼ぶべきものが破壊されない限り、死ぬことがないからだ。
命の核、『命核』は死魂族の体内を光の速さで動く、小指の爪ほどの小石のようなものとされている。
つまり、光より早く『命核』を砕くか、塵も残さず身体を消し去るかしない限り死なず、身体は再生する。
再生のプロセスは不明とされている。
本来の意味での死魂族とは、『命核』を持つ、生きた死者のみを指す。
魂なき者は『命核』を持たないため、名誉死魂族と呼ぶのが正しい。
レンバートの生首が再生を始めないということは、『命核』を失ったということだろう。
「レンバート……先生……」
ウイングは起きた事象を飲み込めず、立ち姿のまま小さく呟いた。
サヴァルマーナは、そっとウイングの横に来て、ウイングの肩を包み込むように強く抱いた。
「大丈夫だ……ウイング!
何も心配しなくていい……」
強い決意の表情でサヴァルマーナが言った。
魔王エリュセイグドは舞台へと駆け出していた。
「おい!何故殺した!」
今回、ひょんな事からなし崩しに始まった、この大会では既にたくさんの犠牲者が出ている。
今更、魔王と言えども異議を唱えることは意味がない。
それはエリュセイグドも分かっている。
しかし、言わざるを得なかった。
それほどに魔王エリュセイグドとその家族にとってレンバートの存在は大きかったのだ。
ウイングの母グロリア、姉リオラディッタも声を失ったように立ち尽くしていた。
先代魔王ヴォラウディーグと勇者を撃退した後、家庭教師として仕え続けてきたレンバートは今を生きる魔王族全ての師と言っても過言ではない。
「殺さずに勝てる相手ではありませんでした……」
ブラーガスはへりくだったりせず、真っ直ぐ魔王を見詰めて答える。
「お前は、トノルジンバの護衛も殺したな!」
「はい。ルール違反でしたか?」
魔王は、ギリギリと奥歯を噛み締めて、地面を見詰める。
ブラーガスを見てしまうと邪眼で射殺してしまいそうだった。
魔王は何も言えず、戻って椅子に腰を落とす。
誰も声を掛けることが許されない、そんな鬼気を放っていた。
サヴァルマーナはレンバートの生首を大事に受け取った。
「少し失礼します……」
悲しげに微笑んで、場を辞した。
辺りに誰もいないのを確認して、レンバートの生首を抱いてうずくまる。
「闇のマナ、我が名の元に集いて、理を表せ。
心に秘められし色を解き明かせ。
神鳴りの魔法石が命じる。
読心」
サヴァルマーナが使ったのは、相手の感情を読み取る呪文だ。
これは死者の最後の感情も読み取ることができる。
サヴァルマーナはレンバートが最後に何を思って死んだのか知りたかった。
そして読み取ったのは『怒り』だった。
烈火の如き燃えるような憤り。
理不尽に抗うための『怒り』。
「何故、これほどの怒りを……」
当然、それはブラーガスに対する感情なのだろう。
しかし、今でこそ家庭教師という役職に収まってはいたが、元々レンバートはヴォラウディーグの軍師であり、武人であった。
戦いの中で命を落とす瞬間に、相手に怒りを感じるというのは、サヴァルマーナの中のレンバート像とどうしても噛み合わない気がする。
例えば、騙し討ちにあったとして、レンバート先生はそれを責めるだろうか?と考える。
それはないと断言できる。
レンバート先生はヴォラウディーグの治世を騙し討ちで作ったようなものだ。
本人もそれは恥じておらず、騙されたなら騙した相手を称えるべきだと言っていたほどだ。
では、何故……?
サヴァルマーナはその答えを出せなかった。
自分が愛されている実感を持っていなかったからだろう。
ウイングならば違ったかもしれない。
前世で足りなかった愛情を満たすように感じてきたウイングならば、素直にレンバートの愛情を信じただろう。
例えそれが先代魔王との約束から来る義務感からきたものだとしても、愛情だと信じた可能性が高い。
今のウイングは振り子の針が傾くように、歪に愛情を信じているとも言える。
だが、サヴァルマーナはレンバートと離れてから、ひとり八層妖魔族の中で、腫れ物に触るように扱われ、自身も心を開くことなく生きてきた。
愛情に触れていない訳ではない。
子供の頃には愛情を感じて生きてきたし、今も家族から無償の愛を感じている。
隠していた力を責めることもせず、父も叔父も、全てを託すと言ってくれたことからもそれは明らかだ。
だが、レンバートが地上恩恵派にそれほどの怒りを持ち、サヴァルマーナやウイングといった魔族を纏める可能性のある者たちにそれほどの慈愛を感じてくれていたとは思えなかった。
悲しいが当たり前だとも言える。
何かを隠して生きるということはそういうことなのだ。
「お兄様……」
声を掛けてきたのはリオラディッタだ。
サヴァルマーナは意識をそちらにやって聞く。
「リオラ……どうかしたかい?」
努めて平然を装って、サヴァルマーナがリオラディッタに微笑んだ。
だが、それに余計に傷付いたような顔でリオラディッタは告げる。
「そろそろお兄様の出番ですわ……。
それで、あの……」
傷付いた表情のリオラディッタに気付きながらも、敢えてそれには触れずサヴァルマーナは立ち上がる。
「ああ、そうだね……」
先生を頼む、とリオラディッタにレンバートの生首を渡してサヴァルマーナは会場に向かおうとする。
リオラディッタはそれを大事に受け取りながらも、兄を目で追う。
ふらふらと歩くサヴァルマーナ。
「あの……お兄様!
無理なさらないで、下さい。
充分にお兄様のお力は示せております!
それに、ウイングの剣の素晴らしさも……ここで戦わずとも、誰もが理解できるはずです!」
次の魔王になるべきは誰なのかを……という言葉をリオラディッタは飲み込む。
今、兄は違う何かを背負って戦いに赴こうとしているように見えたのだ。
魔王になること、父の跡を継ぐこと、それは確かに兄が望み、家族が望むことではある。
しかし、兄からは希望に向かって歩くというより、一種悲壮感のようなものを感じる。
テセラスタの出現によって、確かに第一後継者の地位は揺らいだが、兄が示した単一呪文による魔法は魔王を選ぶ上で充分過ぎる力を示した。
無理にテセラスタと戦う必要はないのだ。
リオラディッタは自分がテセラスタに殺されかかったことを脇にやって兄の身を案じていた。
元より、他の誰かに自分の敵を討って貰おうなどとは思っていない。
テセラスタに然るべき報いを与えるのは自分の為すべきこととして捉えている。
兄が、ふと足を止める。
「無理じゃないよ……僕はレンバート先生と同じ魔法石の魂の器だからね」
サヴァルマーナははっきりと口にした。
リオラディッタは驚愕する。
今まで兄からは石級だと聞いていた。
中級の魂の器、魔王候補としてはギリギリの力だ。
それでも、その洗練された剣技と無駄のない魔法の選択がある故に魔王候補と呼ばれていたのだ。
だが、魔法石の魂の器となると、それこそ伝説だ。
レンバート先生も魔法石だが、リオラディッタは一度たりともレンバートが魔法力不足に陥ったところを見たことがない。
それだけの力があるなら、確かにサヴァルマーナは無理などしていないことになる。
だが、リオラディッタが無理をしていれと感じるのはサヴァルマーナの心だ。
しかし、サヴァルマーナはそのひと言を残して、行ってしまった。
残されたリオラディッタは、そっとサヴァルマーナが無事に戻ることを祈った。
会場では主催者のジーガンがこの大会の主旨を説明したり、ここまで残った参加者の武器にまつわる云われなどを紹介して場を繋いでいる。
「戻ったか」
父である魔王が、ホッとしたように笑顔を見せる。
おそらく、サヴァルマーナが戻るまでの時間稼ぎをジーガンに無茶振りしたのは父だろうとサヴァルマーナは直感で理解した。
「はい。すみませんでした」
「なあに、俺は何もしてないからな。
それより、やれるな?」
「はい、魔王族の名に賭けて」
サヴァルマーナは頷く。
安心したように頷きを返す魔王。
「それでは、準決勝第一試合を始めたいと思います!」
言ってジーガンは進行役のディサドラと交代する。
「こほんっ!……それでは、見事勝ち残ったお二方に登場していただきましょう!
ひとり目は、魔性族出身、新たに魔王族となられましたテセラスタ・フォーネル・ヴェルドレッド・アスタローテ様!」
歓声に応えるようにテセラスタが舞台に上がる。
「今ひとり、魔王族、現魔王様のご子息でもあらせられる。
サヴァルマーナ・エリュセイグド・ヴォラウディーグ・サタンロード・ルーシュフエル様!」
テセラスタの時よりも数倍する歓声が上がる。
それだけ、サヴァルマーナに寄せられる関心の高さが窺える。
テセラスタはそれが面白くないのか、不機嫌顔をしている。
サヴァルマーナは決心が固まっているのか、その顔には決意が見てとれる。
「サヴァル兄様……」
ウイングが不安顔でサヴァルマーナを見る。
サヴァルマーナは微笑を浮かべて、ウイングの頭を撫でる。
「勝ってくるよ……」
「でも、兄様!」
ただでさえ見せてはいけない力を見せてしまったのだ。
サヴァルマーナは既に『地上恩恵派』に目を付けられていると思って、間違いない。
これ以上、敵の確信を深める行為は危険すぎると思っている。
だからこそ、兄の勝つという言葉に危機感を覚えるのだ。
サヴァルマーナもウイングの言いたいことは分かっている。
だが、サヴァルマーナの決心は揺らがない。
それがウイングを守ることに繋がると信じているからだ。
だから、サヴァルマーナはそれ以上、何も言わずに舞台に上がった。
叔父である近衛騎士団長バルディラントの風のマナが舞う剣と、父である魔王エリュセイグドの土のマナが舞う剣をゆっくり抜く。
テセラスタも魔導機槍を構える。
ふたりの構えを見たディサドラが息を大きく吸い込む。
そして、告げる。
「始め!」
先に動いたのはテセラスタだ。
小手調べとばかりに、槍を突き入れる。
軽くステップで槍をかわして、サヴァルマーナが間を詰めていく。
だが、テセラスタも簡単にそれを許す訳にはいかない。
驚かしてやろうと、いきなり縦横無尽に槍を駆け巡らせるが、サヴァルマーナは悠々とそのスピードについてくる。
テセラスタはトップギアで槍を動かして、なんとかサヴァルマーナを押し返そうとする。
しかし、サヴァルマーナの体捌きは見事なもので、次第にテセラスタを追い詰めていく。
このままではマズい、と感じたテセラスタは魔導機槍を発動させる。
「炎陣、始動!」
だが、同時にサヴァルマーナも単一呪文を発動させる。
「ストームブレイド!」
同時に発動した槍と剣が打ち合わせられる。
「槍舞連動、解放!」
瞬間、押し込められそうになったテセラスタが、自動補助機構を発動する。
その力でサヴァルマーナの剣を押し返す。
「シュズクラキ殿の膂力の方が強かったな……」
サヴァルマーナは探るように言い放つと、ストームブレイドに魔法力を注ぎ、片手のままさらに押し返す。
同時に土の単一呪文も唱える。
「シャープエッジ!」
切れ味を増した左手の剣を突き入れる。
「くっ……!」
テセラスタが堪えきれずに距離を開けようと、左側へと転がる。
無様な避けかただった。
だが、後ろに下がっても追い詰められるだけなのは誰が見ても明らかだった。
無様でもそうするしかなかったのだ。
転がりながらテセラスタはプライドを傷付けられて歯噛みする。
「おのれっ……」
まるで余裕を見せつけるように、サヴァルマーナは立ち上がるのを待った。
テセラスタは立ち上がると見せて、途中でサヴァルマーナに槍の穂先を向けて叫ぶ。
「光閃放、解放!」
槍の穂先から放たれた『光の矢』がサヴァルマーナの眉間を穿つ。
観客たちは一斉に「ひっ……」と息を飲む。
誰もがサヴァルマーナの死を予感していたが、実際にはサヴァルマーナが攻撃を読んでおり、ギリギリで頬にひと筋の傷を負っただけだった。
「ちっ!解放!解放!」
テセラスタは立ち上がる隙を作ろうと『光の矢』を連射しながら、ゴロゴロと転がる。
だが、最初から立ち上がるのを待とうとしているサヴァルマーナは、土のマナが舞う剣に「ミラーコート」と、剣の表面を磨き上げて光の反射率を上げる魔法を唱えて、光の矢を弾きはするものの、攻撃の素振りは見せない。
「早く、立ったらどうだ?」
冷静にテセラスタに声を掛けるサヴァルマーナ。
「何故、攻撃しない?」
サヴァルマーナの動向を注意深く見ながら、テセラスタが立ち上がる。
「真なる魔王の資質を示さねばならないからな……」
サヴァルマーナが自然体のまま答える。
「真なる資質?」
「何故、魔王が魔王としての資質を問われるか考えたことはないか?」
「ふん……それは、強さだろうが!
魔王とは強さの象徴!
だからこそ資質を問われるのだ!」
言いながら、魔導機槍を振るう。
サヴァルマーナはそれをいなし、時に弾きしながら言葉を紡ぐ。
「確かに、強さは必要不可欠だ。
だが、その強さは来るべき勇者との戦いに於いて、勇者の全てを受け止めて尚、勇者を凌駕する力が必要だからこそ求められているのだ。
それこそが魔王の資質!
魔族を地上へと還す者に求められる真なる資質だ!」
「何を世迷い言を!
強さだ!敵を倒し、葬る強さこそが資質!
綺麗も汚いもあるか!
闇智身砕流、解放!」
テセラスタの魔導機槍の石突きに闇が灯る。
闇智身砕流は精神系魔法である。
その効果は、直接打撃が当たらずとも、剣を合わせただけで、じわじわと呪いのように精神に浸透していく。
それは、攻撃衝動を削ぐ魔法になっている。
その力はテセラスタと相性が良い。
勝てば良いという考えで振るわれる以上、非常にテセラスタ向きだと言える。
テセラスタは「全速!」と叫んで自動補助機構のスピードを限界まで上げる。
振るわれる槍の速度、パワー、共にマックス状態である。
さらに、光の矢を飛ばし、受け止めても精神を削るという凶悪な武器となっている。
しかし、そこまでの準備を整えても、サヴァルマーナにはいかほどの動揺も見られない。
何故なら、一度見ているからだ。
その動きはリオラディッタの対戦時に見ている。
そして、自分ならば充分に対応可能だという判断を下した。
土の魔法には剣速を上げる魔法はないとされている。
実際、サヴァルマーナもそういう類いの魔法は知らない。
だが、ストームブレイドを纏わせた剣一本で、充分にテセラスタに追いつくことはできる。
じわじわと精神魔法がサヴァルマーナの攻撃衝動を削るが、それは問題にしていない。
精神魔法は脆い。
精神魔法は相手が持つ心の働きを増幅して作用するものがほとんどだ。
実際、テセラスタの闇智身砕流も攻撃衝動を削ると言っているが、正しくはマイナスの精神作用を増幅しているのだ。
だが、サヴァルマーナの中に攻撃衝動以外の心がないなら無駄な話だ。
本来なら、サヴァルマーナもテセラスタには腸が煮えくり返っている。
サヴァルマーナは優しい男だが、その本質には正しく今の魔王であるエリュセイグドの血が流れている。
ただ、強い理性でそれを抑えつけているだけなのだ。
理性は心を縛る鎖であって、心ではない。
精神魔法は作用しない。
同時にマイナスを圧倒的に上回る攻撃衝動があれば、多少のマイナスなど意味をなさない。
テセラスタは何十合と戦いながらも、一向にサヴァルマーナの戦意が衰えないことに内心で焦りを覚えていた。
何とかサヴァルマーナを倒して、第一後継者の位置から引きずり降ろしてやらなければ、自分が魔王になって権勢を振るうことができない。
そう考えるテセラスタは、非常手段に訴えることにする。
テセラスタは邪眼を使う。
ルール違反というよりもマナー違反の部類だろう。
直接魔法攻撃に準じる攻撃と見られるが、回復力や再生力といった能力は許されているので、あくまでもグレーな判定の領域だ。
おそらく、バレてしまえば次の試合からは禁じ手となるだろう。
テセラスタの邪眼は一瞬だけ相手の動きを止めるというものだ。
一瞬だけなので、戦っているサヴァルマーナにしか分からないのか、他の者にはまだバレていない。
かといって、それを汚い行為だと断じるサヴァルマーナでもない。
レンバート先生の教えが生きているということだろう。
サヴァルマーナはストームブレイドを纏わせた剣をテセラスタの隙である右脇腹から切り上げようとした瞬間、テセラスタの邪眼に捕まり動きが止まる。
その隙を逃がさずテセラスタの槍がサヴァルマーナの右肩を貫く。
体勢を崩すサヴァルマーナを追って、連続して突きが入る。
怯まずに数撃はしのぐが、崩れた体勢では完璧とはいかない。
あちこちに小さくはない傷ができる。
だからと言ってサヴァルマーナは自身の邪眼は使わない。
それは、真なる魔王の資質を示さねばならないからだ。
サヴァルマーナは両手の剣にさらなる魔法力を込めていく。
「マナよ!我が呼び掛けに応えて集え!
暴虐の風、渦巻き全てを飲み込む嵐となりて、我が剣に宿れ!」
「まさか、戦術級魔法を剣に……」
詠唱を聞いた近衛騎士団長バルディラントが驚愕を口にする。
「させるかっ!収束、突進、解放!」
テセラスタが魔導機槍を構えて、吹き上がる炎に引かれるように突撃する。
だが、サヴァルマーナはそれを待っていたのだ。
極限まで切れ味を増したシャープエッジを纏わせた剣で、槍に付けられた炎を吹き出す筒を狙う。
ギャリンッ!と金属同士の歪な音が響き、4つある筒のひとつが落ちる。
「くそっ!くっ……!」
テセラスタが突進の力そのままに軌道が定まらなくなる。
舞台に槍を突き刺して、無理やりに急制動を掛ける。
その間にサヴァルマーナの呪文が完成する。
「暁の星の加護、サタンロードの守護に於いて願う……。
神鳴りの魔法石の名を持って力を与え給え。
暴虐の嵐の剣(スパイラルヴォーテックス・タイフーンソード)!」
一瞬、渦巻く風が空へと伸びたかと思うと、剣を取り巻く風が消える。
それは嵐の前の静けさのようだった。
炎を止めたテセラスタが槍を舞台から力任せに抜く。
サヴァルマーナは、テセラスタを追うように走る。
「光閃放、解放!」
サヴァルマーナの足元を狙ってテセラスタが光の矢を放つ。
大きく跳んだサヴァルマーナがテセラスタに上段から剣を落とす。
テセラスタの槍がその工夫のない一撃を槍で受け止める。
甲高い澄んだ音が響き渡る。
一拍遅れて、テセラスタの槍が真っ二つに斬れたと思うと、そこを中心に暴虐の嵐が吹き荒れる。
「うぁっ、うわあぁぁぁぁぁッ!!!」
テセラスタが叫ぶ。
五十ミョン(センチ)に満たない空間に生まれた嵐にテセラスタが引かれ、その上半身が、ズタズタになっていく。
自慢の赤い鎧も関係ない。
抉れ、ひしゃげ、見るも無惨な塊へと収束したかと思うと、弾き出されるように拡散した。
観客席まで強風が吹き荒れる。
後にはボロ雑巾ようになったテセラスタが倒れていた。
死んでいないのが不思議な光景だった。
島ひとつ吹き飛ばすほどの力がわずかな空間で猛威を振るったのだ。
テセラスタが魔法力を全て再生力に注いでいなければ、確実に死んでいたはずだ。
魂の器自体もかなり削れているかもしれない。
誰かが「神鳴りの魔法石……」と恐怖と共に呟いたが、それは風に吹かれて消えてしまった。
魂の器の名前を偽ることはできない。
偽りの名前ではマナは応えない。
それは当たり前の話だ。
だから、魔法を勉強するとき、誰もが自分の名前と魂の器の名前を使わないで済むように効率化を図るのが普通だ。
サヴァルマーナが呪文に織り込んだ魂の器の名前は、この場にいる識者の脳裏に深く刻まれることとなったのだった。




