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輪廻転SHOW!魔王の息子  作者: 月のそうま
22/151

二回戦なのです

大変長らくお待たせ致しました。

まだ続きますので見捨てないで下さるとありがたいです。

 翌日、二回戦が始まる。

 昨夜はジーガンと共にテセラスタは街に宿を手配して泊まったらしい。

 剣伯爵トノルジンバは、その護衛ジャセルジュを殺した魔性族ブラーガスと話をした。

 死の間際のジャセルジュがブラーガスと何を話したのか聞いたのだ。

 ブラーガスが言うには、トノルジンバに勝利を捧げられなかったことを悔やんでいたということだった。

 トノルジンバは失意の内に帰ってしまうものだと皆が予想したが、彼は試合を見届けると言った。


 魔王の娘リオラディッタも傷は回復したとはいえ、昨日の今日だ。

 いくら公務だとはいえ、休んでいても問題ないと言われていたが気丈にも観客席に姿を見せている。


 二回戦第一試合。

 鬼王シュズクラキ対魔王候補にして魔王の息子サヴァルマーナ。


 始まりは驚くほど静かだった。

 「始め!」の合図でお互いに礼をすると武器を構える。

 そこから無言で斬り合いが始まる。

 サヴァルマーナは属性を考慮してか、二本差しの内、風のマナが舞う剣『双剣・乱舞』を抜いていた。


 鋭さを重視したサヴァルマーナと一撃の重さに賭けるシュズクラキ。

 技と技がぶつかり合う見応えのある試合となった。

 お互いの傷が十を数える頃、どちらともなく魔法を剣に纏わせる。


「剣に暴風を纏わせ給え。

 我は暁の星に守護されし者なり。

 暴風剣(ストームブレイド)!」


「ふむ、息子殿は魔法の研鑽もしっかり積んだと見える。

 ならば、こちらも遠慮はいらんかの。

 燃えろ!我が魔斧よ!」


 それぞれの魔法が完成するのを待って、二人が改めて斬り合いを再開する。

 暴風を纏ったことでサヴァルマーナの剣は速さとパワーを手に入れる。

 対するシュズクラキはひたすらに一撃の威力を重視した形になる。


 途端、サヴァルマーナは俄然有利になる。

 シュズクラキは身体のあちこちに傷を負う。

 強い回復力を誇る鬼族といえども、その傷は無視できないほどになっていく。

 だが、シュズクラキは強者揃いの鬼族の中にあって、鬼王を名乗る者なのだ。

 その斧捌きは巧みと言うに尽きる。

 致命傷は避けながらも着実にサヴァルマーナの体力を奪うように仕向けている。

 具体的には、自分の攻撃は確実に受け止めるしかない状況で放つのだ。


 どれだけ再生力に優れた魔王族でも、失われた体力は再生しない。

 重い一撃を受け止めることでサヴァルマーナの体力は確実に削られていくのだ。


「そろそろ、奥の手といこうかの」


 シュズクラキが嬉しそうに斧を構え直す。


「まだ、ありますか……」


 荒く息を吐きながらサヴァルマーナが答える。

 この隙に少しでも呼吸を整えるべきだが、鬼王は魔王候補としての力を計ろうとしているのだ。

 弱気は見せられぬと軽口を叩く。


「我が魔斧こそ、炎!

 魂すら焼き尽くす業火灼滅よ!

 その真の姿を現せ!」


 シュズクラキの斧が燃えた。

 渦巻く炎が斧を二倍にも三倍にもして、刃自体が炎と化す。


「かわせよ……。

 むんっ!!」


 巨大な炎の斧が横殴りに振るわれる。

 その熱は城壁の上に立つ一般観客たちですら炙られる。

 サヴァルマーナは暴風の力を解き放って受け止めようとするが、足らない。


「ちっ……」


 舌打ちして腰にあるもう一剣、『双剣・強打』を抜いて十字で受ける。

 それでも足りず、胴の半ばまで炎に焼き斬られながら、舞台の端でギリギリ踏みとどまった。


「ぐふッ……」


 逆流した血を吐いて、サヴァルマーナが膝をつく。


「ほう……かわさずに止めるとは、見事よの」


 鬼王シュズクラキが目を細めて、それから炎と化した魔斧を構えたままゆっくりとサヴァルマーナに向かっていく。


 サヴァルマーナは、今の一撃を受け止めた双剣が折れていないのを見て、小さく頷く。


「……さすが、弟の見立てた剣。

 まだ、やれるな」


 再生を待たずに立ち上がる。

 腸が腹圧に耐えられずに飛び出す。

 観客は先ほどまでの優雅な動きを見ているだけに、その足掻くような動きに余計、痛々しいものを感じていた。


「二撃は無理じゃの。

 今、落としてやる故、無理せずともよい」


 舞台から落ちれば負けとなる。

 シュズクラキはサヴァルマーナの力を認めた上で、命まで取らずに勝利だけを取ることを選ぶ。


「鬼王よ!それは余計なお世話というもの……私を見くびってもらっては困ります!」


 ボロボロの姿で、それでも尚、両手を広げるように双剣を持ち、凜と立つ。


「ストーム……ブレイド!

 バーニング……ブレイド!」


 サヴァルマーナの単一呪文で双剣は暴風と火炎を纏う。


「単一呪文……」


 客席側のジーガンが目を見開いて、とっさにブラーガスを見る。

 ブラーガスは視線を受けて、小さく否定した。


「なんということを……」


 レンバートがその光景を見ていれば、この後の悲劇はなかったかもしれない。

 だが、サヴァルマーナが単一呪文を使ったことの意味にレンバートは目を奪われてしまった。

 慌てて、周囲に目をやった時には既に終わってしまっていたのだ。


 サヴァルマーナは無詠唱ではないが、ただの一言で魔法を発現させるという類い希なる魔法の親和性を見せてしまった。

 魔剣ならば何の問題もなかった。

 優れた魔剣ならば、特定の言葉ひとつで特定の魔法を発動するように造られた物もある。

 だが、サヴァルマーナが使うのは、いくら魔法への親和性が高くとも普通の剣なのだ。

 通常、優れた魔剣には魔導石と魔導陣というものが刻まれている。

 魔導陣とは呪文の代わりをする紋様で、魔法力を流すことで呪文を唱えたのと同じ効果を表す。

 魔導石にはマナを封じ込め、魔法への親和性を高める効果がある。

 トノルジンバの『魔剣・サブナク』もシュズクラキの『魔斧・業火灼滅』も魔導石と魔導陣を備えた優れた魔剣だと言える。


 だが、魔導石も魔導陣も持たない剣に単一呪文で魔法を纏わせるということは、並々ならぬ高い親和性を持っていると公言するようなものだ。


 『地上恩恵派』に狙われる恐れがある魔王候補がそれをすることの意味は、サヴァルマーナも重々承知しているはずなのだ。


 故にレンバートは目を奪われた。

 それはウイングにしても同じだった。

 兄の『考え』を唐突に理解したのだ。

 兄はこの大会で自分の力を誇示することで『地上恩恵派』の目を自分に引きつけることに決めたのだろう。

 おそらくはウイングにも狙われるだけの理由があることを知った時に。


 そして、兄もまたウイングのように狙われる理由はひとつではなかったのだ。

 魔法石(マジックジェム)という魂の器、その高い親和性を生かした単一呪文、地上を望む魔族達が、地上奪還戦争の後ろ盾とするには充分な力を示すことになる。


 その兄、サヴァルマーナが双剣を持って前に出る。


「まさか、これほどとはの……」


 前進を止めたシュズクラキが額に汗して、緊張の笑みを漏らす。

 サヴァルマーナの再生が始まり、半ばまで斬られた腹が元に戻っていく。


「こりゃいかんの。

 ならば……死ぬなよ!」


 それを見てとったシュズクラキは自身の魔法力を炎の斧へと注ぎ込む。

 既に炎の刃と化した魔斧がさらに肥大化していく。

 魔斧の大きさは既に元の四倍ほどになった。


 シュズクラキがサヴァルマーナを見据えた瞬間、サヴァルマーナは再生もそこそこに突っ込んでくる。

 四倍になった魔斧は双剣と比べて、リーチでも二倍にはなる。

 しっかり引きつけて一撃食らわせれば、下手をしたらサヴァルマーナを殺してしまうかもしれないが、シュズクラキは躊躇しない。

 死なばそれまでとばかりに渾身の力を込めて振るう。


 サヴァルマーナは暴風を纏わせた剣にいっそうの魔法力を注ぎ受ける。

 剣の周りを荒れ狂う暴風は、さらに激しさを増し真空刃を辺り構わず放つ。

 それは業火灼滅の炎の刃を巻き込んでいく。

 シュズクラキは負けじとさらなる力を込めて、ブレる魔斧を抑え込み、振り切ろうとする。


「ぬううぅぅっ!」


 シュズクラキとサヴァルマーナ、二人は真空刃を身体中に浴びて、あちこちが切り裂かれていく。


 だが、勝負を決したのはサヴァルマーナの残った一剣『双剣・強打』だった。


 サヴァルマーナは先ほどと同じように、十字受けを選択する。

 吹き出る炎が剣を押し、ついには魔斧を押し返したのだ。


 弾かれた衝撃の強さにシュズクラキが耐えきれず、魔斧が飛ぶ。

 飛んだ魔斧は舞台の外、客席まで刃を、クルクルと回転させながら向かう。


「大地よ!鉄壁の盾となれ!

 グラウンドシールド!」


 魔王がとっさに客席にいる者たちを守るべく魔法を放つ。

 隆起した大地が鉄壁となる。

 そこに半ば以上身体を埋めるように魔斧が突き立った。


 客席にいたパーティー参加者から安堵の吐息が漏れる。


「そこまで!」


 進行役のディサドラが試合を止める。

 誰の武器が一番強いかを決める大会なのだ。

 シュズクラキが武器を失った以上敗北が決定した。


 だが、少し遅れてサヴァルマーナの剣に(ひび)が入る。


 ディサドラがサヴァルマーナの勝ちを宣言したと同時に、サヴァルマーナの双剣は砕けた。


「ええと……どうしましょう?」


 ディサドラが困ったような顔をする。


 主催であるジーガンがやってきて、全体に向けて「誠に残念ですが……」とサヴァルマーナの失格を言い渡そうとした時、待ったがかかる。

 舞台に上るのは次の試合を控えていた近衛騎士団長にして魔王の弟バルディラントだ。


「私の剣をサヴァルマーナに託したい。

 元々はウイング様より賜った剣でサヴァルマーナ様の剣と同質のものだ……」


 チラと控えているテセラスタを見る。


「もちろん、新しい魔王候補殿に同意してもらえるならだが……」


 テセラスタは、ニヤニヤとした笑いを浮かべて言う。


「もちろん、構いません。

 もし、よろしければ、あの死に損ないのお姫様の剣も借りたら如何ですか?

 二本使うのが候補筆頭殿の戦い方でしょう?」


 テセラスタにしてみれば、ここでサヴァルマーナを倒せば魔王候補筆頭の座を奪取する好機だと言える。

 サヴァルマーナが第一後継者になる前の今だからこそ意味があることなのだ。


 バルディラントはテセラスタの物言いに腸が煮えくり返る思いだった。

 言い返してやろうと口を開きかけた時、肩を掴まれた。

 ハッとして振り向く。

 魔王エリュセイグドだ。


 魔王はテセラスタに目線をやったまま、ジーガンに向けて言う。


「俺の剣もサヴァルマーナに貸してやる!

 負けた時にリオラディッタの剣に難癖つけられちゃたまらんからな」


「ふふ……そのようなこと申しませんよ。

 そもそも、ただの剣にわたくしの『魔導機槍』が負ける訳がありませんがね」


 魔導機槍、魔導機剣の槍版。

 魔導機剣とは魔導石と魔導陣を様々に組み合わせて、魔剣に汎用性と多様性を持たせた武器である。

 元は人間が作ったとされ、未だ魔族にその技術は伝わっていない。

 現存するものは、地上との戦争による戦利品が少数残るのみである。


 テセラスタが自信満々に言い捨てるのも当然ではある。


「おい、サヴァル!

 これを使え!」


 魔王は自分の息子に剣を投げ渡す。

 サヴァルマーナは受け取って、困惑したように父を見る。


「サヴァルマーナ様、こちらもお使いください」


 バルディラントも近づいてサヴァルマーナに剣を渡す。


「ですが……」


 サヴァルマーナが二人に向けて渋面を作る。


「壊すなよ!終わったら返せ!」


 魔王は指を突きつけてそれだけ言うと、観客席に戻っていく。


「魔王様も私も、サヴァルマーナ様のお力に託してみたいと思ったのです。

 どうか、使っていただけませんか?」


 バルディラントはにこやかに言う。

 だが、その瞳に映るのは強い決意の眼差しだった。

 魔王とその近衛騎士団長が剣を託す意味。

 それを考えて、サヴァルマーナはふた振りの剣を強く握る。


「かしこまりました。

 お二方の想い、確かに……」


 言って深々と頭を垂れた。


 ジーガンは困った顔をしながらも、仕方ないと嘆息して、全体への説明を始める。

 内心でどう思っているかなど、一切見せることはなかった。


 シュズクラキとサヴァルマーナが互いの健闘を称えあって、次の試合が始まる。


 テセラスタとバルディラントが舞台に呼ばれ、進行役のディサドラがテセラスタの勝利を告げる。

 バルディラントはそれを粛々と受け入れた。


 次に呼ばれるのは四腕の魔性族にして、精霊剣と魔剣を繰り出すブラーガスと、先代魔王ヴォラウディーグより賜りし『魔扇・深奥カルマ』にて六属性の魔法を使いこなす歴戦の軍師だったレンバートだ。


 だが、サヴァルマーナがその力を全員に見せつけた後、レンバートはウイングに近づいて言った。


「まさか、このようなことになるとは思いませんでしたな。

 こうなれば、いつサヴァルマーナ坊ちゃんの命が狙われるか分かりません。

 私は次の試合、適当なところで負けて、サヴァルマーナ坊ちゃんを陰ながらお守りしたいと思います。

 それまでは、ウイング坊ちゃんに周囲の見張りをお願いしたいのですが、よろしいですかな?」


 ウイングは緊張の面持ちで首肯する。


「なに、あくまでも念のためといった程度の話です。

 あまり緊張しなくとも、それとなく周囲の反応を伺っておくだけでよろしいですぞ」


 レンバートはウイングの緊張を解すように、そっと頭を撫でる。

 その柔らかい仕草にウイングは少しだけ緊張の糸を緩める。


 レンバートは緊張していない訳ではない。

 ただ、長年教師として振る舞ってきた年の功が、緊張を他者に悟らせないだけの弛緩した動きに見せていた。

 実際には多大なプレッシャーを感じている。

 これは勇者と対峙した時以来の緊張感かもしれぬと感じていた。


 サヴァルマーナがいつ襲われるのか、どうすればそれを防げるのか、『地上恩恵派』は誰なのか、まさに暗中模索なのだ。


 考えれば考えるほど、思考の迷路に嵌る。

 そうして、思考を続けているとどこからともなく「始め!」の合図が聞こえる。

 レンバートの中に急速に現実が返ってくる。


 目の前にブラーガスが振るう剣が迫る。

 慌てて飛び退こうとするが間に合わない。

 肩から胸にかけて、ザックリと切り裂かれた。

 傷口が焼けた。

 ブラーガスは火の魔剣シゲリを発動しているらしい。


「意識を逸らしたままで勝てると思われたのでは心外ですな!」


 ブラーガスは既に四剣を構えている。


「これは失礼……」


 レンバートは改めて魔扇を構える。

 焼けただれた傷口は時間を逆戻しにしたように治っていく。


 レンバートは怪しまれない程度に手を抜こうとしたが、それは許されなかった。

 ブラーガスは九層世界に於いて最も魔物の発生率が高い極北旅団で戦い続けてきた歴戦の猛者だ。


 ワルトメルガを相手に使ったフェイントは、ブラーガスも警戒しているのだろう。

 属性弾による攻撃は悉く精霊剣による土壁(グラウンドウォール)で広範囲に防がれている。


 おかげで舞台上は迷宮のように立体の壁で遮蔽だらけだ。


 更に、ブラーガスの狙いはそれだけではない。

 壁の至る所から大地の槍を生み出してくるのだ。


 レンバートは大地の槍を警戒して、常に動きながら戦わなければならないが、遮蔽が増えるに従ってその動きも制限されていく。


 一般客席は城壁の上なので、まだなんとか見えるが、パーティー参加者の客席は舞台を取り囲むように作られている。

 これでは舞台上で何が行われているのか見えない。


 進行役のディサドラも下手に中に踏み込む訳にいかず、もどかしい顔をしている。


 レンバートは接近戦を挑むべく、ブラーガスを探す。

 しかし、ブラーガスは壁を使って逃げてしまう。


 本来であればレンバートも遠距離戦を望むところだが、いかんせん舞台上は充分に距離があると言っても、戦術魔法を連射できるほどではない。

 使い勝手の面で戦闘魔法に限られてしまう。


「六刃無双!」


 接近戦用に魔扇に刃を巡らせて、追う。


 追っている間にレンバートは気付く、ブラーガスは癖なのか、毎回自分が逃げた方向の壁から大地の槍を生み出す。

 つまり、一瞬見失ってもどちらに逃げたか分かってしまうのだ。


 レンバートは右壁から生み出された大地の槍をわざと打ち払う。


「ええい、逃げるな!」


 言って、踵を返したと思うと壁の端で魔扇を構えて待つ。

 ここの先は舞台の端になるので、ブラーガスは壁を回り込んでレンバートの待つ場所に来るしかない。

 反対側に抜ける可能性もあるが、右壁から大地の槍が生み出された以上、回り込むだろうと予想する。

 レンバートは視覚に頼らず気配を探り、それを斬った。


「ぐはっ……!」


 ブラーガスのわき腹から胸にかけて、大きな傷ができる。

 ようやく見えた客席から歓声があがる。

 転がったブラーガスにレンバートが追撃を仕掛けるが、それは防がれてしまう。

 しかし、もつれ合うように接近戦を演じながら壁の奥へとふたりは消えた。


 レンバートはブラーガスを逃がさぬように身体を密着させていく。

 剣と扇、より少ない隙間で振るうのに適しているのは、やはり扇だろう。

 そして、一度接近戦に持ち込まれてしまえば、ブラーガスがそこかしこに立てた壁が逆に邪魔となる。



「さすがはヴォラウディーグ様の元で生き残っただけはある……」


 ブラーガスがレンバートの魔扇を押し返しながら言う。


「いえ、わたしの力など……まだまだですな」


「ウイング様の精霊使役に比べれば、ですか?」


「なっ!?」


 言われてレンバートの顔色が明らかに変わる。


「やはり、知っておいででしたか。

 では、サヴァルマーナ様のことも?」


「何を……?」


 ブラーガスはそっと耳打ちする。


「地上の力に興味はありますかな?

 貴方さえよろしければ、地上で生きる道もありますよ……」


「貴様ッ!貴様がっ!」


 レンバートがブラーガスを睨みつける。

 それを見て、答えを聞くまでもなくブラーガスは理解する。


「ふん……やはり、靡かぬか。

 だから、無駄だと言ったのだ……」


 ブラーガスが冷たい瞳でレンバートを見る。


「地上恩恵派か!」


 レンバートの魔扇が一瞬の隙を突いて、ブラーガスの腕を一本切り落とす。


「ぐっ……」


 レンバートは体勢を整えて魔扇をブラーガスに向ける。


「まさか、そちらから動きがあるとは思いませんでしたな……ここで叩きのめして、後で話を聞きましょうかな」


 ブラーガスは残った腕の剣を杖代わりに立ち上がって、レンバートを睨む。


「『そちら』か……たったひとりでどうにかできるとお思いか?」


「これでも、ヴォラウディーグ様と地上奪還戦争を起こした張本人ですからな……自信はありますな」


「ふん……本当の天の恵みも知らぬ者が!」


 言ってふたりは激突する。


 そんなやりとりがあるとは露知らず、ウイングはサヴァルマーナの隣でキョロキョロと視線をさまよわせていた。


「どうかしたか?」


 魔王の質問にウイングは「何でもないです……」と誤魔化すように首を振った。


「安心しろ!レンバートには俺も昔、さんざん鍛えられた。

 なにしろ不死身の死魂族に伝説の魂の器、魔法石(マジックジェム)だ。

 ワルトメルガの部下には悪いが、レンバートの勝ちだろうな」


「でも、精霊剣を持ってるです」


 一応、話を合わせてウイングが質問を重ねる。

 すると、答えるのは既に敗退して後は観るだけと気楽に構えた風のワルトメルガだ。


「確かにブラーガスが精霊剣を持っていたのは初耳でした。

 奴め、どこであんな物を……」


「なんだ、ワルトメルガも知らなかったのか?」


 魔王が話に乗ってくる。

 土壁の奥が見えないので、一般客席以外は暇なのだ。

 一般客席は先ほどから、どよめきや歓声、怒号や絶叫と忙しいようなので、激しい戦いが続いているのだろう。


「ええ、四メグリ(年)前に魔王様が『原初の魔物』を倒されてからは、極北も随分落ち着きましたからね。

 魔物が沸いても小競り合い程度で、奴が精霊剣を使うような事態にもならなかったですし、そもそもブラーガスは後方支援担当ですからな。

 他層への戦術指南派遣の時にでも手に入れて、御披露目の時を待っていたのかもしれません」


「戦術指南ってどこに行くですか?」


「さて、めったにあることでもないですが……最近だと二層と七層に派遣しましたよ。

 確か、ブラーガスは七層派遣に同道していたはずなので、その時でしょうな」


「あいつの家ってそんな家名が高いのか?」


 魔王が興味をそそられたのか聞く。

 例えば、元魔王族の家の者が代替わりして魔性族と呼ばれるようになり、七層で暮らす。

 その時、その時代の魔王や伝説になるような魔族から精霊剣を譲り受けていたら、知らぬ間に家の蔵に眠っているなどということも無くはない。


「いえいえ、魔性族でも家名は大したことなかったはずですよ。

 まあ、七層は歩けば貴族に当たるというくらいで、どこと繋がりがあっても不思議じゃないですからね。

 部下のひとりは実家に休暇を使って帰ってみたら、隣の家に四代前の魔王族が引っ越ししてきたとかで、パーティーに呼ばれたから行ってきてくれと家族に請われて休むどころか、逆に気疲れしたって泣いてましたから……」


「ははっ、四代前ってことは、アスモデウス家か……そりゃ気疲れするだろうな」


「じゃあ、ブラーガスさんが精霊剣を手に入れたのは、最近ですか?」


 ウイングの質問にワルトメルガが考えながら答える。


「おそらくは……他の魔剣はかなり前から使っていたものですがね。

 精霊剣は手に入れても使いこなすにはそれなりに鍛錬が必要になりますからね。

 やはり、ヴォラウディーグ様の時代に天才軍師と呼ばれたレンバート様には適わないと思いますよ」


 ワルトメルガはウイングを安心させるように笑いかける。


 その時、一際大きな歓声が上がる。

 魔王他、パーティー参加者たちの目が見えない舞台に注がれる。


 ややあって、最初に土壁の上にレンバートの顔がひょっこりと現れる。

 魔王やワルトメルガが見立て通りと、頷く。


 だが、それからブラーガスが討ち取ったレンバートの首を掲げたまま、土壁の上に立って勝ち鬨を上げた。


「なっ……」

「まさか……」

「おおっ……」


 予想を覆す幕切れに全員が息を飲んだ。

 進行役のディサドラが淡々とブラーガスの勝利を宣言する。


 ウイングは言葉もなくその景色に見入っていた。


 レンバート先生が死んだ。


 その事実がサヴァルマーナとウイング、ふたりの上に重くのしかかっていた。



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